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ナクル村笑日記  作者: 動く点P
6/9

第六話

あれから数日後。


「待って!無理、動かさないで!」


「オッさん…何しに来たのでござるか?」


「いや筋肉痛なの!おじさんは遅れてくるの!」


「…じゃあ家で寝てれば良かったじゃん。」


「しかしキャロリン殿。オッさんが家に一人だと、介護されずに孤独死してるかもしれんでござるよ?」


「誰が要介護ジジイじゃい!…ごめんコップとって。」


「ふひっ!…言ったそゔぁからっ!」


まるで何事も無かったかのような日常に戻っていた。


「あっはははっ!」


ゲラ子さんの、屈託のない笑い声に、いくらか心が救われていた。





「…ん?何この依頼?」


気を紛らわすように依頼のリストを眺めていると、一つの依頼が目に入る。


「どうしたでござるか?」


「いや、なんか一つだけ、明らかに報酬が安いヤツがあるんですけど…。」


「あぁ…たまにあるでござるなぁ。」


「たまにあるんですか。」


「…ま、イタズラみたいなもんだ。」


「えぇ…それギルドは放っとくんですか?」


「まぁな。ギルドとしては、ただの募金みたいな物だからな。」


「どういう事ですか?」


「依頼を出したときに、報酬はギルドに預けるんだ。

だが、誰も依頼を受けずに1年が経つと、依頼は取り消しになり、預けた報酬はギルドの物になる。

一応、依頼人が受けとりに行く事もできるが、俺たちの報酬と同じくらい、手数料を引かれて返ってくる。」


「じゃあ出した時点で、返ってくる事は考えない方がいいんですね。」


「そうだ。だから、バカみたいな依頼は出すだけ損だし、安過ぎる依頼も、金を捨てるようなもんだ。」


「へー。」


「結果として、この仕組みが依頼をふるいに掛けてくれているのでござるよ。」


「…でも、こういう依頼があるんですね?」


手元の、報酬の安過ぎる依頼を見る。


「…そういうのは、依頼人の常識不足だ。相手にしない方がいい。」


「でも…これ…。」


興味本位で依頼内容を見てしまっていた。


「…『お母さんの病気をなおしてください』…って。」


「…医者に診せろ。」


「でも、わざわざギルドに依頼するくらいだから、何かあるんじゃないですか?」


「何かあったとしても、そんな小銭でやる仕事か?」


「それは…。」


「大方、医者に行く金が無くて、こっちに依頼したんだろうよ。

もしくはただのイタズラか、犯罪か。」


「犯罪って?」


「こういう人情に付け込む事書いておいて、釣られたバカを売り飛ばすんだよ。」


「ひえっ。」


「よくある手口でござるなぁ。」


「…でも、もし本当だったら…。」


「おい、受ける気か?やめとけ?」


「まぁまぁオッさん。どっちの結果であれ、こういうのも一つ、勉強でござろう?」


「…マゲはやる気かぁ。じゃあ丁度良かったな、ペーカ。」


「…してやられたでござる。」


「マゲが連れてってくれるってよ。」







「口は災いの元、とはよく言ったものでござるなぁ!はっはっはっ!」


「…なんか、すみません。」


「いやいや、これも仕事でござるゆえ。」


マゲさんと二人で、依頼へ向かう。


「…ところで、この依頼、詳しい場所が書かれてないんですけど…。」


「記録に残っては不味い場所、という事かもしれんでござるなぁ。」


「思いっきり犯罪じゃないですか!」


「じゃあやめとくでござるか?」


「…いや、せっかく付いて来てもらってるので…一応、行ってみます。」


「ではまずは…王都のギルドへ向かうでござる。」


「そんな大きな所に?」


とても、お金に困った病気の親子が居そうな場所ではないけど…?


