42.「夢の共演」は「悪夢の狂宴」の間違い
《表》
こうなったら隠し事はなしだ、ということで、俺は走りながら【アントクイーン】についての情報を全員と共有することにした。
【アヘ声】における【アントクイーン】のステータスは、物理アタッカーとしての性能に偏っていた。もちろん2周目(に戦うことを想定されていた)ボスなだけあって物理火力以外も高水準ではあったけど、他の2周目ボスと比べればやはり低い方なので、今の俺たちなら普通にダメージを与えられるはずだ。
それだけ聞くと物理攻撃さえ対策すればわりと簡単に倒せそうな気がするが、2周目ボスの真骨頂はステータスではなくそのスキルにある。
【アヘ声】には【呼び声】というカテゴリの特殊なスキルがいくつか存在していて、ストーリー後半に出てくるボスやエンディングを迎えた2周目のボスが【呼び声】を使ってきた。
【呼び声】の効果は「耐性を無視して強制的に状態異常を付与する」というもので、しかも【呼び声】で付与された状態異常は戦闘終了まで何をやっても解除できず、ものによっては発動された時点で全滅が確定してしまうという、非常に厄介なものになっていた。
そして【アントクイーン】も【呼び声】の使い手だった。【蟻真言】とかいうふざけたスキル名のくせにその効果は絶大で、パーティメンバーの誰か1人に【洗脳】を付与してきたんだよな。
【洗脳】を付与されたパーティメンバーはプレイヤーの操作を受け付けなくなり、【アントクイーン】を庇って代わりにダメージを受けるようになる。つまり【アントクイーン】の肉壁にされてしまうわけだ。
とはいえ、【呼び声】にはきちんと対抗策が設定されている。発動する前のターンには必ず予兆があり、「ダンジョンに魔性の声が響き渡る!」というテキストメッセージが表示されるので、この世界でも敵が怪しげな声を出し始めたらそれを合図に対抗策を実行すればいい。
……問題はその対抗策だ。
主な対抗策は2つあり、1つは【エンジェルハイロゥ】というスキルを使って「1度だけ【呼び声】を無効化するバリア」をあらかじめ張っておくことだ。だがこれはメインストーリーを進めることで【アヘ声】主人公が習得できるスキルだったから、この対抗策は俺には使えない。
もう1つは【エンジェルハイロゥ】の効果があるアイテムを使うことだ。【エンジェルハイロゥ】の効果があるアイテムは【聖剣エンジェルリメイン】、【真聖剣ブレイヴリメイン】、そして【天使の遺灰】だ。
だが【聖剣】はストーリー終盤のイベントで手に入る武器だし、【真聖剣】と【遺灰】は裏ダンジョンに行かないと手に入らない。
「つまり、現時点では俺たちにまともな対抗策がないってことだな」
「ぬう……厄介な……」
そんな感じのことを原作知識とかはボカして伝えると、ご隠居と隠さんは悩むように唸った。
「いいからさっさとどうすりゃいいか教えろ」
「まともじゃない対抗策ならあるんでしょ」
「勿体ぶったような話し方は大将さんの悪いクセだと思います」
「…………キリキリ吐いて。(時間も押してるでしょ)」
対してカルロスたちはどこまでも辛辣だった。うーん、悲しい。俺と出会った頃の皆はいったいどこへ行ってしまったのか。
「対抗策は――うわっ!?」
と、俺が対抗策を言おうとした瞬間、前方に破壊された城門が見えた。そしてそこから城の警備兵が真正面から車に轢かれたかのような勢いでこちらに向かってカッ飛んできたため、慌てて俺は警備兵を受け止めた。
「こ、これは……!」
隠さんが驚愕の声を上げる。城門をくぐると、中では城の警備兵たちがHP0の【戦闘不能】状態で倒れ伏していた。この様子だとおそらく警備兵は全滅しているだろう。見たところ戦闘不能になっているだけで、死人は出ていないようなのが不幸中の幸いか。
「よォ、アンタら。来ると思ってたぜ」
そして城の前には、やはりというか吉良兄弟が立ち塞がっていた。ただ、吉良兄弟の出で立ちはそれまでの浪人のような着流し姿から一変しており、豪奢な甲冑を着込んでいる。
