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バイト先は京都六道閻魔庁  作者: 桜居かのん
第一章 ようこそ、地獄の閻魔庁へ
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「そこ座って」



先生は奥に座り、私はすぐに座らず立ったまままずはお辞儀をした。

昨日必死に面接の受け方をネットで調べて頭に叩き込んできたことを実践する。



「本日は面接の機会を頂きありがとうございます。


出雲小夜子です、よろしくお願いいたします」



先生は片手で座れ、というジェスチャーをし、失礼します、と座る。

そして鞄から履歴書を差し出した。



「ちょっと読むから待って」



「はい」



受け取ると広げてじっと読んでいるようだ。

だいたい聞かれそうなことはわかる。

なんで東京じゃ無く京都の大学に進学したのか。


これは大学でも友人達に聞かれたこと。

正当な理由があるので納得してもらえるが、まさか閻魔庁から誘われて何て真実、誰が言えるか。



「では始めようか」



「よろしくお願いいたします」



「君、口は堅い?」



てっきり例の質問かと思えば、やはりこういう場所、そこが一番なのだなと表情を引き締め、はい、と答えた。



「ここは色々な仕事をする。華やかじゃ無い。むしろ地味な作業が多い。

パソコンは持ってる?」



「はい。ワード、エクセルも簡単になら扱えます」



「『一太郎』は?」



「いち、たろう?」



誰だ、人名なんだろうか、面食らう私を見て先生はふ、と軽く笑った気がした。



「ワープロソフトの名前だ。今じゃワードに押され絶滅危惧種だけどね。

うちはボス弁がそれしか使えないからそれも使えるようにならないといけない。

向上心はある?」



「自分自身ではあると思っています」



「そうだろうね」



先生の言葉に思わず不思議そうな顔をしてしまい、すぐに面接だったっと気持ちを切り替える。



「こちらの条件は、勤めるならすぐにでも可能なこと。

休みはもちろんあるが、平日だけじゃなく土日も動けることが望ましい。

平日も出来れば土日の出勤状況を見て、一日中じゃなくていいから出来るだけ来て欲しい。


ようは雑用をしてもらわないと仕事が回らないんでね、少しの時間でも手伝って欲しいんだ。

もちろん、指導は私がする。


時給は先日言ったとおり2000円。

土日、遅い時間は割り増しをつける。あと交通費も出す。

何か質問は?」



「遅い時間というのは深夜を回る、ということでしょうか?」



「さすがに未成年を深夜まではさせないが、夜の11時くらいまで急遽残ってもらうことはあるかもしれない。

その際はタクシー代を出す。頻繁には起きないし、都合の悪い場合は断って良い」



「わかりました。

あの、ボス弁って何のことでしょうか?

一之森先生の他にはどんな先生がいらっしゃるのですか?」



「ここは近藤先生が作られた法律事務所なんだ。

経営者の弁護士を通称ボス弁と呼ぶ。


先生が一人で事務所を始められたときはこのビルではなかったけれどね。

近藤先生は日頃ほとんど事務所にはいないから、もっぱらここにいて動くのは私一人。


私はその経営者に雇われている状態で通称イソ弁などと呼ばれる。居候弁護士、の略称だ。


ここは弁護士二人と先日辞めた事務員の三名だった。

私も弁護士になって数年、まだまだ新人だよ。

他には?」



「その、私のように大学に入ったばかりのものが、法律事務所なんて勤まるのでしょうか」



聞いて失敗したと思った。

自分は能力が無い、そうアピールしたように取られないだろうか。


元々ファストフード店でバイトしようと思っていたのがこんな堅苦しい場所に来て、私なんかで大丈夫かと思う。


いや、考えてみれば私なんかが閻魔大王の側で亡者の付添人やってる方が遙かにおこがましいけれど。



「最初は誰しも素人だ。

君は授業態度も真面目でしっかり聞いているし、先日も身を挺して子供を守った。


だが正義感というのは勘違いしやすいもので、君はまだ大学生になったばかりならそういう事があるのは織り込み済みだ。


そんな君だからこそここで多くの事件や依頼者に関わることは、受け取り方次第でより良い経験を積めるだろう。


もし司法試験を目指しているのなら勉強もここでしていいし、私に時間がある場合は教えても良い。


他に質問は?」



完璧すぎるような答えが何かのデジャブを起こす。

なんかこういう誘い、とある地獄で誰かにされたのに近いような。


でも、一応は司法試験を目指しているし、わかりやすい指導をする一之森先生が時々でも教えてくれるなんて最高だ。


その上、なかなか経験できないバイトなのは間違いないし時給も高い。


法学部であまりお金のない私に、ここ以外にこんな条件の良い場所は思いつかなかった。



「質問はありません。どうぞよろしくお願いいたします」



頭を下げて先生を真っ直ぐ見る。合否はいつ頃言い渡されるのだろう。

きっと他にも面接をしている子はいるのだろうし。



「じゃぁこの契約書に目を通して大丈夫なら最後に署名を」



す、とA4の紙が一枚差し出され、そこにはびっしりと何か書いてある。



「これは?」



「こちらとの契約書だ」



「もしかして私、面接合格したんですか?」



「元々雇う気で声をかけたんだが、君も聞きたいことがあるだろうしと今回の機会を作ったんだが」



初耳です!!


私は笑顔が引きつりながら、光栄です、と何とか返して書面に視線を落とす。


それにしてもこの書面、なんか、難しい書き方だな。


甲が、うん、この事務所か。

乙が私なのね。

甲が乙にとかって書いてるけど、いちいち置き換えて読むの面倒くさい!


どうも守秘義務を守れとか、きちんとした態度でいること、というような内容が書かれていると判断し、私は署名してそれを先生に差し出す。


先生は自分の所に印鑑を押し、コピーすると、コピーを私に渡してくれた。



「ではこれで君はここのアルバイトとして正式採用された」



「ありがとうございます。頑張ります」



身の引き締まる思い、そんな気持ちで言葉を出す。




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