「王国で発注された依頼でござるからなぁ…場所は心当たりがあるでござる。」


「王都に居るんですか?」


「いや、依頼人は別の場所でござろう。まずは、そこから一番近いギルドで情報収集でござる。」


「すごい…なんか、ちゃんと仕事してる…。」


「仕事でござるからな。」


「でも病気と関係なくないですか?」


「犯罪の可能性があるでござるからな。」


「…やっぱ、信用してないんですね…。」







「着いたでござる。」


船に馬車にと乗り継いで、ようやくと到着する。


「うわぁ!綺麗…!」


石で整備された道に、並んだ石造りの建物。


街灯も立ち並び、広場には噴水があった。


そして何より…。


「人がたくさん!」


「王国の首都でござるからな。これくらいは当然でござる。」


「すご…さすが都会…。」


「観光して帰るでござるか?」


「はっ!…すみません、まずはギルドですね。」


「はっはっはっ。では、はぐれぬように付いてくるでござるよ?」


そう言って歩きだす。


「…で、ギルドはどこですか?」


「アレでござる。」


「アレ?」


「あの、建物の上に見えてる、アレ。」


指差す方の建物…の先に、さらに大きな建物が、はみ出して見えていた。


「うわ…アレに比べたら、ウチのギルドなんて…。」


「はっはっはっ!さすがに、アレと比べてやるのは酷でござるよ。ギルドの中でも、上から何番目かに入るような大きさでござるからなぁ!」


「ひぇー…って、アレより上もあるんですか!?」


「もちろん。ハンターズギルドの総本部でござる。」


「なるほど…それは大きそう。」


「さて、あっちが入口でござるよ。」


「うわ…階段長っ…。」


「はっはっはっ!ほぼ嫌がらせでござるよなぁ?」


「確かに不便ですけど、別にそういう目的じゃ…あれ?でも、じゃあなんでこんなに長い階段が…?」


登りながら、本当に嫌がらせなのでは?と思い始めていた。







「戻ったでござるよ。」


「ありがとうございました。」


ギルドに入ってからは、ほぼ謎の手続きと待ち時間ばかりだった。


それでようやく受付までたどり着けるような状態だったので、全部マゲさんに任せてしまっていた。


「いやいや。こういう場所では、慣れてる人間が、一人で済ませる方が良いでござる。」


この人も、口調と格好で忘れがちなだけで、実際はちゃんと仕事ができる大人なんだと、再確認した。


「…とりあえず、依頼人の所へ向かうでござる。」


「場所、わかったんですか?」


「…まぁ、十中八九、あそこでござろうな。」


「どこですか?」


「…ま、すぐ近くでござるから、実際に見た方が早いでござる。」


そう言って歩き出すマゲさんを、追っていく。


ギルドを出た後、そのまま王都を出て、来た道を辿っていく。


「…あの、戻ってないですか?」


「まぁまぁ。この道を逸れた所でござるよ。」


「逸れる…って、別れ道なんてありましたっけ?」


「舗装されてない道があるのでござるよ。」


「へー!なんか隠し通路みたいでワクワクしますね!」


「…そんなに良いものではござらんよ。さ、この先でござる。」


案内のとおり、舗装された道を外れて行く。


少し歩くと、草木の無い砂地になり、さらに歩いた先に、町が見えて来た。


「へー…こんな所に町が。」


「…町ではござらんよ。」


「えっ?」


「『旧王都』…今はならず者の蔓延る、廃墟群でござる。」


「…え?」


「言葉通り、無法地帯という訳でござるよ。」


「あの…大丈夫なんですか?」


「さぁ?少なくとも、そのための拙者ではござるが。」


「ひぇぇ…なんか怖くなってきた…。」


「引き返すなら、今でござるよ?」


「…でも、ここまで来たし…それに、困ってる人が居るから!」


声に出して、自分を勇気付ける。


「はっはっはっ!ペーカ殿は面白いでござるな!歩む先が見てみたくなるでござるよ。」


とうとう、無法地帯に踏み入れる。


人は少なく、道端にうずくまる者、倒れている者が目に入る程度だった。


「…ここに居るんですか?」


「むしろ、ここしかありえないでござるよ。」


「でも、全然人が居ませんし…。」


「それはそうでござる。皆、寝泊まりのときに来るか、用が無い限り外には出ないかでござるからな。」


「そうなんですか…そしたら、どうやって見つけるんですか?」


「こういう場所には、こういう場所のやり方があるでござるよ。」


そう言って、道端にうずくまっている人に近付く。


