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魔龍ブルー・リー編⑦

 ブルー・リーが、私と光矢に話をしてくれたのは、少し経ってからの事だった。彼女は不服そうな顔をしてマリアから治癒の魔法を受ける事にし、そしてその間に彼女は、私達に話をしてくれた。



「……もう100年以上前ですわ。この土地に人間が住み着く前。私達、魔族は平和に生きておりました……」



                     *



 今から100年以上前の事、クリストロフ大陸は魔族の土地だった。様々な種類の魔族が住み、それぞれの部族ごとに争いもなく、平和に過ごしていた。


 ブルー・リーは、魔龍族の貧しく小さいが、高貴な家の長女として生まれた。


 武闘家にして魔王の元でも働いていた父は、武術を魔族の子供達に教える先生をやっており、母はブルー・リーと妹の2人を愛情たっぷりに育てた。


 ブルー・リーが、父の道場に通うようになったのは、物心ついてすぐだった。父の熱心な指導と元々の才能もあって、メキメキとブルー・リーは強くなっていった。そのうち、彼女は西部1の武闘家と言われるようになった。


 ──家族は、とても幸せな毎日を過ごしていた。これ以上ない位に……。


 だが、そんな平和も永遠には続かなかった。ある時、クリストロフ大陸に人間が現れた。彼らは、最初こそ先住民である魔族と共生する形で過ごしていたが、しかし……魔族の世界の魔法文明が自分達のいた国よりも遅れている事に気づいた人間達は、徐々に魔族を見下すようになった。


 そのうち、大陸に移り住む人々の数も増えていった。気づけば、彼らは大陸の北部に住み着くようになっていて、そこには人間の町が完成していたのだ。


 人の町は、どんどん広がっていった。次第に北部のほとんど全てが人間で埋め尽くされた。次第に彼らは、北部の自分達のエリア内を1つの国のように治め始めた。



 反対に、魔族は追い詰められていた。人間が増えて、どんどんエリアが拡大されていく中、魔族の住処は北部を中心になくなっていき、そして魔族の数も少しずつ減っていっていた。


 ――それは、この地に後から入植した人間達が密かに魔族を殺していたからだった。




 そして、とうとう人間達は北部の全てを制圧した。……そこから東部、南部と自分達の領地を広げていき、そこに住む魔族達を次々と虐殺した。時には、魔族の部族と戦争をする事もあったが、人間達の魔法文明は、本当に発達していた。特に大きな差をもたらしたのは、人間の「杖」の開発だった。


 元々、人間は魔族よりも魔力の量や質は、圧倒的に弱い。そのため普通に戦えば、まず魔族が負ける事はないと思われていたが……しかし、ここで人々が魔族に勝利する事ができた大きな要因は、杖であった。


 人間という少ない魔力しか持たない種族でも、効率的に且つ、強力な魔法を撃つ事ができる杖の開発が、勝敗を分けた。結果、杖を持たず従来通り掌から魔法を発動していた魔族達は、負けてしまった。



 そして、魔族と人の争いは……そこから何度も勃発した。時には、後から入って来たにも関わらず、北部と東部の一部のエリア、南部の一部のエリアを自分達の国だと主張し、それを認めてもらうために人間同士で争う事もあった。この戦いの戦地は、当時まだ開拓が進んでおらず、魔族しか住んでいなかった西部で行われた。この影響で、魔族は大量に殺されて……そして、独立を認められた人間達は、クリストロフ王国を建国。……後に、東部の全てと南部の全てを手に入れて強大な国家を作り上げた。


 国家ができてからも人間達は、魔族の掃討を続けた。故郷を離れたくない西部の魔族達を倒し、西部開拓を進める人間達。そして、魔族は……とうとう現在のクリストロフ王国の敷地内から大多数……消えてしまった。


 西部に住んでいたブルー・リーとその家族も……人と魔族の争いに巻き込まれた。家族を守るために戦いに出た父は、二度と帰って来ない。子供達のために自分を犠牲に食料を与え続けた母も死んでしまった……。


 そして、妹は……。掃討戦に巻き込まれた時に人間達に捕まり……それっきり帰って来なかった。



 後からブルー・リーが聞いた話では、人間に近い姿になれる魔龍族は、人間に魔力を封じ込められ、人の姿にさせられたまま男は、奴隷として永遠に働かせられ、女は……人間の欲望を満たすためだけの存在にさせられてしまうらしい。


