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それでも僕は君を愛していた  作者: 大木戸 いずみ
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「あいつの親、人殺しらしいよ」


 彼女に対する最初の印象は殺人犯の娘だった。

 けど、違った。彼女自身が「殺人犯」だった。

 彼女と深く関わらずとも、すぐに分かった。彼女――波崎美代ハザキミヨが自らそう言った。

 残虐な殺人犯でも、僕は波崎美代を愛していた。




 高校二年生の夏。僕のクラスに一人の少女が転校してきた。

 こんな田舎に誰かが引っ越してくること自体が珍しかった。だからか、僕らの学校で彼女は話題になっていた。

 都会からやって来た少女。目はぱっちりとした目ではなく、細長く、けれど、決して小さくない目。

 始めて彼女を見た時、綺麗な目だ、と思った。

 鼻はシュッと高く、薄い唇。整った顔だった。色白くて華奢なイメージ。そのせいか、どこか近寄りがたい雰囲気があった。

 その転校生が波崎美代だった。


宮野湊みやのみなとくん?」

 

 それが彼女と初めて会話した最初の一言だった。

 まさか波崎から話しかけられるとは思っていなかったから、僕はあの時、言葉に詰まっていた。

 何よりも驚いたのは、僕の名前を知っていたということだ。

 今思えば、僕ら以外誰もいなかったあの放課後の教室は、僕たちに会話をさせるためにつくられたような空間だった。

 忘れ物を取りに戻ったら波崎がまだ教室にいただけのこと。それなのに、僕は異常なぐらいなぜか緊張していた。

 事前に彼女のことを「人殺しの娘」だと聞いていたからか、彼女のミステリアスなところに魅了されていたのかは分からない。

 ただ、僕の心臓は爆発しそうなぐらい鼓動が速くなっていた。

 彼女の噂は一瞬で広まり、転校してきて二日目で誰も彼女と口を利かなくなった。先生までもが波崎と関わるのを嫌がっているように見えた。

 田舎町で変な噂が立つと終わりがない。……人の噂も七十五日というが、ここでは一度流れた噂は一生つきまとう。


「はい、宮野です」


 僕は暫くしてから、そう言った。

 波崎は僕の返答の何が面白かったのか分からないが、小さな笑みを浮かべた。

 こんな風に笑うんだ、と彼女に釘付けになった。波崎が笑った顔を僕は初めて見た。


「私は波崎美代」

「知ってます」

「なんで敬語?」


 彼女はまた笑みを浮かべた。

 もっと周りに誰も寄せ付けないような冷たい人だと思っていた。彼女のその意外な反応はますます僕の心を惹きつけた。

 

「クラスメイトなんだし、タメで話してよ」


 彼女の言葉に「分かった」と小さく頷いた。

 それが僕と波崎の出会いだった。

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