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16.「【狂人】一味」は笑顔の絶えない職場

《表》


「そういえば新型ゴーレムばかりに目がいっていたが、普通のゴーレムもルカに修理してもらえばよくね?」


「(ひょっとして主はボクのことも疲れ知らずの労働力(ゴーレム)だと思ってる?)」


そのことに気づいたのは、チンピラ3人組あらためウチの店員3人組のレベリングはどうしようか、と思っていた時のことだった。


【背信の騎士】でレベリングするためには、1人は「まだボスを倒してない人」に立っててもらわないといけないんだが……俺、ルカ、アーロンさんはすでに【背信の騎士】を倒した判定なので除外として、残る3人のレベリングをしようと思っても1人はレベリングができないんだよな。


なので後回しになっていた新型ゴーレムの回収に行こうと思ったんだが……ノーム集落跡地に転がっている通常のゴーレム(残骸)を見て、こいつらも使えるのでは? と思ったんだよな。


「(……過労死したら化けて出てやる……。背後霊として一生付きまとってやるからな……。そうすれば、ずっと『一緒に(特別で)』いられるね……?)」


「…………!?」


突然ルカに背後から抱きつかれ、直後に恨みがましい……というか、なんかおどろおどろしい感情が伝わってきた。えっ、なにそれこわい。


「い、いや、悪いとは思ってるんだよ。ルカには負担を強いることになると思うし……でも、ゴーレムの修理ができるのはルカだけなんだ。だから頼むよ、埋め合わせはするからさ」


「(……そっかぁ! ボクだけにしかできない『特別』な仕事かぁ! ()()()()()()()()()()なんだね! 仕方ないなぁ、主はボクがついてないとダメなんだから!)」


慌てて弁明すると、途端に機嫌よさそうに背中をバシバシ叩いてくるルカ。


最近知ったことなんだが、モンスターの大半は思念波で意思疎通を図るらしい。いわゆる「念話」とか「テレパシー」という奴だ。つまり、考えていることをそのままイメージとして相手に送りつけている訳だ。


そのせいか、ルカからの思念波に対して俺の言語翻訳機能(チート)が働いた場合、ルカの感情そのものを読み取るらしい。


それで気づいたんだが、どうもルカは感情豊かなようで、時々びっくりするほど激しい感情を向けてくるから、わりと心臓に悪いんだよな……。


まあそれはともかく。俺は肩に顎を乗せてくるルカに苦笑しつつ、今後の計画を練り始めた。


最初は寄り道せずに中層を攻略してしまうつもりだったが、状況が変わったためそのプランは破棄せざるをえない。


まず、しばらくの間はノームの集落跡地を一時的な拠点として活動する。店はアーロンさんに任せ、俺と3人組でルカを警護し、ルカはゴーレム(通常)の修理に専念だ。


ある程度ゴーレム(通常)の数が揃ってきたら、ルカの警護はゴーレムに任せ、一時的にルカをパーティから外して別行動だ。


「(…………)」


「いや、心配せずともちゃんと毎日迎えに行くって」


その間に適当なゴーレムを【背信の騎士】の前に立たせて俺と3人組で熟練度稼ぎをし、3人組には【商人】を極めてもらう。


その後は3人組に店番を頼み、俺とアーロンさんで新型ゴーレムのパーツ回収作業だ。アーロンさんは下層で活躍していたこともあって、【狩人】としての技量は一級品だ。頼りにさせてもらおう。


それら全てが終わったら、ようやく店は完全にアーロンさんと3人組に任せ、俺とルカ、新型ゴーレムでダンジョン攻略再開だ。商品の仕入れについては、俺たちがトレハンしたレアアイテムのうち不要なものを目玉商品としつつ、定番の商品はゴーレム軍団に仕入れさせることにしよう。


「――と、まぁそんな感じで当分の間はいこうと思います。何か質問はありますか?」


「あいよ、異論なしですぜ」


「あの……なぜオレたちが店員になること前提で話が進んで……いえ、その、なんでもないです……」


そんな感じで方針が決まったため、店に全員を集めて情報共有を行った。アーロンさんは俺の方針を快諾してくれたのだが、3人組は反応が薄い。


うーん、近くにいても聞き取れないくらいの小声でモニョモニョと何か言っていたようなんだが、何を言ったのか尋ねてみても「なんでもない」の一点張りだ。疑問点があるなら先に解消しておいて欲しいんだが……まあ本人たちが「大丈夫」と言っているのだから信じるしかない。


