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銃の精霊ルア編⑥

 朝になり、朝食を済ませた俺達は早速、森を出るべく歩き出していた。本当は、すぐにでも空を飛んで移動を開始したいのだが……この辺りの森は、木々の茂りも物凄くなかなか飛び立とうにも難しい状況にあった。


 それに空を飛ぶにもルリィの負担が心配だ。こんな所であんまり彼女を酷使したくないというのもあった。


 だから、俺達は一旦、森を抜けるまで歩く事にした。かなり広い森だが、決して歩けない距離ではないと思うしな……。



 既に森に入ってから今日で2日目。昨日は、湖の精霊と出会い、精霊の涙をゲットできた。そろそろ森も終わりに近づいているはずだ。


 そう思いながら俺達は、引き続き歩き続ける事、1時間――。



 ようやく俺達は、目の前に光を見つけた。


「……出口だ!」


 すると、後ろからついて来ていたルリィやサレサ達が、少し嬉しそうになった。ルリィが、言ってきた。


「……やっとですわね!」


「あぁ……! さっ! あともう少しだ! 頑張るぞ!」


 俺達は、ラストスパートを走って行く。そして、ついに森を出る――その時だった。


「……!?」


 森を出た直後、俺はすぐに向こうから何かの気配を感じ取った。


「……待て! お前達! 下がれ! 来ちゃダメだ!」


 俺は、すぐに自分の後ろを走って来ていたルリィ達にそう告げた。しかし、彼女達も避けようにもタイミングが少し遅すぎた。


 ――急いで俺は、ルリィ達3人を庇うべく、彼女達を突き飛ばす――! その直後、突き飛ばした俺の体に3本の矢が突き刺さる……!



「……ぐっ!」


 いきなり、強烈な矢による攻撃を受けてしまった俺は、体から血を流しながら地面に足をついた。すると、そんな俺の様子を見ていたルリィ達が心配そうに近づいて来る。


「……殿方様!」


「ムー君!」


「ジャンゴ!」


 しかし、3人がこっちへ来そうになっている直前で俺は、彼女達に言った。


「……待て! 近づくな! まだ来るっ!」


 途端にルリィ達は、その場を動かなくなった。彼女達は、自分達の元に矢が降って来る事を今度は、事前に理解し、そして少し早めに矢を避ける事ができた。


「良かった……。全員無事か! 怪我は!」


 念のため、それを聞いているとシーフェが、言った。


「……大丈夫よ! 私達は、無事! それよりも……」


「俺の方も……平気だ!」


 俺は、そう言いながら体に刺さった矢を一本ずつ取り除いていく……。すると、そんな時に銃の中からルアが姿を現す。彼女は、すぐに俺に突き刺さった矢を1つ持って、それを引き抜こうとしていた。


「……大丈夫!? 主!」


「あぁ……。これくらい、どうって事はない。……それに万が一、何かあってもお前がいるんだ。平気だ」


 俺は、そう言いながら矢をようやく1つ体から引き抜く事に成功。全身に激痛が走ったが、それと同時に安心感もあった。


 残り2本……。そのうちの一本は、ルアが、やってくれている。俺は、もう1つの矢に手を伸ばし、それを引き抜く。


「……うっ!」


 しかし、この3本目の矢は……ちょうど俺のお腹の辺りに突き刺さっており、これが少しでも引き抜こうとすると、矢と自分の体でぐっちょり音を立てて、余計に痛みが加速する。しかも、お腹と言う事もあって、少しでも矢を移動させようとすると、血も尋常じゃない程出る。おまけに痛い。


「……くっ!」


 ぐっとを歯を食いしばりながら俺は、深呼吸をして矢を少しずつ抜いて行った。すると――。


「……やった! 主! 僕、1つ抜けたよ!」


 ルアが、矢を一本抜く事に成功する。俺は、抜けた時の激痛に耐えながらルアに言った。


「よくやった……ルア……。ん! ぐっ!」


 俺の方は……まだ抜けない。腹に突き刺さったこの矢……。何としてでも抜かないと……。


 そう思っていると、その時だった――!


「……殿方様! 何か来ますわ!」


 後ろからルリィの声がした。すぐにアイツのいる方に目を向けると、ルリィは俺に言ってきた。


「……強力な魔力を感じますわ! 殿方様の方へ向って来ております! すぐに避けて!」


「なんだと……!?」


 魔力……。俺を狙って……。敵は、意外と近くに……!


 と、思って、辺りを見渡そうとするも自分の周りには、誰もいない。敵らしき人物達の気配でさえもしなかった。しかも、遠くから俺達を狙っている人の影も弓矢の姿もない。


 どういう事だ……!? 俺を狙っていると言う事は、俺達がちょうど見えるくらいの位置にいるはずなのに……。


「……くそっ! ダメだ! 矢が……ぬけっ……ない!」


 抜けない矢に手こずりながら俺は、向こうから近づいて来る謎の魔力を感じ取った……。確かにある。俺を狙ってくる攻撃。……しかも、結構強いやつだ。


 なのに、敵の姿は何処にいない。それどころか、矢の気配はあったはずなのに……敵の殺意が、全く感じられない。


 この世界に来て、何度も修羅場を潜り抜けてきた俺が……これまで一度も敵の殺意を漏らした事はなかったのに……何も感じないだと? 敵は、一体何処から!?


