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第4話 馬車に乗せろ

「桐島流朗を馬車に乗せろ」

「はい、分かりました」

 窓側にいた部下である兵士二人がやってきて、手をロープで縛られている私の腕を掴んで立たされた。

「おい、お前ら、あのガキ共も馬車に乗せろ」

 他の兵士たちに向かって貴士は言う。

「はい、分かりました」

 二人の兵士に腕を掴まれてる私は貴士に顔を向ける。

「待ってください。なんで、子供たちまで連れていく必要があるんですか!!」

「ふん、お前に話す必要は何もない。さっさとガキ共を馬車に乗せろ」

 私の質問に答えず、兵士たちに指示だす。

 兵士は子供たちに詰め寄る。

 手を掴まれて必死に抵抗する子供たちや、部屋の隅で怯え切っている子供たちの姿があった。

 なんて酷いことを……

 しかし、今の私に何ができる……

 今の状況は私一人でなら切り抜けることは簡単だが、子供たちを守れるかどうか……守ったところで、その後はどうする?

 なんとかして子供たちを助けようと色々と考えていると――

「ちょっと、待ってください!」

 一人の少女が兵士のリーダーに向かって堂々と声を上げた。

 エルダ……

「おやおや、エルダ様。本当にこんな汚らわしい部屋にいらっしゃったのですね」

 この貴士とエルダはどうやら知り合いのようだ。

「みんなに乱暴な真似をして、これはどういうことですか!!!」

 声を荒げて、怒りを露にする彼女。

 そんな姿は一度も見たことがなかった。

「乱暴なんて人聞きの悪いことは言わないでください。これは、国のために働いているのですよ。彼らは国家反逆を企んだのですから」

「桐島先生も塾生たちも国家反逆なんて全く企んでいないです」

「いやいや、この桐島流朗という男が子供たちに、この国は滅びますと言って、国を陥れるような話をここでしていたんじゃないですか? 国王様の制度にケチもつけて。そんな話を聞いていた子供たちも国家反逆の意思があると判断して連れていくまでです」

「そんなふざけた話がどこにあるというのですか!」

「ふざけてはないですが、ここにはあります」

「即刻、国家反逆罪など訳のわからない罪状をつきつけるのは取り消しなさい」

「できないですねー。国家反逆の意思がある者たちですから」

「・・・・・・その理論が正しいのであれば、わたしも聞いていたのですから、わたしも捕まえなければなりませんよ」

「大丈夫ですよ、あなたは国家反逆を企む者どもについて情報を提供した。いわば協力者なんですから」

「何を言っているの? わたしは何も情報を提供した覚えなんてありません。ふざけたことを言わないでください。こんな不平等なこと――」

 エルダは唇をかみしめる。

「――そんなこと許されると思っているのですか? お父様に言いつけますよ」

「どうぞ、言いつけてください。あなたの父君が捕らえろと御命令をくだしたのですから」

 エルダのお父さんが捕らえろと命令した?

 一体、エルダのお父さんはどんな方だというのだ?

 私が調べたところによると、この区の貴族と一緒に過ごしているようだが……

 貴族の中ではそこまで地位が高くはない。

 ここまでのことを、あの貴族ができるとは思えないのだが……

 エルダのことを考えていると、当の本人はこの世の終わりかのように酷く驚いた顔をしていた。

「私のお父様が……」

 エルダはそのまま膝を床につく。

 私にまたがっている貴士は大声を張り上げる。

「早く、桐島流郎とガキたちを馬車に乗せろ!!」

「……」

 私は駆け寄る二人の兵士に立たされる。

「おい、おまえ、早く歩け」

「はい……」

 一人の兵士がそう言って私のお尻を蹴る。

 蹴られた衝動で足をふらつかせながら外に出ると、馬車が何台かあって、街の人たちが何事かと馬車の周りに集まっていた。

『どうして、流朗先生がロープで縛られているんだ?』

『なにが起きたの?』

 私に関する話が周りから聞こえてくる。

『おい、流朗先生に何しやがるんだ、おまえ!!』

 外野の中から声が聞こえてくる。

『そうよ。乱暴をするなー』

「この男、桐島流朗を、国家反逆を企んだ罪で捕らえる!! ガキたちも同罪で捕らえる!!」

『ふざけんなー!!』

『流朗先生も子供たちも何をしたってんだー!!』

「黙れーー!! 黙らんと逮捕するぞ!!」

「そんなもん知ったことかー!!」

「流朗先生を解放しろー!!」

 民衆が兵士たちに対して、いろいろなことを言っていると、貴士がしびれを切らす。

「おまえらも同――」

 貴士が言い終わる前に私は大声で叫ぶ。

「みなさん! 騒ぎを起こさないでください!!」

『流朗先生……』

『『『……』』』

 その場は瞬時に静まる。 

「私は心配いりませんから。子供たちも私に任せてもらえないでしょうか?」

『流朗先生が言うんだったら……』

 この街のみんなと話せるのはこれで最後になるかもしれない。

 ならば、今後、この街で起きるであろう災厄について伝えなければ。

 周りには兵士や貴士などの厄介な人物がいる。

 この人たちが分からないように比喩を使う。

「みなさんに伝えたいことがあります。心によく留めておいてください」

『『『……』』』

「今後は腹をすかせた狼がたくさん出没して、多くの羊を食らうでしょう。狼にばれないように羊は隠れなければなりません。しかし、いずれ真の羊飼いが現れて、狼を追い返すでしょう。その時までどうか賢く、耐え忍び、生きてください。偽の羊飼いには気を付けて。誠を尽くして祈れば何をすればいいか分かりますから」

『流朗先生のたとえ話だ』

『これは、何かあるぞ……』

「何をごちゃごちゃと行っている! 早く歩け!」

 後ろを歩いている子供たちは泣きじゃくり、

「桐島先生、怖いよー」

「ぐすん、えーん」

「大丈夫、大丈夫ですから、私がついていますから」

 怖がる子供たちに私は励ましの言葉を投げかけた。

 だが、この先のことを考えると……大丈夫では済まされない。

 今後、大変なことになるのは間違いない。

 私にできることは……

「桐島流郎はこっちの馬車に乗れ!」

 子供たちが乗る馬車と別々に乗せられ、二日間かけて王宮に連れていかれた。


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