 ブルー・リーは、ひたすらに嘆いた。彼女は、悲しみのあまり洞窟の中に籠った。そこは、元々彼女が家族と共に暮らしていた思い出の場所でもあった。洞窟の奥底……今では人間達が鉱山として使っているその山の奥底に来た彼女は、山でとれる鉱山をかき集めて、その全てを洞窟の手前まで持ってきていた。



 そして、持ってきた鉱石を人間達に渡し続けた。人間達は、ブルー・リーから鉱石を受け取る代わりに、彼女の住む洞窟の奥底の事を秘密にし、介入しない約束をした。そして、全ての鉱石を洞窟の手前に置き終えた彼女は、その後長い眠りについた。



 だが、それから何十年という時が経った。ある時、洞窟の奥底に人間達が侵入した。彼らは、約束を破り、ブルー・リーが大切に守っていた家族との思い出をオリハルコンと勘違いし、盗もうとした。



 それに怒ったブルー・リーは、彼らを殺した。だが、それが良くなかったのだ。人間達は、洞窟の奥底にオリハルコンが眠っており、それを一匹の魔族が守っていると勘違いし、彼女を倒そうと襲い掛かる。


 ブルー・リーは、そんな人間達と何度も戦い続けた。……どうやら、人間は魔族と違って短い時間しか生きる事ができない。そのため、ブルー・リーと約束をかわした人間達は、既に亡くなっており……子供の世代には、話がいっていなかったみたいだった。



 そして、ここから……ブルー・リーは自分の住処に現れる人間達と戦い続けた。



                      *


 全てを話してくれたブルー・リーは、暗い顔をしていた。傷が深かった事もあり、彼女の治療はまだ終わっていない。しかし、それでも彼女は無理やり立ち上がって、光矢からペンダントを奪い取るよう手に持った。


「……これは、アタシの大切なものですわ。気安く触らないで頂けますこと?」


「すまないな」


 光矢は、そうして一言謝った後に、吸っていた煙草を捨てて、足で踏みつけながら言った。



「人と魔族か……」


「同情ですの? 人間のくせに……。アタシの何が分かるのですの?」


「分かるさ。俺もマリアも……お前と同じ居場所をなくした者だしな」


「え……?」


「俺は、ここと違う異世界から来た。マリアも……本来の身分と全く違う身分に落とされた。俺達は、お互いに居場所を失くした者同士って事だ」


 ブルー・リーは、少し悲しそうな顔をしていた。だが、それも一瞬だけ……。


「……何なんですの? 人間と言うのは……あれだけの事をやっておいて……居場所がない? 貴方達人間は、散々アタシ達から奪ってきたくせに……一体、何なんですの? 同じ人間同士でも奪い合うだなんて……」


 その時、彼女の瞳には涙が浮かび上がっていた。悲しそうな顔だ。……同情。というよりは……どうしようもなさみたいなものが、瞳の中に映っていたみたいだ。


 彼女は、苦しそうな声で告げた。


「……どうして、ですの? 人間というのは……どうして……」


「……そうだな」


 私も光矢も何も言えない。ただ、黙っている事しかできなかった。そして、私達の誰も喋らなくなった頃、ブルー・リーが口を開いた。



「……本当に、人間と言うのは分からない生き物ですわ。……人間同士で奪い合い、約束も破り……それなのに……アタシの傷を癒そうとする者もいて……」


 その顔には、僅かに優しさのようなものもあった。これまで、見た事なかったブルー・リーの()()()()()()()()()()()()()()()。その顔は、私の想像していたような魔族の姿とは、違っていた。



 彼女の傷を癒すため、私はもう一度ブルー・リーの元へ駆け寄る。


「傷、まだ治り切っていませんよね?」


 そう声をかけると、彼女と目があった。悲しみが、沢山詰め込まれた目を見た時、私は彼女の事も……心から治してあげたいと思えた。



「……戦いは、終わりです。今、治してあげますね!」


 そうはっきり告げて、私は早速彼女の手や足に治癒の魔法をかけ始める。淡い緑色の優しい光が、彼女の体を包み込む。



 ――しかし、その時だった。突如、私は自分達の近くに物凄い数の魔力の反応を感じ取った。



 あれ……? この感じ……何処から?


