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ナクル村笑日記  作者: 動く点P
1/9

第一話

みなさんこんにちは!


私の名前はペーカ・サラマンカ!


今日からいよいよハンターになります!


どんな冒険が待っているのか、ワクワクします!


「っと、遅刻しないように…急がなくちゃ!」


私の冒険は、ここから始まるんだ!




これは、私たちのいる世界によく似た、別の世界でのお話。


違うのは、遥か昔から『魔法』があったこと。


『魔法』によって、生物の進化がより豊かであること。


そして、人間にとって危険な生物の駆除を専門とする『ハンター』と呼ばれる職業があること。


そんな『ハンター』たちの、ごく一部の生活の記録を見ていきましょう。




「こんにちは!今日からよろしくおねがいします!」


『ハンター』たちが集い、仕事の受注や報告を行う場所『ハンターズギルド』…その扉を開け、元気よく挨拶をする。


そして、目に映ったのは…


「ちょ、ちょっと待っ…あ痛っ!今動かしたら駄あたっ!」


何故か四つん這いのおじさんと…


「キャロリン殿〜、オッさんの腰がまた悲鳴を上げてるでござる〜。」


それに付きそう侍と…


「悲鳴を上げてるのはオッさん本体でしょ?」


謎のツッコミを入れるハスキーボイスのお姉さんと…


「肩持ちましょうか?」


慣れた様子で介護に入るお姉さん。


「さすがゲラ子!お前だけが頼りだ!」


「はいはい。いきますよー。」


「ちょ待って、肩!肩上がんない!それ以上無理!痛い痛い痛い!」


…なんだこれ。







「いやー見苦しい所をみせたね。」


椅子に座り直させてもらったおじさんが、改めて挨拶する。


「俺の名はオッド・パストーレ。皆からは『オッさん』と呼ばれている。」


「まんまですね。」


「いやいや、どう見てもまだ『お兄さん』だろ?」


「いやもう腰も肩も限界迎えてますよね?」


「はっはっはっ!膝もだぞ!」


「えぇ…。」


「…でー…君は、何の用でここに?」


「あっ、今日からこの支部のハンターになります!ペーカ・サラマンカです!」


「…あー…そういや新しい子が来るって言ってたっけ…あれ、今日だっけ?」


オッさんが、介護してくれてたお姉さんにたずねる。


「今日で間違いないですよ。」


「は〜。時間経つの早いねぇ。」


「では、私も自己紹介を。」


お姉さんがこちらに向き直り、完璧な笑顔を作る。


「『ハンターズギルド マトマタ支部』の事務担当の…」


「ゲラ子だ。」


お姉さんを遮ってオッさんが言う。


「ちょ、いきなりそれ言うんですか!?まだ私名前も言ってないんですけど!?あとそのアダ名やめてくださいって言ってるじゃないですか!!」


「はっはっはっ。」


「笑い事じゃないです!…まったく。」


ため息をつき、また完璧な営業スマイルに戻る。


「改めまして、マリー・ベルフィーユです!」


「でも皆からは『ゲラ子』と呼ばれている。」


「呼ばれてないです!呼んでるのはオッドさんだけです!」


「…そうだっけ?」


「そうですよ!…そうで…あれ、ひょっとして、皆さん呼んでました?」


「ゲラ子の気のせいじゃない?」


ハスキーボイスのお姉さんと、


「ゲラ子殿はゲラ子殿でござろう?」


侍が不思議そうな顔で返事をする。


「やっぱり呼ばれてたーっ!!」


ショックを受けるゲラ子さん。


ゲラ子さん…あれ、本名何だっけ?


