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2話(2) 「激闘!男子寮の洗礼」



 演習開始のブザーがなり、戦闘フィールドが生成された。開幕一番、眞央は結界を展開した。


「味方チームは出入り自由の条件結界。やばかったら逃げ込んで来いよ!」

「了解」

「はい!」


 柴は櫛方を視界に捉えて先制攻撃を仕掛けた。しかし朝倉によってすぐに妨害された。朝倉はスノーボードのような魔道具を操り晶彦の横にぴったりと張り付くように動き回る。


「おっとー、オレの横を素通りできると思うなよ」


(流石に速いな)


 晶彦は近寄る朝倉の胴に向かって刀を横払いするも、スノーボード型の魔道具から鋭い風魔法が噴出し攻撃を去なされた。


「!」


 晶彦はすかさず宙返りをして風魔法を避けた。


(風属性の攻撃魔法……空中戦に持ち込まれると厳しいか)


 観戦席側のみなるは驚いた表情で朝倉の様子を見ている。


「見たことない魔道具に攻撃型の風魔法……朝倉先輩の戦闘スタイルかなり路線変更されちゃってる」

「さっきみなるくんが言ってた、魔法使い名鑑の内容から変わってそうだね」

「うん。うわぁー良かれと思って言ったけど余計な情報だったかも」

「気にしすぎだよ、なんてたって1年生チームにはランキング1位の晶彦くんがいるでしょ、それに眞央くんの結界もあるし。入試の時の秘くんの魔法も超凄かったし大丈夫、大丈夫」

「そうだよね、信じてあげなきゃね。入試はどんな事したの?」

「ほぼ能力テストと同じような感じだったよ。試験時間はもっと長かったけど、秘くんあんな大人しそうな顔してるけど結構エグい攻撃するんだよね」

「えー想像つかないな」

「今日観れるだろうから、お楽しみだね」


 バトルフィールドでは晶彦が縦横無尽に走り回り、朝倉の攻撃を避けつつ櫛方、黛の動きを観察していた。


(薙人は次の能力アップに備えて魔力を練っている。黛先輩は何をしているんだ)


 地面に両手をつけている黛の姿は確認ができた。


「よそ見すんなよ!」

「チッ……」


(朝倉先輩を片付けたいところだが、すばしっこくて攻撃を避けられる。どう動きを封じる)


「天野!黛先輩が何か仕掛けてくるから備えろ。悪いがこっちは朝倉先輩で手一杯だ。探知系の相手の仕方はわかってるな」

「あぁ!お陰様で」


(柴と対戦した時みたいに、結界を重ねて張れば対応はできるはず……でも、あれ結構魔力消費するんだよな。タイミングを見て使わないと)


 櫛方の杖から能力アップ魔法が朝倉と黛にかけられる。


(観月がどれくらい戦えるのか未知数だが、薙人を野放しにすると後々厄介だ)


「観月、遠距離魔法行けるか?」

「はい、30m程度なら」

「後方で支援魔法を打ってる薙人の妨害を頼む、出来るだけ天野から離れずにやってくれ。俺は朝倉先輩を潰しに行く」

「わかりました」


 わかりました。と言い終わる前に秘が持つガラス細工のような長い杖から水魔法が猛スピードで噴射した。例えるなら消防車のホースから噴出する水のような鋭い水流だ。


 とてつもない勢いの水流に、朝倉と櫛方は一瞬怯んだ。しかし、薙人の体に直撃する寸前で地面から土の壁が現れた。


「櫛方、防御は俺に任せて支援魔法に集中!」

「黛先輩ありがとうございます!」


(あの速度の水魔法攻撃に対して瞬時に反応、地魔法で防壁を即時展開。攻撃自体を探知して守るタイプか)


