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ナクル村笑日記  作者: 動く点P
3/9

第三話

「じゃあ今日は、キャロリンと一緒にお仕事だ。」


次の日、オッさんにそう言われる。


「まぁ順番的にそうですよね。」


「キャロリンはお前さんと同じで、頭よりも体を動かす方が好きなタイプだ。そういう意味でも、俺らよりも勉強になるだろうな。」


「よろしくぅ、ペーカちゃん!」


キャロリンさんがひらひらと手を振って、迎えてくれる。


「は、はい!よろしくおねがいします!」


声が格好良いし、それに似合った短い髪、高い身長に、女性だと分かっていてもドキッとする。


「フフッ…そんなに緊張しなくていいよ?ちゃんとアタシが守ってあげるから。」


「キャロリンさん…!」


以前の二人がアレだったせいで、余計に格好良く見えてしまう。


「あー、あと…それに『さん』は付けなくていいよ。」


「へっ?」


「…あっ、言ってなかったっけ。アタシの名前はキャロライン。キャロリンはオッさんが付けたアダ名だから。」


「そうだったんですか!」


「そうそう。…ま、こっちの方が呼び易いし…アタシとしても、変にかしこまられるより良いからね。」


「キャロリンさんっ…!」


格好良い…!


「あはは、だから『さん』はいらないって。」


「でも…。」


格好良過ぎて、アダ名でも呼び捨てるのが申し訳なく感じてしまう。


「じゃ、じゃあっ!『先輩』って、呼んでも…いいですか…?」


「ペーカちゃん…。」


自分で言い出したのだが、恥ずかしくて目を逸らしてしまう。


「…やべ、可愛過ぎる。オッさん、この子貰っていい?」


「…いいけど、ちゃんと面倒見るんだぞ?」


話を振られたオッさんが、諦めたように言う。


「いや、いいんですか?」


ゲラ子さんがちゃんとツッコんでくれる。


「なにー?ゲラ子、妬いてるの?」


「妬いてません!」


「どっちでも良いから、早く仕事に行ってくれー。」


「はーい。」


オッさんに言われ、ギルドから出る。


「…そういえば、今日の仕事は何ですか?」


散歩に草毟りときて…今日は何を仕事と言われるのか…。


「今日は『魔獣狩り』だよ。」


「魔獣狩りっ!?」


「そう。魔力を持って産まれた、危険な野生動物…『魔獣』の駆除だよ。」


「…本当ですか?」


「本当だよ。」


ついに来た、憧れの『狩り』。


しかし、昨日とその前と、現実の怖さを経験してしまったため、喜びよりも、恐怖が勝っていた。


「…フフッ。そんなに怖がらなくても、アタシが付いてるから、大丈夫だよ。」


「先輩っ…!」


「という訳で、行こっか。」


村の外へと、昨日整備した道を歩いて行く。


「…で、どこに行くんですか?」


「海の方。エレフシナって漁村。」


「海って…ここ、山ですよね?」


ここ…ナクルの村は、アスタナ地方のナクル山の麓にある村だ。


「そう。だけど、この辺りには、ここしかハンターズギルドが無いからね…。必然的に、アタシたちが呼び出されるのさ。」


「…仕方がないとはいえ、不便ですね。」


「ギルドがあるだけ、まだマシさ。」


ギルドが無い所は…どうしてるんだろう?


