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バイト先は京都六道閻魔庁  作者: 桜居かのん
第一章 ようこそ、地獄の閻魔庁へ
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*********




高校の修学旅行先が、本来沖縄だったのに何故か取りやめとなって京都と大阪になった。生徒達は大ブーイング。しかし行けば行ったで盛り上がるものだ。


私は女子のグループで賑やかな京都の八坂神社前の通りを清水寺方向に進み、途中で路地に入ってみた。


少し歩いて右手に現れたのは『六道珍皇寺』という寺。


朱色の門に瓦屋根の門。

その前には少し明るい茶の石が置いてあり、そこには『六道の辻』と刻まれている。


皆で門をくぐり、私は急にふらりと呼ばれるように一人、歩き出した。


小さな庭園を通り、奥に現れたのは古びた井戸。


白い石で正方形に囲まれたその井戸の周りにはしめ縄がしてあり、その上には木で出来た格子状の蓋が被されてあった。


中を覗こうとすると、ドンッ!と誰かに背中を押され、私は何故か蓋のなくなっている井戸に突き落とされた。


頬に当たる冷たい風。それが熱風に変わる。


私は混乱したまま真っ暗な中落ちていると、突然目の前が真っ白になるほど眩しい世界に包まれた。


気が付けば広い、宮廷のような場所で椅子に座らされていて、私の周りを古代中国の官僚が来ていたような服を着ている大人達が取り囲んでいた。



おおお!めでたい!!


いつぶりになるのか!


やっとじゃ!



周囲は大騒ぎで喜び、私はただぽかんと座っていた。


その輪の中から、身長がとても高い若い男性が現れた。年の頃は20代に見える。

服は、平安時代に着ていそうな着物。目の細い、でも割と整った顔の男性が。



「お待ちしていました。出雲 小夜子殿」



その男性が私に軽く頭を下げるが、なんで初対面の相手に自分の名前をそれもフルネームで呼ばれているのかわからない。



「驚かれるのも無理はありません。


私は『小野篁おののたかむら』。


この名に聞き覚えはありませんか?」



『小野篁』。

あれ?どっかで聞いたような名前だけど。



「わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ あまのつり舟」



澄み渡るような声が彼の口から響く。

その和歌を反芻して、中学の時国語で暗記させられたのを思い出した。



「百人一首!!」



「ご名答」



にこりと彼は笑った。

だが彼の表情は引き締められたように変わる。



「実は小夜子殿、折り入ってお願いがあるのです」



神妙な顔で彼は、



「私の仕事を、いや閻魔大王の仕事を手伝っては頂けないでしょうか?」



「・・・・・・はい?」



思わず馬鹿そうな顔で返してしまった。



「六道珍皇寺の井戸の伝説をご存じないではありませんか?」



私は初めての話に首を振る。



「先ほど小夜子殿が見られていた井戸のことです。


そこから私は昔、日中は役人として朝廷に出仕し、夜はあの井戸を通って冥界にあるここ、閻魔庁に出向き閻魔大王の補佐をしておりました。

今は基本、閻魔庁で働く者達を取り仕切る立場にいます。


何故現世にいた私がそんな事をしていたかと言いますと、地獄という所の考えと、現世、今、小夜子殿達が生きている時代の考え方にはどうしても違いがあります。


仏教という世界のルールは基本曲げることは出来ませんが、そこの中だけにいれば何の違和感も疑問も感じないので変える必要性を感じません。


ですが新しい亡者はその時代に生きてきた者達で、その世界のルールや考え方で生きていた。

裁きの際にはその者達の意見も取り入れるべく、言ってみれば亡者の側に立って今生きる現世の代表として意見して欲しいのです。


その資格ある現世の者を、私達はずっと探しておりました。


そしてやっと見つかった、それが小夜子さん、あなたです」



切々と話された後、まるで愛の告白のように言われても混乱するだけだ。



「あ、あの、私、高校生、なんですけど」



唐突に壮大な話しをもちかけられ、私はそれしか言えなかった。

どう考えても選ぶ相手を間違えている。



「えぇ。ですので、そうですね、大学生になってからではいかがでしょう」



思い切り話しが噛み合ってない!!


笑顔で言った篁さんに、でかい声で返しそうになったのを堪える。



「私、東京に住んでいるんですが」



「京都は良い大学が沢山ありますよ」



東京の方が沢山ありますよ!!


何だか東京よりも京都が遙かに素晴らしいという感じをひしひしと味わいつつ、断る理由を話す。



「さすがに京都で一人暮らしはお金がかかりますし親も心配します。

どこの大学でも良いという訳でもないですから」



頬が引きつりながらそう言うと、篁さんは着物の胸元から扇を出して、パン、と広げると口元にあてた。


そして周囲にいる人々とヒソヒソと話し出している。


やだ、なんか嫌な予感しかしない。


逃げられないかきょろきょろしても、だだっ広い部屋にいるようでここから逃げたとして本当にここが地獄なら私が元世界に戻る方法なんて・・・・・・いや、もしや私は死んだの?


実は地獄に落ちてこれも何かの試練とかそういう、とぶつぶつ考え込んでいたら名前を何度も呼ばれていたことに気が付いた。



「小夜子さん、まずは大丈夫です、生きていますよ」



ほ、としたのもつかの間、この流れはまずいのではと第六感が反応している。



「先ほどの問題をクリアできればお受けして頂けますか?」



「地獄って英語やカタカナ語、使うんですね」



全く違う話題を差し込んだ私に篁さんはにこりと笑うと、



「他の国の言葉も全て対応できますが、この後はイタリア語でお話ししましょうか?」



「日本語でお願いします」



だめだ、この人間違いなく性格が悪そうだ。

私は警戒しながら篁さんを見る。



「小夜子殿の心配事はこちらで全て片付けることが出来ます。

大船に乗った気持ちで是非京都へ」



笑顔で言われて、さすがにむっとした私は椅子から立ち上がった。



「さっきから一体何なんですか?!

勝手に井戸に突き落として地獄に引きずり込んでおいて、帰りたければ要求を飲め、とばかりに!


完全に脅迫じゃ無いですか!

どう考えたって、はい、受けます、なんて気持ちよく言えるわけが無いでしょ!」



私の声が想像以上にこの広い部屋に響き渡り、大人の男性達は目を丸くして私を見ている。


そこに、可愛い女の子の豪快な笑い声が響き、突然人々が頭を下げその間を女の子が歩いてきた。


帯に袴、大学の卒業生が着そうな和服の子供版にみえる黄色の着物に、艶々の肩くらいの黒髪、黒目の大きな小学校高学年くらいの女の子が。


私の前に来るとにこっと笑う。



「我が名は閻魔大王。この閻魔庁を取り仕切っておる」



自分より遙かに背の低い女の子が、腰に手を当てえへん!と胸を張り、私はただ女の子を見下ろしていた。


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