 晶彦が朝倉の攻撃を避けながら黛の魔法を分析していると足元がぐらりと揺れた。


「……!」

「ま、防御だけじゃないんだけどね」


 晶彦の足元から土壁が迫り上がって体勢を崩した。


「隙だらけだぜ!」


 そこに朝倉の風魔法が迫るも間一髪で眞央の結界が晶彦を包む。


「ふぅー、間に合った」

「やるじゃん、一年生」


 朝倉は自身の攻撃を防いだ眞央の方を見てニヤリと笑った。


「あざっす!」


 天野は朝倉の感嘆の声にニヤリと笑って返した。


(天野の結界で直撃は避けたが、地中からは黛先輩の地魔法、空中からは朝倉先輩の風魔法か……そして本来補助型の二人の力を大幅に増幅している薙人。いいバランスだ。それに対してこちら側がどう仕掛けるか……)


 晶彦は眞央と秘がいる結界に移動した。


「このままじゃ防戦になるけど、どうする?」

「お前の言う通りだな」

「観月さんが結界の内側から固定砲台で攻めても黛先輩に妨害されるし、朝倉先輩相手だとお前の得意な近接はあんま効かないだろうし」

「あぁどう動くにも先輩たちに隙がない」

「櫛方先輩の能力アップを何処かで止めないと先輩チームは強くなり続けますから、早めに手を打ちたいところですね」


 その時三人の足元が大きく揺れた。


「!?」

「結界張ってるのに!?マジかよ!」


 結界の範囲よりも一回り大きく足場が隆起して天井に向かって昇っていく。


「うわああああ!!」

「こうすれば結界があっても意味はないよね」


 眞央は慌てて結界の強度を上げる。天井と地面が近づくのを結界でギリギリ抑えている。


「うぉおお!危うくサンドイッチになるところだった!!」

「お前の結界便利だな」

「すごいですね、天野くん」

「お前ら他人事みたいに、俺今めちゃめちゃ必死だからね!」


 黛は1年生たちがいる上空を見て楽しそうに笑った。


「さーて、どれくらい耐えられるかな?」

「クッ俺たち完全に遊ばれてるぞ!」

「このまま天野の魔力切れを狙うつもりか」

「耐えろって言われたら頑張って耐えるけどさぁ、なんとかしてくれよ!」

「天野くんちょっと背中に触ります」

「え?いいけど」


 秘は眞央の背中にそっと触れる。ガラスのような杖が淡く光る。


「お、なんかあったかい。なにこれ」

「私の魔力を少し分けました」

「そんなことできるの!?」

「はい」

「器用だな、水属性と火属性の攻撃。味方の魔力回復。……他にまだできることはあるか?」

「あとは、吸い取った魔力で……式神を作れますが実戦向きではないと思います。一応攻撃魔法には浄化作用があります」

「観月さん何者なの!?妖精には選ばれてないんだよね」

「実家がちょっと特殊なんです」

「ほわぁ、イギリスには先祖代々魔女の家系があるって聞いたけど、日本にもそう言う特殊な一族とかあったり」


 眞央が言いかけた時、突然足元の土がボロボロと崩れ三人は急降下した。


「!!」


 眞央は地面近くの空中に結界を展開した。


「観月さん!あれに水貯めて!!」

「ッはい!」


 眞央が作った結界の内側に秘が即座に水を生成した。水風船のようになった結界の中に3人は飛び込んだ。眞央が結界を解いて水が溢れ出して3人は流れるように着地した。結界が解けた一瞬の隙を見て朝倉の風魔法が襲いかかる。

