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制約の言語回路  作者: 府雨
双子篇
197/205

百九十七章《机器人》

「制約の言語回路」百九十七章《机器人》


 島国太平洋側の常陸への上陸作戦は、大陸軍太平洋方面守備大隊長の銀楽と空母「重慶」艦長の火敬によって立案された。二人はどちらも大佐である。


 太平洋側へ均等に展開された大陸海軍の艦艇は、もちろん島国によって感知されていた。ただそれが生んだ緊張が、大陸側が用意した陽動作戦だった。


 常陸海岸に展開した偽装された揚陸艇には、机器人が詰め込まれていた。


 歴史的にも滅多に見ないロボットによる殺戮を立案したのは、陸軍少佐の籍英。


 多面的に太平洋展開された大陸海軍艇に対応するため、島国の軍艇も分散していたが、空母から発進した空挺の、奇妙な動きの真意に気づいた時には、すでに波状的に常陸の海岸が焼かれ、もちろん多くの両空軍の犠牲の上に、机器人は上陸した。


 島国はすぐに千波山周辺に防衛戦を敷いた。


 陸島間海からと見られていた戦端は、常陸上陸と千波山攻防戦から切られることになった。


 空軍の増援がないままでも、机器人は機能的に連携し、体系的な作戦を遂行した。


 およそ千体のロボット。疲れることのない行軍。切れることのない集中力。


 上陸を許した島国は、陸軍を千波山に派遣して、長い戦いに入ることになった。


***


 陸軍の最前線で、島国の部隊を仕切ったのは凛咲だった。瞬足の刀使いも、ロボットを斬ると、一体で一つ刀をダメにする。


「次ぃ」


 凛咲の動きは銃弾より速い。そういう呪いなのだ。


 机器人は、少しずつ前進して島国の領土を奪っていく。


 常陸海岸の一部は、もう大陸に掌握されて、基地が作られていた。


 大陸の海軍は常陸沖に集結し、大きな制空制海圏を作る。


 島国の海軍は、広がった敵空母とイージス艦の牽制で、常陸沖にはほとんど参じられなかった。


 島国の陸軍の基地からは、常陸の敵基地に向けて数多くのミサイルが発射された。


 大陸側は守るべきところだけ的確に守り、他は全て無視した。ここまでは、大陸軍のシナリオ通りだった。


 机器人の戦力は大陸軍の想像と同じくらい戦果を上げた。


 極めて有能な島国の軍人の何倍もの機動性を持つのだから、当たり前だった。


 ただその戦局は一夜にして逆転する。


***


「へえ、面白いね。電子的な操作かと思ったら、全体の指揮は、人間がやってるみたいだよ?」


「みたいやなぁ、緑鳴はん」


「確かに、電子的な操作だとあれほど滑らかに作戦行動はできないか。凛咲さんみたいな人が、バグを作り出すから、それの対処は必要だよね」


「なんて方やろなぁ。うちらの世代の異能って感じやね」


「そのくちぶりだと、凛咲さんの異能すら、もう古い?」


「うちらは精神の生み出すものではなく、精神そのものを学究してますしね。凛咲さんの異能は、なんならうちらによって解体された。そうじゃないですか?」


 緑鳴みどりめい緋綬ひじゅは、タバコをふかしながら陣中に入った。


「凛咲さんは?」


「暗中で戦えるのあの人しかおらんで」


「島国はいつも属人的なことで。組織としての弾力性が皆無やなぁ」


 緋綬は冷ややかに笑いながら作戦本部に入る。


 千波山の中腹。


「道綾さんが向こうの異能を抑えていてくれて、良かったということですかねえ?」


「上陸されたのは陸軍の失態だとでも言いたいのか?」


「賀王さんはそう思われてるんですかぁ? うちはそんなこととてもやないですけどいいまへん」


 賀王と呼ばれた少将は、しかし緑鳴と緋綬を呼んだということで殊勲ものだった。値千金であり、戦局に対する深い洞察があった。


「大陸側のあのロボットのまとまりについて、何かわかったのか?」


「軍人さんには言いたくありまへん。うちの緑がいいように使われるのは、本意ではないんですよね」


「今回だけでいい。言情研はこういう時のためにいるんだろ? 存在意義に関わる。役割を果たせ」


「説明しても、わかりゃしないでしょ?」


「だが、ロボットが相手だ。緋綬、お前が適任だと、私は知っている」


「北方方面軍が成果をかっさらう前に、少将の方でという……」


「くっちゃべるな。働け」


***


 少将付きの情報士官の天妓あまき少尉が、分析を伝える。


「ロボットの動きの癖と言いますか、向いている『方向』的な? まあその癖のパターンを分析したところ、角度的には常陸の『基地』にいるわけじゃないということがわかります。『そこ』がイージス艦『瀋陽』であることは、すでに判明しています。で、電磁的な妨害をしてもあのロボットが機能停止しなかったことから、私たちはあれを『精神的電脳通信の異能』と断定しました。お呼びした理由がおわかりですか?」


「あまりよくわかりませんけど、なんかうちらにやらせたいんでしょうか」


 緋綬は隣にいた緑鳴に聞いた。


「異能の使い手の『名前』はわかっているの?」


「界隈では有名ですよ。雷礼。まぁ私的には、たいしたことないやつだと思いますけどね」

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