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48.「境遇に反して妙に性格が明るい」はキャラ設定あるある

《表》


「――さてと。それじゃあ改めて。久しぶりレオン、元気してたか?」


「えっと……わりぃんですけどセンパイ、その前にせめて兜だけでも脱いでくれません……?」


おっと、推しと久しぶりに会えてテンション上がってたせいで、装備品を解除するのを忘れてたな。俺は【ハンニャマスク】(※優秀な耐性装備)を外して【拡張魔術鞄】にしまうと、改めてレオンと向き合った。


現在、俺はカルロスたちに捕縛した【犯罪者ギルド】の末端構成員、およびそいつらに脅迫されてた女性を任せ、レオンとルカを連れて近くの公園までやってきていた。


「まずは、ありがとうございましたセンパイ。俺、センパイに助けられてばっかだな……」


「いいんだ。君が無事なら、それで」


どこかホッとした様子でお礼を言ってくれるレオン。やっぱり、【犯罪者ギルド】に狙われたという事実は、彼にとっても精神的に負担が大きかったんだろう。


「ちょっとレオン! 公園に来てたんならさっさと噴水前まで来なさいよ! 集合時間はとっくに過ぎてるわよ!」


「落ち着け、アリシア。レオンの隣をよく見ろ」


「隣? ……あれっ、センパイ……?」


と、そこでアリシアとカインがやってきた。今日は3人一緒に行動してないのか? とは思ってたけど、どうやらここで集合する予定だったらしい。


チラッとレオンの方を見れば、『しまった!』という顔をしている。どうやら色々なことがあったせいで集合時間を忘れていたみたいだ。


「アリシアとカインも久しぶり。2人とも、レオンのことを怒らないでやってくれ。今回は事情があってな」


俺が2人に【犯罪者ギルド】のことを説明すると、2人はすぐさまレオンの体調を気遣うやり取りをした。


ああ……良い……尊い……(※語彙力喪失)


……いや、待て。というか、久しぶりに推しに会えてテンション上がってたからすぐには思い至らなかったが、冷静に考えると【犯罪者ギルド】のクソ野郎どもは無辜の人々だけでなく俺の推しにまで手を出しやがったんだな。


「あの害悪集団が……まさかレオンにまで手を出すとは……許さん……!」


「(レオン『にまで』、か。ねぇカイン、それってつまり……)」


「(ああ……()()()()()()()()()()()()()()というのは、どうやら本当のことだったらしい)」


「(【犯罪者ギルド】……奴らのせいで、姉さんは……。ということは、センパイも俺たちと同じで、ずっと奴らのことを追ってたんだな……)」


もはや『いずれ奴らを叩き潰す』なんて悠長なことは言ってられない。早急に奴らを壊滅させなきゃダメだな。


「センパイ! 私たち3人も一緒に【犯罪者ギルド】を追わせてください!」


「アリシアの言う通りだぜ! センパイ、絶対に足手纏にはなりませんから、お願いします!」


「勝手に総意にするんじゃない……と普段なら言っているところだが。先輩、貴方と僕らの(仇討ちという)目的は同じはずです。協力させてください」


俺が奴らを叩き潰す算段をしていると、レオンたちからそんな申し出がなされる。


……俺と目的は同じ、か。3人の目的は、もちろん『無辜の人々を守るため』だろうな。つまり彼らは俺のこともそういう『正義感の強い人』だと思ってくれてるんだろう。


ただ、俺はそこまで善人じゃない。俺が【犯罪者ギルド】を潰そうとしているのは、原作知識を鑑みるに奴らを放っとくと俺やアーロンたちにも被害が及ぶ可能性が高いのと、『原作知識によってこの先に起こるだろう悲劇を知っていながら何もしなかった』という罪悪感を覚えるのが嫌だからだ。俺は誰にも邪魔されず、何の負い目もなく、ダンジョン攻略とトレハンとレベリングに勤しみたいんだよ。


だからこそ、俺は自分や仲間の安全を最優先とし、【犯罪者ギルド】の策謀のうち、原作知識と照らし合わせて『これくらいなら潰しても直ちに奴らから目を付けられることはないだろう』と確信した案件しか潰してないのが現状だ。今まさに【犯罪者ギルド】によって苦しんでるだろう、顔も知らない人々のことは度外視だ。