「…て言うか、なんで『ゲラ子』なんですか?」


オッさんに尋ねる。


「それはだな…見てもらった方が早いだろう。と、いう訳でちょっと鶏の真似をしてくれ。」


無茶振りで返ってきた。


「えぇ…まぁいいですけど。」


「いいんだ…ぶふっ…。」


ゲラ子さんは手で口を抑えて、笑いを堪えているようだ。


「いきますよ…。」


真横を向き、スッと背筋を伸ばす。


その状態から顔だけ横を向き、また正面、下、正面と向いていく。


「ひぁっ!…っはははっ!ちょっ!だっ!〜っ!な、鳴き声とかじゃ、ないんだっ!?なにしてんのかとっ!ひっ!あっ!だべっ!あっはははっ!」


めちゃくちゃ大きな声で笑いだすゲラ子さん。


「な?」


オッさんが『言った通りだろう?』と同意を求めてくる。


「なるほど。」


これはゲラ子さんだ。


「あぁなると、しばらくは何を言っても笑う状態でござる。」


呆れたように侍の人が言う。


「紹介がまだだったな。この侍は『チョンマゲ』だ。『マゲ』って呼ぶといい。」


「よろしくでござる。」


「え?あぁ、そうなんですか?よろしくおねがいします?」


「特技は格闘技で、彼の必殺・膝十字固めから逃げられた者は居ない。」


「照れるでござるなぁ。」


「いや刀じゃねぇのかよ!?」


「この刀はファッションでござる。」


「この人本当に侍!?」


「最後にキャロリンだ。」


エセ侍をスルーして、奥のハスキーボイスのお姉さんを指す。


「よろしく〜。」


ひらひらと手を振る。


「彼女は『セイレーン』といって、歌が得意な種族なんだ。」


「へー!通りで格好良い声なんですね!」


「だが喉が潰れてて、一曲まともに歌うのが辛いそうだ。」


「セイレーンの意味ねぇ!?」


「特技はデスボイスだ。」


「あたしのスクリームで魅了してやるぜ。」


「イメージと違う!」


「ちなみに、陸で生活するために魔法を使ってるから、攻撃手段は全て物理だ。」


「腕が鳴るね。」


「頼もしい!でもなんか思ってたのと違う!」


こうして、期待してたのとは違ったけど…これはこれで楽しい日々が始まった!



