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魔族の里編①

 クリストロフ王国西部の最末端を超えて……南西へ……南西へ……ずっと進んで行った所に人と魔族の住む境界線となる大きな橋が存在する。


 その橋を渡り、河を超えれば……その先の魔族の里に到着する。私=マリアは、魔犬族の方々に案内されながら大きな橋を渡っていた。


 この橋は、かなりしっかり作られており、木製の橋であるにも関わらず、強い河の流れにビクともしない。使われている木材もかなり太いものが使われており、馬で来ても大丈夫なように作られていた。


 橋の手前には「ここから先、魔族領」と書かれた看板があり、それを見た時に私は改めてドキッとした。


「……なんだか、凄く緊張します」


 隣に立っていた光矢に素直な自分の気持ちを吐き出すと、彼は心配そうに私を見て言った。


「……大丈夫か? 体調は?」


「大丈夫です。元気ですよ。……ただ、生まれてすぐ……修道女としての人生をスタートした自分が、まさか魔族の里へ来る日が訪れるなんて思わなくって……」


「そういえば、マリアは元々、修道女だったな」


「……あ! 忘れてたんですか? 私、教会にいた頃は、結構優秀なシスターだったんですよ!」


 私は、頬を膨らませながら彼に少し怒った。自分でもそこまで怒らなくても良かったんじゃないかと少し思ったけど……なんだか、自分の事を忘れられた気分で凄く嫌だったからそのまま怒った態度を取り続けた。


 すると、彼は申し訳なさそうに言った。


「……いや、すまん。ただ、俺の中のマリアのイメージは、凄く優しくて真面目で俺の事、真摯に向き合ってくれる人なんだけど、意外と普通の女の子みたいな所もあって……」


「……今、エッチな事考えてましたよね?」


 普通の女の子云々のくだりで、私は光矢の口元が僅かに緩んだのが分かった。指摘すれば、ギクッと光矢の顔が、僅かに一瞬だけそのように動いたのが分かった。……どうやら、図星だったのだろう。彼は、しばらく何も言わず黙った後、改まった様子で口を開いてきた。


「……そう言えば、ルリィやサレサは、里帰りになるわけだが……マリアは、そう言うのはしなくて良いのか? もしも、里帰りしたいとか、ご両親に会いたいとかあったらいつでも言ってくれて良いんだぞ?」


 思いっきり、話を変えてきた……。私達の後ろでは、歩いているルリィさんとサレサさん、そしてそんな2人の後ろから宙に浮いた状態でお化けのように進んでいるルアさんの3人がひそひそ話をしていて……。


「……さっすが先輩ですわ。殿方様の思っている事を僅かな表情の変化で見抜いております。アタシには、まだまだできませんわ……」


「……私達、修行が足りない。……ムー君の表情、読み取るの難しいのに……マリアさんは、凄い」


「……ぐぬぬ。僕の方が、先に主と一緒だったというのに……既にそこまで行っているなんて。2人は、ハレンチしただけあるよね……」


 ルアさん……!? 何を言っているの……。ハレンチを動詞みたいに使わないで! 恥ずかしいから……その話だけは……。


 しかし、私がそう思っているのと裏腹に……ルリィさんやサレサさんは、当然の如く話に食いつく。


「……なんですの!? ハレンチ!? ルアさん、その話……詳しく……」


「私も! 聞きたい!」


 2人の反応を見て楽しそうに微笑むルアさんが、今にも言い出しそうな様子だったので私は……。


「ちょっ!? ちょっと、辞めてください! 何を言おうとしているんですか! ダメです! それは、ぜっっっっっっったいに言ってはダメなんです!」


 しかし、ルアさんは心底残念そうにため息交じりに言ってくる。


「……えぇ! ここからが、盛り上がりどころなのに……」


「えぇ! じゃありません! だいたい、どうしてルアさんが、その……私達の……その……よ、よよよ……よ、夜の……そ、その……」


「あぁ、知ってるよ。だって僕、主の銃の中で見ていたもん。一部始終を。……いやぁ、今となっては既に懐かしい思い出になるのかなぁ……。意外と夜の方は、激しめなんだね? マリアって……」


「ひゃ!? ……ひゃ、ひゃひゃ、は……は、はげ……はげげげげげげ! はげげげげげげげげげげげげ!?」


「先輩が壊れた!?」


「乙女の純情を弄ばれて……マリアさん、ショート寸前!」


 ルリィさんとサレサさんが、何か言っていたみたいだけど、頭には全く入って来ない。すると、今度は光矢が呆れた様子で彼女達に告げた。


「……おい。お前ら、それくらいにしておけ……」


 だが、ルリィさんとサレサさんの興味は、変わっていない。2人は、光矢が話の中に入って来た事を待ってましたと言わんばかりに言ってきた。


「……殿方様は、どうでしたの? きっと……殿方様ほどの御方であれば、これまで数多の女性を手玉にとってきた事でしょうし……。マリアさんは、その中でも何番目にランクインいたしますの?」


