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バイト先は京都六道閻魔庁  作者: 桜居かのん
第一章 ようこそ、地獄の閻魔庁へ
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商店街の裏道に入り、古い建物に『小島診療所』と木の看板、磨りガラスのはめられたドア、中に入ると茶色いスリッパが並び、入り口横の古びた受付から看護師の服を着た丸い体型の背の低いおばさまが嬉しそうな顔で出てきた。



「あらあら」



「院長先生いますか?この子、男に手を怪我させられたようで」



「まぁまぁ。ちょっと待っててね」



そういうとおばさまは奥に入ってしまった。


先生が上がるので私も慌ててスリッパに履き替えると、横には小さな待合室。

壁の椅子におじいさんが一人眠そうな顔で座っているだけだ。


大丈夫だろうか、ちゃんと診てくれるんだろうか。

そもそもここ、何の科専門なんだろう。

手が痛いのに、痔の専門でもお医者さんはお医者さんだから大丈夫なんだろか。



「どうぞー」



奥のドアが開きおばさまが声をかけ、先生が私に視線向けて歩き出すのでその後をついていく。


入ると、ドラマで出てくる昔ながらの診察室のような殺風景な部屋で、眉間に皺を寄せた厳つい顔のおじいさん先生が白衣を着て、グレーの古めかしい椅子に座っていた。



「急ぎで済みません。この子の手を診てもらえないでしょうか。

この子に怪我をさせた男は既に警察が聴取してると思いますので、診断書もお願いします。このあと警察に行きますので」



丸い椅子に座らされた私の後ろで先生がすらすらとおじいさん先生に日時や状況を話し、おじいさん先生は軽く頷くだけで紙のカルテに記入している。



「手を見せて」



一通り書き終えるとおじいさん先生は私の方向を向いた。不機嫌にも聞こえるその声に、私はびくびくしながら手を出せば、少しずつ動かして痛みを確認される。

腕や肩まで確認されて、レントゲンまで撮ることになり、再度診察室に呼ばれると、



「骨は折れてないが筋は痛めている。もう少し腫れるだろうがその腫れは早めに引くだろうけど痛みは続くかもしれない。痛み止めと湿布出すから。

三日後、また来られかね?」



「はい」



何だか叱られそうな雰囲気だったけれど、テキパキと終わって何だか拍子抜けした。


診断書をおじいさん先生が書いている間、待合室で二人で待つ。

一之森先生は隣に座っているが、ほとんど会話が出来なくて私は息苦しくてたまらない。


そうだ、ここの費用払えるだけお財布にお金は入っていただろうか。

鞄の中を見て気が付いた。履歴書入りの封筒を。



「あーー!!!」



「どうした?!」



思わず出た私の声に、先生が初めて驚いたような声で私に振り向く。



「今日、バイトの面接予約してたんです。でもとっくに時間過ぎてて。

あの、外で電話してきても良いですか?」



私がそう言いながら立ち上がると先生も立ち上がった。



「付き合おう」



「あ、はい」



何でわざわざ?と、頭の中ではてなマークが飛び交いながら先生と診療所の外に出て電話を鞄から出そうとしたら、スマートフォンが無いことに気が付いた。


さーっと血の気が引く。

そういえば男に叩かれて落として、拾った記憶は無かった。



「これだろう?」



差し出されたのは私のスマートフォン。

幸い画面も割れていない。


先生が拾っていてくれたなんて。

私はお礼を言うとすぐさま面接先に電話を掛けた。


だけどちょっとした手首の動きに痛みが走り思わず顔をしかめる。

時折走る痛みを我慢しながら電話口で面接先に事情を話し、必死に謝罪しているのだが、こんなことを相手は信じてもらえるんだろうか。

あそこの学生は平然と嘘をつく、なんて思われたら他の学生に迷惑を掛けてしまう。



「貸して」



先生の声に横を見れば、先生は私の答えを聞くことも無くスマホを取り上げた。



「初めまして。弁護士の一之森と申します。

突然お話しに割って入り申し訳ありません。実はその事件に私が遭遇しまして」



事情を一通り話し終えると先生はスマホの通話を切ってしまった。

あぁ、出来ればもう一度面接を受けさせてもらえないか反応見てチャレンジしようかと思っていたのに。



「何か?」



先生が冷たい表情で聞いてきて、私はびくびくしながら、



「説明して頂いてありがとうございます。

実は最後にもう一度面接を受けさせてもらえないか尋ねようかと思っていたんです」



段々語尾が小さくなりながら、怒鳴りはしないだろうけど魔王様の静かな怒りに触れそうで私は自分が話してしまった内容に後悔した。



「そんなに急ぎでバイトを探しているの?」



「はい」



面接再度受けようとしてるんだからそうに決まってるじゃ無いですか、という心の声は微塵も表情に出してはいけない。


先生は腕を組んで私をじっと見る。


怖い。魔王様怖い。


毎回閻魔大王に会ってるけど、この人別の意味で怖い。



「実はバイトを探そうと思っていた」



何のことですか?と理解していない私の顔を見ても、先生は表情も変えず話しを続ける。



「うちの法律事務所の事務員さんが体調を崩して急遽辞めてしまってね。


長年されていた方だが今回の入院を機に辞めることになって、次の人を探そうとしていたんだ。


君、授業のない日や時間、土日とか来られる?」



「あの、土日に何をするんでしょうか」



土日って普通休みじゃ無いのだろうか。



「そういう事務所もあるが、依頼者の多くは仕事をされている。

だから平日の仕事終わりや、土日に来客という場合も多い。


バイトという扱いになるが、仕事内容は来客応対、電話対応、書類の簡単な作成、書類の提出、コピーを取るとかそういう地味な作業だ」



私はただじっと背の高い先生を見上げていた。


あの魔王様が私にそんな話しをしていることが不思議だ。



「時給は2000円。面接を受ける気は?」



「2000円?!」



思わず大きな声が出て慌てて周囲を見るが、時折通る人は気づいていないようだった。

どう考えても普通のバイトではありえないほどの額。

もしかして他に怖い事でもするんだろうか。



「守秘義務を負うんだ。それも辞めてからもずっと。家族にももちろん話せない。

うちの事務所はここら界隈の老舗の顧問をしているし、有名な依頼者も来る。

それを絶対に守って貰うための費用も含んでいる」



「それはもちろん守ります」



なんせ地獄の閻魔庁にバイトに行っているだなんて親にも話していないのに。

話しても頭大丈夫?と心配されるだけだろうが。



「で、面接を受けるのか受けないのかどちらにする?」



大事な質問に答えていなかったことに気づき私は慌てて、



「是非よろしくお願いいたします!」



私は先生に頭を下げた。



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