表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第8話 フィリップ

 フィリップの手を掴んで、『行ってください、またお会いしましょう』とフィリップの腕に指で書いた。

「え……文字を知ってるのかい?」

 それに応えるように頷く。

 驚くのには無理はない。ほとんどの罪人は文字が分からないのだから。文字を知っている人は基礎的な教育を受けられている人だけだ。

「そうか……っふ、また会おう」

 フィリップは微笑みかけた後、男集団の元に駆けつけていった。

 ああ、これで完全に一人になった。

「はは……」

 自分が言った『またお会いしましょう』になんだか可笑しくなって笑ってしまった。自分はもう、死ぬ覚悟ができているのに、あんな言葉がでるなんて、それに、あの男も素直にまた会おう、なんて……

「ぐふ」

 少し笑ったせいで、砕かれた顎と傷だらけのお腹が痛んだ。

 とにかく、この場から移動しないと。

 この砂場はとにかく熱い。

 そのため呼吸もしづらい。

 それに体力が余計に奪われてしまう

 早く日陰のある場所にいないと……

 私はロープで縛られている手をうまく使い、立ち上がって、力が入らない足をゆっくりと動かし、森の入り口にある木影に転げ込むように入った。

 はぁ、はぁ、はぁ、やっと着いた。

「ぐふ」

 呼吸が掻っ切るような痛みを喉に与える。

 はぁ、はぁ、ああ、これからどうしようか……

 そんなことを、目を閉じて考えていると声が聞こえてきた。

「っよ!!」

 ん……?

 誰かの声が聞こえてような気が……

 目を開けると、さっき別れた青年が仰向けになっている私の顔を覗き込んでいた。

 えっと……名前はフィリップだったかな? 

 なんでここにいるのだろうか?

「なんだ、その顔は? 『なんでいるの?』みたいな顔してー」

 考えていたことが的中したから驚いた。

 そんな私の顔を見て、男は急に笑いだした。

「ハハハハ! 『またお会いしましょう』って、君から言ってきたんだろ?」

「……」

 ……言ったは言ったけど、戻ってくるとは思いもしなかったよ。

 本当はあれが最後の言葉のつもりだったから。

「あ……」

 フィリップはいきなり、私の手を見て声を発した。

 私の手はなにか変か?

 違和感があるとしたら両手の何本かの指が無くなっているくらいで、変なところは特にない。

「まだ、ロープ解いてなかったんだな」

「?」

 そういえば、フィリップの手首を見ると最初に会った時の縛られていたロープが無い。

「今、ロープを切ってやるよ」

 ポケットから先端が尖がっている白い物を取り出して手を縛っていたロープを切ってくれた。

 なんなんだろう、その白い物は?

 私が不思議そうに白い物を見ていると、

「なんだ? そんなジロジロ見て……ああ、これか? これは人骨だ」

 ええ、人骨? 

「そこらへんにいっぱい落ちていたんだよねー」

 ここら一辺に人骨がたくさん落ちてる……つまり、何かしら人間の肉体が無くなる現象がここにはあるということか…… 

 ……この島には人を食べる獰猛な動物がいると聞いたことはあるが、もしかして、そいつが……

 あまり考えたくはない。

「あ、そうだ。自己紹介が遅れた。俺の名前はフィリップ、よろしく」

 知ってる。さっき罪人の一人があなたの名前を叫んでいたから。

 話すことができない私は仰向けになっているお腹の上に両手を置いて、よろしくの意思表示のため、両手の指を使って『○』を形づくる。

「その返事いいね。ところで、君はなんて名前なんだい?」

「……」

「さっきみたいに、君の名前を指で書いてよ」

 フィリップは手を差し出してきて、言われた通りに私の名前を書いた。

『桐島流朗』

「流朗……」

 大きく目を見開き一言呟いた。

 明らかに態度も

「流朗、動くことはできるか? 歩いたりとか?」

 顔を横に振り、フィリップの腕をとって、伝える。

『動いただけで、体全体が痛い。それに、歩くことも相当にしんどい。体温が四十度を超えた状態で歩いているかんじ。それに、体に力が入らない』

「そうか……」

 フィリップは数秒間か考えた後、

「ここで、待っていてくれ。ここは危険な感じがするから安全な場所を探してくる」

 と言って、森の中に走って入っていった。

 フィリップも監獄で過酷な労働をしたから体にガタがきているはずなのに……

 あんなに一生懸命に走って……

 ありがとう……フィリップ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