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制約の言語回路  作者: 府雨
双子篇
190/213

百九十章《顛倒》

「制約の言語回路」百九十章《顛倒》


 今、何時だ?


 ほのかが目覚ましをかけた時間よりずっと前。深夜二時。


 鍵付き匿名情報サイト「那所大学」の話を綺麗としたのは、今日だったか、昨日だったか。


 そんなところに、アクセス権を持っているというのだから、綺麗とて綺麗なだけの存在ではない。


 アカウントの名前は「喜泪-Xilei-」。読む人が読めば、綺麗だとわかりそうなものだ。と思って自分が島国の人間だということに気づく。最近はそんなことばかりで嫌になる。嫌に? 実はそれを楽しんでいる。それは「嫌になるね」とニヤリと笑うポーズを取る余裕なのかもしれない。


 外に出てタクシーに乗り、二十四時間開いている本屋に向かう。


 先日出た給料で二冊ほど買った。


 そのまま本屋の椅子に座って読んでいると夜が明けたので、化粧も適当に出勤する。


「なんかあった?」


 綺麗が声をかけてくる。


「夜更かしです。書店に行ってました」


「ああ、清華書店?」


「そうです。久しぶりに行きました」


「化粧、薄いのも可愛くていいね」


「皮膚が萎れてますよ」

 

***


 匿名情報サイト「那所大学」に入るのは、かなり大変。もちろん情報部で入れるのは綺麗だけ。綺麗はそのことをあまり言いふらしてはいないみたいで、ほのかにその話をしたのは、信頼からというよりむしろほのかが本質的に部外者だからだろう。


 昔からあるダークウェブだけれど、当局の監視を免れている。


「綺麗さんは、どうやって?」


「んー、私結構泥っぽいんだよね。私の頃が黎明期で、立ち上げの時にサクッと一部屋もらったの」


「へえ。すごいですね」


「故南のパスポート作ってもらったりとかね」


「え?」


「内緒だよ。戦間期にどうしても島国のゲームが買いたくて」


「??? なんかよくわからないですね」


「ところで、那所大学で、結構面白いことが書いてあってさ」


「はい」


「自治区の独立に、島国の諜報部が関わっているっていう」


「あ、あ。それ」


「知ってるの?」


「係は違いますけど、その工作を島国がやっていることは、何となく知っています。ただ、詳しくはあまり。私、新米でしたから」


「島国のダークウェブとのやりとりで、そんなことがわかったみたいだけど。ほのかは企業への工作活動だったけど、少数民族への島国からの支援は、実に地政学的よね」


「そうですね。大陸の内陸部と島国ではさみ撃ちにできる。昔、大月氏に張騫を遣わした顰にならうといったところでしょうか」


「金銭的な支援が主みたいね。資金の流れは掴めなかったけど」


「突然武器を蓄え始めた感じですか?」


「まだわからない。でも、島国の流儀には反するんじゃない? いい子でしょ? 優等生なのに」


「それだけ大陸が脅威なんですよ」


***


 有形無形の支援がなされているのは、衛星からも確認できた。武器庫と見られる施設に、トラックが何かを搬入している。軍部は、即座の立ち入りに踏み切ったが、綺麗はそれを少し早計だと感じた。


 島国が関与している証拠を集めてから、捜索に入りたかった。


 結果的に、島国は尻尾を出すことなく撤退し、少数民族への弾圧は、強度を増した。


「大陸の少数民族への政策は、とても合理的ですね」


 綺麗にほのかは皮肉った。


「私はあまり好きじゃないけど、ほのかにはどう見えてるの?」


「いえ、多数派が少数派を軽視するのは、島国も一緒ですから」


「多数派と少数派」


 ほのかはうなずいた。


「多数派は、自分が少数派になることを考えていない。多数派であることを批判された時にいつも、自分が多数派であることだけを根拠に、自己を正当化します」


「ほー、なるほどね」


「私には、国家への帰属意識を発露する場はもうないですけど」


「けど?」


「国家主義は、必ず周縁の人を傍に追いやる」


「国家主義は当たり前だと思わない?」


「陸島のハーフは?」


「そうよね。ほのかは、島国のメインストリームなのに、珍しいのね」


 ほのかは、少し考えて、言葉を選んだ。


「国を裏切るという概念がないんですよ。国とは結局、言語でしかないから。言語を共有している人が、国を構成しています。ところで私は大陸語が使えますが」


「なるほど。ほのかは純粋な意味で、二つの国で生活している。国籍を意識することは?」


「綺麗さんは? 名前とかで邪推されません?」


 綺麗は、鼻を膨らませると、にっこり笑った。


「大陸人はね、寛容なんだよ。島国の人とは少し違うの。戸籍制度は旧弊なのに、かなりフレキシブルなんだよね」


「バカは?」


「バカはいる。でも、島国のバカは自分のことをバカと思っていないけど、大陸のバカは自分がバカであることはわかっている。大陸の教育制度は残酷だからね」


「島国のバカは自分のことをバカと思っていない。そうかもしれませんね」


「私からすればほのかはバカだよ」


「へ?」


「頭がいいと自分で思ってるけど、よっぽどバカだよ」


「そう、かも、しれません」

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