奴隷、悪魔と戦う
「鑑定⋯⋯またか」
「ふむ。何か探られそうになったような? 何かしたか?」
「なんもしてねぇよ!」
(そんなんで弱音を吐いている場合か! 俺の方が弱くても、守りたい人達が居るんだ。絶対にここで倒す!)
「はっ!」
主人が強い気迫と決意を共に、地を蹴り駆け、悪魔に接近した。
しかし、悪魔は主人を蹴り上げ、同じ高さまで浮遊する。
「さらばだ」
手刀を形成する悪魔。そのまま主人に手刀を振り下ろす。
「なぬ?」
「主人、大丈夫ですか?」
この程度の剣だとすぐに粉砕されるので、魔力を流して強度を上げる。だけど、この戦いが終わったら塵に成るな。魔力でギリギリ耐えている感じ。
錬成しておくべきだったか? いや、さすがに主人の前では創造だの錬成だのは止めた方がいいだろう。
手刀を剣で防ぎ、悪魔を蹴って離脱。その時に主人もキャッチアンドヒールする。
「たす、かった。ミア」
「いえ。奴隷ですから。私が悪魔の攻撃を防ぎます。主人は攻撃してください」
「ああ!」
(攻撃もミアの方が有効な気もするけどな!)
「ひゃはははは! 地獄の悪魔よ! 行け行け!」
「うるさい虫が」
自分を召喚した相手に向かって魔法を放つ悪魔。
私はボスに肉薄し、ボスをさっさと昏睡させ、魔法を同じ魔法で打ち返す。
互いに手加減した攻撃。あまり参考には成らない。
「お前はなかなかやるようだな」
「お前の相手はこの俺だ!」
「虫が喚くな」
(悪魔の特徴は分からないけど、さっきので火属性魔法を持っている事は分かった。威力的にレベルは25辺り。それとミアが同等な魔法を使えるのが分かった)
主人の剣が光る。
「聖剣の霹靂!」
「ふむ。なかなかの技術だな。その肉体の若さで聖属性エンチャントが出来ている。その技能を褒めてやろう。だが、その程度では我には意味がないんだよ」
私は主人の剣を対象に神界で得たエネルギーを遠隔で付与した。
さらに、主人の肉体も強化魔法とそれに耐えれるように保護魔法を同時に付与させる。
「はあああ!」
「ふん」
悪魔は手でその剣を受け止めようとした⋯⋯が、腕が中心から真っ二つになる。
「え?」
「は?」
主人はそのまま落下し、着地する。
それと同時に強化魔法を使った事をバレないように解除し、エネルギー付与も解除する。
あの悪魔に私が警戒されても困る。アイツは主人の餌なのだから。
「今の一撃はなかなか⋯⋯だが、残念だったな。所詮は人間の使う魔法、すぐに再生⋯⋯再生⋯⋯しない!」
そりゃあそうだ。
魔界に住む悪魔程度が神界のエネルギーをくらって、まともに体の機能が動く訳がない。真反対のエネルギーは相手に大ダメージを与えられる。
元人間かもしれないわたしだからこそ地獄と神界の力が使えるのだ。
「へ、どうだよイキリ悪魔」
「⋯⋯お前だろ。今のはお前がやったんだろおお!」
⋯⋯なぜ分かった?
悪魔が私に接近して拳で連撃を放って来る。
それに合わせて私は剣を振るい、全てを防いで金属音と火花を周囲に撒き散らす。
(は、速い。ミアは、こんなにも強いのか)
私は地獄でも神界でも天界でも子供に見られていて、色んな人達に世話をされた。
その中で、地獄の剣豪と呼ばれる現閻魔と神界で剣神と呼ばれた至高神の二人から剣術を習った。
そして、その二人の流派と他に人からも学んだ流派を独自に改良し、我流を完成させた。
だからこそ、相手の動きに合わせて剣を振るえている。
相手の癖や感情を読み解き、相手の動きを瞬時に解析して、最適な動きで剣を振るう。私の我流の特徴である。
ただ、一番私を世話してくれたのは、地獄では魔王様。神界ではアザトース様だった。
私が拾われた時、魔王様はまだ閻魔ですら無かったけど。
と、無駄な思い出を振り返っている間にも相手のスピードが上がって来た。
この戦いの中で人間界の空気に慣れ始めたようだ。
流石に面倒だ。
私の得意分野は使えないし。
「なかなかの剣技だな! だが、遅い!」
あんたに合わせてんだよ。
だからこそ、相手は速く成っているのに同速なのだ。
(ふむ。我の本気の連撃をここまで防ぐか。魔法もそこそこのようだが、メインは剣術だったか)
私の得意分野は使役である。人間である私は獣と心を通わせる事が地獄でも天界でも神界でも、誰よりも上手かった。
魔王様からもその方面を伸ばして貰うように教育された事もある。魔王様は面倒見のいい方だった。
獣使いとしての力だけなら、私は魔王様や神界の中でも凄腕の獣使いをも超えていると思う。
悪魔や神などに他者の感情はなかなか理解出来ないのだ。
だが、私は違う。元人間かもしれない私だから、出来る。
しかし、今は使えない。バレたくないし。
私の飼っている獣は神界と地獄にいる。力を封印して弱っている私の呼び掛けに応じてくれるかも分からない。
また、あいつらに会いたいな。
地獄の方の獣なんてもう何万年と会ってない。誰かが世話をしていると思うが、きっと心配しているだろうな。
でも、もう少し待ってもらおう。すまん。
私は心の中で謝っておく。
「他の事を考えている暇があるのか!」
「あるから思い出を思い出していたんだよ」
てか、人間界に私の飼っている獣達は召喚しても大丈夫なのだろうか?
一匹一匹が人間界の惑星一つ破壊出来るくらいの力は持っていると部下に言われた事がある。
魔王様には忙しくて、そんなくだらない事は聞けなかった。だって私が人間界だの天界だの、行くとか思われてなかったから。
にしても、相手の連撃を防ぐだけってのも飽きが来る。
ここの空気に慣れて貰っては主人との戦いに支障が出る。
そろそろ主人に動いて欲しい。
私は主人の方を見ると、主人は剣を構えているが、怖気付いたのか、動かないでいた。
情けない限りである。
いや、確かに今の悪魔に主人が特攻するのは自殺行為。
勇気と無謀は違う。
本来、主人の方が正しいのだろう。
だが、私はひたすら生死を掛けて戦って強くなった。
死線を潜り抜ける程、強くなる。
私はバックステップで悪魔から距離を取る。
悪魔が肉薄し、私に向かって回し蹴りを放って来る。
私は防御体勢をとるが、相手の蹴りがそこを抜けて腹に命中する。
魔力を集中させて部位の強化をしているので、大した問題ではない。
私は吹き飛ぶ。それもかなり遠くに。
「いやーーーーーー」
とても、演技が下手でした。棒読みの叫びを主人はきちんと勘違いしてくれた。
「ミアあああああああ!」
主人が手を伸ばして来る。一応私も手を伸ばす。突然届かない。てか、かなり離れている。
「頑張って、主人」
主人の視界から外れたのを確認し、私は地面を着地する。
「ふう。戻るか」
転移魔法でさっさと戻り、後は主人に戦って貰い、ピンチに成ったら助ける形をとろう。
頑張れ主人。