とりあえずアーロンさんとはここで別れ、ダンジョン中層へ移動だ。以前俺とルカがブッ壊したゴーレムは事前に1ヵ所に集めておいたので、そこまで歩いていく。


「それでは、カルロスさん、フランクリンさん、チャーリーさん、今日はよろしくお願いいたしますね」


「「「り、了解ッス……」」」


最近になってようやく自己紹介をしてもらったのだが、実は彼らは兄弟だったらしい。


まず、スキンヘッドで筋骨隆々な人が長男のカルロスさん。メインクラスは【戦士】で、3人組のリーダー格だ。


次に、金髪を角刈りにした人が次男のフランクリンさん。グラサンがトレードマークなこの人もメインクラスは【戦士】で、カルロスさんと同じくらい筋骨隆々だ。


最後に、焦げ茶の髪を角刈りにした人が三男のチャーリーさんで、ケツアゴが特徴的な彼もまた筋骨隆々な【戦士】だ……って、3人ともマッチョで【戦士】かよ! パーティバランス悪いな!


以前、【背信の騎士】を倒せずにボス部屋前で立ち往生していたのも頷ける。そりゃあ全員【戦士】では物理攻撃に強い相手は倒せないだろう。


「それじゃあ、改めて作戦を確認しますね。といってもそんなに難しい話じゃありません。俺が前衛に立って敵の攻撃を受け止めますので、皆さんには後衛から【爆風の杖】で攻撃をしていただきたいんです」


「う、ウッス……(何回聞いても頭おかしいんだよなぁ。てかこんなレアアイテムをポンっと渡されたら怖いんだが)」


「問題ないッス……(レアアイテムの買取りまでやるとギルドの財政が傾く恐れがあるから拒否してるんじゃなかったか? つまり非売品ってことなんだが)」


「いつでもいけるッス……(オークションで法外な値がついてるのを見たことはあるが、そんなもんをチラシ配るような気軽さで渡してくるのはホンットに心臓に悪い)」


俺は【爆風の杖】を3人に渡すと、とある家屋を守るように配置についた。中ではルカが修理を行っているので、ルカが集中できるようにこの場は俺たちで守り通さなければならない。


ちなみに、俺が3人に渡した【爆風の杖】は低級炎属性範囲魔術【ブラスト】が封じ込められた【魔術士】用の武器だ。といっても武器としてではなくアイテムとして使う分にはどのクラスでも可能だ。


この杖はダンジョン上層の8階層に出てくるレアモンスターの固有ドロップ品だ。【アへ声】ではアイテムの入手先は宝箱が基本ではあるが、こういう出現率の低いレアモンスターが有用なアイテムを落とすこともある。


ちなみに【爆風の杖】を落とすレアモンスターはスライムと出現場所が被っているため、スライム狩りをしていればいつの間にか30本くらいは手に入っている。頭に「レア」なんて単語がついていようが、トレハンは周回が全てだからな。


「おっと、さっそく『お客様』です! 総員、戦闘態勢を!」


「「「う、ウッス!!!」」」


集落跡地にフラリと迷い込んできたモンスターどもを見て、俺たちは武器を構えたのだった。



──────────────────────



《裏》


無人の廃墟と化していたはずの集落跡地。しかし、今日はいつもとは様子が違い、男の高笑いと爆発音が鳴り響いていた。


「ハハハハハ! オラオラかかってこいやぁ!」


「うへぇ……マジで敵の攻撃を全部受け止めて反撃までしてやがる……」


たった1人で全ての攻撃を盾で受け止め、弾き返し、お返しとして槍を叩き込み、様々な状態異常を付与して足止めする。ここに来てからすでに数時間が経過しているが、今のところ【狂人】は散発的にやってくるモンスターどもを1歩も後ろに通していなかった。


最初は「本当にそんなことが可能なのか、今日が俺たちの命日なのではないか」などと恐怖していた3人組だったが、実際に【狂人】が有言実行しているところを目の当たりにすれば、それが理論上は可能な行為であったことを信じざるをえない。


