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奴隷、酔うことはない

 主人が奴隷である私を買った理由が何となくたが理解出来た。


 速くにランクアップしてしまった主人は誰かとパーティを組んでも、すぐに足並みを揃える事が出来ない。主人の経験が足りない。


 この国周辺は弱い魔物が多い状況なので、そこまでランクの高い冒険者は居ない。


 故に、パーティメンバーを即座に補充出来、捨てても問題ない奴隷を選んだのだ。


 ※ミアの妄想


「今日はミアのお陰で速く終わったよ。そろそろ昼だから、酒場にでも行こうか」


「はい」


 酒場に入ると、そこには沢山の客が居た。


 着ている服などを見て、冒険者が基本だと言うのは分かった。


「おらおら! じゃんじゃん酒持ってこーい! 俺と我慢比べしたい奴はいるかー!」


 ガタイの良いおっさんがジョッキ片手にそう宣言している。


「今日もやってんな。なら俺が再挑戦だ!」


「お、希代のスター様じゃないか? また俺に負けて酒を奢ってくれんのか?」


「今度は俺が勝つ! ミア、少し待っててくれ」


「可愛い奴隷連れてんな!」


「羨ましいぞこんやろ!」


「僕と酒でもどうだい?」


 テンション高いな。奴隷だと言うのに態度が同僚の人と関わっているかのような感じだ。


 でも、ちょっと臭いな。


「ふざけんな! ミアに手出すなよ。ほら、酒寄越せ」


「ほらよ。この店で三番目にキツイ奴だ」


(ま、まじかー。前は六番目って言ってたやん。だ、大丈夫。毒物耐性のレベルは前より3も上がっている。行くぜ!)


 主人が潰れた。


 ヘロヘロで顔が真っ赤で思考能力低下が見て取れる。


「へへ。新人は力が足りないなぁ」


「ちょっと速過ぎないか? 全く、腕っ節は良くてもこれはダメなのかよ。俺の相手を出来る奴は居ないのか?」


 少し残念そうだ。


 てか、主人は最近冒険者に成ったんだよね? 後輩なんて居るのだろうか。


 だけど、主人が負けて黙っている訳にはいかない。


 私は手を挙げた。


「へ〜奴隷ちゃんが。⋯⋯成人してるよね?」


「無問題」


 成人しているとも。あんたよりも年上だ。


 奴隷は道具なので、冒険者登録の必要も無い。


「マスター、この酒場で一番濃い酒を」


「おいおい、大丈夫か?」


「問題ないと言いました。怖気付きましたか?」


 私は横目に男を見る。


 男は笑って「そんな訳あるか」と言って来た。


 店主であるマスターがジョッキに入った酒を二つ用意してくれる。


「⋯⋯始め!」


 審判の人がそう宣言し、私と男は同時に飲んだ。


 味はしなかった。ただ口の中に何かが入り、それが食道を通って胃に流れ、消化されるだけ。


 私に酔うなどはそもそも存在しない。少し大人気無かったか。


 少し顔が赤い男は「まだまだ」と、意気込みは十分のようだ。


 二杯目、男は潰れた。


「す、すげぇ」


「コバヤシさんの奴隷、どんだけ強いんだよ」


 ま、こんなモノか。


 辺りが騒がしくなったな。主人は起きる様子がない。


 耳を済ませば、さらに周囲の声が大音量で聞こえ、外の声も聞こえる。


「昼間っから」

「嫌ね、冒険者って野蛮で」

「でも、あの方は違うわよね」

「そうね。タナカ様は別よ」


 そう言う主婦と思われる人達の声が聞こえる。タナカ様? 誰だそいつ。

 主人に近い感じがする。だとしたらこの場には居ない人か。


 確かに、昼から酒を飲んで酔っ払うのは、傍から見たら恥じるべき行為だ。


「主人、昼食を食べないといけませんよ」


 私は主人と男、ついでに酔い潰れている他の人達を対象に、状態異常回復魔法を掛けた。


 対象の人物が純白の光が包み込まれ、その光が消えると皆が徐々に起き上がる。


「かは! ま、また負けたのか。チートがん済みで、勝つ為に耐性スキルも上げたのに、なんでだよ。鑑定! ⋯⋯毒物耐性が俺の三倍⋯⋯はは」


 主人が意味不明な言葉を残して燃え尽きた。


 回復魔法を使っているが中々回復しない。困ったな。


「主人、大丈夫ですか?」


 連続で回復魔法を使う。ちょっと眩しい。


「なぁお嬢ちゃん」


 お嬢ちゃん呼びに変わった男の方を見る。


「あ、俺はダンク・テトンだ。すげぇなおめぇさん。さっき使ったの状態異常を回復する魔法だろ? 綺麗に酔いが覚めたぜ。魔法陣が見えなかったのが気になるが、さっきからおめぇさんの主に掛けているのは回復魔法か? 眩しいんだけど」


「すみません。私はミア・セツ・パンスペルです」


 私の回復魔法でも意味ないと分かったので、使うのを辞める。


「コバヤシさんはすげぇよな。強いのに、剣も使えて魔法も使えて、さらにこんな可愛くも強い奴隷を買えたんだから。恵まれてんよ。神様の恩恵でもあるんかね。俺なんか、酒の強さしか自慢出来ねぇよ」


「立派じゃないですか」


「え?」


「一つでも自慢出来る事がある。それをきちんと理解している。それは素晴らしい事です。自分では中々理解出来ない。だけど周りから見たら自慢してもいいモノ。それは誰にだってある。それを自覚するかしないかは違います。なので、自分の自慢出来る、長所を自覚しているダンクさんは立派です」


「⋯⋯そうか。ありがとうな。ミア嬢」


「ミアで良いですよ。私は一匹の奴隷ですから」


「⋯⋯家族が居んのにどうして奴隷になった⋯⋯すまね、こんな事は聞いちゃいけねぇな」


 燃え尽きて、未だにブツブツしている主人をほっておき、ダンクさんの隣に座り話をしている。


 普通、人の名前は【名前ネーム中間名ミドルネーム家系名ファミリーネーム】に分かれている。


 家族関係がある者は引き継がれるように中間名が存在し、家族関係が無い者は中間名がない。


 つまり、私の主人とダンクさんは孤児であり、中間名が無い。家系名は孤児院の先生が考えて付けてくれたのだろう。


 いずれ結婚したら、相手方の中間名を名乗る事に成るだろう。


 家系名は戸籍の入られる方を名乗る。


「ダンクさん」


「なんだ?」


 新たに一般的に飲まれるような普通の酒を注文して飲んでいるダンクさん。串カツもある。


「勝負に買ったら奢って貰えるんですか?」


「ああ、そう言うルールだ。だから、俺の物は俺に負けた皆で払って、お前さんのは俺が払う」


 あ、そう言う感じなんだ。


「奴隷とか、酒には関係ないからな」


「分かりました」


 つまり、私が勝ったからと言っても、主人のは奢って貰えないと言う事。残念。


「てか、主人、そろそろ戻って来てください」


「転生者が、現地人に負ける、現地人、舐めたらアカン」


「何を言っているんですか!」


 主人が戻って来ない限り、この場から移動する事も出来ない。


 さっきの勝負のせいで、本当に臭い。


 あ、もういいや。とことん待ってやる。戻るまで。


「消えろ」


 小さく本音を零して、漂っている臭いを消す。


 浄化である。汚臭は浄化じゃ浄化。


「あれ? 急に息がしやすくなった? なんか酒場感ねぇな」


 ダンクの呟きを無視する。

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