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バイト先は京都六道閻魔庁  作者: 桜居かのん
第一章 ようこそ、地獄の閻魔庁へ
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「これで、本日の仕事は終わりでございます」



大男の近くにいた漢服まとった官僚のような老人が巻物を見ながら言い頭を下げると、大男は、ふーと大きなため息をつき疲れたように大きな肩を動かした。



「終わりじゃ!甘い物を持て!!」



突然可愛い女の子の声が響き、獄卒達がバタバタと可愛い柄のテーブルセット、菓子や果物、茶などを用意し始めた。



小夜子さよこ~」



呼ばれて御簾から出てきた私は、テーブルセッティングが終わるのをぴょんぴょん跳ねながら側で待っている、呼んだ相手を見て苦笑いする。



「今日のデザート、まさかのケーキですか」



「うむ!今日はロールケーキの気分であった!

ここまで抹茶の香りが漂っておるぞ!」



さっきまであった大きな机の隣に、謎の空間が出来ている。

洋風のテーブル可愛らしい椅子、どうみてもどこかのお洒落なカフェだ。

周囲は未だにどこか中国の宮殿のような状態なので恐ろしいほどに馴染んでいない。


椅子には既に、さっきの大きな男が着ていた服を子供用にしたような黄色の服に袴姿、小学校高学年くらいで目のくりくりとした髪は肩くらい長さの可愛らしい女子が足をバタバタさせながら、目の前にあるデザートに目を輝かせている。



「小夜子!」



「はいはい」



早く来い!という呼びかけに私が最後の書類を他の者に渡して椅子に座ると、女の子は私が着席したと同時に早速濃い緑のロールケーキを大きく切って口に頬張った。



「たまらぬ!抹茶の生地に抹茶のクリーム!生地ががふわふわでこの濃厚なクリームと相まってより口と鼻で抹茶をより味わえる!そうは思わぬか?!」



「ほんとだ、ちょっとほろ苦いけどもの凄い抹茶なロールケーキで不思議です。

さすがはお茶専門店、『辻利兵衛本店のお濃茶ロール』」



私も一口味わった後、テーブルの上にお店がわかるようにと置いてあるケーキの入っていた箱を見ながら感心すれば、うむうむと頷きながら目の前の少女、いや正確には『閻魔大王』は次々と口にケーキを運んでいる。


目の前の席に座っているのは、どう見てもただの可愛い普通の女の子。


だがそれが、地獄の最高権威者である『閻魔大王』その方なのだ。



地獄には十人の王がいる。


裁判所で言えば地獄自体が最高裁判所で、一人一人の王が最高裁判事として亡者を裁いていくが、閻魔大王は最高裁判所長官に似ているような一番偉い立場にあり、閻魔大王の決定はとても大きく、他の王が持たない、亡者が生前犯した善業悪業を『浄玻梨の鏡』で写しだし、先に渡されている亡者についての帳簿と比べて審判を渡す。


で、ただの女子大生である私は何をしているのかというと、閻魔庁から頼まれた閻魔大王のちょっとした補佐役だ。


事前に書類が閻魔庁から届いてそこから気になる亡者を私がピックアップし、閻魔庁での裁きに立ち会い意見を述べるというもの。


裁判で被告人を弁護する弁護士に近いかも知れない。


だがそれと違うのは、私が亡者全員を守る必要も無ければ、むしろ私が判断を甘いと指摘することもある。


私の存在意義は、


『現在の日本の感覚を元に意見すること。そして場合によっては私情を挟んで良い』


という、亡者の地獄先に思い切り影響を与えかねてしまうなんとも責任重大な仕事。


そんなことを大学一年になったばかりの私にさせているのだから、亡者の皆様には申し訳ないとしか言い様がない。

なので姿が見えていないのは本当に助かる。




「この仕事もだいぶ慣れてきたのではないか?」



「慣れていないですよ、毎回悩みますし、一杯一杯です」



閻魔ちゃんは、宇治茶を飲みながら私に聞いてくる。


ちなみに閻魔大王といえば、赤い顔に大男というのが当然と思っていたのだが、私がこの仕事につくことで怯えないようにという配慮から少女の姿になっている。

その場合は閻魔ちゃんと呼ぶように言われ、私はそう呼んでいるのだ。



「大学はどうじゃ?」



「まだ始まって一ヶ月ちょっとですからね。

そろそろバイト先を決めないと」



私の出身は東京。今通っている大学は何故か京都。

一人暮らしをしているので親の仕送りばかりには頼れない。

いい加減どこかの飲食店でバイトを探さなくてはと、今度面接も入れてある。



「すまぬな、ここもバイトなのにかけ持ちをさせてしまって」



「元はといえばあのたかむらさんがいけないんですし、きっちり約束は守って貰いますよ」



私が拳を握れば閻魔ちゃんが豪快に笑う。



「はははは!そうじゃな!いや、あの日のことを思い出すと未だに笑えるのう」



あの日のこと。それは数年前に遡る。




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