「では本日は、書類関係の手続きと、明日からの研修の説明を行います。」


復活したゲラ子さんから、そう説明される。


「うへー、書類ですかぁ?」


「ちゃんと読んでからサインしてくださいね。」


そう言って数枚、紙を渡される。


内容は、ギルドにハンターとして登録するためのものだ。


「あと、こちらの登録証にも名前をおねがいしますね。」


今度はカードのような、少し固い紙を渡される。


「おぉ!これ見たことあります!」


「えぇ。ギルドに登録してあるハンターである事を証明するものですので、ハンターなら皆持ってますから。」


「はい!ウチのおじいちゃんが持ってました!」


「あ〜…以前所属してた、っていう方が…ペーカさんのお爺さんだったんですね。」


「はい!もう歳なんで、無理そうでしたもん!」


「かなり高齢でしたし、まぁそうでしょうね…。」


「でも『代りが見つかるまで、ワシがこの村を守らにゃならん!』っていつも言ってました!」


「その節は…遅れて申し訳無いです…。」


「いいんですよ!未だに『若いもんに任せられん!』って、山に行こうとするくらいですから!」


「それ大丈夫なんですか!?」


「毎日おじいちゃんを力ずくで諦めさせるのが、我が家の一日の始まりです!」


「どんな家庭!?」


「『やめて、おじいちゃん!おじいちゃんが山から帰って来ないってギルドに依頼しなきゃいけなくなっちゃう!』って。」


「ぶふっ!ひ、いや、再現しなくて、ひいで…。」


「『そしたらワシが探して来てやる!』」


「あっ!はははっ!やめ、続き言わなひでっ!」


腹を抱え、ヒィヒィと笑いだすゲラ子さん。


本当によく笑う人なんだなぁ。




〜しばらく後〜




「んんっ!…では、研修の説明をしますね。」


ゲラ子さんがわざとらしく咳払いをし、落ち着きを取り戻す。


「これから、『教官』に付いて仕事をしてもらいます。」


「おぉ!どんな人なんですか!?」


『教官』という響きにワクワクする。


「いえ…さっきお会いした、オッドさんですけど…。」


「え、あの人教官なんですか!?」


「一応、そういう立場ですね。」


「…大丈夫なんですか?」


先ほどの、介護されていた姿が頭をよぎる。


「大丈夫ですよ。教官に選ばれるだけあって、ちゃんと実力も実績もありますから。…今は…体の方が…アレですけど。」


「いやそこが一番の問題ですよ!?」


「…まぁとにかく、明日からはオッドさんの指示に従ってください。」


「はーい…。」


不安が残るが、そう言われたので、諦めるように返事をする。




〜次の日〜




「えー、では、本日より『教官』として付くことになるオッド・パストーレだ。よろしく。」


昨日とは打って変わった、真面目な態度に、思わず緊張する。


「はい!よろしくおねがいします!」


「えーっと、なんだっけ?…ペー…ペー…ペー子?」


「ペーカです。」


やっぱ駄目そう。


「はっはっはっ。惜しかったな。」


「いえ一文字でも違ったら別人です。」


「まぁそれはそれとして…今日はとりあえず、俺と一緒に山に行くぞ。」


そう言ってオッさんが歩きだす。


「細かい説明は歩きながらだ。」


その後についていく。


「一応確認しておくが、装備品は大丈夫か?」


「はい!武器に防具、傷薬や包帯…あとお弁当!」


言いながら、メイス、バックラー、金属製の防護板の付いた革の服と、鞄の中身と、今日の装備を再確認する。


「よーし、それだけ揃ってりゃ十分だ。…と言いたいが…必ずこれを持っておけ。」


そう言って円筒を渡される。


「発煙筒だ。助けが必要だと知らせるための物だ。御守りだと思って、ずっと鞄に入れとけ。」


「分かりました!」


すぐに大事に鞄へ仕舞う。


「じゃ、改めて、今日の仕事の説明だな。」


「そう言えばまだ聞いてませんでした!何をするんですか?」


初めての仕事に、ワクワクする。


「今日は散歩だ。」


「…は?」


「初めての仕事にピッタリだろ?」


「…いやいや、散歩て…仕事にならないでしょ。」


「まぁ、ただの散歩ならな。」


「…違うんですか?」


なんだ、びっくりした。


「何も無い事を確認するための散歩だ。」


「やっぱりただの散歩じゃないですか!」


「いいや、全然違うぞ?」


「本当ですかぁ?」


「疑ってるな?だがこれも、ちゃんとした仕事だ。」


「えー。」


「文句が出るのも仕方ない。だが、実際はこういう地味な仕事がほとんどだ。」


「そうなんですか?」


「あぁ。危険な害獣駆除が華形だから、そればっかりイメージになってるが…実際、そんな危険な害獣がうようよ居る訳じゃない。いたら今頃俺たちゃ滅んでる。」


「まぁ、ですよね。」


「だから、危険『かもしれない』場所の哨戒や、そういう場所での狩りや採集、そこを通る護衛や輸送なんかが主な仕事だと思っていい。」


「へー…色々やるんですね…。」


「そりゃ、そうでもしないと、仕事が無いからな!」


「えぇ…大丈夫なんですか…?」


「だが実際、ギルドが間に入る事によって、相手は仕事を依頼しやすいし、こっちは仕事を探し易い。そして何より、お互い信用できる。なかなか良い仕事だぞ?」


