第八話
村に戻って数日後。
「やっほー。元気?」
つい先日会ったばかりの…魔女さんがやって来た。
「…オッさんならまだ帰ってませんよ。」
苦手意識が強いせいで、薬の礼よりも先に、『帰ってくれ』という気持ちが出てしまった。
「知ってるよ。だから来たんだ。」
「おや、オッさんの知り合いでござるか?」
「知り合いも何も…マゲさん自分で言ってたじゃないですか…『魔法が使えない魔女』だって。」
「えっ、本人?」
語尾も忘れるくらい、素で驚いている。
「へぇ〜。こんな美人からラブレター貰ってたの、オッさん。」
「やっぱりそういう関係だったんですかね!?」
キャロリン先輩とゲラ子さんが、後ろで盛り上がる。
「ラブレター?…あぁ。まー似たようなものかな。」
「似たようなものなんですか!?」
「そーそ。『助手に来い』って、何度も誘ってるんだけど…私よりも大事な仕事が、どんなものか気になってね。」
「『大事な仕事』…って言っても、オッさんって普段どんな仕事してましたっけ?」
「普段は…楽そうな依頼か…そこに座ってるか…依頼も受けずにどこかへ行ってるか…ですかね?」
あんまり仕事をしてるイメージが無かったけど、ゲラ子さんの証言で、本当に仕事してない事が発覚してしまった。
「まぁ、歳も歳でござるし…動くのが辛いのやも…。」
「ただのオッサンじゃん。」
「まぁそうね。…でもただのオッサンにしては、妙に色々詳しいと言うか…。」
「例えば?」
「法とか犯罪とか、裏事情に詳しいよね。」
「まぁ、取り締まるのが仕事だったし。」
「え?オッさんが?」
「そうだけど?」
「…え?元エリートとは聞いてたけど、衛兵でもしてたの?」
「…え、何も聞いてないの?」
「何も…ねぇ?」
皆で顔を見合わせるが、誰も何も言わない。
「気になるんで教えてください!」
純粋な興味本位で魔女さんに頼む。
「…私は良いけど、本人がわざわざ黙ってるんだったら…まぁオッドだし良いか!」
「良いんだ…。」
「あの人、皇国第二機動隊の副長だよ。」
「えっ?」
何て?
「…あれ、どっかで聞いた事あるような…?」
「…そこの魔女殿と同じ隊でござるよ。」
「えっ…?」
「元エリートとは聞いてたでござるが…。」
「…って、そんなに有名な部隊なんですか?」
「んー…まぁ、皇国と、周辺国じゃあ有名だけどってくらいかな?」
「へー…隣国までって、かなり凄い部隊だったんですね。」
「いや、部隊自体は大した事無いよ。仕事も使いっぱしりか、点数稼ぎみたいな事ばっかだったし。」
「えっ、じゃあなんで有名だったんですか?」
「あー…お嬢ちゃんって、ここの産まれ?」
「はい。そうですけど?」
「じゃあ知らないかぁー。…説明しなきゃ駄目?」
面倒になったのか、魔女さんが話を急に投げ出す。
「…『忘れ者たちの希望』、でござったか。」
「なんですか、それ?」
「皇国の宗教と政治になぞった呼び名でござるよ。
魔法が使える事が『当たり前』とされる国で、神様に魔法を貰い忘れたから、『忘れ者』…でござったかな?」
「まぁそこは、神様にも忘れ去られたー、だとか色々言われてるから、なんでも良いんじゃない?」
マゲさんの問いに、魔女さんが適当に返す。
「で、そういう者たちの不満に、隣国が後押しして…なんやかんやで、『忘れ者』の扱いの見直し、という話まで漕ぎつけて生まれたのがこの部隊でござる。」
「『忘れ者』だけで結成された、衛兵部隊。
…ま、実際のところ、『忘れ者』同士での足の引っ張り合いだし…。
無理を押し付けて、『あぁやっぱりコイツらは出来損ないだ』って言うまでがセットね。」
「…なるほど。後続の部隊も、そういうことでござるか。」