俺は徹頭徹尾、自分のことしか考えていないし、アリシアたちが思ってるような善人じゃない。


善人じゃない、んだが……。


「……オーケー、分かったよ。アリシア、レオン、カイン、力を貸してくれ。速攻で奴らを片付ける!」


「――ッ! はい!」


「でも、決して無茶はしないでくれよ?」


けどまあ、『ファン』たるもの『推し』の期待は裏切れないよな。なにより、こんなにも尊敬の目を向けてくれる後輩の前でくらい、カッコ付けたいじゃないか。


もっとも、急な方針転換になってしまうし、俺の都合で危険なことに付き合わせることにもなるから、後でアーロンたちには謝らなきゃだけどさ……。


「……そうだ、先輩。他にも()()()()()()()()()()()に心当たりがあります」


「カイン……? まさかその人って……?」


「いや、確かにあの人が協力してくれたらスッゲェ心強いけどよ……。良いのか? あんな俺たちにとって雲の上の人を呼びつけて協力させるとか……」


え、マジで? こんなクッソ危険なことに付き合ってくれる人がいるのか? しかもカインの口振りからして、かなり上位の冒険者っぽいな。そんな人にコネがあるとか人脈スゲェなオイ。さすがは俺の『推し』なんだよなあ。俺なんか他の冒険者と喋ったことすらほとんどないぞ?


なんかこの世界の冒険者って排他的っぽいというか、パーティ内で人間関係が完結してそうというか、他の冒険者パーティとの関わりがほとんどないっぽいんだよな。にも関わらず他の冒険者と交流があるのは、彼らの人徳のなせるわざなんだろうな。俺は他の冒険者に挨拶しても軽い会釈しか返してもらえないぞ。


――まあ、そんなわけで数日後。


俺は交渉事に強いアーロンについてきてもらい、アリシアたちとの待ち合わせ場所として指定された宿屋に向かった。


アリシアたちの紹介だし、そんな悪人が出てくるとは思っちゃいないから、独りで来ても良かったかもしれないけど……相手は上位の冒険者っぽいからな。上位の冒険者ということは、それだけこの過酷な世界を長く生き抜いている、ということだ。油断はしない方が良いだろう。


それはともかく。宿屋に到着した俺たちは、レオンに案内されて大部屋にやってきた。なんでも、相手の冒険者が結構な有名人らしく、秘密裏に会合したいとのことだ。アーロン曰く、この世界では宿屋にそういう使い方もあるらしい。


そうして部屋の中に入った瞬間――電流に打たれたかのような衝撃が俺を襲った!


「私の名はアレックスという。君と会える日を楽しみにしていたよ、ハルベルト殿」


【ペロちゃん】! 【ペロちゃん】じゃないか!


サラッサラな橙色の髪に、癒やしキャラ定番の垂れ目、身長150cmほどのロリボディ! そして何より、数多の元気っ娘に声をあててきたことで有名な声優さんと全く同じボイス! 間違いない! 原作キャラの【アレックス】だ!


【アヘ声】では10人のパーティメンバーが存在していて、必ずパーティに編成しなければならない固定メンバーの主人公&メインヒロイン2人、サブイベントをクリアすることで加入するサブヒロイン2人、残りは奴隷市場で購入可能なキャラ5人となってたんだが……。


【アレックス】は奴隷市場で購入可能な5人のうちの1人であり、プレイヤーの意思で購入する最初の奴隷(メインヒロイン2人もいちおう主人公が購入した奴隷だがメインストーリーで強制加入なのでプレイヤーの意思は介在しない)ということで、この子に思い入れがあるプレイヤーは多いんじゃないだろうか。


この子はいわゆる『腹ペコキャラ』『元気っ子』『合法ロリ』で、その人懐っこく忠犬っぽい性格や食い意地の張った様子から、プレイヤーには【ペロちゃん】【アレ子】【忠犬アレ公】【年齢不詳ロリ】【食飢戦場鬼】などと呼ばれてたキャラ――


「……ふむ。そんなに見つめられては、少し照れてしまうな。それとも、私の顔に何か付いているのかね?」


――の、はずなんだけどな……?