 しかし、晶彦は咄嗟に周囲に散乱した水を使って氷の壁を生成し突風を防いだ。


「おー、すげぇ。柴、お前攻撃しか出来ないのかと思ってた」

「大量の水があればこう言うこともできる」


 眞央は再び結界を生成した。今度は多層結界に加えて潜伏の効果を加えた。


「これで相手もしばらくは俺たちを探知できないはずだから、少し移動しながら作戦会議だ」

「法力……じゃなくて火属性魔法で濡れた服を乾かしますけど、いいですか」

「あぁ頼む」

「ずぶ濡れじゃ動きずらいしな」


 一瞬周囲が熱くなったと思ったら蒸気がぶわっと吹き出すように服の水分が蒸発した。


「うぉー、乾燥機いらずじゃん」

「滝行の後はこうするんです」

「滝行!?ますます観月さんの実家が気になるな」

「雑談は寮に戻ってからだ、先輩たちの各個撃破は正直厳しい。全員一気にまとめて倒したい。天野の結界で朝倉先輩を捕まえられるか?」

「いや、あの素早さじゃ捕獲は厳しいって」

「天野くんは同時に結界を生成できる数に限度ってあるんですか?」

「それは魔力次第だけど、条件が複雑だったり大きい結界は何個も作れないよ」

「……柴くんに無茶を頼むことになりますけど、こう言うのはどうですか?」


 観戦席側のみなると湧治郎は姿が見えなくなった3人を心配していた。


「見えなくなっちゃった」

「櫛方先輩が支援魔法飛ばしまくってるから時間が経つほど不利になるねぇ」

「お風呂の時間は諦めるしかないのかなぁ」

「オレ早寝早起き体質だから3人には勝ってもらいたいんだけど、流石に先輩相手は厳しいか」

「今は応援するしかボクたちにはできないからね、最後まで応援しよう!みんな頑張って!」

「頑張れ!新入生チーム!」


 その声が届いたかのように、なにもない場所から突然晶彦が姿を現した。至る所が隆起して不安定になった足場をパルクールの動きで飛び跳ねるように移動している。晶彦の体の周囲にはペンデュラム型の青い結晶が生成されている。


 朝倉は姿を現した晶彦に近づき風魔法で攻撃を仕掛ける。晶彦はその攻撃を避けて青い結晶をマシンガンのように飛ばした。


「そんな小さい粒じゃこっちまでは届かないぜ!」


 朝倉の風魔法で結晶は弾き飛ばされるが、その結晶は朝倉を追尾して飛んでいく。


「なっ、くそっ当たらねえってのに」


 風魔法で何度吹き飛ばしてもしつこく追尾する結晶の弾丸にイラついた様子の朝倉。晶彦はその隙に結晶の弾丸を櫛方と黛に向けて飛ばす。


「こんな小さな結晶当たったところで決定的なダメージにはなり得ない攻撃だね」


 黛は自身と櫛方に向かってくる結晶を土の壁で何度も防ぐ。


「あの晶彦がこんなチマチマと小賢しい攻撃をしてくるのは何か裏があるはずです」

「櫛方先輩、大正解!」


 眞央の声がどこからともなく聞こえたその瞬間。上級生組の体が突然視界から消失した。


「今だ!柴!!やってやれー!」


 晶彦が飛ばしていた結晶の弾丸が空中の一見なにもないところで静止した直後、結界が解かれ水牢に閉じ込められた上級生組が現れたそしてその水は地面に落ちる前に一瞬にして凍りついた。宙に浮いていた朝倉も氷漬けになってゴトリと音をたて落下した。


