奴隷、ちょっぴり怒る
「よくもミアを! 絶対に許さない!」
(おかしいな? あんまり入った感覚ないし、あれなら普通に防がれていたような気がする。ま、いいか)
主人の魔力が増幅して行く。
「バーンアップ、ギアアップ、見切り、縮地!」
一瞬で悪魔との距離を詰めた主人は剣を再び掲げる。
「聖剣の霹靂!」
(さっきの攻撃で悪魔特攻のスキルを獲得している。今なら、普通に入る!)
悪魔は先程よりも変わった剣を警戒し、回避する。
しかし、それでは主人の動きは止まらず、刃を切り返し短いスパンでの攻撃を繰り返す。
悪魔は残った手を前に突き出し、魔法を放った。
一瞬だけ出現する魔法陣を確認し、即回避する主人。
主人の背後が大爆発で包まれる。
「あらま」
取り敢えず木々を回復させておこう。森はなんの罪もないんだから。
(は? 今木が⋯⋯と危ない)
「ちょこまかと。逃げるな卑怯者!」
「逃げているんじゃない躱しているだ。相手の攻撃を無傷で耐える、結構常識だと思うぞ!」
悪魔が手刀を作り、主人の顔を目掛けて突き出す。
主人は顔を倒してそれを既の所で躱すが、掠る。
(攻撃の後は少し隙が出来る。叩くのは、ここだ!)
「ジャイアントキリングだこの野郎! 武技、剣技加速!」
主人の剣が加速し、素早く悪魔の腹を裂く。しかし、浅かった。
「虫けらがっ!」
「その虫けらに斬られる気分はどうだよ! お前だけは、絶対に許さない! ミアの分、俺がお前を倒す!」
私は現在木陰で気配を消して主人の戦いを観ていた。
主人が悪魔に対して攻撃を与えられ、あまつさえ攻撃が通った。
最初の『聖剣の霹靂』は本来意味が無かったのに、二回目の『聖剣の霹靂』は私の力なく剣が悪魔を斬った。
それは本来有り得ない光景である。
「主人は戦いの中で、急成長しているな」
このまま長期戦をしたら悪魔の方が体力的にも魔力的にも勝つだろう。
だが、主人が激的な急成長を果たした場合、もしかしたら悪魔を単独で倒せるかもしれない。
ま、それも悪魔が人間界の空気に完全に慣れない場合だが。
私との戦闘のせいで、予想よりも速く慣れ始めている。
やっぱり失敗だったか。
「高貴な我の体に傷を付けた事は評価してやろう。貴様にはこれをくれてやろう」
高貴? 地獄から魔界に昇ったお前が? ないない。
魔界の格下にも多分バカにされてるよ。そう言う紋章を背中に背負っているんだから。
地獄に行こうとする努力をしなかったのかね。魔界では強い方だろうし。
「魂魄破壊の陣」
⋯⋯は?
「な、なんだ。あれ」
(あれを見ているだけで体震える。逃げろと、俺の本能が伝えて来る。だけど、俺に出来る事は思考する事だけ。動けよ。俺の体、なんで動かないんだよ! 逃げないと、あれはやばい)
あの悪魔、どんだけプライド高いんだよ。
少し人間に斬られた都度でそこまで怒るか?
「全く。これだから劣等悪魔は。価値観が狂ってんのよ」
普通の魔界の悪魔や地獄の悪魔はしない。正確には出来ない。
地獄に生まれたのに魔界に行かざるおえない弱い悪魔が狂い、行ってしまう最悪の行動。
それは禁忌を犯す事。
『魂魄破壊の陣』それは魂を破壊する最悪の魔法。
魔王様も決して使わないように言い聞かせている禁忌の魔法。
魂が無ければ地獄で罪を精算させる事も、輪廻転生も叶わない。
本当に『死』である。
そんなのは地獄でも神界でも本望ではない。
封印され、その扱い方すら葬り去られた魔法をなぜ、あいつが使えるんだ。
禁忌の事を知っているのは、閻魔以上のクラスと神界では至高神の一つ下、私のクラスである上位神以上だけ。
て、そんな事を考えている暇もないな。
どんな奴だろうが、禁忌を犯せば最高クラスの地獄を味わう事になる。
まずはあいつを地獄に送り返すのが先だ。
「形成完了、死ぬがよい」
青色の玉が完成される。
私は指と指を弾いてパチンと鳴らし、時間を止めた。
正確にはここら辺の思考能力、記憶能力、その他諸々を止めたのだが。光とか空気は止まってない。
ただ、悪魔は止めてない。止めれないかもしれない。
「お前は何をしたか分かっているのか?」
私は悪魔の背後に瞬間移動し、魔法を斬る。
「なに!」
「質問しているだろ。応えろ、お前は何をしたか分かっているのか」
私は悪魔の顔を掴む。
「ただの即死魔法だろ? 悪魔でも殺す事の可能のな!」
「無知だな。それは禁忌の魔法だよ」
「は?」
「禁忌を犯した者は即地獄に送らないといけない。だから、ここでお前を殺す」
「ケケ。お前に出来るのか?」
「ぐっ」
相手の拳を腹にくらう。
一瞬の出来事で瞬時に魔力を集中して防ぐ事が出来なかった。
地面を転がる。
「なぜ?」
油断したのか? いや、だからってこの威力。
「まさか!」
私は目を合わせる為に顔を掴んだ。その結果、地獄の力がある私のエネルギーに反応して、相手が活性化した。
つまり、あいつは魔界に居た時の力を今ここで使えるのだ。
時間停止もずっと出来る訳じゃない。
「はぁ。開け」
私は地獄にある武器庫にゲートを繋げ、そこに手を突っ込み一本の剣を取り出す。使っていた剣は鞘に収める。
「おおおおおお!」
相手は自分の本来の姿を取り戻そうとしている。
その間にこっちも準備を終わらせる。
「久しぶりだな。お前を握るのも」
魔剣『マジックイーター』訓練用の魔剣である。
「喰らえ。ま、封印しているから、全盛期の魔力は持ってないけど」
バラの茎のような刺々しい蔓が禍々しい魔剣の柄から伸び、私の右腕に絡み付く。
魔剣は強いが、その分デメリットも存在する。そして、この魔剣はデメリットの方が大きい。
だからこそ訓練用にしていた。
「行くぞ、マジックイーター」
が、魔剣から神々しいエネルギーが漏れ出ていた。
嘔吐している。私の神界で得たエネルギーが魔剣から吐き出されていた。
「地獄のエネルギーだけにしておけ。行くぞ!」
私は地を蹴って悪魔に接近して魔剣を振るった。
「ふん!」
「ちっ」
相手が本当の全力を出せるようになり、魔剣の性能があっても手の甲で防がれた。
相手の切り飛ばした腕も復活していた。
私がメインで使っていた武器を使いたいが、今ではその力に私が耐えれない。
だからマジックイーターを取り出したのだが、倒すのに苦労しそうだ。
私は後ろに飛ぶ。
それを悪魔はガムシャラに追いかけて来る。
粉々になった木々や地形は再生させていく。
「そんな余裕あるのかな!」
私は左手を掲げ、そこから小さな炎の玉を数個作り出す。
「発射」
炎の玉が悪魔に向かって放たれ、紅い閃光を止まった空間に光らせる。
「くだらん!」
「さて、どうかな」
「ぐっ」
少し掠っただけでも焼けるような痛みを悪魔は感じる。
即座に悪魔は回避を優先させる。
「地獄の炎はお前には熱いようだな」
良かった。きちんと魔法は当たるようだ。
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