これは吉良兄弟との最終決戦での姿であり、この姿の2人は物理防御力、魔法防御力ともに中ボスに相応しい耐久能力を備えている。
「またテメェかよ……そこをどけ、今はテメェなんぞに構ってる暇はねーんだよ」
「Just “bee” calm……今日のオレは真剣だぜ。昨日のオレと同じだとは思わないことだ」
「…………」
「ぬぅ、この異様な気配……! 警備兵を全滅させたのはお主らか!」
「これは一筋縄ではいかなさそうじゃのう……」
ビーンが自信ありげに言うだけあって、今の彼らは【門番】と同等以上の威圧感を放っている。特にアントニオの方は昨日の騒がしさが嘘のように終始無言であり、異様な雰囲気を放っている。そういえばアントニオは頭が蟻だからか【アントクイーン】の洗脳の影響を強く受けてるらしく、最終決戦時は肉体のリミッターが外れてるとかって設定だったような記憶がある。
「The party is just “bee”ginning……さあ、決着をつけようぜ」
「唸れ、アイテムスローで鍛えた俺のクイック投法!!!」
「Un“bee”lievableーーー!?!?!?」
つってもまあ、ボス並みになったのは耐久面だけであり、耐性面はガバガバのまんまなんだけども。
モニカを警戒して注意がそちらに向いていたのか、ビーンは俺が投げた【一夜の夢】の薬瓶を避けられずに顔面に直撃し、もんどり打って倒れてそのまま【睡眠】状態となった。
呆気に取られたように棒立ちだったアントニオにも薬瓶を直撃させると、俺は素早く彼らをロープで縛って身動きができないように拘束してやった。
俺の勝ちである。
「えぇ〜……今の、完全に正々堂々戦う流れだったじゃないですか」
「俺たちはこれから【アントクイーン】を倒さないといけないんだぞ。時間的にも体力的にもそんな余裕はないだろ?」
とはいえ、これも現実だから可能になった勝利だけどな。ゲームだと【睡眠】は2ターン行動不能になるだけの状態異常だったので、敵全体を眠らせたからといって戦闘終了なんてことにはならなかったけど、この世界での【睡眠】は見ての通り戦闘不能並みにヤバイ状態異常と化している。
「ヤバイ状態異常に対して何の対抗策も用意してない方が悪い。俺だって【睡眠】無効の装備品は常に携帯してるし、皆にも配布してるだろ?」
「そういうもんかなぁ……? ……うーん、そうかも……」
「(相手の隙を生み出す視線誘導技術に加え、予備動作の少ない投擲技術に、縄を使った捕縛術……そしていざ自分が同じことをされた場合の対抗策も完璧とはのぅ)」
「(見事なものよ。同じ忍びの者として、拙者も負けてはおれぬな)」
「ともかく、先を急ごう。城の中にいる人たちが心配だ」
そう言いながら俺は地面に落ちていたビーンの居合刀【首紅透刃】を拾って【鞄】に入れると、城の中に突入したのだった。
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《裏》
【狂人】が吉良兄弟を突破した頃、【雄々津之城】天守閣にて、【アントクイーン】と大将軍の戦いは決着を迎えつつあった。
「ぬぅ……! キサマ、ワレの野望に加担すると誓っておきながら、たった数ヶ月で裏切るとはな!」
『ほほほほ! 最初からお前など妾がこの国を巣穴とするための駒に過ぎぬわ!』
大将軍はすでに満身創痍で片膝をついているが、対して【アントクイーン】は傷を負いながらも健在である。勝負の行方は誰が見ても明らかであった。
「フッ、八雲の言う通りであったな……ワレも人を見る目がない。兄者が亡くなって大将軍を継いだものの、しょせんワレは剣の道しか知らぬ男。人の上に立つ器ではなかったか」
『ほほほ、案ずるな。お前に代わって妾がこの国を富ませてやろう。もっとも、その富を享受できるのは妾一族のみ――』
「だが! 人を見る目はなくとも強者を見抜く目は確かであったな! やはりキサマはただの尼僧ではなかった! キサマの武勇、敵ながらアッパレである!!!」
『……えぇ……お前の情緒はどうなっておるのじゃ……?』