「人を探している。ジンメル親子だ。」


言いながら、硬貨を見せる。


生きているか怪しいくらい動いていなかったが、硬貨を見ると、一つの建物を指差した。


「どうも。」


それだけ言って、硬貨を置いて行く。


「…さ、行くでござるよ。」


「…普通に喋れたんですね…。」


「はっはっはっ。」


…やっぱこの人、本当に侍かどうか怪しいなぁ…。


「さて、この家でござったな。」


家の前で、マゲさんが周囲を警戒する。


その後、私に行くようにジェスチャーで指示する。


「…なんかちょっと怖いなぁ。…すみません!」


コンコン、とドアをノックする。


「…はい!」


中から、小さな子が出て来た。


「こんにちは!あなたが、この依頼を出したの?」


そう言って、依頼書を見せる。


「はい!そうです!お願いします!」


確認するやいなや、勢いよく頭を下げてきた。


「えと…。」


「お願いします!助けてください!」


「…こら、お客さんが困ってるでしょ?」


勢いに押されていると、奥から弱々しい女性の声がした。


「あ…ごめんなさい…。」


目に見えてしゅんとする。


「大丈夫大丈夫!それより、お母さんに会わせてくれるかな?」


「うん!」


すぐに、元気よく家の奥へと走って行く。


「…建物内には二人…あの子と、母親でござろうな。やれやれ、犯罪でもイタズラでもなかったようでござるな。」


動こうとしないマゲさんを置いて、先程の子を追いかけて行く。


「あら?若い子が、こんな所に何の用かしら?」


奥の部屋に行くと、顔色の悪い、いかにも弱ってそうな女性がいた。


「あ、お邪魔してます。この子からの依頼でして…。」


「依頼?」


「はい。これがその依頼書です。」


「ちょっと、ハリカ!?いつの間にこんな依頼出したの!?あとお金はどうしたの!?」


あ、お母さん知らなかったんだ…。


「あ…えっと…その…。」


いきなりまくし立てられて困っているようだ。


「…ぐすっ…ごめんなさい…。」


「一人で遠くに行っちゃ駄目って言ったでしょ!?」


やべー、自分が怒られてる訳じゃないのに超気まずい。


「ま、まぁまぁ!お母さんを思ってのご依頼ですし!」


気まずすぎて、耐え切れずに口を挟む。


「だとしても、もうちょっとお金の使い方があるでしょう?

…あぁ、すみませんねぇわざわざ来ていただいて。

見ての通り、貧乏で…満足なお金も払えませんので、今回の依頼は無かった事にしていただけませんか?」


「でも…そしたら、あなたは…。」


言いかけて、言葉に詰まった。


「…どの道、こんな生活じゃ長くは続きません。…むしろ、この子を助けてやってくれませんか?」


「助けるって…?」


「なんでもいいんです。ここから連れ出して、何か仕事でも教えてやってください。

その方が、きっと幸せです。」


「そんな訳無いじゃないですかっ!」


思わず大きな声がでる。


「お母さんと一緒に居たいから、依頼までしてるんじゃないですかっ!」


「だとしても!じゃあ私にどうしろって言うんですか!

…せめてこの子には、希望があって欲しいじゃないですか…。」


「…依頼、ですから。」


根拠が有った訳じゃない。


「お母さんの病気を治すのが依頼ですからっ!私は、この依頼をやり遂げてみせますからっ!」


ただの虚勢だった。


「…絶対、諦めませんから。」


いや、ただの…自分の願望だった。







「いやはや、なかなか熱い啖呵でござったなぁ!」


「あ…聞こえてました?」


「うむ。…それで、具体的にはどうするつもりでござるか?」


「それは…その…。」


「はっはっはっ!ペーカ殿は本当に面白いでござるなぁ!

予定が無いなら、ひとまず村に帰るでござるよ。」


「はい…そうですね。」


「拙者もそろそろ帰りたいでござるからなぁ。」


そう言えば、マゲさんはただ付いて来させられただけ、みたいな状態だった。


「…なんか、本当すみません。」


「いやいや。面白い物を見せてもらったゆえ。」


「はぁ…?」


納得はいかないが、納得はしてくれているようだった。






長くなりそうなので、一旦ここまでで。


何かあった際、まず話の真偽、犯罪か否かを確認するのは基本じゃない?

って思ってたけど、冷静に考えて、他の作品は基本的に治安が良かったですね。

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