もっとも、3人組が身の危険を感じて恐怖することはなくなったものの、今度は「理論上は可能だからといって本当にそれを実行する奴があるか!」という別方面からの恐怖が3人組を襲った訳なのだが……。


「だが、味方だとこれほど頼もしい奴もいないな……」


「これは、敵対される前に仲間になっといて正解だったか……?」


状態異常で弱ったモンスターどもに【爆風の杖】の効果でトドメを刺しつつ、3人組はコソコソとそんな会話をしながら【狂人】の背中を見つめていた。


そんな3人の脳裏を過るのは、子供の頃の記憶だった。


――その勇気ある青年が戦う時、彼はいつだってその背に誰かを庇っていました。恐ろしいモンスターの群れを相手に一歩も引かず、それどころか押し返しました。その背に庇った人々のため、仲間たちと共に前へと進み続け……いつしか彼は世界を救ったのです。


3人がまだ子供だった頃、何度も親にせがんで読み聞かせてもらった絵本の1節だ。彼らは何故かそれを思い出していた。


彼らもまた、最初は【正道】を行く好青年であった。絵本に描かれていた勇者の姿に憧れて、3人とも【戦士】をメインクラスに選んで剣と盾を手に取った。「お前ら、誰か1人くらいは【魔術士】になった方がいいってギルドの人に言われただろ」と笑いあったことを覚えている。


……だが、心の底から笑顔でいられたのはダンジョンに入るまでだった。


ダンジョンの中は恐怖と絶望の世界だったのだ。現実に打ちのめされた3人は早々に夢を諦めるも、家出同然に故郷を飛び出した身のため帰る勇気すら持てず。そんな彼らが【中道】に堕ちたのは必然だったのだろう。


人々を守ると誓った盾は自らを守るためだけの単なる防具に成り下がり、人々のために振るうと決めた剣で自らの生活費を稼ぐようになった。【正道】にこだわっていた同期が全員死んだと聞いた時は、他人なんか放っておけばいいのにバカな奴等だ、と吐き捨てたものだ。ダンジョンではそういう奴から真っ先に死んでいくのだから。


もちろん、いまだ【正道】を貫き続け、【英雄】と称されるまでになった最上級の冒険者たちもいるにはいる。だが、そんな彼らでさえダンジョン下層の突破には至っていない。「今日こそは」とダンジョンに潜って行った彼らが「明日こそは」と帰っていく後ろ姿を眺め、「なんとも頼りない背中だ」と嘲笑ったのは記憶に新しい。


上層で得たわずかな金銭で宿代を支払い、ツケで酒を呷る日々。そろそろ酒場を出禁にされそうになったため、ようやく重い腰を上げて何か稼げる方法を探し始めた頃――彼らは【狂人】と出会った。


「【シールドアサルト】! 【シールドアサルト】! 【シールドアサルト】! ……ドロップしないな」


恐ろしいモンスターの象徴的存在とも言える【門番】を、なんと「ドロップ品のため」などという理由で何度も何度もブッ飛ばして壁のシミに変える「ぶっちぎりでイカれた奴」を見て、最初は恐怖に震えた3人であったが……。


「く、くくく……わははははは!!!」


「あの【門番】を一撃かよ! マジでイカれてやがるな!」


「なんだよ『ドロップ品のため』って! そんな理由で【門番】はゴミクズみてぇにやられちまったのかよ!」


ダンジョンからの帰り道、3人は誰からともなく顔を見合わせ、変な笑いが込み上げてきた。心の底から爆笑したのはいつ以来だろうか? そりゃあそうだ。まさか絶対的な捕食者であるはずのモンスターのことを「かわいそう」などと思う日が来るとは思わなかったのである。


「――と、まぁそんな感じで当分の間はいこうと思います。何か質問はありますか?」


ゆえに、アーロンの策略によっていつの間にか自分たちが【狂人】の仲間として扱われていることに気づいた時も、必死になって拒否しようとは思わなかったのだ。


それは【狂人】に逆らったらどうなるか分からないという恐怖からくる選択でもあったが――それ以上に3人の胸中を占めていたのは、「期待」だった。ここに来る前に「敵の攻撃は俺がほとんど受け止めます」などとイカれたことを言われた時も、恐怖で震えながらも心のどこかで「コイツならそれくらいはやるんじゃないか?」という淡い思いがあった。