 私が、辺りをキョロキョロ見渡し始めたその時だった。




「……危ない!」


 治療中のブルー・リーが、声を張り上げて叫んだ。振り返ると、そこには……物凄い数の鉄の仮面を被った屈強な男達の姿があった。


 彼らは、手に持った大きな杖から魔法陣を出現させて、私とブルー・リーがいる場所へ目掛けて魔法を放った。



「……は!」


 それに気づいた時には、もう避ける事などできなかった。咄嗟に傍に置いていた杖を手に取り、私は防御結界を張って、ブルー・リーと自分を守る事にした。



 しかし、敵の数の多さと……強力な炎や水流、風の魔法などを同時に受けていくうちに私の結界は、限界を迎え、とうとう……破られてしまう。



「……きゃっ!」


 魔法の攻撃を受けた私とブルー・リーは、そのまま吹っ飛ばされてしまう。



「……マリア!」


 光矢の心配する声が聞こえてくる。私達は、それぞれ別々の場所に吹っ飛ばされ、私は奇跡的に光矢の傍へ飛ばされてしまい、彼にキャッチしてもらった。



「大丈夫か?」


 とても心配そうに聞いてくれる彼に対して私は、告げた。



「……はい。少し怪我をしてしまったようです……。でも、大した怪我ではないです。……あれ? あの人は……」


 辺りをキョロキョロ見渡して、ブルー・リーを探す私。すると、私達のいる場所よりもずっと向こうで鉄仮面を被った男達とその真ん中に3人の男達が立っており、真ん中の大きな体をした男が、ブルー・リーの事を踏みつけていた。


 男は、私達に言ってきた。


「……ようやく会えたなぁ。血染めのサム……」


「お前……あの時の……」


 そう。この3人組の男達は、私と光矢がこの町に来たばかりの頃、私を連れ去ろうとした男達だった。彼らは、なぜか生きており……後ろには、仲間達である鉄仮面を被った男達が立っていた。


 真ん中に立っている大柄な男は、告げた。


「……自己紹介してなかったなぁ。俺は、バルボリン。この町で一番強い男だ。こいつらは、強い俺について来た……まぁ、刺身のつまって所だ」


 光矢は、強く睨みつけながら静かに口を開く。


「何の用だ?」


「……何の用? ははっ! 笑わせんなよ。この俺をいきなり攻撃してきて……生意気に女まで連れてよぉ」


「マリアの嫌がる事をするからだろう。失せろ。お前らの出る幕は、ない」



「あぁ? おい血染めぇ……。俺は、テメェの事が前から気に食わなかったんだ。同じ冒険者のくせに良い子ちゃんぶってる感じというか、カッコつけてる感じがよ。……物凄く腹たたしいぜ。だいたいよ……おめぇ、この魔龍を殺さないだ? はっ! 甘ったれてんじゃねぇよ!」


 その時、屈強な男ことバルボリンが、思いっきりブルー・リーの体を蹴り飛ばした。腹部に思いっきり攻撃を受けた彼女は、口から血を吐き、苦しそうにお腹を抑えている。バルボリンは、続けた。


「良いか? コイツはなぁ……俺達のオリハルコンを独り占めしようとしてたんだ。あぁん? 分かるよなぁ? んな奴にゃあ、おしおきが必要よ!」


 そう言うと、バルボリンは更に彼女の事を踏みつけ、蹴りあげる。……あまりにむごい有様に私は、我慢できなかった。



「……ちっ、違います! その人は、鉱石を独り占めしようなんてしてません! その人は、ただ……思い出を守りたかっただけなんです! 悪いのは、私達人間です! 見てください! ブルー・リーさんの巣には、1つもオリハルコンなどありません!」


 自分の今、持てる全勇気を振り絞って言ったつもりだった。


「……貴方」


 ブルー・リーも目を見開いて固まっていたし、バルボリンも私が、いきなり喋るものだから驚いた様子で、部下の2人に命令して、魔龍の巣を調べさせた。そして、戻って来た部下達は告げる。



