百八十三章《応援》
「制約の言語回路」百八十三章《応援》
「今週末に迫った受験について、私から言うことは特にありません。他の人のことは考えず、自分のことだけに集中すれば、おそらく結果はどうであれ、納得できるはずです。では、頑張ってください。応援しています」
美衛は自嘲した。言い方が、母親にそっくりだと思ったからだ。熱く生徒の勇気を鼓舞する先生もいる。
美衛は真逆だった。でも、内心ではドキドキしていた。生徒は、海城市、重川市、北城市、浙京市他、全国の大学を志望した。
高考の時期がやってきた。
「一緒に頑張ろう-一起加油-」
そう言って、図書館組は最後の勉強会を終えた。
美衛は酒を呑み、昂る気持ちを抑えて、眠りについた。自分が受験するよりずっと緊張する。
***
受験の日は雨だった。受験会場で生徒の応援に立っていると、生徒は手を振って、でも立ち止まらなかった。
美衛は嬉しかった。誰も、弱気ではなかった。
「美衛先生!」
と言って、笑顔を見せる。
「頑張って-加油-」
第七は、どこか中途半端なところがあった。ナンバースクールではあるものの、際立った特別さを備えているわけではない。城市大には第四と第二の閥はあるものの、第七にはそれがなかった。
そのことが第七生はどこか悔しく、自分に力がないものだと思ってしまう原因でもあった。
図書館での勉強会はそれを変えた。わかりやすかったのだ。美衛がやった勉強に並走すれば、少なくとも勉強時間は、城市大に受かった人と同じだけできる。
それを可視化したのは、美衛の功と言えるだろう。
最後には美衛との図書館勉強耐久戦で勝つ者も現れた。それが、美衛は嬉しかった。
***
結果的には、放心している子も泣いている子もいた。
その一人一人に、声をかけてあげることはできなかった。北城っ子は、よく泣くと言われるけど、本当にそうだ。雨情で泣いている子を見たことない。でもそれが、美衛の涙を誘った。
再受験を決めた子に、美衛からかけてあげられる言葉はなかった。
「先生ありがとう」
第一志望に受からなかった子ほど、一生懸命頑張っていた印象で、それは単純に彼らの志望校が最上位に位置していたからだった。
「先生ありがとう」
何も言うことはできない。美衛は結果を残せなかった。受かった子ももちろんいた。でも美衛のクラスで600点を超えたのは、わずかに四人だった。勉強することは教えたけど、勉強のやり方は教えなかった。
「先生ありがとう」
美衛の生徒は、ノートを捨てなかった。たとえ書き散らかした文字が流れているノートでも、思い出のこもった大切なものだった。
美衛の初陣は、苦い敗北だった。
***
通り抜けていく。くぐり抜けていく。手応えだけが手元に残る。それも循環し、薄れ、やがて消えていく。
北城市第七に来る生徒は、いつもどこか自信がなく、どこか孤独だった。
「もし、今日塾に行く日じゃなくて、ゲームをやろうと思っているなら、私と図書館で勉強しない?」
美衛の表情も、初めて担任する生徒たちには、自信がなさそうに見えただろう。でもそれは、偽りのない本心を反映した表情だった。
美衛は不安そうに生徒を見つめ、生徒も不安そうに美衛を見つめた。
「親の期待を背負い、なんとかして上昇気流を掴もうとする。大成功とまでは言えないこの学校で。友達と一緒に、大きなイニシエーションを迎える。親との関係から孤独を感じるかもしれない。親はあなたを愛しているけれど、孤独は常につきまとうかもしれない。たぶん、ここでは、誰かが助けてくれることを待つのは、効率が悪いと思う。自分で自分のことを理解して、一度か二度不調を経験して、底を打って上昇に転じる。多くの人にとって人生というのはそういうものでしかない。間に合わないかもしれない? 勝てないかもしれない? 人生は十八十九では決まらない。戦いは始まったばかりだし、受験の結果は一つの目安でしかない。私はあなたを応援している」
淡々とまた、図書館に通う。
休みの日も生徒の面倒を見る。
手元にはいつも酸梅湯があった。




