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勇者覚醒編

 光矢とマクドエルの戦いが、火花を散らす。雷を纏った魔法剣を振り回すマクドエルと、それらの攻撃をいとも容易く避けていく光矢。


 マクドエルの攻撃は、それまでのとは遙かに比べ物にならない程に凄まじい。通常の斬撃ですら、雷の力を大きく纏った斬撃に変わっており、その力は一振りで大地にぽっかりクレーターを作ってしまう程だった。


 もしも、この状態で陣形殺撃をくらってしまったら……想像しただけでも恐ろしい。


 だが、そんな恐ろしい力を身につけたマクドエルに対して光矢の方も……何処か不思議な感じだ。


 彼が復活してからずっと私は、何かの違和感を彼に感じていた。それは、彼から感じる匂い。


「……光矢から魔力の匂いがする……?」


 隣からルリィさんとサレサさんが私に言ってくる。


「アタシも感じますわ。殿方様の魔力。……けれど」


 ルリィさんが、神妙な顔でそう言うとそれに続いてサレサさんが告げた。


「……今まで感じた事のない匂い。なんて言うか、匂いは確かに感じるのに香りが虚無な感じ」


 まさにその通りだった。通常、炎の魔法を使う時や、その魔法を得意とする者が発する匂いは、炎の燃えている匂いがしてくるし、雷の魔法の場合は、まるで火傷した時のこんがりした匂いがする。そんな風にそれぞれの魔法において、魔力の匂いは形成されていくのだが……。


 光矢からは、匂いを感じてはいるのだが、それが何の匂いなのか分からない。……例えるなら無味無臭の人という感じだろうか。とても不思議な感じだ。


 ――そもそも、魔力を持たない光矢がどうして……?


 すると、私の心の中の疑問を感じ取ってくれたのか、私の隣に立っていたルアさんが告げた。


「……おそらく、僕達の力を与えた影響だと思う。……魔力を少し多く投入し過ぎて、それで本来、復活と体の維持のために使われるはずの魔力が余り、残った魔力があんな風に主の本来持つはずの戦う力として覚醒したんだだ」


 すると、今度は横からルリィさんが告げる。


「……つまり、殿方様の体をコップに例えて……その中に私達が自分達の持っている水を全て注ぎ込んだ結果、殿方様のコップから溢れ出る程の量となってしまい、溢れ出た魔力が戦う力として殿方様の中で覚醒した……と」


「まぁ、そう言う事になるね」


 おおよそは、私も理解している。けど……初めて見る。光矢の魔力。……一体、どんな魔法を使うのだろうか……。


 全ての攻撃をかわし終えてゆっくりと、マクドエルに向かって歩いてやって来る光矢に彼は、怒鳴りつける。


「……テメェ、”クズ”のくせに……生意気なんだよ! 何回も復活しやがって!」


 マクドエルは、更に魔法剣から雷のエネルギーを放出して、光矢を攻撃する。だが、ゆっくり歩いて近づいて来る光矢は、その攻撃をいとも容易くかわしていく。



 そして、ついに……彼がマクドエルの近くまでやって来たその時――。マクドエルが、魔法剣に雷を纏わせて斬りつけようと光矢に襲い掛かろうとする。


 しかし、光矢はその攻撃を人差し指と親指で摘まむようにして持つ事で綺麗に受け止める。


「……なっ、何!?」


 その突然の変化に驚くマクドエルだったが、その隙を光矢は見逃さない。彼は、一瞬だけ固まったマクドエルに向かって思いっきり拳を撃ち込み、マクドエルの左の頬をぶん殴った。


 たちまち、後ろへ飛ばされたマクドエルが、地面に体を打ち付けながら転がっていく。


「……くっそ! テメェ……。なら、これで……!」


 怒ったマクドエルが、魔法剣に魔法陣を出現させて、魔力を込める。そして、剣を振りあげて光矢目掛けて魔法のフルバーストを放った。


「……陣形殺撃――ザ・ライトニング!」


 これまでにない位、大きな雷の攻撃が光矢を襲う。……だが、光矢は仁王立ちのままその場から動こうとしない。


「……光矢!」


 私が、叫んだ次の瞬間だった。彼は、腰に装填されたホルスターから銃を取り出し、それを素早く抜くと真剣な目つきで狙いを定めて、ジーっとマクドエルの事を睨みつける。


 そして、しばらく経ってから彼は、銃の引き金を引く。凄まじいスピードで弾丸は、マクドエルの放った陣形殺撃の雷エネルギーの塊へと向かっていく。



 ――あんな弾丸1つじゃ……陣形殺撃は……!