「その女の言う通り、巣には何もありません。あったものといえば……なんか、古い写真とかガラクタばっかりです」


 それを聞いたバルボリンは、つまらなさそうに溜息をついた。だが、そこまでは良かったのだ。これで、終わってくれればむしろ平和だった。




 次の瞬間、バルボリンは戻って来た部下達に告げた。


「……くだらねぇな。おい! お前らで、巣を燃やせ。まるごと全部な」



「え……!?」


 驚く私とブルー・リーに対して彼は続けて言うのだった。


「……はっ! 宝物を守ってるって噂で聞いたから……邪魔な奴を負かしたついでに……と思って来てみたが、な~んにもねぇのかよ! 宝どころか、ガラクタだぁ? 写真~? ふっ……魔族のくせに家族の写真なんか持ち歩いて……オメェらみてぇな猿どもが、家族だぁ? ”群れ”の間違いじゃねぇのか? へへへっ!」


 男は、そして彼らの近くにいた仲間の男達は、大きく笑い出した。ゲラゲラと……汚い笑い声をあげて大袈裟に笑い続ける。


 バルボリンは、言った。


「……馬鹿みてぇだぜ! 俺達は、中古ショップに買い物に来たわけじゃねぇって! んな、くだらねぇもん……全部燃やしちまいな! ギルドには、適当に魔龍と戦っている最中に龍と一緒にオリハルコンも全部燃えたって言っときゃいい……。そんで、このメス龍は……俺達のもんにしよーぜ。そこの金髪の売女と一緒になぁ! ケケケ……」


 男達は、ゲスな笑みを浮かべて笑い続けた。そして、次第に彼らは地面に横になっているブルー・リーの傍に集まり始めて……彼女を集団で踏みつけ始めた。


 彼らは、ブルー・リーの怪我がまだ完全に癒えていなくて動けない事を良い事に、それまでの自分達の憂さを晴らすために……思いっきり蹴ったり、踏みつけたりして彼女の事を痛めつけた。


「……龍の分際でよぉ。身体だけは、人間様イラつかせる見た目しやがって……。あぁ? なんだぁ? このでっけぇケツは……あぁ? 牛みてぇなもんをぶら下げやがってよ!」


 男達は、ひたすらにブルー・リーをいたぶった。そのあまりに酷すぎる姿に私は……。



「やめて! それ以上は、やめて! ブルー・リーさんは、何も関係ない! 乱暴はやめて!」


「うるせぇ! ここにいる奴ら全員、気に食わねぇんだよ! どいつもこいつも……。なんで、頑張って魔族倒してるのに薄給なままなんだよ! なんで、俺達は社会の底辺みたいに見られなきゃいけねぇんだよ! くそっ! こんな世の中……皆、全部イライラしてきたぜ。……この豚野郎! 今日からテメェは、龍をやめて俺達の豚になるんだよぉ!」


 ブルー・リーの悲鳴が聞こえてくる。だが、戦う力のない私には、何もできない。


 ……やめて。……そんなの、やめて……。いじめないで……。その龍は、私達と何も変わらない……同じ存在なのに……。やめて……。



 しかし、その時だった。強烈な銃声が洞窟内に鳴り響き、それと同時に鉄仮面の男が1人、血を吐いて死んだ。その光景を見ていたバルボリンは、口をぽっかり開けて銃声のした方へ視線を移した。すると、そこには……一丁の銃を手に持ち、殺意の籠った眼差しでバルボリン達を見つめていた光矢の姿があった。


 バルボリンは、言った。


「……テメェ! 何しやがる! せっかく盛り上がって来た所で……」


 だが、光矢の声は今までで一番といってもいいほど低くて、鋭い刃物のようだった。


「……あぁ、盛り上がって来たよなぁ。……俺ももう我慢の限界だぜ。この怒りを誰にぶつけるか……? 良い所に……良い感じの的が、何十人もいるじゃねぇかよ!」


 刹那、光矢はいつの間にか自分のすぐ傍に置かれていた棺桶を勢いよく開けて、中から手回し式のガトリング砲を取り出し、撃ちまくった。


 彼のあまりに早い乱れ撃ちに男達は、呆気もなく次々と倒れていく。まるで、本当にただの的当ての如く……敵は、跡形もなく死んでいき、そして残されたバルボリンと2人のやせ細った子分達が驚いた様子で辺り一面を見ていた。