突然ガハハと豪快に笑いだした大将軍を見て、【アントクイーン】は一気に疲れが押し寄せてきたような気がして寺に帰りたくなったが、すんでのところで思いとどまる。
そして咳払いをして気を取り直すと、大将軍に向かってお経のようなものを唱え始めた。無論、それはお経などでは断じてない。【アントクイーン】の口から紡がれる魔性の響きは、耳にした者を破滅へと誘う【呼び声】である。
本来であれば【呼び声】は世界を滅ぼすためだけに存在する邪神が持つ能力の1つであるが、ダンジョンの中で長く生きたモンスターの中には稀に邪神が放つ「ある種の波動」を受け続けたことで突然変異を起こし、邪神と似たような能力を得ることがある。
そういったモンスターは邪神と同様に世界を滅ぼさんと活動を始めるため、かつて勇者が生きていた時代では【偽神】と呼ばれて恐れられていたのだが……それはともかく。
「……八雲……すまぬ……」
そのような邪神由来の強大な力に、ただの人間(?)である大将軍が抗えるはずもなく。大将軍の瞳から光が失われるまでに、そう長くはかからなかった。
『(……ふぅ。ひとまずなんとかなったのじゃ。とはいえ、このような場所で行った簡略的な洗脳では、いずれ大将軍は正気を取り戻してしまうじゃろう。早々に寺へと連れ帰って洗脳を完璧なものとせねば――)』
【アントクイーン】がそこまで考えた時であった。
「ミ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン゛ッ゛! 待てぃ! 貴様の悪事もそれまでだ!!!」
スパァン! と大きな音を立てて襖が開け放たれたかと思うと、インパクト抜群の見た目をした2人組が部屋の中に雪崩れ込んできた。
そしてその片割れ……「ご隠居」と呼ばれていたサナギ人間の背中がバリッと裂けると、中から筋骨隆々な肉体を持つ蝶頭が文字通り飛び出してきた。
「ミ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン゛ッ゛! この紋様が目に入らぬかぁ!!!」
蝶頭がマッスルポーズを取った瞬間、その背中に生えていた光沢のある青紫色の美しい羽がバサリと広がり、輝きを放ち始める。
「ミ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン゛ッ゛! この御方を誰と心得る! 先代大将軍、佐々木・大斑介・国長様にあらせられるぞ! 頭が高いぞ! 控えおろう!」
そしてサナギ人間改め、蝶頭の脇に控えていた蝉頭も一緒にマッスルポーズを取ると、2人組の背後で謎の爆発が起こった。いや、実際には起きていないのだが、【アントクイーン】はなぜかそんな訳のわからない光景を幻視してしまったのだ。
『…………………………』
そんなものを見せられてしまい、当然のごとく理解が追いつかずに思考停止する【アントクイーン】。だが、この場においてその隙は致命的であった。
「…………隙だらけ。(気持ちは分かるけど、【クイーン】の名を冠するモンスターともあろうものがその有様というのはいただけないね)」
『へぶぅ!?!?!?』
2人組の後ろに隠れていたルカが粘土を生み出し、それを勢いよく射出。粘土は【アントクイーン】の顔面に直撃し、顔全体を覆い隠してしまった。
「今だ! 一気に殺るぞ!!!」
『ぬわあぁぁぁぁぁ!?!?!?』
そして空を飛んで天守閣の櫓へと乗り込み、背後から【アントクイーン】を強襲する【狂人】ども。そう、これこそが【狂人】の考えた【呼び声】対策であった。
まずは蝉頭が【ミ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン゛ッ゛!】という「敵の攻撃のターゲットを自身に集中させる」効果のあるスキルを使って【アントクイーン】の注意を引く。この際、蝉頭がヘイトを稼ぎすぎると【アントクイーン】がキレてすぐさま攻撃に移る可能性を考慮し、蝶頭が正体を明かして衝撃を与える。
