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魔族の里編③

 ――ココちゃんの家を飛び出した私と光矢は、2人きりで長い長い道を歩き続ける。歩いている間、ずっと私達は、周りの魔族達から睨まれていた。もし、ここで何かしようものなら……そう考えると恐ろしい気分になる。


 これまで、私は人間から魔族への憎悪のようなものを沢山味わってきた。だから、魔族と言うのは単なる被害者であり、きっと……私達の方から憎まないようにしていけば……きっと、大丈夫だと心の何処かでは、思っていた。



 事実、ルリィさんやサレサさんとは、仲良くできている。話が出来れば……私達は、いくらでも仲直りできると信じていた。


 でも、現実はそうでもないみたいだ。私の目の前の現実は……私達人間を心の奥底から憎んでいる魔族の憎しみに満ちた目だった。


 彼らは、憎しみや恐怖といった負の感情を私達にぶつけてきていた。



 ――やっと、魔族の里を歩いた先に……誰もいない場所を見つける事ができた。空は、既に暗い。もう夜だった。


 私と光矢は、これから先、肌寒くなる夜に備えて、近くに転がっていた木々を集めて、焚火を始めるのだった。


 ぐつぐつと、炎が舞い上がる中、私達2人は静かに炎を囲う。私は、収納魔法を発動し、魔法陣の中からあまりものの食料を取り出すと、それを火の上で炙る。


 香ばしいお肉の香りが、してくる。少しばかり焦げ目がついて来ていたが……光矢は、一切食べようとしない。


「……光矢? 焼けましたよ?」


 私が、彼にそう言って上げると彼は、はっと気づいた様子で食べ物を慌てて口に運ぶのだった。


「……なんだか、こうして2人だけで食事をするのも久しぶり……ですね」


「あぁ……。そうだな」


 光矢は、素っ気ない様子でそう言うと、炙った肉を一噛み。しかし、いつもより食べるペースが遅い気がした。


 いや……それは、きっと私もだ。どうしてだか、今になって食欲が湧かない。というより、少しだけ食べるのが辛く感じる。


 前までは……ずっと光矢と2人きりになりたいと思っていたのに……。少し寂しいと感じる。


 私は、食べるのをやめた。ボーっと下を向いた。そんな私を見ていた光矢が、少しばかり心配そうにこっちを見てくる。


「マリア? 大丈夫か?」


 その言葉に、私はとうとう気持ちを抑えきれなくなり、光矢に胸に秘めていた思いを打ち明ける――。


「光矢……私、私……本当は、皆の事……」


 だが、その時だった――!


「……あらぁ? せぇんぱ~い、アタシがいなくて寂しかったんですわねぇ?」


 向こうから知っている人の声が聞こえてくる。急いで振り返ってみると、そこには……


「ルリィさん! サレサさんに……ルアさんまで!?」


 旅の仲間達が皆、こっちへやって来ていたのが見えた。


「でも、どうして? 皆は、人間じゃないし……魔族の人達から睨まれたりとかしないはずですよね?」


 すると、サレサさんが、しゃがんで私の視線と同じ高さになってくれて話始めてくれた。


「……ムー君もマリアさんもいないんじゃ私達だけあそこにいても……つまらない。2人がここで、野宿するのなら私達も一緒に……」


「そう言う事だよ。まぁ、それに僕は特に何もしていないからね。この2人が、主の元へ行くのなら……僕もついて行こうと思ったんだ」


 サレサさんとルアさん、ルリィさん達は、そうして私と光矢のいる真ん中へ移動し、座る。そして、私達は、同じ火を囲った。そして、とっくに焼けていた残りのお肉の串焼きを手に取ると、彼女達はそれを食べ始める。


「……こうして皆で食べた方が色々と楽しいですわ! それにぃ……あのまま放っておいたら……また先輩と殿方様が、おっぱじめてしまいますわ! それだけは、断じて許しませんのよ!」


 ルリィさんは、そう言いながら少しイライラした様子でお肉にかぶりつき、串から外していった。そんな彼女の隣にいたサレサさんも同じようにムッとした表情となってお肉にかぶりつきながら告げる。


「……同感。マリアさん、ばっかり良い思いはさせない!」


 そして、更にルアさんまで……。


「……うん。そうだよそうだよ! 主ともう一回する時は、僕を呼んでくれないと! 全く、つまらないじゃないか!」


 その言葉に、さっきまで涙が出そうになっていた私の心も……今や感動とは程遠い状態になった。私は、先程までなくなりかけていた食欲を取り戻し、串に刺さったお肉を大きく口を開けて貪り食う。そして、いらん事を言っている3人に向かって私は、告げた。