「……一番強いと名乗るわりには、大した事ねぇな。これなら、シャイモンとかの方がよっぽど手ごわかったぜ……」


 光矢が再び、ガトリング砲の銃口を向けるとバルボリン達は、途端に「ひぇ!」と声を揃えて、3人は散り散りに逃げ始める。



 だが……。



「……逃げても無駄だぜ」


 光矢は、すぐさまガトリング砲を捨てて、ガンベルトから銃を取り出し、左右に逃げたバルボリンの子分達を撃ち落とした。途端に子分達は倒れて、それから二度と起き上がる事はなかった。


 それから、すぐに真ん中を走っているバルボリンの足目掛けて光矢は、銃を一発撃ちこんだ。すると、途端に彼は転んでしまい、苦しそうに匍匐前進みたいな動きをして逃れようとしていた。だが、そんなスピードではすぐに光矢の足に追いつかれる事は、時間の問題だった。


 光矢は、バルボリンの前へ現れるとリボルバーの銃口を彼の頭に向ける。そして、見下ろしながら告げた。


「……おっと、動くなよ。お前が今、何を考えているのか……当ててやるよ。俺だけでも、殺してやろうって……そうやってベルトに収納されてる杖を取り出して、早撃ち勝負をしかけようって算段だろ? お前みたいなクズの考える事なんかすぐに分かるさ。……けど、悪いな。俺は、こっちの世界に来てから一度も早撃ちで負けた事がないんだ。この銃は、44マグナムつって……俺にとっての勝利の女神でな。ドデカい動物も瞬殺できる。テメェのドタマを吹き飛ばす事なんて朝飯前だ。だが今、この状況でただ1つだけやらかしちまった事があってな。俺は、今までコイツを何発撃って来たのか忘れちまったんだ。この銃の中に後、何発残っているのか? 賭けてみるか? 弾数を当てれれば、殺さないでおいてやらんでもない」


「……」


 バルボリンは、黙っていた。2人の男達は、お互いにどちらが先に死ぬのかどうかの瀬戸際にいるみたいだった。


 やがてバルボリンは、告げた。


「……1発。後、1発だ」



「ほう……。1発ねぇ……」


 光矢は、ゆっくりと銃の撃鉄を下ろしてから引き金を引いて、彼のもう片方の足を狙い撃った。


「正解だ。よく分かったな」


 男は、弾丸が当たったのと同時に惨い声をあげて、苦しみだす。しかし、光矢はそんな男の事など興味なさそうに立ち去った。まるで、最初から「殺す価値すらない」と言っているかのように冷めた表情をしていた。



 だが、彼が立ち去った次の瞬間にバルボリンの表情が、少し変化したのだった。彼は、怪しい微笑みを浮かべて、それから次の瞬間にベルトから杖を取り出し、そしてブルー・リーを睨みつけて傷だらけの彼女に向かって、魔法を撃とうとした。



「……テメェが殺せないのなら…………もうヤケクソだ! ええい! 死ねェェェ! 魔族のクソ女ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 バルボリンの杖の先に大きな魔法陣が出現し、彼が魔法を撃とうとした次の瞬間。



「……殺す価値を自分から高めてくれるとは……飛んだバカだ。死ね」


 背中を向けていた光矢が、銃口だけバルボリンに向けた状態で、ノールックで彼を撃ち抜いた。帽子で自分の顔を隠した光矢は、バルボリンが撃たれて死ぬ姿を見る事もなく、撃ち終えると先程と同じように歩き出した。



 バルボリンは、今度こそ光矢の弾丸を心臓にくらい、死んでいった。しかし、亡くなる直前に彼は言った。



「……あ、あと……1発って……言ってたじゃないか……。この……ひっ、卑怯者め……」


 光矢は、煙草を吹かしながら男に背中を向けたまま告げた。



「……卑劣漢に言われる筋合いは、ないな」



 煙は、昇っていく。……しかし、洞窟の中なので、空高くへは昇っていかなかった。それは、まるであの世へ向かったバルボリンのように。煙は、昇っていかなかった。





次回『後日談』

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