 心配していた私だったが、光矢の撃った弾丸は何とマクドエルの必殺技をいとも容易く貫きいていき、超えていく。そして、真っ直ぐにマクドエルの方へと向かっていっていたのだ。



「なん……だと!?」


 驚くマクドエル。しかし、彼もまだ負けてはいない。雷のバリアを展開していたマクドエルは、弾丸が自分の元に飛んできているにも関わらず余裕な笑みを浮かべていた。


「……はっ! 無駄だ。テメェの鉄カスで俺のバリアを突破できるわけねぇ! なんせ、テメェは……クズなんだからなぁ!」


 ゲラゲラとマクドエルは、汚い笑い声をあげていた。だが、対する光矢は至って冷静な様子。彼は、カウボーイハットを上げてマクドエルの方を見つめると言った。


「……俺は、クズなんかじゃない。……もう誰にも……そんな呼び方はさせない」


「あぁ? んな事ほざいても無駄なんだよ……。テメェは、もう俺の陣形殺撃を避ける事はできない。そして、俺はテメェの鉄カス1つ余裕で守る事ができる。復活した所で、端からテメェが勝つ確率なんて0に等しいぜ! 無駄な足掻きだぁ!」


 マクドエルは、そう言う。だが――光矢は、銃口をマクドエルに向けたままいつもと変わらないクールな声音で告げるのだった。


「……いや、俺の弾は負けない」


「あぁ?」


 その瞬間、光矢の撃った弾丸がマクドエルの陣形殺撃よりも早く彼の結界に衝突する。相変わらず、後だしで撃っているにも関わらず、相手より先に弾丸を当てる事のできるこの反射神経と正確さは、見ていて凄まじい。戦いというものを全然知らない私でさえも驚く。


 だが、驚くのはまだ早かった。――光矢の撃った弾丸は、マクドエルの雷の結界に衝突すると、そのまましばらくの間は、バリアに張り巡らされた雷の力で弾丸の動きは、止められていた。最早、全くビクとも動かなくなってきてしまっていたのだ。



 だが――そこで、私が諦めるよりも先に、ピキッという硝子にヒビが入った時のような音が聞こえてきた。



「……今のは?」


 気づいた私が、隣に立っていたルアさんに尋ねると、少女は少し楽しそうな様子で告げた。


「……始まったね。覚醒が……」


「覚醒?」


 ルアさんの言っている事が気になった私が、尋ねてみると彼女は、告げた。


「……精霊の宿りし黒鉄の杖を手にした勇者は、本来ある魔法に目覚めるんだ。それは、黒鉄の杖を手にした者にしか使用する事のできない神をも驚愕する程の力。それが、あの力だよ」


 ルアさんが、光矢の方を向いてそう言うが、私にはまだ何が起こっているのか分からなかった。


「……あの力って……光矢は、一体どうなってしまったんですか!?」


 私が、そう言ったそのすぐ次の瞬間、瞬きするよりも先に光矢の弾丸がマクドエルの雷のバリアに更に大きなひびを入れているのが、硝子にひびが入った時のような鈍い音から分かった。そこから、光矢の弾丸が、バリアにまだやられていないという事を私は、完全に理解した。


「……もしかしてあの弾丸、まだ止まっていない……?」


「その通り。主の撃った弾丸は、主が望んだ場所へ辿り着くまで絶対に止まらない。殺すと決めた人間の心臓を射抜くまで……決して」


「心臓を射抜くまで……?」


 ますます、謎の尽きない私が、そう聞き返す。すると、その瞬間だった。――とうとう、マクドエルの雷のバリアは、光矢の一発の弾丸によって完全に破壊されてしまったのだった。


 その時の硝子が割れた時のような音が、私の耳にずっと残り続ける。そして、光矢の弾丸の先がマクドエルに牙を剥く中、私の隣ではルアさんが言っていた。


「……主の本来持つ魔法は、”全てを撃ち抜く魔法”。例えそれが、己の運命であろうとその弾丸は、止まる事は、許されない。絶対に……絶対に主の向かおうとしているその場所まで弾丸は止まらない。全てを貫き、そして撃ち抜く……即殺必中の魔法。……あの黒鉄の杖の本当の名前は、霊貫杖ミナルケリオン」


 ――刹那、マクドエルの頑丈な鎧をも一瞬で貫通し、その心臓を光矢の弾丸は針の糸を通すように真っ直ぐ撃ち抜いた。あまりに綺麗に弾丸がマクドエルの体を貫通したあまりに、彼の体からは、まるで血を流す事をも忘れてしまったかのようにピタッと止まって、血液の一滴たりとも流さない。


「……ば、か……な……」


 そうやって、マクドエルは最期にそう言い残してからドサッと地面に倒れた。それと同時に彼が放った陣形殺撃も姿を消していき、彼が完全に死んだ事が確認できた。


 光矢は、私達から少し離れた所で1人立ち尽くしていた。彼は、自分の掌をジーっと不思議そうに眺めていた。


 私は、そんな光矢の事を見つめる。


「……これが、光矢の真の力。勇者の魔法……」


 倒れたマクドエルと、騎士達の死骸が並んでいる荒野の真ん中で私とルリィさん、サレサさんの3人は、口をぽっかり開けて眺めていた。


 戦いの終わった後の静けさは、その後もしばらく続いた。

次回『後日譚』

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