「貴方達……どうしてこう……いつもいつも要らない事ばかり言うんですか……。この……変態三銃士!」


 私が、彼女達に怒鳴りつけると、途端に3人は驚いた様子で必死に否定してくる。


「変態三銃士!? アタシをこんな人達と一緒にしないでくださいますか!? 先輩! アタシは、ただ……殿方様さえいて下さればそれで……」


 と、言うルリィさんの隣では、サレサさんが……。


「……マリアさん。私、そこの変態ドラゴンと違ってムー君にも迷惑かけてない……。こんな人達と一緒にしないで……」


「それは、僕のセリフだよ! 僕は、君達と違って……主と直接交わりたいだなんて汚らしい事は、考えていないんだよ! ただ、人の交わりというのに興味があるだけで……。こんな下劣な人達と一緒にしないでよ!」


 サレサさんの隣では、ルアさんもそう言っていたが……。


「……全員アウトです! 貴方達、皆……変態さんです! 変態三銃士です!」


「「えぇ!?」」


 3人は、驚く。そして、光矢は呆れた様子で見ていたが……ちょっとだけ笑っていた。私は……とても楽しかった。皆といるこの時間が、とても楽しかった。



 ――と、そんな時だった。


「お姉ちゃん達~!」


 向こうから、またしても聞き覚えのある声が聞こえてくる。今度の声は、幼さを感じる少女の声で、私達は声のした方をすぐ振り向いてみるとそこには、せっせと走ってやってくるココちゃんと彼女の事を心配そうに追いかけるトトさん、ノノさんの姿があった。


「……ココちゃん?」


 少女が、私達の傍までやって来ると彼女は、息を切らしながらも告げた。


「……勝手に行かないで! ココ、今日は皆とお泊りできると思ってたんだよ!」


「……」


 少女が、とっても寂しそうに涙を流しながら告げる。その姿に私達は、何も言えなくなってしまった。ココちゃんの純粋さが、物凄く心に刺さる。


 ごめんね。大人の世界は、複雑で……。


「……でも、私達は……人間ですので、皆とは一緒にいられませんよ。ココちゃんのパパとママにも迷惑をかけてしまいますし……」


 しかし――。


「そんな事ない! 皆でいた方が楽しいよ。だって私、お姉ちゃん達と旅してた時、すっごく楽しかったもん! だから、絶対……絶対に楽しいもん!」


「ココちゃん……」


 私も楽しかった。……ココちゃんの言う通り。でも、今は……前と環境が違い過ぎる。私達がまた、お邪魔すれば……色々と迷惑をかける事になる。


 私達の考えが甘かったのだ。……事前に断っておけばこんな事には……。



 するとそんな時、ココちゃんの後ろに立っていたトトさんとノノさんの2人が、前に出て来る。ノノさんが、私達に告げるのだった。


「……皆さん、私達は……皆さんの事は、迷惑だと思っておりません。それは、ココの言う通りです。だから、戻って来てください」


「でも……」


 本人達が、そうは言っていても……あの時の事が頭の中にちらつくせいで頷く事はできない。そんな時だった。トトさんが、告げた。


「……それでは、こんな所にいても寒いだけですし……こんなのは、どうでしょうか?」


「え……?」


 私達が、キョトンと彼の事を見ていると、トトさんは少し楽しそうに笑いながら言った。


「……ついて来てください。良い所が、あります」


                     *


 トトさんに連れられて、私達は魔族の里を更に歩いた。かなり山の方へ……ずっと歩いて行き、そして30分くらい歩いた先に私達は、木でできたある看板を見つけるのだった。


「……ここって」


 そこは、黙々と白い湯気が舞い、その辺り一面が物凄く温かいエリアとなっている。周りは、紅葉が広がる木や植物で囲まれた大自然の中で、その真ん中には2つの大きな温泉が存在していた。


 トトさんが、告げた。


「……魔族の里を代表する観光地であり、この地唯一の秘境温泉! その名も……天然魔族の里秘境温泉!」


 名前が、言葉を全部繋げただけで、そのまんま過ぎる……。


 しかし、それにしてもここからでも温泉の凄く良い匂いがする。何というか……心温まる良い香りって感じだ。


「凄いです……。魔族の里にこんな場所があったなんて!」


 驚いている私の隣でトトさんは、言った。


「……ここは、大昔に初めて人間がこの地にやって来た時、一緒に入ったとされる秘境の温泉なんだ。この温泉に入った人と魔は、その後も仲良く暮らしたと言われている。……どうかな? 皆で、温泉に入って……心も体も洗い流そう。そして、気持ちもあっためて……もう一度家に帰ろうよ」


 その言葉に私達は、首を縦に振って、頷く。そして、皆が賛同しているのを目で確認したトトさんが、改めて告げた。


「それじゃあ……今日は、皆で温泉に入ろう!」


「「おぉ!」」




 ――To be Continued



次回『ドキドキ秘境温泉編』へ続く……!

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