「えと…つまり?」
「…政治的に有名な部隊、かな。」
「伝説の部隊と聞いていたのでござるが?」
「それは私達の期に、とんでもないのが揃ってただけ。」
「それを自分で言うのでござるか。」
「え?…あぁ、私も一応『とんでもない』側なのか。」
「他には誰が居たんですか?」
「んー…色々居たけど、一番目立ってたのはやっぱ隊長だよね。」
「英雄…希望の翼…一時期は、あの男の噂で持ち切りでござったな。」
「エリオ・アルベルティっていってね。オッドの相棒だった人。」
「革命を起こした際のリーダーであり、そのまま部隊長に着任。
腕は立つし、頭も切れる。
人柄に容姿…全てを備えた圧倒的カリスマ、でござったかな。」
「ほぇー…凄い人なんですね…。」
「本当にでござるよ。まさか、オッさんがその相棒を務めていたなんて。」
「ん?むしろ、オッド以外務まらなかった、というかオッドだからここまで有名になったと思うんだけど?」
魔女さんの意外な言葉に、全員が首をかしげる。
「なんでですか?」
「なんでって…カリスマの半分はオッドの仕業よ?」
「…え?」
「隊長、言うほど英雄でも無かったってこと。…一人ならね。」
「それは…初耳でござるなぁ。」
「でしょうね。バレたら意味無いし。」
「じゃあ、本当は…?」
「あの人、結構駄目人間よ。
頭悪いし、人を見る目も無いし、感情の起伏は激しいし、女性関係はだらしないし、金遣い荒くてよくオッドに借りてたし。」
「うわぁ…。」
「…英雄の素顔とは、こういうものでござるか…。」
マゲさんもなんだか残念そうだ。
「それでも、見た目と人柄で、人を惹き付ける力があったのは確か。
それを英雄に仕立て上げたのがオッドって話。」
「オッさんが?どうやって?」
「どうもこうも…あの人、人間のプロよ。」
「人間のプロ?」
「人間について、あの人ほど詳しい人は見たことないね。
そのくらい、人間についての知識は凄かった。
…まぁ、『ろくでもない』って付くほうだけど。」
…どこに『ろくでもない』が付くかはさて置き。
「…オッさんも、実は凄い人だったんですね。」
ようやく、なんとなくだが実感した。
「それが落ち込んでるだろうと思ってたら…ねぇ?」
「どうして落ち込んでると思ったんですか?」
「そりゃ相棒が死んだ後、ずっと落ち込んでたし…返事も無いからまだ引きずってんのかと。」
今さらっととんでもない情報が出てきたけど…。
「そんなに気になるほど、オッさんが大事だったの?」
恋の匂いを嗅ぎつけてか、さっきまで興味無さそうだったキャロリン先輩が、嬉々として戻って来た。
「大事ではないんだけど。」
大事ではないんだ…。
オッさんが居たらショックを受けそう。
「…けど?」
「使い勝手が良かったからね。他の学者と違って、地位や名誉に野心が無いし。」
「それで助手に?」
「まぁね。そんなところ。」
「…オッサン、助手に連れて行くんですか?」
居たらアレコレ駄目出しして口うるさかったのは確かだけど…居なくなると思ったら、それはそれで寂しい気がしてきた。
「無理だから私の方から来たんじゃん。と、言う訳で。」
魔女さんがニッコリと笑顔を作る。
「今度はそっちの話を聞かせてよ。」
一応ストーリーの流れは完成しました。
あとは細かい話を決めながら書くだけ。
…だけ…なんですが…。
話自体が想像以上に長くなるので、引き伸b…閑話や単話がそれなりの回数必要なのが、今更ながら後悔しております。
これ日常系だっつってんだろ!引き伸ばしが必要なのは最初から判ってただルゥゥゥオ!?(巻き舌)
…それは…キャラ設定と共に没となりました。