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制約の言語回路  作者: 府雨
慶宮市重山大学篇
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二百十四章《新入生》

「制約の言語回路」二百十四章《新入生》


 人が多い。暑い。


 くらくらするほどの人いきれに、天高く聳える高層ビル。


 大学の寮で同部屋になった女の子は、飛海-Fēihǎi-と言った。


 慶宮市の出身だという彼女は、私服が適当で化粧っ気もなくやぼったい。髪の手入れも適当で、ため息が出る。


 逆に飛海の方は、とんでもない美人を見たとばかりの浮かれ様だった。


「写真撮っていい、友達に自慢したいの」


 飛海は表情に抑揚のない姫離の写真を撮って、拡散した。


 地元の子ということを、姫離は失念していた。その日から友達が倍々に増えていった。


 後輩も先輩も姫離を見に来て、チャットアプリのアカウントを交換していく。何人かに交際を申し込まれたが、とりあえず保留した。


「飛海」


「ごめん。だって姫離みたいな可愛い女の子見たことがなかったんだもん」


「違う、飛海」


「違くない。とっても可愛くて」


「そうじゃなくて」


「?? なに?」


「飛海も、結構美人だと思うけど」


「私が? ないないない」


「二重で、肌が白くて、それに友達が多いし」


「姫離みたいなおしゃれな人見たことないよ。どこから来たんだっけ?」


「島国の第一都市」


「海城市みたいな場所でしょ? ここぁ慶宮市。人だけはたくさんいる山の重なり。だから慶宮市《重山》大学なんだよ。昔は抗日戦線もここで戦った。っとごめん」


「今は島国だから。日本ではない。綺麗な町だね」


「蒸し暑いでしょ?」


「そうね。ねえ、いつもどこで髪切ってるの?」


「? 適当に自分で。お金ないの」


「一緒に髪切りに行かない? 付き合ってもらえる分お金は私が持つから」


「散髪に? 私を連れて?」


「そう。まだこの辺のこと知らないし。とりあえずマップで美容室探すからついてきて。あと《散髪》って言わないで」


「? わかった」


***


 髪を切った後、町の食堂に行った。


 四川料理だった。極めて麻辣で、香辛料の香りは大陸というより東南アジア的だった。三藩の乱が東南アジアへの交通の要衝で起きたというのも、全くうなずける。


「美味しい」


「この辺の食堂は安くてね。中学の時のお小遣いでもなんとか入れるの。これが私の背伸びなんだけど、きっと姫離は、ずっと贅沢なんだよね? さっきの床屋さんもすごく高級そうで」


「床屋って言わないで」


「? ごめん」


「飛海。そのショートボブ、似合ってるよ」


「そう? ところで姫離、切ったの? あんま変わってないように見えるけど」


 やれやれこれだから素人は。という表情で、首を振る姫離。前髪や襟足だけでなく、トリートメントもしている。正直飛海のカット代を出すくらいどうってことのない額を、自分の髪に使っている。


「なんで北城市とか海城市に行かなかったの?」


「慶宮市に興味があったから。それに、都市には十分相手してもらったし」


「都市に相手してもらう? 都会っ子ってこと?」


「でも思った。慶宮市ってすごく都会よね」


「お金持ち?」


「まあ割とね。私費留学だし、学部四年間だし」


「お金持ちの友達はみんな、都会に行っちゃうの。寂しかったなぁ。友情を交わしても、実利を優先して」


「飛海は? 慶宮市を出ようとは思わなかったの?」


「大学に行かない友達もたくさんいたし、友情は永遠だから。それに、姫離には劣ると思うけど、重山大学は、私の中では一応名門だよ。頑張ったんだから」


「外国語はぜひ島国の言葉を。目の前にネイティブがいます」


「確かに! 授業取ってみるね」


***


 授業で別々になるほかは、ほとんど飛海と一緒だった。垢抜けない男友達と一緒になると、同じ質問をされる。どこ出身で、何歳で、学部は? なんでそんなに綺麗な大陸語を話すの?


「まるでアナウンサーみたいな綺麗な大陸語でしょ? 姫離は島国の天才なの!」


 飛海は誇らしげに姫離を紹介する。


「島国に彼氏はいるの?」


 その質問に間を置いた。


「いない」


 そう答えたけど、周囲の男友達は肩を落とした。


「どんなタイプが好き?」


「さあ。高校生の時付き合っていた男の子は、背が高くて無口だった」


「写真とかないの?」


 あんまり撮っていなかったなと思って、ライブラリを探る。


 タピオカを吸っている写真があってそれを見せた。


「王子様じゃん」


「うわぁイケメンだ」


「高校の同級生?」


「でも、受験があるから別れた」


 姫離の言葉に一同はため息を漏らした。


「彼氏と同じ大学に行きたいとかなかったの?」


「別になかった。好きだったけど、似たもの同士の落ちこぼれだったから」


「島国に帰っても会わない?」


「意識しすぎ」


「だってさぁ」


 場はことごとく盛り上がり、恋愛を抑制された大陸の新入生たちは、その場で目線を合わせて仲を深めていく。場の中心にいる姫離は話題を提供するも、目を伏せがちだった。楽しんでいないわけではなかったけれど、新入生の浮かれ方を少しシニカルに見ていた。

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