表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
制約の言語回路  作者: 府雨
双子篇
185/215

百八十五章《ほのか》

「制約の言語回路」百八十五章ほのか


 ほのかからの連絡が途絶えて、ほとりは即座に出国した。手元にある重要文書は破棄して、電子データの所在は、口頭で確認した手順に則って、島国のインテリジェンスに回した。


 ほのかとほとりは適宜入れ替わる。だから、ほのかが捕まったのは、運が悪かったということ以外の何でもない。


 トラブルを起こしたわけじゃなかったから、おそらく手練がいたのだろう。


「よかった。これで私が、世界で一番可愛い。はず」


***


 ほのかは、公安のハイシオン内で錠をかけられた。万が一にも逃れることはできない。


「島国のどこ生まれ?」


「第一都市ですよ」


「大陸語は?」


「私、ラジオマニアなんです。ずっと大陸中央電台と城市广播ばかり聞いていました」


「それでこんなに流麗に喋るのね」


「恐縮です」


「大学は?」


「第一学府、大陸政治が専門です」


「ご家族は?」


「ご存知の通り双子の姉がいます。両親は戦争で死にました」


「恨んでるの?」


「まさか。大陸語は興味以上のものです。ただそこに感情があるわけではないですけど」


「興味以上?」


「敵を知り味方を知らば、百戦危うからず」


「その通りね」


「綺麗さんは、大陸人ですか?」


「日系のね」


「私、どこでミスりましたかね」


「北城方言、上手だけど鼻母音は、少し作ってる感じがした」


「あー、あー、もう。それ苦手なところーッ。はあ、練習不足か」


「他が完璧なだけにね。アル化する単語は全部覚えてるでしょ?」


「ええ、まぁ」


 ほのかはがっくしと肩を落とす。


「ちなみに西城区第六はね、あるよ」


「んんんんんー!!! やっぱり。絶対大丈夫だと思ったのに、なんでだって。かまかけられてたの!? 当たり障りない質問ばかりだから、なんか変だなと思ってた。争うのも、なんか変だし。悔しいですね」


 ほのかは笑った。


 ハイシオンは大陸官僚機構の情報部の宿舎につけた。

 星声は警戒を怠らず、ゆっくりとほのかを車外へ降ろすと、待っていた情報部局員に明け渡した。


「綺麗さん。私はこれで」


 星声が言った。


「夜遅くにごめんね」


 綺麗は車のキーを渡した。


***


「端末のパスコード教えて」


「413422」


「ありがと。画数? ほのかほとり」


「はぃ」


 ほのかはしょんぼりしている。


「雅舟、彼女部屋に入れたら、お茶淹れてあげて」


「了解。姐さん、少し寝たら?」


「なんのために宿舎につけたと思ってるの? 寝るためでしょぉ? あとよろしく。可愛いからって手をつけないように! 彼女ほとんどサークルクラッシャーなんだから」


「姐さんの方が美人すよ」


「ありがと。じゃおやすみ」


***


「眠る前に、少し話を聞いても?」


「ええ」


「カフェインは必要?」


「できればマグに入れて欲しいけど」


「残念ながら紙コップだよ。カバンは悪いけど預からせてもらう。いいね?」


「構いません」


「しかし、実に綺麗な大陸語だね」


「島国の人間は、凝るんですよ」


 スマホの中を見ながら、雅舟はほのかに質問していった。


「結構たくさんの人とやり取りがあるね」


「それだけ、大陸人が美人好きということでしょうか」


「自分で言う?」


「雅舟さん、一ついいことを教えて差し上げます。美人であることと、島国の人間であることは、生きる上で非常に楽。誰もその存在に疑問を抱かない。そして自分も、決して自分のアイデンティティを疑いません。大陸人が、自分の持ち物に外部性を見出さないのと同じで、島国の人間にとって自己は、内在も外在もしない、単なる空間なんです」


「無ってこと?」


「煎じ切らないということです。哲学の場において、論理を突き詰めることは、存在を確定させることです。そうですよね? でも私たちは違います。考えを宙ぶらりんにすることができる。結論を出さないことができる。それは結論を出すことが、そもそも不可能な局面において、重要な姿勢になる」


「たとえば?」


「島国の人間の愛国心の薄さは、その卓越した穏健さと密接に結びついています。私も、別に愛国者ではない」


「国を好きになれない人間が、人を好きになれるのか?」


「本当に好きになったことがある人は、その答えを知っているはずです。好きという『行為』は、そんなに浅はかじゃないですよ」


「色仕掛けのスパイに言われてもな」


「そりゃごもっともです」


 話しながら、端末の情報を吸い上げる。


 雅舟はほとりについて質問する。


「役割があるの?」


「いえ、二人二役です。事務も実務も二人二役」


「なんで?」


「いつでも入れ替われるように」


「今、ほとりは何をやっている?」


「もう帰国の途です。早々に撤退」


「どうやればコンタクトできる?」


「手錠を外してください」


「それはできない。姐さんに怒られる。何を企図している? 島国は何を考えている?」


「私のような末端が知ることはありません。何歳だと思ってます? まだ新人ですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