 演習場は静まり返った。


「…………うん、動けそうにないね、よし演習終了。新入生チームの勝利!」


 葦原が一呼吸おいて、叫んだ。


「おぉ、おぉおおお勝った!!」

「やりましたね!」

「いい作戦だった」


 晶彦が揺動をし、眞央がその隙に上級生の周囲に結界を張って秘がその結界の中を水で満たして最後に水牢ごと上級生を凍らせる連携プレーが上手く決まった末の勝利だ。


 バトルフィールドにいた全員を緑色の光が包み込み、氷漬けの上級生たちも動き始めた。


「オレたち、もしかして負けた?」

「その通り上級生組の負け。頑張ったね、面白い試合だったよ」


 きょとんとした様子の朝倉。葦原は上級生たちに労いの声をかけた。


「うわああ悔しい!マジかよ!」


 朝倉は頭を抱えて叫んだ、その彼の背中をポンポンと叩きながら黛は宥めた。


「まぁまぁこう言うこともあるさ。期待の新入生が入ってきて俺たちもうかうかしていられないね」

「…………そんな、負けた。僕は、晶彦にどうやっても勝てないのか」

「櫛方も落ち込むなよ、今回は俺たち上級生の負け。鍛錬あるのみ!次頑張ろう」

「はーい、みんなこっちに集まって」


 寮生たちは全員寮長の前に集合した。


「みんなお疲れ様。新入生チームの勝利というわけでお風呂の時間は貸切制はなしってことで。お風呂場で時間が被っても喧嘩しないこと。それからマナーを守って綺麗に使うこと、いいね」

「はい」


 全員が寮長の言いつけに返事をした。しかし櫛方は俯き元気がない様子だった。


「まぁ女子寮は人数が多い分お風呂も窮屈らしいけど、僕たち男子寮は人数が少ない分ゆったり使える方だからね。去年までの貸切制は贅沢だったってことで、みんな共同生活は協力し合おうね」

「はい」


 実を言うと魔法士養成学校が創設された当初、妖精たちと国の偉い人たちの話し合いで入学する魔法使いの数は1学年あたり男女合わせて20名〜30名程度と見積もっていた。この計画を進めていた人たちはまさかこんなに男女比に差があるとも知らず男子寮と女子寮を同じ大きさにしていたのだ。そのため少し多めに男子20名、女子20名の合計40名が入学してもいいように寮自体はそれぞれ5学年合わせて100名が入寮できるようになっている。入学者リストが妖精から提出された頃には寮の外観までほぼ完成に近い状態だったので女子寮は急遽増設工事が行われ、男子寮に関しては作ってしまったものはしょうがないのでそのままの計画で進んでしまった。

 大浴場は20名収容できるくらいの大きさで、女子寮の足りない分は後から個室のシャワーを増設したと言う事情だ。このとき計画に携わった日本人のおじさんたちは、妖精はとてつもなくいい加減で、恐ろしく当てにならないのだと思い知ったという。


 女子寮に比べると男子寮は一人が使えるスペースが十分過ぎるほど広いことをわかってもらい、男子寮生達が少しでも納得して協力する心を持ってもらえればと思い寮長はそのようにいったのだ。


「さぁ、じゃあ寮に戻ろうか」


 全員寮に戻り、それぞれ自由に過ごすように言われた。部屋に戻るとダンボールから出されて散らかった状態のままだ。


「……先に風呂入ろうかな。片付けは後でやろう」


 早速着替えと風呂道具を持って大浴場に移動した。


「おー結構綺麗!ロッカーもあるし、なんかちょっと良いホテルの温泉みたい」


 服を脱ぐ前に用を足してからと、眞央は脱衣所にある個室のトイレに入った。


「トイレも綺麗だし、築年数の割にちゃんとしてるなぁ」


 そんなことを呟きながらトイレットペーパーに手をかける。


 カランッ


「へ?」


 手の中にあるトイレットペーパーはたった3cm程度。


「おぉおおお!!嘘だろ!!!替えのペーパー……どこ!?ない!ない!」


 目についた棚に手を伸ばし開けるもトイレットペーパーはそこにはなかった。


 眞央は考える人のポーズで俯いた。


(なんてこった……なぜ俺は今ラッキーアイテムを持っていないんだ!!ていうか使うなら絶対今だろ!)


「ていうか前にうんこしたやつトイレットペーパー交換しとけよぉおお!!クソがー!!もう終わりだー!!うわぁああ誰かー!助けてくれー!!ヘルプミー!!!」


 入学式の夜、脱衣所のトイレの中から聞こえたのは哀愁漂う男の叫びだった。

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