うーん……【ペロちゃん】と比べるとなんだか表情がキリッとしてるし、喋り方も妙に芝居が掛かってるし、何故か知らんが男装してるけど……見た目も声も完全に【ペロちゃん】、だよな? ってか本人が【アレックス】って名乗ったし。


「……つかぬことをお聞きしますが、妹さんがいらっしゃったりしませんか?」


「!? ……いや、私に兄弟や姉妹はいないが……」


「そうですか、申し訳ございません。知ってる人かと思ったのですが、勘違いだったようですね」


うーん? こんなに似てるんだからさすがに無関係ってことはないだろうし、もしかして原作には登場しない【ペロちゃん】の家族なのかと思ったが、そういう訳でもなさそうだし……。


ってことは、やっぱり【ペロちゃん】本人なのか? このキラキラした王子様オーラ振りまいてる人が、たった数年であの愛すべきおバカキャラになるってのか? 何がどうなればそうなるんだよ……。


あー……でも、思い返してみれば【ペロちゃん】にも闇を感じさせるシーンがあったな。


【アヘ声】にはパーティメンバーにアイテムをプレゼントすることが可能で、プレゼントしたアイテムによって好感度が上下するっていうシステムが実装されてたんだよな。


で、キャラによってアイテムの好みが分かれてて、そのキャラが嫌いな物をプレゼントしてしまうと当然ながら好感度が下がってしまうわけだ。


中にはプレゼントするとほぼ全員の好感度が下がる罠アイテムも存在してて、その1つが【なぞの肉】というアイテムだった。入手場所はモンスターの巣穴。モンスターどもが人間を捕らえてた檻の中にポツンと落ちてて、【なぞの肉】って名前ではあるものの『まあ《《そういうこと》》だよね』って感じのアイテムだな。


……そう、『ほぼ』全員の好感度が下がるアイテムなんだよ、コレ……。なんと【ペロちゃん】だけはこのアイテムをプレゼントすると、


『ありがと〜! わたしコレ好きなの〜!』


という反応と共に好感度が上昇する。いやまあ【ペロちゃん】は食べ物系のアイテムをプレゼントすると必ずこの反応と共に好感度が上がるので、大半のプレイヤーからは『食べ物系のアイテムを一括で好物に設定したものの【なぞの肉】を除外するのを忘れたのでは?』と【アヘ声】制作陣の設定ミスだと思われてたんだが……。


一部のプレイヤーは『以前にも【なぞの肉】を食ったことある奴の反応じゃん』とか『そもそも奴隷にされてるのにここまで底抜けに明るい性格してるのはおかしくない?』とか『奴隷にされる過程で何か悲惨な目に遭ったせいで幼児退行したのでは?』とか考察してたんだよな……。


まあそれはそれとして、だ。


「アーロン、どう思う?」


アレックス(アイツ)について、か? ……まぁ腕前も性格も信頼できる冒険者なんじゃね? 【英雄】だなんて御大層な異名が付くだけのことはあるかもな」


レオンたちに一言断ってから、俺はアーロンにアレックスがどんな冒険者なのかこっそり聞いてみた。それによれば、なんと彼女は【英雄】という異名で呼ばれている凄腕の冒険者らしい。


冒険者としての腕前は、現時点での最強の冒険者が誰なのかを語る際には必ず名前が挙がるほど。性格面ではスタンスが【正道】かつ【善行値】が善に振り切れてるっていう、一部では『勇者の再来』とまで言われてる冒険者なんだとか。


……なんかアレックスを見るアーロンが微妙な表情をしてる気がしたのはちょっと引っかかるが、アーロンがここまで褒めるくらいだ。この世界でのアレックスは信頼できる相手みたいだな。


俺にとって【ペロちゃん】は【先輩】ほどじゃないにしても好きなキャラだったし、初期メンバーとして愛着もあった。彼女が【ペロちゃん】だとするなら、俺としても彼女と協力関係を結ぶのはやぶさかじゃない。


というか、原作同様【冒険者ギルド】と【犯罪者ギルド】の対立構造に持っていく場合は、彼女ほどギルドに対して絶大な影響力がありそうな冒険者との協力はむしろこちらからお願いしたいくらいだな。


「お待たせして申し訳ありません。改めまして、私はハルベルトと申します。こちらこそお会いできて光栄です、アレックスさん。あなたが協力してくださるのであれば心強いです」


「なに、私としても【犯罪者ギルド】への対策は急務だからね。わずかな期間で【ダンジョン下層】まで駆け抜けてきた君の実力、頼りにしているとも」


そんなやり取りをしつつ、俺たちは握手を交わしたのだった。

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― 新着の感想 ―
ここから先2年で一体何が…… まあ無かったことになりそうだけどw
英雄とまで呼ばれたキャラが本家時間軸じゃ2年後には認識もされないぐらい落ちぶれるとは何があったのだろうね 初期キャラなら戦闘力も落ちてるんだろうし
仲間の肉でも食わされて壊れたのかねぇ
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