レジスタンス編①
魔王城地下牢獄に捕まってしまった俺=佐村光矢は今、監獄の外で走り回っている魔族達の事を見ていた。
先程まで檻の警備をしているだけだった彼らだったが、ほんの数秒前から様子が一変している。地上で何か起こったのか? そう思っていると……同じ檻の中に閉じ込められていたエカテリーナさんが、不敵な笑みを浮かべているのが見えた。
「……始まりましたわ」
そんな彼女の微笑みを見て、俺はある事を悟った。
――レジスタンス……。エカテリーナさんが、言っていた事だ。普通に考えれば……反逆者達って事になるが……。
「……なぁ、エカテリーナさん……アンタの言っているそのレジスタンスって組織は、何なんだ?」
すると、彼女は話をしてくれた。
「……戦争と、そして……お父様を止めるために作った人間と魔族の混合組織ですわ」
「人間と……」
「魔族……」
シーフェとルリィが、それぞれそう言う。……2人は、意味深にエカテリーナさんの事を見つめていた。
「……皆さんにとって、人間とは……。そして、魔族とはどんな者だと思っておりますか?」
その問いかけに、俺達は静かに考え始めた。……どんな存在かぁ。改めてそう言われると……考えた事もなかった。
すると、シーフェが最初に口を開いた。
「……人間の敵。私達と戦争をしたがる野蛮な種族……」
彼女の発言に俺は、驚いたが、しかし周りの奴らの反応は「ふーん」って感じだった。まぁ、そんなものなのだろう。俺のような外部の人間には、分からないが……これが、この世界の人間にとっての普通の感想である事は、俺にも何となく分かっていた。そして、それはきっとスターバムも一緒だろう。
すると、今度はルリィが言った。
「……そうですわね。……アタシにとっても……やはり、人間と聞くと良いイメージはありませんわ」
続けて、サレサも……。
「……同感。人間を憎まなかった日は、ない」
2人は、一緒に頷き合っていた。2人の過去を知っているから俺にも彼女達の言っている事に同情できた。……まぁ、ついでに言うと俺も……人間に対しては、あんまり良いイメージを持っていないし、それに魔族も……。
俺は、魔族の里で、ココ達と一緒にいた時の事を思い出していた。背景を知っているとはいえ、実際に受けてみると……良い気分にはならない。そうやって、お互いに差別し合う事で、どんどん負の連鎖が続いていく……。俺達がいた世界と何も変わらない。知恵の実を手にした生物の宿命なのだろうか……。そんな哲学にふけっている時、エカテリーナさんが言ってきた。
「……皆さん、そう言うと思っていました。……しかし、同時に分かってもいるはずです。全ての人間、魔族が”悪”ではない事も。そして、”悪”とは何も他種族のみにいるとは、限らないと言う事も……。わたくしは、幼い頃から近いうちに戦争が起こると言う事を察知しておりました。それは、最初こそ勘でしたが、しかし……日に日にお父様の計画の内容を知っていくにつれて……それは、確信しました。この世界には、きっと……わたくしと同じように戦争をしたくない人、そして……魔族がいるはずだと思いました。そこで、わたくしは……クリーフに命じ、少しずつ組織の規模を拡大していきました」
エカテリーナさんの瞳は、真っ直ぐしていた。彼女は、本気で戦いを終わらせたいと思っているのだろう。まだ若いのに……おじさん、感心感心。
すると――。
「……クリーフを西部に向かわせたのもサム・コーヤ……。貴方の棺桶の調査が表向きの理由ではありましたが、もう一つの狙いとしては……お父様の動きが活発化したからというのもあるのですわ。お父様は……女神を復活させて……この世から魔族を消し去り、人間だけの楽園を作ろうとしております。わたくしは、何としてでも……それを止めたいのです」
「魔族を消し去る? そんな恐ろしい事が、可能なのか?」
「はい。……可能ですわ。女神の力は、神羅万象を司ります。新しい種族を生み出す事も……逆に滅ぼす事だって、可能なのです。そして、それを復活させるための鍵こそが、わたくし達……巫女の候補者であり、それを守るのが、サム・コーヤや、スターバム達3人の勇者の使命です」
