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40.「正解が分かっても無視する」は冒険者の鉄則

《表》


「ところで、【アントクイーン】はどこが怪しいんだ?」


「見た目」


「いや、そうだけどそうじゃねぇよ」


ダンジョン40階層の攻略中、俺たちはモンスターどもをしばき倒しながら雑談をしていた。


「質問の仕方が悪かったな。奴はご隠居とやらからどういう疑惑を持たれてんだ?」


「兄貴、ご隠居さんが説明してたの聞いてなかったの?」


「仕方ねぇだろ。あんなふざけたビジュアルで真面目な話をされると脳がバグって話が頭に入ってこねぇんだよ」


まあ、ここらで【安徳院】について情報を整理しておくのも悪くないかもしれないな。そう思った俺は、カルロスにご隠居から聞いた話を説明しつつ、原作知識を思い返すことにした。


「【安徳院】のいる寺の周辺で行方不明者が出ているらしくてな。奴の正体は人攫いなんじゃないかとご隠居は疑ってるみたいだ」


【安徳院】……いや、もういいか。【アントクイーン】は蟻をモチーフとしたモンスターであり、今回のサブストーリーにおける真の黒幕として暗躍するボスモンスターだ。


【アヘ声】には【クイーン】の名を冠するモンスターがいくつか存在していて、サブストーリーの進め方次第で戦える隠しボスのような扱いをされていた。【アントクイーン】はその1体であり、他には【フェアリークイーン】もそうだ。


こいつらは同族のモンスターを従える最高位のモンスターとして描写されており、設定上は一国の軍隊にも匹敵する戦力を有する。まさに【クイーン】の名に相応しいモンスターだ。


また、【クイーン】自体も非常に強力であり、真正面から挑もうものなら【アヘ声】に登場する全モンスターの中でもトップクラスの強さを誇る。そのため、基本的には1周目は【クイーン】をスルーして1度ゲームをクリアし、2周目以降に戦うことが推奨されていた。


余談だが、たとえ2周目以降であっても【クイーン】に真正面から挑むのは推奨されていない。【フェアリークイーン】の時もそうだったが、こいつらはサブストーリーの進め方次第で弱体化するからだ。弱体化なしの【クイーン】はプレイヤーから【真・クイーン】と呼ばれ、エンドコンテンツ扱いされている。まともに戦って勝てる相手じゃない。


まあ俺は今のところ【クイーン】に真正面から挑むつもりはないので、それに関してはおいておくとして。


【アントクイーン】は蟻の中でも「サムライアリ」をモチーフとしており、【クイーン】として同族のモンスターを従える以外にも、「他の生物を洗脳して奴隷として使役する」とかいう、わりとシャレにならない凶悪な能力を持っている。


【安徳院】を名乗って尼僧の真似事をしているのもそれが理由だ。奴はこの国全体に微弱な洗脳能力を放って信者とし、その信者を寺におびき寄せてゆっくりと洗脳。最終的に信者を完全に奴隷化して勢力を拡大している。尼僧のコスプレとかいうギャグとしか思えない見た目でプレイヤーを笑わせにきたかと思いきや、その実態は冗談では済まないようなガチなカルト教祖だっていうんだからタチが悪い。


その洗脳能力は人間にも効果を発揮し、【アヘ声】では選択肢を間違えるとパーティメンバーが洗脳されてしまう。主人公は拘束されて寺の地下に隠されている座敷へと連行され、パーティメンバーが他の信者とともに乱○パーティをさせられているのを目の前で見せつけられる。そのうち原作主人公自身も洗脳されて乱○パーティに加わっていき……というバッドエンドだな。


なので【アントクイーン】の調査をするのは相応の危険を伴うので、安定を取るなら寺に近寄るべきではないんだが……かといって透さん・隠さんに調査を任せると、あの2人は調査から帰ってくるなり「あの寺に異常はなかった」とか言い出すからな。もちろん以後【アントクイーン】は一切登場せず、後で寺に行っても誰もいない。


公式で明言されたわけではないが、おそらく透さん・隠さんも【アントクイーン】に洗脳されたと思われる。透さん・隠さんは決して無能ではないが、さすがに【クイーン】を相手にたった2人で挑むのは無理があったんだろう。


なので【世直しエンド】は実はグッドエンドではなく、行方を眩ませた【アントクイーン】によってジワジワ国民が洗脳されていくというバッドエンドなのでは? とプレイヤーの間で囁かれていたりする。


もしそれが本当ならさすがに後味が悪いので、やはり目指すは【世直しエンド】ではなく【食いしん坊大将軍エンド】だな。そのためには、【アントクイーン】の所在が分かっているうちに俺たちの手で奴の悪事を暴き、原作と同じように話を進めて【アントクイーン】の能力を弱体化させ、確実に【アントクイーン】を始末する必要がある。


まあ、そうでなくともレアアイテムのために頑張るけどな!


