怪猫ミーコ
風邪で会社を休んで三日目となる。
喉が痛い
食欲がない。
熱が下がらない。
咳が出て、鼻水が止まらない。
ひどい倦怠感、そして体の節々が痛む。
もう風邪の症状すべてが出ている。
そんなどうしようもない状況のなか、オレの癒しは愛猫のミーコだけだった。今も枕元に座って、ミーコは心配そうにオレを見守ってくれている。
そのミーコだが……。
会社からの帰り道、雨の降るなか母猫とはぐれたのか、ずぶ濡れになって必死に鳴いていた。
あれからもうじき二年。
人間の年齢に換算すると、二十歳を少し過ぎた娘盛りであるらしい。
ただ、そうであっても猫である。
別に飯を作ってくれるわけでなく、生活していく上であてにできることは何ひとつない。
それからも熱が下がらず、眠っては覚めての繰り返しで、もうここが現実の世界なのか、はたまた夢の世界なのか、その境界さえもあやふやになってきた。
その証拠に、ミーコの姿が人間の娘に見える。
オレは幻影のミーコに話しかけた。
「カレーが食いたいな」
ニャアー。
ミーコが返事をした。
オレが覚えているのはそこまでである。
オレはカレーの匂いに鼻をくすぐられて目を覚ました。
――何でカレーの匂いが?
不思議に思ってキッチンに目を向けると、そこにはエプロン姿のきれいな娘が立っていた。
――たしか夢じゃ……。
オレは娘に声をかけた。
「ミーコか?」
娘はオレに気がつくと、すぐさまミーコに姿を変えた。
これは夢だ。
オレはまだ夢を見ているのだろう。
「ありがとうな、ミーコ」
ミーコが照れくさそうに鳴く。
ニャアー。
オレは再び目を覚ました。
不思議なことにカレーの匂いは続いており、キッチンのテーブルの上には温かなカレーが盛られた皿があった。
――まさかミーコが……。
現実ではありえないことだ。
だが、それはまさしく現実のことで、実際、オレはそのカレーを美味しくいただいた。そしてあれほどひどかった風邪から一晩で回復したのである。
後日談。
「ミーコ、またあの娘になって欲しいんだけど」
オレがいくらそう頼んでも、ミーコが再び娘に変わることはなかった。
残念ながらニャアーと鳴くだけである。