第6話 島流しの刑
「私はあなたに心から感謝していました。この8年という間、私の国の飢餓問題や流行り病、小さな紛争までほとんど解決してくれました。その実績は300年分の報奨を渡しても足りないくらいです」
こっちを見るヴァイル王子の顔は急に残念そうな顔になって、
「その反面、この国に脅威をもたらしました。我らの神、イビル神を侮辱し、イビル教の信徒を三分の一ほど悪の道に誘ったのですから。」
彼が言っているのはこの国の五割が崇拝しているイビル神の信者を三割も脱退させたことを批判しているのである。
この宗教について簡単に話すと、イビルの神がこの国を創り、神の命に従って国を襲う悪人たちを滅ぼした者たちが今の王族の先祖というわけ。
その子孫である英雄をあがめることは素晴らしいこととイビル教ではされている。
そんな宗教を私は過去三年にわたり、二度も逮捕されながらも猛烈に批判し続けた。
なぜ批判したかと言えば、宗教の信念と信仰のためにイビル教でない者は劣化しているから、悪口を平気で言って、不法に金を巻き上げ、あまつさえ暴力事件を起こして人を殺すなど分断を引き起こす考えがいくつもあったからだ。
今回、私が国家反逆罪として捕らえられたのは、私を消し去りたいと思う輩のせい。
その輩とは、イビル教の司祭および、妄信的に信じている人、その他もろもろ。
彼らは私を監獄に入れれば、信徒が脱退するのを防げるだろうと考えたのであろうが、逆に教会を脱退して私を慕う人々が増えた。
イビル教の高い地位で何も働かない人たちは私を監獄に入れても無駄だと知り、殺害を目論んだ。それが、今、私がここにいる理由。
国家反逆罪と言って、私を捉えたのはただの表向きの理由であって、本音は彼らにとってただ邪魔な存在だから殺したいだけ。
「信者が三分の一減ることによって、信者の献金は減り、教会は少なくなり、王族の献上品も以前と比べ減りました。逆に、減ったお金は国民の治療や教育やらに使われて生活水準が上がってきています。国民の生活水準が良くなるのはとてもいいことだと思います。しかしですね、私たちの伝統と文化を壊すような真似はしてほしくはありません」
「……」
「このままだと桐島流朗先生は国家反逆罪で死刑にされます」
「……」
「しかし、先生のような方を国家反逆罪にして死刑にするのは実に惜しいと考えております。それで提案なのですが、先生を慕う人たちにイビル教を宣伝してくれませんか? そうしましたら、あなたを処刑するのは取りやめるよう図らいましょう」
「できません」
私は即答する。
ヴァイル王子がしばし考えた後、
「では、イビル教の宣伝はしなくていいので、その代わり、批判をこれ以上しないでもらえますか? そうしましたら、処刑はとりやめましょう」
「それもできません」
眉間にシワを寄せるヴァイル王子は、
「そうですか……分かりました。大変、心苦しいですが、先生にはスカンシットに行ってもらいましょう。もちろん、子供たちも一緒に」
スカンシットに……
監獄スカンシットといえば、イビル国最大の監獄。そこの環境は一年で半分以上の死者を出し、三年で九割以上の人が死ぬという最悪の監獄。
大罪を犯せば犯すほど、死亡率が上がると言われている。
大人でも死者が続出するのだから、子供がいけば確実に死ぬ。
そんな所に子供たちを牢獄するなんて……いくらなんでも酷い。
子供たちは関係がない。
罪というなら、私だけに負わせてスカンシットに送ればいい。
しかし、こんなことは口には出せない。
口に出したら、この男は子供たちを人質に私にありとあらゆる要求をするだろう。
ヴァイル王子と話をしていて感じたのは手段を選ばない人、だ。
私を取り込むために隙を見せたら、そこをついてくるだろう。
だから私は、黙っておく。
「先生が私の案に賛同してくれるなら、子供たちの罪も先生の罪ももみ消せるのですが……?」
「……それでもできません」
「それでは、スカンシットに行ってください。もしも、考えが変わればいつでも言ってください、流朗先生。お待ちしていますので」
しかし、3カ月後、思いもよらない刑を科せられた。
島流しの刑だ。
イビル国の島流しの刑は他国と違って、確実に死ぬとされている。つまり、処刑と同じ。
島流しにされた者は十日以内に死ぬと言われている。
その理由は諸説ある。
1.島流しの前に大罪人は過酷な労働をして、死にかけの状態で島に送られるから。
2.川も無く、食べる物がないから、飢餓もしくは枯渇死するから
3.島には化け物のような動物がいて、十日以内にすべて食い尽くすから
4.祟りにあって、この世から消え去る
と、言われている。
最後の祟りというものは一番信じられないが、イビル国で祟りにあった噂話を聞いたことがあった。
どちらにしろ、すべてろくな死に方をしない、ということだ。