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ナクル村笑日記  作者: 動く点P
7/9

第七話

「うーん…。」


後日。


村のギルドで、病気関連の資料の目録を眺めていた。


「…なんだ?医者にでもなる気か?」


その様子を見たオッさんが、声を掛けてきた。


「いや、そこまでは考えてないですけど…。」


「じゃあギルドの資料なんか、役にたたんぞ?」


「そうなんですか?」


「ギルドのそういう資料は、学者向けなんだ。

だから一つ一つが高いし…何より、仮に病気や薬に詳しくなっても、病気を治したり手術をしたりは、できるようにならんだろ?」


「…そうですね。」


「それに、そもそも何の病気か、見当がついてんのか?」


「いえ…全く。」


諦めて、目録をゲラ子さんに返す。


「…やっぱ、お医者さんに診てもらうしか無いかぁ…。」


「まぁ、それが結局、一番安く済む方法だ。」


「そっかぁー…でも一番近い病院が王都でしょ?連れてくのもなんか不安だなぁ…。」


「は?一番近くが王都?どこの田舎に住んでんだ?」


「旧王都ですけど…?」


「あー、そりゃ駄目だ。ペーカ、今すぐ依頼をキャンセルしろ。」


「え?どういう事ですか?」


「…どっから説明したもんか…マゲは何も言わなかったのか?」


「無法地帯、とだけ…。」


「そうだ。無法だ。あそこに法は無い。」


「…つまり?」


「全員犯罪者だ。」


「えぇっ!?」


「そもそも、身分証が有効かどうか以前に、持ってるかどうか怪しい連中だ。

保険が無いどころか、そのまま逮捕って可能性もあるし…。

なんなら、連れて来た人間も、犯罪者の手引としてついでに逮捕だってあり得る。」


「そんな…でも、小さな子供も居るんですよ…?」


「だいたいマゲもマゲだ。なんで旧王都って分かってて連れてったんだよ?」


「おっと、こっちに飛び火でござるか。はっはっはっ。」


「犯罪者って…本当に悪い事した人たちなんですか…?」


「そもそも旧王都は立入禁止区域だ。出入りしたお前も、バレたら罰金だ。」


「…他には?」


「さぁな。何してるかなんか、知りたくもねぇよ。」


「じゃあ何で私は良くて、あの人たちは駄目なんですか!?」


「…将来性の話だ。お前は職に就いてるし、今日明日の飯を買える金もある。

だが、アイツらはどうだ?

今助けて、その後は?」


「…。」


「分かってるだろ?そういう事だ。」


相変わらず、オッさんの言う事は、嫌気が差すほど正しい。


「…なんとも、つまらん結末でござるなぁ。」


黙り込んでいると、マゲさんが口を挟む。


「ペーカ殿。一つ、よい事を教えてさしあげようぞ。」


「よい事…?」


「オッさんの知り合いに、病気に詳しい人が居るでござるよ。」


「おいマゲ!なんでそれ知って…いやなんで今それを言った!?」


「はっはっはっ。先日のお返しでござるよ?」


「クソッ。今度は俺が連れて行けってか?冗談じゃねぇ。」


「あの…。」


「駄目だ。」


「速っ…まだ何も言って無いのに…。」


「駄目だ。」


「…何で駄目なんですか?」


「何ででも。関わりたくないし、関わらせたくないからだ。」


「あんなにラブレターを貰ってたのにでござるかぁ?」


「ラブレターって?」


「アンナリーザ・バルジ。『魔法が使えない魔女』、でござったな?」


「えっ!?あの人がそうだったんですかっ!?」


言われたオッさんよりも、聞いてたゲラ子さんの方が驚く。


「…有名な人なんですか?」


「はっはっはっ。有名だったのは、十年近く前の話でござるゆえ、ペーカ殿は知らなくとも無理は無いでござる。」


「わ、私もまだ学生でしたよ!?」


ゲラ子さんが、なぜか慌てて謎の釈明をする。


「魔法が使えないながら、皇国第二機動隊の衛生兵長に抜擢され、更には、作った毒で一国を滅ぼしたとかなんとか…。」


「へー…凄い人なんですね…。」


よく分からんけど。


「まぁ流石に噂話は、大げさに言ってるだけでござるよ。

とにかく、病気や薬の専門家でござる。」


「オッさん…。」


「駄目だ。」


「なんでですか?」


「だから言っただろ?」


「そうじゃなくて!

目の前に死にそうになってる人が居て!

助ける手段もあるのに!

なんで駄目なんですか!?」


「助ける意味が無いって言ったろ?未来が無い。」


「人の命が掛かってるんですよ!?人の命を選べるほど偉いんですか!?」


「お前だって、『目に入った』って理由でその依頼人に肩入れしてるだけだ。

視界の外にも、死にそうな連中なんか山ほど居る。」


「だからって…!」


「ペーカ。大人になれ。」


「…最初から何もせずに諦めるような大人にはなりたくありません。」


「…言ってくれるなぁ…。」


「…それで?『大人』は子供のワガママに、どうするつもりでござるか?」


「チッ。はいはい分かった分かった、連れてきゃいいんだろ連れてきゃあ。」


「オッさん…!?」


「ただし、一つだけ約束しろ。」


「…なんですか?」


「依頼が済んだら、二度と依頼人と関わるな。」


「どうしてですか?」


「お前の事だ。どうせズルズル面倒を見る気だろうが…お前はアイツらの何なんだ?