 しかし、考えている暇はなかった。ルリィの言っていた魔力による攻撃。……それは、凄まじい雷の攻撃で、強烈なエネルギーの塊が俺に襲い掛かろうとしている。


「……俺の銃の中に隠れろ! ルア!」


「え……? でも、主が!」


「良いから! 俺ならどうせ復活できる! お前は、すぐに隠れるんだ!」


「……」


 ルアは、気乗りしない様子だったが、しかし敵の攻撃が近づいて来るので、仕方なしに俺の銃の中へ戻って行った。ルアの姿もなくなり、敵の攻撃が目と鼻の先まで近づいて来ていた俺は、すぐに銃を取り出して、銃口を自分に向けて撃った。


「……間に合えよ!」


 刹那、俺は銃の引き金を引いて自らの脳天に向けて魔力の籠った弾丸を撃ち込んだ。直後に俺の心臓が強制的にストップし、仮死状態となる。しかし、それと同時に俺の全身に魔力が流れ込む。


 敵の攻撃が俺を襲い、俺の全身が雷に包まれた直後、止まっていた俺の心臓は、再び流し込まれた魔力によって復活を遂げる。


 勇者の力が、俺の体を目覚めさせるのだ。一度死んでいた俺は、すぐに起き上がり、そして完全復活を遂げると、その勢いのまま俺は、自分の腹に突き刺さっていた矢を引っこ抜く。


「んぐっ!」


 当然、激痛と血が大量に流れたが……復活直後で、感覚もまだしっかりしていない状態だった事もあって、意外と平気だった。


 復活と同時に俺の元にルリィ達が、集まって来た。


「……殿方様! 平気ですか? お怪我は……」


「平気だ。この傷も後で精霊の涙を使って塞げばいい。……それよりも……」


 俺は、再び周囲を確認する。やはり、周りには敵がいない。それどころか、殺意も感じない。



「……ルリィ、サレサ……お前達の方も敵の魔力を感じたりするか?」


 尋ねてみるが、しかし彼女達はただ首を横に振るだけだった。


「……いいえ。敵は、一体どこにいるのか? アタシ達にもさっぱりですわ」


「……攻撃が来てからじゃないと分からない……」


「そうか……」


 予想はしていたが、しかし……そうなると、今度の敵は厄介だ。分からない所から攻撃を仕掛けてくる敵。……どうする? 何か対策は……。



 と、色々考えているとその時だった。


「――来る!」


 俺は、向こうから矢による攻撃を。


「こちらも来ますわ!」


 それに対してルリィ達も魔力による攻撃を感じ取った。両者は、互いに攻撃の気配から同じ場所を指さす。


「……向こうに逃げるぞ!」


「向こうが、安全ですわ!」


 そう言うと、俺とルリィは、互いに顔を見合わせて一瞬だけ恥ずかしくなったが、しかし状況が状況だ。俺達は、すぐに攻撃を避けた。同時に俺達のいた場所に無数の矢と魔力による攻撃が炸裂する。


「危なかった……」


 避けた後にサレサが、そう言った次の瞬間だった。


「あぁ……ギリギリだったな……」


 俺が、隣にいるサレサにそう話しかけて、彼女の方をチラッと見てみると――。


「何!? いない!」


 突然、サレサは姿を消していた――!



「おい! サレサ!」


 俺が、周囲を見渡して後ろにいるルリィ達にこの事を伝えようと後ろを振り返った――。


「……シーフェ! ルリィ! ……サレサが!」


 しかし、直後に後ろを見てみると、そこには本来いるはずだったシーフェもルリィの姿も何処にもいなくなっていた。



「……バカな。どうして……」


 危機感を募らせる俺。すると、銃の中に入っていたルアが俺に言ってきた。


「……主! 下だ!」


「え……?」


 ルアに言われるがままに俺が、下を見てみる。すると、そこには――!


「……!?」


 なんだ……これは……。さっきまで何もなかったはずの地面にいつの間にか謎の穴が出来ている。……この紫色の穴は、一体……? 何処に繋がっているのかも何もかも謎で……穴の中には謎の空間が広がっているようだった。


 すると、その時だった。俺が見ていた穴の中から1人の男の声が聞こえてきた。


「……なるほど。気づいてしまいましたか……」


「なんだと!?」


 俺は、すぐに穴の傍から離れると、次の瞬間穴の中から1人の男が姿を現した――。


「……お前は!」


 俺が、そう言うとその男は、メガネをクイっと上げてからクールな笑みを浮かべて告げた。


「……初めまして。私は、クリストロフ王国第二皇子のクルルトリス。貴方を捕獲するようにと国王陛下から命令を受けて参上いたしました」


「クルルトリス……?」


 俺が、そう尋ねると奴は、またもメガネをクイっと上げて告げた。


「……ええ。そうです。ジャンゴさん? ですよね? 貴方を捕まえよと国王に言われて来ております。私もあまり手荒な真似はしたくないので、どうか静かにお引き取られて下さいませんか?」


「そう言われて……はいそうですかって、普通はならねぇよ……」



「そうですか……。でしたら、死ぬ覚悟だけはしておいてください。完全に始末します!」


「何……!?」


 そう言うと、直後にクルルトリスは、再び謎の空間の広がる穴の中へと入っていってしまい、その姿を消した。


 ――ルリィ……サレサ……シーフェ! 今、お前達を助けてやる! 待ってろ!


 俺は、そう言うと手に持った銃を握りしめた――!


 

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