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ナクル村笑日記  作者: 動く点P
2/9

第二話

「今日はマゲの仕事についていってくれ。」


翌日、オッさんにそう告げられる。


「マゲ…チョンマゲさんですか?」


あのファッション侍の人?


「あぁ。ひとまず、お互いに仲良くなるためと…色々勉強してもらうためだ。」


「…勉強ですか…。」


「そんなに難しい話じゃない。色々なモノを見て、色々な話を聞いて、お前さんが『どういう仕事をやっていきたいか』、考えるための勉強だ。」


「…えー…すでに難しいです。」


「おっと、話が長かったか。…まだまだ俺も、勉強が足らんな。」



「ペーカ殿、待ってたでござる!」


村の入口で、Tシャツ姿の侍…侍?に笑顔で迎えられる。


「…チョンマゲが無かったら、誰だか分かんないですよ?」


「ははは、このチョンマゲが、拙者のアイデンティティでござるからなぁ!」


「いや言葉遣い。」


それで良いのか侍?


「では早速、現場に向うでござる。」


そう言うと、何かの道具を少し積んだ、ほぼ空のリヤカーを引いて、村を出て行く。


「…そういえば、今日は何の仕事なんですか?」


「む、説明がまだだったでござるか。では、道すがら話すでござる。」


「お願いします。」


マゲさんの横に並び、ついていく。


「では今日の仕事でござるが…簡単に言うと、草毟りでござる。」


「草毟り…。」


また仕事にならなそうな内容だけど…。


「はは、心配なさるな。『ペーカ殿に頼む分は』、でござる。」


「それなら…いやそれでも草毟りて…。」


「改めて、今日の仕事は、この村唯一の道を整備する事でござる。」


「…道の整備…ですか?」


「そうでござる。この村は山の麓にござるゆえ、入口がこの道に限られているのでござるが…その道も、誰かが手入れしないと、すぐに草木に覆われてしまうのござるよ。」


「へー…でも、ハンターの仕事として、どうなんですか?」


「はは、ペーカ殿は正直でござるなぁ。もちろん、ちゃんとした理由があるでござるよ。」


「そうなんですか?」


「まず、この村が、他の村や街と遠く離れた、田舎だからでござる。」


「そうですね?」


でもそれと何の関係が…?


「遠く離れているゆえ、わざわざ専門の業者を呼びつけると、嫌がられる上に、高くつくのでござるよ。」


「めちゃめちゃ大人の事情!」


「それに、草木が生え過ぎてしまうと、野生の動物が、この道に顔を出したりして危険でござるからなぁ。」


「ちゃんとハンターの仕事だった!」


「村や人を守る事にも繋がるゆえ、ちゃんとした仕事として、依頼されるのでござるよ。」


そうだったんだ…。


「…でも、ハンターじゃなくても、村の誰かが、そういう業者になってたりしないんですか?」


定期的に必要なら、その方が良い気がするけど?


「それは難しい話でござるなぁ。」


「どうしてですか?」


「まず、コレで稼げるほど、いつもある仕事じゃ無いでござるからなぁ…ウチの村でやっていける職業では無いでござる。」


「そうなんですか…。」


「したがって、仕事ではなく、ボランティアとしてやるか…誰か便利屋にでも押し付けるか、になるのでござる。」


「ふーん…ん?今押し付けるって…?」


「おっと、失敬。依頼する、でござったな。」


ははは、と豪快に笑い飛ばす。







「では、この辺りから始めるでござる。」


そう言うと、道端に停めたリヤカーから、ノコギリを取り出す。


「この辺りの木は、細い分、すぐに数が増えたり、伸び過ぎてしなってきたりと、面倒な種類でござってなぁ。」


文句を良いつつ、ギコギコとノコギリで木を切っている。


「…あの…一応訊きますけど…。」


「なんでござるか?」


「その腰に提げた刀は?」


Tシャツ姿でも、相変わらず刀を腰に提げていた。


「もちろん、ファッションでござるよ。」


「切る訳じゃないんですか…?」


「何を言うかと思えば…刀で木が切れる訳無いでござろう?」


「そうなんだけど!正論なんだけど!何か違う!」


「はは、すぐに慣れるでござるよ。」


そう言いつつ、Tシャツ姿の侍が、ノコギリを引いている。


「…コレに慣れて良いのだろうか…?」


疑問を抱きつつも、草毟りを始める。


「柵の周りを、特にお願いするでござるー!」


離れた場所から、指示が飛んできた。


「はーい!」


同じように、大きな声で返事をし、柵の所へ向かう。


この村唯一の道に、獣が入ってこないようにするための、簡易的な柵。


それも、野晒しなので、見るからにボロボロだった。


「それの修理も、今日の仕事でござるよ。」


こちらの様子に気付いたマゲさんが、切り倒した木を持って来た。


「ちょうど、木材が手に入ったでござるからなぁ!」


「なるほど。」


それも含めて、道の整備か。


「…え、二人で全部するんですか?」


隣の街まで、結構な距離があるんですけど?