どこまで責任を持てる?」


「それは…。」


「仲が良くても他人は他人だ。

人生まで背負うんじゃねぇ。

だから依頼が終わるまでの関係だ。」


「…。」


「これが約束できなきゃ、連れて行けねぇ。」


「…わかりました。」







「…着いたぞ。」


船に揺られた先は、皇国の港だった。


「こっちだ。はぐれるなよ。」


さっさと歩きだすオッさんの後を、慌てて追いかける。


少し歩いた先、崖の上に一件だけ、ぽつんと屋敷が建っていた。


港町にはずらりと建物が並ぶ中、一つだけ明らかに離れた位置にあるそれは、まるで隔離されているようだった。


「少し距離があるが…アレだ。」


「あ、やっぱりそうなんですね。」


そのまま、真っ直ぐに屋敷へと向かう。


「…お前は余計な事は喋るなよ。」


事前に、オッさんに釘を刺される。


「アイツは魔女だ。魔法が使えないだけで、人間じゃない。…そう思っとけ。」







「…おや?おやおや。

誰かと思えば…オッドくんじゃん?」


屋敷から出迎えたのは、私より少し年上な感じの女性だった。


服はぶかぶかな物を着て、髪は伸びきったものを適当に結んでいるようで…一目で『だらしない』と思った。


「で、何の用?」


「あー…ちょっと頼みがあってな…。」


「何?お金?」


「違ぇよ、困ってねぇよ!」


「じゃあ何?私の手紙よりも大事な話?」


「うっ…そりゃ…悪かったって。」


「本当にそう思ってる?返事が一通も来てないんだけど?」


「えっ?一通も出してないんですか?」


思わず口を挟んでしまった。


「…あれ?この子は?娘?」


「ちゃうわ!そこまでオッサンじゃ…待て、ペーカ今いくつ?俺今年いくつになるっけ…?」


「もう十分オッさんじゃん。」


「ま、いいや。とりあえず上がりなー。」


そう言って、だらしないお姉さんが屋敷の中へ消えて行く。


「…はいはい、お邪魔しますよー。」


それにオッさんが続いて行く。


「あっ、はいお邪魔します。」


遅れないように、その後に続く。







「で。改めて、何の用?」


案内された部屋に入り、座ると直ぐに尋ねてきた。


「栄養剤をくれ。人間用のだ。」


「病院にでも行けば?」


「…ちょっと他の症状が分からんからな。あと適当に、鎮痛剤と解熱剤も出してくれ。」


「何で要るの?」


「…仕事で使うんだ。」


「『仕事』ねぇ…じゃあ、代わりに何してくれるの?」


「何、ときたか…。」


「お金には困ってないからね。」


「医者に高い金払って買った方がマシだったか?

でもそれも俺の自腹だろ?

それはそれで嫌だなぁ…。」


「じゃあそんな仕事やらなきゃいいのに。」


「いや…それは…そうなんだが…。」


「あの、私の仕事なんです。」


「ペーカ!」


「オッドは黙ってて。

…そうなんだ。で、どんな仕事?」


「えっと、旧王都に親子が居て…母親が病気で、生活に困ってるんです。」


「ふーん?」


「子供もまだ小さくて、お母さんと別れるのは可哀想だから…。」


「それはいいから、仕事の内容は?」


「えっ…?」


「…アンナ、今のが仕事だ。」


「は?」


「…。」


「あっはははっ!オッドの新しい仕事って、ベビーシッターだっけ?それとも孤児院勤め?なんか悪い宗教でも始めたの?」


「帰るぞ。」


「あぁ、待った待った。薬なら出したげる。

ただ、そっちの仕事を手伝うんだから…こっちの仕事も手伝ってよ。」


「仕事って…何を?」


「私は薬を出してそっちの仕事を手伝う。

だからそっちはオッドが私の仕事を手伝う。対等でしょ?」


「何が対等だっ!たった二人のために、いったい…!」


「じゃあ、いいの?」


「オッさん…。」


「…分かった。やればいいんだろ。」


「ふふっ。じゃあ、はい。」


お姉さんが、その辺の棚から、小包をポイポイと投げてくる。


「嬢ちゃんは、それ渡すだけでいいよ。経過観察はオッドがやるから。」


「はぁ。」


「オッドはしばらく借りるから。もう行っていいよ。」


「…はい。ありがとうございました。」


なんだか、取っ付きにくい人だなぁ…。







そのまま、旧王都の、依頼人の元まで向かった。


「すみません、居ますか?」


家を訪ねると、また小さな子が出迎えてくれた。


「おねえちゃん!」


私の事を覚えてたのか、パッと笑顔になる。


「うん。ちゃんと薬、持って来たよー。」


「ほんと!?」


「本当本当。有名な魔女さんが作った薬だよ。」


「すごい!」


「はい、これ。」


小包を渡すと、直ぐに奥へと走って行った。


「…さて。」


名残惜しいけど、オッさんとの約束だ。


薬は渡したから、依頼はおしまい。


経過観察はオッさんがするって言ってたし…。


あとは、心残りを増やさないように、さっさと帰るだけ。


…そうだ。


病気が治れば、きっと元の生活に戻れるだろう。


そして、旧王都の外で会えばいいんだ。


「…またね。」


それだけ言い残し、その場を後にした。




作者「いいセリフを思いついたんだけど、どういうシーンで使ったらいいかなぁ?」


友人「どんなセリフ?」


作者「優しい言葉が欲しいだけなら、お家に帰ってママにでも頼みな!

…あぁ、もうママは死んでるんだっけか。

じゃあすぐにでも会わせてやるよ!

…って言うセリフなんだけど…。」


友人「仮にもギャグ路線なんだから、どんなシーンでも使っちゃ駄目だろ。」


作者「ド正論。ぐうの音も出ねぇ。」


今日も平常運転です。


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