なるほど……。だいたい、分かった。……それにしても壮大な話だ。……しかしまぁ、すっかりファンタジーらしくなってきた。最初は、銃なんか出て来て、もう終わりかと思っていたが……。
すると、今度はスターバムがエカテリーナさんに改まった様子で告げたのだった。
「それで、姫様……そのレジスタンスとやらが私達を助けに来ているという確証は、あるのでしょうか?」
「いいえ。……そもそも、わたくしは……西部へ向かったクリーフから一度も連絡をもらっておりませんわ。彼が、まだ生きているのか? 今、何処にいるのか? それも全て謎なのですわ」
と、エカテリーナさんが悲しそうにしているのを見て、俺は彼女を元気づけるように告げた。
「……それなら大丈夫だ。アンタの所のクリーフは、今……おやっさんの所に預けてある」
途端にエカテリーナさんの表情に光が戻り、彼女は、俺を見つめて言ってきた。
「……本当ですか!? クリーフは……無事なのですか!?」
「あぁ……。酷い怪我を負っていたが、おやっさんの所にいりゃ、大丈夫だろう」
「そうですか……。しかし、その酷い傷というのは、一体何処で……」
すると、今度はシーフェがエカテリーナさんに言いにくそうに口を開き始めた。
「あのぉ……実は……」
彼女の口からクリーフとシーフェの関係について明かされた。そして、最後の夜に……ガルレリウスによって、クリーフが川に流されてしまった事も……。
なるほど。これで全てが繋がった……って、わけか。エカテリーナさんもホッとしていた。
「……良かったですわ。彼は……とにかく無事なのですね……」
嬉し涙を流すエカテリーナさんを見て、監獄の中で僅かな感動が生まれ始めていたが……その時、俺達の上から大きな揺れが起こった……!
俺は、その揺れを感じてすぐに、これが地震の類でない事を察知し、真上を見つめる。
「地上からか……」
すると、今度は近くに立っていたスターバムが告げた。
「……何者かが、爆発物を爆発させたのでしょう。……姫様、危ないのでこちらへ……」
俺もスターバムと同じようにエッタやサレサ達を自分の背中に避難させる。俺とスターバムが、ピリピリと緊張する中で、アブシエードだけは目を瞑っているだけであった。流石は、元魔王。しかし、揺れは再び起こり始める。
スターバムの言う通り、爆発によるものだろう。……誰が、何のために。
「まさか……」
エカテリーナさんは、何かに気付いた様子で目を見開いていた。……それを見て俺も、レジスタンスの存在が、頭の中にちらついた。
本当に来たのか……。
すると、その時だった。俺達がいる監獄へ入るためのドアの向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……そこを退きな! 退かねぇとドカ~ンと一発ぶち込むぜぇ!」
「この声は……」
その渋い男の声を俺は、よく知っている。外にいる警備の魔族達が「わああ!」と言いながら戦闘している? 様子の中、次の瞬間……ドカ~ン! という音と共にドアが粉砕され、物凄い土煙が舞った。
咳込む俺達が、粉砕されたドアの向こうを見つめていると、そこに見えたのはやはり見覚えのある人の姿であった。
「……おやっさん!」
なぜかロケットランチャーを肩に担いでいたおやっさんの姿だ。その隣には、騎士甲冑を身に纏う男の姿もあり……。
「……クリーフ!」
エカテリーナさんが、そう言った。なるほど。確かに……あの時、川で助けた男の姿だ。見た感じ、すっかり元気になったみたいだった。
そして、もう1人……意外な人物がそこには、いた。
「……ルリィお姉ちゃん! サレサお姉ちゃん!」
犬の耳を持つ魔族の少女が、ルリィとサレサの名前を呼ぶ。彼女は、小柄な体と黒い肌を持ち、可愛いらしいもちもちの頬っぺたを持った魔犬族の少女――ココだった。
「……ココちゃん!」
「どうしてここに……」
意外な姿に驚く俺達にココは、言った。
「助けに来たなの!」
そう言うと、3人は早速俺達の元へ駆けつけてくれたのだった……。
――To be Continued.