「ふーん……人攫い疑惑に加え、大将の見立てでは洗脳能力持ち、ねぇ……。まっ、大将が言うなら事実なんだろうが」


「なんであの見た目で『テメェのような聖職者がいるわけあるか!』って突っ込まれなかったんだろうって思ってたけど、洗脳能力があるなら納得かも」


「分かりました、あの寺院付近では絶対に単独行動しないようにしますね」


「…………もともとボクらは単独行動なんてしないけど。(主がいないところで戦闘になったらワンパンで死んじゃうし)」


いちおうカルロスたちに原作知識に関してはボカしつつ情報共有し、警戒を促しておく。もっとも、【アントクイーン】が他の生物を完全に洗脳して奴隷化するためには自身の巣穴に連れ込む必要があるため、そもそも洗脳されるような状況に陥った時点で「詰み」ではあるんだが。


「ところで、さっきから似たような景色ばっか続いてる気がしない?」


カルロスたちに説明と警告を終えると、ふとチャーリーがそんなことを言い出した。


「そりゃあ同じところを行ったり来たりしてるからな」


「うぇっ!?」


40階層は孤島だらけのマップであり、各孤島に3〜4つの【ワープゾーン】が設置されているのが特徴だ。この【ワープゾーン】の上に乗ることで他の孤島へとワープしながら進むんだが、実は正解の【ワープゾーン】はたった1つであり、間違えて不正解の【ワープゾーン】に乗ってしまうと入口まで戻されてしまうんだよな。


「えっ!? ま、まさか正解の【ワープゾーン】が分かるまで総当たりで試さないといけないんですか!?」


慌ててマップを確認して顔面蒼白になるモニカ。マップにはどの【ワープゾーン】がどこに繋がってるのか表示されないので、ここを突破する際にマップを見てもあまり意味がないんだよな。


「いや、どれが正解なのかはヤシの木の数を数えれば分かるぞ。入口にあった古い看板がヒントになってる」


「……つまり、なんだ。わざとか。わざと不正解の【ワープゾーン】を踏んでやがんのか。マップ埋めかこの野郎」


「よく分かってるじゃないか」


そりゃあ不正解の【ワープゾーン】にも乗っておかないとマップが完成しないからな。


「なにより、こういうのは不正解と思われた【ワープゾーン】が実は隠しエリアに繋がってた、なんてパターンもあったりするからな。正解が分かっててもとりあえず全ての【ワープゾーン】を踏んでみるに決まってるじゃないか」


「…………そんな決まりはない。(というかショートカット開通が目的って言ってたじゃないか。マップ埋めなんて後にすればいいのに)」


「つーか、よく考えたらこの階層はマップを完成させちまったら逆に攻略難易度が上がるんじゃねぇのか?」


「不正解の【ワープゾーン】を踏まないようにしておけば、マップに表示されてる【ワープゾーン】は全て正解ってことだもんね」


「なに、どれが正解の【ワープゾーン】なのかは帰ったらギルドに情報提供しとくから気にするな」


「う〜ん……それでいいんでしょうか? 私たちの後からダンジョンを攻略する方たちの迷惑になりません?」


いいんだよべつに。最低限の義理は果たすんだから。俺たちは他人のためにダンジョン攻略してるわけじゃないんだし。つーか、俺たちがマップを埋めたことで罠がある場所が全て判明してるんだから、総合的に見ればむしろ攻略難易度は下がってるだろ。


「文句を言うような奴がいるなら『他人が完成させたマップを見ながらする安全な冒険(マラソン)は楽しいか?』とでも言ってやれ。冒険者を名乗ってるなら冒険をしろよって話だ」


こっちは真面目にダンジョン制覇を目指してるんだ、マラソンがしたいならランナーを名乗れってんだよ。


「……気持ちは分からんでもないが、もうちょっとオブラートに包め」


「オブラートなら舌先に乗せたら溶けちまったよ」


「じゃあ舌先に乗せずに言葉ごと飲み込んじまえよ」


「(【迷宮走者】って呼ばれてる人がそんなこと言うとか、最高の煽りだと思いますよ大将さん……)」


てかこの世界にもオブラートあるのか。相変わらず異世界の文明レベルはよく分からんな。もっとも、「オブラート」は俺の言語翻訳機能による和訳であって、実際はよく似た何かなんだろうけども。


そんな話をしているうちに、俺たちは海辺に扉があるのを発見した。「どこ○もドア」みたいに扉だけがポツンと突っ立ってるのはよく考えたらシュールな光景だな。


「あれが今回の目的地か」


「ようやく到着しましたね……」


「よし、これでいつでもダンジョン入口からここへワープできるな」


俺たちは扉へと手を触れてショートカットを開通すると、そのまま扉をくぐって冒険者ギルドまで帰還した。


「思ったより時間が掛かったな……」


「というか、今回はショートカット開通が目的なんですから、正解の【ワープゾーン】が分かってるならさっさと最短距離で駆け抜けたら良かったんじゃ……」


「…………子豚と同意見とか屈辱」


「まっ、大将が奇行ばっかなのは分かりきったことだし、今さらか言っても仕方ねぇか……」


「奇行とは心外だな。マップ埋めは冒険者の嗜みだぞ」


それはともかく、思ったより時間が掛かったというのも事実。今日はもう遅いし、このまま俺たちの店に帰還するとしよう。


「じゃ、皆お疲れ様。明日もよろしく頼むぜ」


「へいへい、分かってるよ」


「お疲れ様、大将!」


「明日も頑張りましょうね!」


「…………明日もまたあの国に行くんだよね。(1%の確率で凶悪な罠が発動する宝箱の開封作業とどっちがマシかな)」


こうして、また1つ階層を制覇した俺たちは、達成感を胸に帰路についたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ迷宮に篭ってほしい
[一言] 珍しくハルベルトさんが怒ってる…? びっくりしたけど、まあ好き勝手やっていい場所である程度義理を通してるのに、よくわからんマナーを持ってこられたらたしかに嫌だ。
感想一覧
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