「私も気になる。マリアさんとナニをしたのか? マリアさんが、何番目で……その他に今まで一体、どういう女性を落として来たのか……それを知れば、きっとムー君の好みも分かって来ると思うし」


 だが、2人によるダブルパンチに……光矢の方はというと……。


「……あ、数多の女? 手玉に……する? じょ、女性を落とす……?」


 光矢の顔から徐々に色素が抜け始めているみたいだった。なんというか、過去のトラウマでも思い出したかのような……青ざめた顔で……彼は、上を向いたまま掠れた声で告げた。


「……は、ははは……はははは……あぁ、そうだね……。数多の女、ね。……ははは、折り畳み式の電子板の中になら……そりゃあ、いましたとも……。毎日、パソコン開いて……サブモニターをつけて、両画面に左右で別々の推しを映し……若い頃は……それで、ハーレム気分を味わいましたさ……。ははは……ははは……はぁ……」


 凄く途中から何を言っているのか、全然理解できないが……光矢のメンタルが、ブレイクされた事だけは、理解できた。


「……どうせ、俺なんか……アキバのメイド喫茶でしか女の子と喋る機会のなかった悲しい人種ですよ……」


 なんだろう……。これ以上、彼の心の傷を抉るのは、本当に止した方が良いと思った。それを何となく察したのか「うわぁ……」と口を開けた状態で、ルリィさんもサレサさんもこれ以上は、何も言わなくなった。


 一方で、ルアさんも2人同様に何も言わなくなったのだが……。どうしてだろうか、少女の顔は何処か他の2人とは、違って……真剣な様子で、真面目にこれ以上話すのは、やめようと言うのが伝わって来た。


 ルアさん……やっぱり不思議。精霊だからかな? 何となく、何を考えているのか時々分からない時がある。……ルリィさんやサレサさんも私と違って魔族なんだけど……2人の方が、まだ何を考えているのか理解できるのに……ルアさんだけは、時々分からない。何というか、何か隠しているような気もする。


 そんな事を思いながら私達は、とうとう大きな橋を渡り終わって……魔族の里へ到着。橋の終わりには、里を警備しているであろう。魔族が両サイドに立っている。その2体の魔族は、とても強そうで、ゴツゴツした筋肉をした鬼のような見た目をしている。


 ――昔、教会にいた頃、教科書で読んだオーガ族という者達だろうか? 物凄いパワーが特徴的で、どんな重いものでも持ち上げる事ができるって書いてあったような気がする。私と光矢に対しては、人間であるせいからか、物凄く強く睨みつけているような気がした。


 橋を渡り終わって最初に見えたのは、森だった。魔犬族の人達が、前方から「ついて来てください」と案内してくれて、私達は引き続き彼らについて行く事にした。



 しばらく歩いて行くと……前方を歩いているお父さんに肩車をしてもらっていたココちゃんが、私達の方を振り返り、告げた。


「……お姉ちゃん達! そろそろ、村が見えてくるなの!」


 話をしていた私達が、ココちゃんの指さす方を見ていると……


「ここが……」


 森を抜けた先に見えたのは、所々に草木の生えた緑と砂漠が共存したような大地が広がっている土地に、白い石を積んで作られた建物が、あちこちに立っている田舎の村だった。


 村人達は、村の真ん中に集まって楽器を演奏していたり、走り回る子供達や楽しそうにお話している女性の魔族達に畑仕事を終えて、お酒を飲みながら楽しそうに話をしている男性の魔族達がいて、とても賑やかだった。


 魔族達の姿も多種多様で、ワーウルフやライオンのような顔を持つ人型の魔族や巨大な羽を生やした鳥と人間が混ざったような魔族など……私も知らない魔族が数多く存在していた。


 魔犬族に連れられて、彼らのいる村の中へと入って行った私達は、真っ直ぐ前へ進んで行ったのだが、それが良くなかった。


 私達が、村を通った時、途端に村で賑やかにしていた魔族達の様子が変わった。彼らは、一瞬だけピタッと音を止めて、ヒソヒソ声で私達にもギリギリ聞こえる位の声で囁き始める。