そしてルカがノームとしての能力を使って粘土を【アントクイーン】の顔面に貼り付け、それによって口を使えなくして【呼び声】を発動できないようにしてしまおう、という作戦である。【呼び声】という声を使ったスキルである以上、その発動には口を使う。ならば喋れなくしてしまえば【呼び声】も発動できなくなるだろう、というわけだ。ゲームでは不可能な、現実世界ならではの対抗策であった。
とはいえ、この策を実行するにあたり【狂人】は大いに悩んだ。【狂人】がルカを奴隷として購入した当初にバッドエンドを懸念して禁止していたように、【狂人】はルカのノームとしての能力の解禁には慎重であったし、なにより「口を塞いだ程度でそんな簡単に【呼び声】を封じられるのか?」という疑問も捨てきれなかった。
それでもなおこの策の実行に踏み切ったのは、「これ以上この国に被害を出してはならない、リスクは承知の上で【アントクイーン】を仕留めなければならない」という自責の念があったのが6割。そして、
「【呼び声】を発動されそうになったら俺が前に出て【洗脳】状態を受け持って、その後は自爆特攻でもして戦闘終了後に【蘇生薬】で復活するか。まあ今回は俺の他にも壁役として隠さんもいるから俺が【戦闘不能】になっても大丈夫だろうし、大将軍との戦いで【アントクイーン】のHPが削られてるから2回目の【呼び声】を使われる前に倒せるだろ」
という理由が4割であった。相変わらずブッチぎりでイカレた思考回路の男である。
「うおおおおお! 【零丿剣(※全HPと引き換えの超火力攻撃)】だオラァッ!!!」
『もがぁーーー!?!?!?』
「ウワーーーッ!? なにしてんの大将ォォォォォ!?」
「ぬうん! 【食いしばり】ィ!!!」
「ヒッデェ自爆特攻詐欺を見たぜ……」
なお、それはそれとしてダメージ効率のために自爆特攻はする模様。しかもちゃっかりとパッシブスキルの効果で生き残っている。【アヘ声】プレイヤーからは【倫理観ゼロの剣】と呼ばれていた外道コンボであった。それを躊躇いもなくやるあたり、ただでさえ初めから足りてなかった【狂人】の頭のネジがこの世界で暮らすうちにさらに外れてしまっているのは言うまでもない。
『もががが……!(な、なにをしておる大将軍! 妾を守らんか!!!)』
「おおっと、そうはさせぬよ」
ここでようやく再起動を果たした【アントクイーン】が大将軍を操り、【狂人】たちの攻撃を肩代わりさせようとする。だが、その前に蝶頭が懐からある物を取り出した。
「大将軍……いや、武人よ! お主の弱点はよーく分かっておる! お主の弱点、それは……コレじゃあ!!!」
蝶頭が掲げた物、それは桐の箱に入った高級そうな菓子であった。楕円形のパイにも似たお菓子はこんがりとした焼き色をしており、さながら黄金でできた貨幣のようであった。
「……ウ、ウオオオオ……! ソ、ソレハ……マサカ……!?」
「あ、あれは!? 予約殺到して半年先まで入荷待ちという幻の銘菓!? その名も【山吹色のお菓子】!!!」
「いや、なんでお前がソレを知ってんだよ! つーかそれ『賄賂』の隠語じゃなくてマジで菓子だったのかよ!!!」
「【山吹色のお菓子】ィィィィィ!!!」
モニカとカルロスが叫ぶのを尻目に、蝶頭がポイッと箱ごと菓子を櫓の外へと放り投げると、大将軍はそれを追って空へとダイブしていった。
「おいいいいい!? あいつ飛び降りたぞ!? この高さじゃバラバラ死体になるんじゃねーのか!?」
「なに、奴は無駄にHPが高いから心配無用じゃ。外患を引き入れたあげく洗脳されて被害を拡大させるようなバカ息子には、むしろ良い薬じゃろうて」
『もがあああ……!(じゃ、じゃが妾にはまだ最後の手段が残っておる!)』
頼みの綱であった大将軍をリングアウトされていよいよ進退窮まった【アントクイーン】であったが、奥の手として思念波を飛ばし始めた。その思念波を受け、【アントクイーン】の眷属である「サムライアリ」たちがその場に姿を現す。
「えっ!? ヤクモさん!?」