「よっしゃあ! 今です! やっちまってください!」


「「「お、おう!!!」」」


そして、こちらを振り返った男の不敵な笑みを見て、その「期待」は半ば「確信」へと変わっていた。こいつは、いずれ何かデカいことを為すに違いない。それこそ、「ダンジョン制覇」のような大偉業を、だ。


「おっと、新手です! 皆さん、まだ行けますよね!?」


「「「任せてくだせぇ!」」」


そうして「確信」を得た瞬間、目の前でモンスターどもを相手に一歩も引かない男の背中が、どういう訳か子供の頃に大好きだった絵本の挿し絵(勇者の後ろ姿)と重なって見えた。


相変わらず何を考えてるか分からないし、どうせダンジョン攻略の動機もぶっちぎりでイカれてるんだろうとは思うものの……「誰かをその背に庇い、前へと進み続ける」その背中は、子供の頃に憧れた姿そのものだったのだ。


「ハハハハハ! 大人しく俺たちの経験値になりやがれ!」


……もっとも、「高笑いが聞こえないように耳を塞ぎ、時々ものっそいオリジナル笑顔を晒す顔から全力で目を背ければ」の話ではあるのだが。


「(でもまぁ、それも悪くねぇかもな)」


ただ、今ではそれすらも「面白い」と感じ始めてきたあたり、徐々に自分たちも狂ってきているのだろうかと3人は不安になった。だが、これからあの【狂人】が為すであろう偉業を特等席で眺められるなら、それもいいかと思うようにもなっていたのだ。


「(ああ、そうか。オレたちは『勇者になりたかった』んじゃなくて……『勇者の活躍に心を躍らせる時間が好きだった』のか)」


「(へっ……アーロンの野郎に感謝だな。道連れにしやがったことは許してないから礼は言ってやらねぇが)」


腐れ縁のクソ野郎(アーロン)に心の中で感謝しつつ、ふと、アイツも最近は目が死んでいるものの笑顔を浮かべることが多くなったな、と3人は思う。


どうして腐れ縁が続いていたのかずっと3人は疑問に思っていたのだが……いつもみたいな胡散臭い笑顔ではなく、悪ガキのような笑顔で【狂人】のことを話す姿を思い出し、3人は長年の疑問の答えを悟った。きっと、彼らは似た者同士だったのだろう。


「よし、そろそろ4人で戦うのも慣れてきましたね! そろそろ新しい戦法を試してみてもいいかもしれません!」


また何かおかしなことを言い始めた【狂人】に苦笑しつつ、さて次はどんなとんでもないことをやらかすのかと、3人は期待に胸を躍らせるのだった――





「キ ャ ス ト オ フ」


「「「は???」」」


「【踊り子】のパッシブスキル【フレンジーダンス】の効果によりAVD(回避率)がレベルに応じて上昇する! このスキルは防具を装備しない方が効果が高く、【踊り子】を極めることでAVDはさらに上昇! そこへアクティブスキル【ミラージュステップ】でAVDにバフを掛けることで、短時間だけ俺は無敵の人となる!」


「うわぁぁぁぁぁ! オレの記憶にある絵本の勇者がパンイチで踊り始めたぁぁぁぁぁ!」


「やめろォ! オレたちの思い出を汚すんじゃねぇ!」


「も ど し て」


突然装備していた防具を脱ぎ去り、パンイチで奇妙なステップを踏み始めた「ぶっちぎりでイカれた奴」を見て、3人はリアリティショックを受けて精神に甚大な被害を被った。


その日からしばらくの間、彼らは思い出の絵本に描かれていた勇者が全裸になって軽快なステップで踊り狂う姿を特等席で延々と見せられるという悪夢に悩まされることとなる。


彼らの受難は続く……。

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― 新着の感想 ―
掲示板とかコメントじゃなくて本文で も ど し て を見る日が来るとは。。。(笑)
「も ど し て」で耐えられなかったw
男はいつだって英雄に熱狂するものだから…
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