「……あれ、人間?」


「人間が、なんでこんな所に?」


「さぁ……。また、領土を奪われるのかな?」


 彼らの視線は、完全に私と光矢に向けられていた。その視線が……何処か怖い。中には、明らかに恐ろしい形相で睨んでいるような視線も感じてしまう。


「光矢……」


「あぁ……だが、心配するな。何かあったら、俺が守ってやる……」


 彼は、強かった。怖がっている私と違って、全然いつも通りの様子で村を歩いていた。そんな彼の隣を歩いていた私は、そっと彼の手を握り、離さなかった。


 ――ありがとう。……光矢。


                     *


 クリストロフ王国の西部最末端、魔族の里付近に存在する人界領の最果てに位置する森の中にて、私=勇者スターバムは……一冊の本を読んでいた。先程までつい、夢中になって読んでいたせいで、今が一体何時なのかを完全に忘れていた私だったが、ふと時計が気になり、私は魔法の力で掌の中に時計を出現させる。時刻は、既に16時。


「そろそろか……」


 私が、本を開いたまま待っていると……その時だった。ちょうど、その時に私の目の前に大きな魔法陣が出現し、それがカッと光り始める。


 そして、光の中から何十人という数の馬に乗った騎士達が姿を現す。彼らの1人が、馬から降りて私に握手をする。彼は背筋をピーンとした状態でハキハキと告げた。


「……第一騎士団副団長! モールス! ただいま、参上しました。団長の命令通りに第一騎士団のメンバー30人を連れてまいりました!」


「ご苦労。モールス副団長。……さて、それでは作戦は予定通り明日執り行う事とする。各自、今日の所は各々好きなように過ごすように……決戦は明日だ。悔いの残らないようにな」


「「はっ!」」


 騎士達は、そう返事を返すとそれぞれ馬から降りて談笑を始めたり、テントを張ったりし始めた。そんな様子を楽しみながら私は、再び読書をし始める。


 すると、私が読書をしている内容が気になったのかモールスが話しかけてくる。


「あの……隊長? その本は……」


「……なんだね? 私が、読書を嗜む事がそこまでおかしく見えるかね? 騎士たるもの、武道だけではなく学もなければなるまい。だからこそ……」


「いえ、その……何を読んでいるのかと気になりまして……」


「あぁ、これか。……神話だよ。この世界の……。君も幼い時に母親から読み聞かせされたんじゃないのかな? この世界の神話……勇者と女神伝説を」


 すると、モールスは嬉しさと懐かしさが両方込み上げてきた様子で、とても懐かしそうに語り始めた。


「……あぁ、知ってます! 3人の勇者と女神の話ですよね! 昔、好きだったなぁ……。僕、それの影響で騎士になろうって決めたんですよ!」


「3人ではない……!」


「え?」


 とぼけた様子で、キョトンとした目でこちらを見てくる騎士モールスに私は、告げた。


「……勇者は、3人ではない」


 私が、改めてそう言うがモールスは、分かっていない様子だった。彼は、告げた。


「……しかし、神話の言い伝えでは、確か……”異界から現れた勇者達。1人は、鋼の心臓を持ち、その強靭な精神力と硬い意志で守り抜く。もう1人は、万能の肉体を持つ……。そして……”」


 モールスが語った言い伝えの部分が書かれたページを私は、めくって読みながら私は、告げた。


「……違う。そうではない。それは、神話の時代の話だ。……私が言っているのは、今の事だよ。モールス」


 すると、ようやく私の言っている事の意味を理解した様子でモールスは、告げた。


「……失礼いたしました! 今、この世界にいる勇者様の事でしたか! 私とした事が……申し訳ございません。それは……勿論、スターバム騎士団長様のみです! 今の世界を魔族から救える勇者様は、貴方様ただ1人となります!」


 だが――彼の言っている事に私は、少し腹を立てた。


「……違うなぁ。モールスよ。……この世界に”今”存在している勇者は、私1人ではない。”2人”だ」


「え……? 2人って……誰が?」


 わけの分からないと言った様子で私の事を見つめてくるモールスに私は、本を一度閉じて告げてあげた。


「……それとこれから会いに行くんじゃないか。明日、魔族の里に乗り込んでね」


 私は、そう告げてから森の奥へ歩いて行った。モールスは、後ろで心配そうに私の名前を呼んでいたが、そんな事はどうでも良い。私は、森の茂みの向こうに見える魔族の里に繋がる大きな橋を見つめて言った。


「……早く会いたいなぁ。もう1人の勇者くん……いいや、この世界では……ジャンゴと呼ばれているみたいだね。”佐村光矢”!」





 ――To be Continued. 

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