「そうなんですか…。」


「ま、細かい事は気にせず、自分にできそうな仕事だけやってりゃいいさ。」


と言われても、今日のような、楽な仕事の方が少なそうな気がするけど…。


「よーし、じゃあ山に入るから、最後の確認をしておけー。」


そう言って、オッさんが肩に掛けていたクロスボウの点検をする。


「おー!なんだかハンターっぽいですね!」


「だろ?」


それが済むと、いよいよ山へ入っていく。


「この辺は、小さい頃によくおじいちゃんと来てたんですけど…慣れてるはずなのに、なんだか違って見えます!」


人が通って出来た道に、木の柵など、入口付近は整備されている。


「そりゃ、子供が遊びに来てるのと、大人が仕事で来てるのじゃ、見え方も違ってくるさ。」


そこから、人の手が入っていない、完全な草むらへと入っていく。


「蛇とか気をつけろよー。」


「はーい。」


「この辺は、毒は大したこと無いが、逃げずに噛み付いてくるからなー。」


「…やっぱ、ハンターって、そういうのに詳しいんですね…。」


「まぁ、そりゃ仕事柄な。」


「私、覚えられるかなぁ…。」


「最悪、覚えなくてもやってけるぞ。」


「そうなんですか!?」


「あぁ。俺だって、動物に植物、虫や土地柄と、色々あんのに全部覚えてる訳じゃない。」


「それでも大丈夫なんですか?」


「あぁ。ギルドには、俺たちみたいな肉体労働のハンターの他に、頭脳労働の学者さんたちがいるんだ。」


「そうだったんですか!」


「そうだ。その学者さんたちが、情報を調べたりまとめたりして、それをギルドが管理する。俺たちハンターは、ギルドに申請して、必要な情報を買うんだ。」


「お金が要るんですか…。」


「そりゃ、学者さんも仕事だからな。」


「へぇー…。」


「ま、『自分で調べて覚えてけ』って言われるより、金で解決する方がマシさ。」


「…まぁ、そりゃそうですよね…。…おっと。」


急にオッさんが立ち止まる。


「…どうしたんですか?」


「…獣の匂いがする…マズいな…。」


「マズいんですか…!?」


「何もいない事を確認したかったんだが…やっぱりいたか…。」


「え、ちょっと!?」


「シッ!大きな声を出すなっ。」


ガサッ。


声を聞きつけたのか、草むらから音が鳴る。


グルルルル…。


低い、獣の唸り声が聞こえてくる。


「ひぇえ…。」


「よし、逃げるぞ。」


そう言うと、オッさんはさっさと来た道を引き返す。


「えぇ…良いんですか…!?」


声を潜めて尋ねる。


「あぁ。ありゃ駄目だ。」


「どうしてですか?」


「そもそも、今日の仕事は、アイツがいるかもしれないから、確認して来いっていう話だ。」


「で、その『アイツ』って?」


「バーゲストだ。」


「バーゲスト?」


「野犬みたいなヤツだが、そこそこデカくて、爪と牙と血液に毒がある。」


「メチャクチャヤバいヤツじゃないですか…!?」


「ヤバいなぁ。はっはっはっ。」


「いや笑い事じゃない…ってうわぁぁあああ!!ついてきてるぅぅううう!?」


「走るぞ!」


「ぎゃぁぁぁあああ!!」


「そのまま振り返らず走れ!」


「オッさん…!?」


「俺がなんとかする!」


「オッさん…!!」


さすがは教官!


頼りになる!


安心して走り出すが…。


「こっちについて来てるんですけど!?オッさん!?どこ行ったの!?」


山中をバーゲストと追いかけっこする事数分。


「ヤバい…防具重い…疲れた…。」


なんとか木の陰に身を隠すも、依然として近くにはバーゲストがうろついている。


ガサッ、ガサッ、ガサッ。


草むらを掻き分けて進む音が、近付いて来る。


あぁぁ…終わったぁ…。


キャインッ!


「へ?」


諦めかけていたその時、急に犬の情け無い声が聞こえる。


ガサガサと草むらを掻き分ける音が、今度は遠ざかって行く。


「助かった…!?」


安心しようと、木から顔を出す。


すると、さっきまで元気に追いかけて来ていたバーゲストが、数本の矢に射抜かれて倒れていた。


「よーう、助かったぜ!」


「オッさん!!」


ひらひらと手を振りながらオッさんが現れる。


言いたい事は山ほどあるが、助かった事に安堵して、緊張がとける。


「歳とると、追いかけっこは辛くてなぁ。はっはっはっ。」


「だからって…私を囮にしなくても…。」


「怖かったか?」


「そりゃ…もちろん。」


「そうだ。この仕事は命が掛かってる、怖い仕事なんだ。」


オッさんに言われて、ハッとする。


おじいちゃんの土産話に憧れて、頭よりも体を動かすのが好きでハンターになったが…今の今まで命の危険に、実感を持っていなかったのだ。


「ごめんなさい…勉強になりました…。」


涙を拭い、立ち上がる。


「でもそれはそれとして、いきなり私を囮にするのはどうかと思います。」


皆様はじめまして!

筆者動く点Pでございます。


とりあえずストーリーが固まったので、投稿を開始いたしました。


今回の目標は『完結させること』に加え、『あまり長期間サボらないこと』を目指します!


それでは、また!

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