そして「サムライアリ」たちの手の中には、気絶させられて捕らえられた八雲の姿があった。「サムライアリ」たちは見せつけるように手にした刀を八雲の首に突きつけている。
「くっ、人質とは卑怯な……!?」
『もが……(いや、不意打ち騙し討ち上等で妾を強襲しておいてどの口が「卑怯」とか言うんじゃと問い詰めてやりたいところじゃが……まぁ良いわ。これで形勢逆転じゃ!)』
顔に粘土を貼り付けたままモガモガと得意げに語る【アントクイーン】であったが、その余裕も長くは続かなかった。
「……なぁんてのぅ! 今じゃ、透さん!」
「木ノ葉流忍術奥義、【木ノ葉落トシ蹴リ】!!!」
何もない空間から突如としてコノハムシ頭が出現、忍術とは全く関係ない暴力が「サムライアリ」たちを襲う。この場に「サムライアリ」の姿がなかったことから、「サムライアリ」がどこか別の場所で人質を取ろうと暗躍しているのだろう、と見抜いていた蝶頭の采配により、コノハムシ頭は今までずっとステルス状態で隠れていたのである。
「……ここはいったい……。……はっ!? キエェェェェェェ!!!」
そして目を覚ました八雲は瞬時に状況を理解し、けたたましい猿叫をあげながら自らを拘束していた「サムライアリ」に見事な背負い投げを決めて脱出。
【アントクイーン】の用意していた策が全て崩壊した瞬間であった。
“な、なぜじゃあ!? 妾の計画は完璧であったはず! いったいどこで間違ったというのじゃあ!?”
「…………たぶん、間違ってはいなかった。(まっ、主みたいな化物が存在してたのが運の尽きってやつさ)」
思わず思念波で絶叫した【アントクイーン】に、モンスターであるがゆえに唯一その思念波が理解できるルカが返答する。
ルカの言う通り、【アントクイーン】のやり方は間違ってはいなかった。本来ならば【アントクイーン】は原作開始時点で【雄々津国】を手中に収める一歩手前まで計画を進めるはずであったし、原作主人公の選択によっては姿を見せぬまま裏で暗躍を続けやがて国を手中に収めただろう。
実のところ、【雄々津国】が鎖国状態であったり、大将軍が野望を抱くようになったりしたのは、【アントクイーン】が洗脳能力を使いつつ大将軍を唆したのが原因であり、それらによって【アントクイーン】は本来であれば冒険者の介入を最低限に抑えたまま計画を実行できたはずなのだ。
過去に蝶頭が協力を要請した冒険者は【狂人】以外にも存在したが、いずれも【アントクイーン】が大将軍にあることないこと吹き込んで「内政干渉」を理由に国から追い出している。【アントクイーン】の計画は誰にも邪魔されることはないはずであった。
もし、何かが間違っていたとするならば、それは【狂人】とかいうバグみたいな奴の存在そのものだろう。
“そ、そんな理不尽なぁぁぁぁぁ!?”
激化する【狂人】たちの攻勢。ゴリゴリと削られていく【アントクイーン】のHP。
【アントクイーン】にとっての唯一の救いは、顔面に貼り付いたままの粘土のお陰で、
「【ミラージュステップ】! 【ミラージュステップ】! 【ミラージュステップ】! フゥーハッハァ! そんな攻撃当たらないぜ!」
「ミ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン゛ッ゛! 拙者の【空蝉】の術、貴様ごときに見破れるか!」
「蝶のように舞い! 蝶のように美しく! 食らえぃ! 【真・蝶丿羽バタキ・絶飛】じゃあ!!!」
飛び回りながら空中でステップを踏むキメラみてーな変態、飛び回りながら空中で脱皮を繰り返す褌一丁の変態、飛び回りながら空中でマッスルポーズを取って謎ビームを乱射する変態が織りなす(悪)夢の共演を見ないで済んだことだろう。これを直視してしまったカルロスたちは目からハイライトが消えている。唯一無事なのは、せっせと【アントクイーン】のボディに手刀を叩き込み始めた八雲くらいのものだ。
“ぬわあああああ! こんな終わり方はイヤじゃあああああ!!!”
その言葉を最期に【アントクイーン】はHPを全て失い、ズシンと天守閣を揺らして倒れ伏したのだった……。