産まれも育ちもこの村だったペーカには、想像がつかなかった。


だから、訊いてみることにした。


「あの、ギルドが無い所は、どうしてるんですか?」


「そうね…大きい所だと、国が兵士や学者なんかを抱えてたりするね。小さい所は…今みたいに、他所から呼びつけるか…自分たちで何とかするか、じゃない?」


「へー、そうなんですね。」


「まーこういう話は、アタシよりもオッさんの方が、詳しいよ。」


「そうなんですか?」


「そうそう。アレでも、その『大きい所』から来た人だからねぇ。」


「そうだったんですか!?」


「あははっ!ま、今はただのおっさんだからねー。」


そんな風に、たわいない話をしながら歩いていると、キャロリン先輩が急に道を逸れて薮に入って行く。


「先輩?どこ行くんですか?」


「アタシの家。」


「家?村の外にあるんですか?」


「そうだよ。ついて来て。」


先輩の後を追い、薮に入って行く。


そうして、少し歩いた先に、滝に出た。


「おー!滝だ!」


「そ。ここがアタシの家。」


「…え?」


「ここ…って、滝しか無いですけど…。」


「そう。この滝壺がアタシの家。」


「え?」


「あれ?言ってなかったっけ?アタシ『セイレーン』だって。」


「…そう言えばそうでしたね。」


見た目が普通の人だったので実感が持てず、すっかり忘れていた。


「あはは!ま、忘れられてるって事は、それだけアタシも人間に溶け込めてるって事だね。」


さすが先輩、前向きに捉えてくれた。


「じゃ、元の姿に戻るから。…見ても驚かないでね?」


「はいっ!」


『セイレーン』の元の姿…実物を見た事が無いので、おとぎ話の人魚を想像する。


…が、先輩の皮膚が溶ける様に消えていき、代りに水色の鱗に覆われた肌が出てきた。


手足がヒレのようになり、全身が鱗に覆われ、顔は人のままだが、青白くなっていた。


「…って、服は!?」


「服?鱗が服みたいなもんじゃん?」


「いやまぁそうかもしれないんですけど!」


「アタシらは水の中で生きる種族だからねぇ。見られても大丈夫なように進化してるのさ。」


「いやそういう理由!?」


確かに、人間で言えば裸の状態だが、セイレーンは鱗に覆われているうえ、泳ぐのに邪魔になるのか、胸も消えていた。


「…こうなると、男か女か、本当に分かんないですね…。」


「あははっ!よく言われるよ!」


「…って言うか…。」


「ん?」


人魚を想像していたが…どちらかというと、半魚人みたい、と思ったが…。


「いえ、なんでもないです…。」


さすがに口にはしないでおいた。


「その割には残念そう…あ、ひょっとして人魚を想像してた?」


が、すぐにバレた。


「…それは…なんか、ごめんね?」


しかも謝られた。


「…とりあえず、行こっか?」


気まずい空気を変えるように、そう切り出してくれた。


「行くって…ここから海に?」


もう嫌な予感しかしない。


「そうだよ?」


「…一応、理由を訊いても?」


「ん?泳いだ方が速いじゃん?」


「知ってた!知ってたよ!それ先輩だけです!人間には無理です!」


「え…そうなの…?」


「そうですよ!?」


「え…じゃあどうしようか…陸路だと、海に着く頃には日が暮れちゃうな…。」


「…なんか、足引っ張ってるみたいですみません…。」


「いやいや、いいよ!ペーカちゃんに見てもらうのが、今日のアタシの仕事だから!」


「そうなんですか?」


「そうそう。だからついてきてもらわないと、意味がないからね…そうだ!おんぶして泳ごっか!」


そう言って背を向ける。


「いや背中!ヒレ!」


が、背中には立派な、一際大きなヒレが生えていた。


「…あ、そっか…ダメか…。」


本人も忘れてたようだ。


「…じゃあ前に抱えよう!」


「なるほど…それなら…って、私人間だから、息もたないですよ!?」


「大丈夫大丈夫!魔法で息できるようにしてあげるから!」


「わー便利。」


「じゃ、行くよー!」


がっちりと、背中から抱きつかれる。


鱗だからか、想像以上に硬く、体温も低いようだ。


そんな事を考えていると…。


「え?」


ふわっと足が地面から離れる。


ドボン!


音をたて、水中に落ちる。


「ちょっ!?いきなり!?…あ、凄い。息だけじゃなく、ちゃんと喋れる。」


「あ、口は開けない方がいいよ?」


「え?何でですか?」


「舌噛むと危ないからねー。」


舌噛む?


疑問に思いつつ、口を閉じると…。


「うわぁぁあああ!?」


ものっすごいスピードで進み出した。


怖い。


普通に怖い。


何が怖いって、無理矢理引っ張られてる状態なのと、抱えられてるので、川底ギリギリを通ったりするのだ。


「ぎゃぁぁぁあああ!」


『歩くより速い』…その時点で、警戒するべきだったと、強く反省した。







「じ…じぬがどおぼっだ…。」


水から上がり、海水と弱音を吐く。


「あははっ、すぐ慣れるよ!」


慣れたくない…素直にそう思った。


「…あと、私ずぶ濡れなんですけど…。」


「え?…あ、そっか。」


「やっぱり忘れてる!」


「あはは、ごめんごめん。アタシの場合、服も擬態の一部だからねぇ。」


そういうと、鱗がみるみる皮膚と服に覆われていき、最初に会ったときの人間の姿になった。


「擬態だったんですか!?」


「そうそう。人間に見えてるだけ。実際は鱗のままだよ。」


「そうなんですね…。」


「…あれ?なんか疲れてる?」


「…いえ。」


疲れてる、というよりも、振り回され過ぎて、テンションが保たなくなってるのだが…。


「大変!速く仕事を終わらせなきゃ!すぐそこだから、ちょっと待ってて!」


そういうと、先輩が洞穴の方へ走って行く。


待っててとは言われたももの、一応後を追って洞穴を覗くと…。


「オラァッ!」


ドンッと鈍い音が洞穴の中に響く。


バウバウと、犬のような鳴き声が、負けじと鳴り響く。


「…えぇ…?」


キャロリン先輩が、野犬の群れと、素手で格闘していた。


先輩が噛まれると、ガチッっと硬い音が鳴る。


噛まれたまま、手足を振り回し、野犬たちを岩壁や地面に叩きつけていく。


「凄い…!」


凄い力技だ…!


もうちょっと魔法の一つでもあるのかと思いきや、本当に物理である。


そんな事を考えているうちに、野犬が全て動かなくなっていた。


「村が近いからねぇ〜。畑を荒されたりしてたんだって。」


今頃説明しながら、こちらへ戻ってくる。


「…いやそれより!野犬振り回すって、すごい力ですね!」


「まぁ、セイレーンだからね。」


「セイレーンって、そんな筋肉質なんですか!?」


「あぁ、セイレーンに限らず、魔力を強く持った生き物はだいたいそうだよ。」


「そうなんですね…。」


確かに、色々勉強になった。


とりあえず、私には真似できないということ。


「さて、じゃあ、帰ろっか!」


そう言って先輩が、さぁ来いと両腕を広げる。


それに、笑顔で返す。


「いえ、帰りは歩きます。」





先の展開が、クソほどリテイクくらいました。

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