「はは、心配なさるな。流石に今回は、全部ではござらんよ。」


「そうですか…!」


流石にほっとした。


「この辺りと、少し先の二箇所が依頼されている場所でござる。あとは…時間と気分次第で、適当にやっておけばいいでござるよ。」


「良いんですか…。」


「最低限、依頼されている分はやっているでござるからな。」


…まぁそれで良いならいいんだけど。


早く終わらせてしまおうと、再び作業に戻る。


背の高い草を引き抜き、一箇所にまとめていく。


ただただ単調な作業だ。


顔を上げれば、道を挟んだ反対側にも草むらが目に入る。


「…これは、一箇所でも大変かもしれない…。」


ただの草毟り。


間違いなくただの草毟りなのだ。


それゆえ、退屈で、気が進まない。


「…しかも暑いし、地味に疲れるし…。」


ブツブツと、愚痴がこぼれる。


「…まあ、頭使う仕事とか…命の危険があるよりかは、よっぽどマシだけど。」


昨日のように、バーゲストに追い回されるのはもうイヤだ…。


その想いが届いたのか、一箇所目は何事もなく作業が終わった。







「いやー、やはり、二人だと作業が早いでござるなぁ!」


二箇所目に向かう道中、マゲさんが上機嫌に言う。


「雑よ…ペーカ殿を寄越してくれた事、オッさんに感謝でござるなぁ!」


「今雑用って言いました?」


事実そうなんだろうけど!


「…て言うか、感謝なら目の前の私にしてくださいよー!」


「はは、そうでござったな!感謝感激でござるよ!」


わざとらしく、大げさに感謝してくれる。


「という事で、ここも宜しく頼むでござるよ。」


マゲさんが指差して言う。


ここが二箇所目か。


「あれ?柵が倒れてますね。」


「まー、野晒しだと、そんなもんでござるよ。」


そう言って、再びノコギリを手にし、木を切りに行く。


「ペーカ殿、倒れてる柵をどかしといてもらえぬか?」


「はーい。」


返事をし、倒れた柵に手を掛ける。


ガサッ。


「…ん?」


正面の草むらから、音が鳴る。


…正面?


後ろを振り返ると、マゲさんがギコギコとノコギリを引いている。


という事は…。


恐る恐る正面を向き直すと、黒い何かが視界に入る。


「ちょっ…!?」


昨日の反省を活かし、気づかれないようにマゲさんの方へ急ぐ。


「ちょっと、マゲさん…!何か居るんですけどっ…!?」


黒い何かの方を指差す。


「む?…あれは…シュヴァルツェスシュヴァインでござる!」


「何それ強そう!?」


「直訳すると、黒い豚でござる!」


「大したこと無かった!?」


「ちなみに、ブラックボアの方が一般的な呼び名でござる。」


「じゃあ何でわざわざマイナーな方で言ったんですか!?」


「無論、格好良いからでござる!」


「んな事言ってる場合じゃ…って!やっぱり気づかれてますよ!?こっち来てますよ!?」


「ブラックボアは、猪によく似ているでござるが…体が大きく、黒いのが特徴でござる。」


「そんなもん見りゃ分かります!」


「あと、力が強く、好戦的でござる。」


「それって『危険』って事じゃ…ぎゃぁぁぁこっち来てるぅ!」


一目散に逃げ出す。


「逃げると余計に追いかけてくるでござるよ?」


言いながらマゲさんが並走する。


「それを先に言ってくださいよ!」


「ははっ、失敬失敬。」


「絶対わざとですよね!?」


村とは逆の方向に、道を全力疾走する。


「…そうだっ!マゲさんっ!格闘技が得意なんですよね!?」


なら猪くらい何とか…!


「あー…駄目でござる。」


「駄目なんですか!?」


「格闘技は人間限定でござるゆえ…獣はちょっと…。」


「何でハンターやってんのこの人!?」


「困ったでござるなぁ…コレを使わざるを得ないでござるか…。」


そう言って、腰の刀の柄に手を置く。


お、なんだ…やっぱり刀使うんじゃん。


「ペーカ殿、少し下がっておれい!」


猪を引き付けるように、大きな声で指示を出す。


「はいっ!」


マゲさんから離れ、後ろ姿を見る。


腰を落とし、左手で鞘を持ち、右手で柄を手にする。


その状態のまま、時が止まったように静止している。


その後ろ姿だけで、『凄い人なんだ』と実感する。


「秘剣…」


そこに、猪が突進してくる。


「鞘殴りっ!」


左手を離し、右手で掴んだ刀を思いっきり振り抜く。


「鞘ごと行った!?」


振り抜いた刀…の鞘で頭を殴られた猪が、横たわる。


その状態で、泡を吹き、手足を痙攣させている。


「まだ息がござるか…すぐに楽にしてやろう。」


害獣である以上、そうせざるを得ない…憐れみのような声色で、猪に語りかける。


近寄り、刀を握り直す。


ああいうの…介錯って言うんだっけ?


そっか…苦しませないように、刀を使うのか…。


両手で柄をしっかりと握り、刀を振り上げる。


「…ん?待って、ちゃんと鞘から抜いた?」


「ふんっ!」


声とともに、ドンッと鈍い音が響く。


「最期まで鞘ごと行った!?」


「ははっ、やはり鈍器は良いでござるなぁ。」


「とても侍のセリフじゃねぇ!」


静かになった道に、私の叫び声とマゲさんの笑い声だけが響いた…。

筆者「ギャグ書きたい」

筆者(現在)「あれ…必要な事を書くだけで埋まっていく…ギャグ入れる場所がない…」

友人「お前ギャグ向いてねぇわ」


ついつい余計な部分が気になっちゃうタイプです。

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