奴隷、主が凄い事を知る
一番安い定食を頼み、フォークでキャベツをぶっ刺して口に運ぶ。
ムシャムシャと食べている。
「⋯⋯」
味が、しなかった。
私の味覚が壊れているのか、料理の方が激薄の味なのか。
主人が私の様子を伺って来るので、「美味しいですね」と、作り笑いを浮かべて応えた。
主人や店主は満足そうに頷いていた。申し訳ない。
母親の料理は美味しいかったと記憶しているのだがな。
寝る時、私にベッドが与えられた。
主人は床で寝ると言うが、全力で断った。
そもそも私に睡眠は必要ない。
寝たら死ぬと言う環境に居て、それが慣れて、いつしか睡眠を必要としなくなった。
私は人間なのだろうか?
主人が寝ている時、とても暇である。
時を飛ばしてさっさと朝に行こうかとも考えたが、やめておいた。
「主人は不思議な言葉を連呼するな」
スキル、チート、アイテムストレージ、訳の分からない言葉を良く使う。
しっかりと意味を理解しないと、今後の付き合いに支障を来すかもしれない。
そして、今日一日でハッキリと分かった事がある。
「下のモノの考えを知るのに、奴隷は不向きだった」
主に寄って考え方が変わってしまうからな。
ちょっと主人に付き合ったら逃げ出して、適当な職に就こう。
二年くらいかな?
朝になり、主人が着替え、宿で朝食を終えて、再び冒険者ギルドに足を運んだ。
「今日は依頼を受けようと思う」
「奴隷である私に意見はありませんよ」
主人が選んだ依頼は薬草採取であり、それを受注してから遠くの森まで行く事になった。
近くの森では生えないちょっとした貴重な薬草。
その森の魔物もC級以上らしいので、Cランク冒険者以上じゃないと受けれない。
「移動に一日掛かるし、準備を整えよう」
「主人、地図を見せてください」
「ほいよ」
地図を見て、目的地とこの場所を把握する。
地図に描かれた国の大きさからどのくらい縮小されて描かれた地図かを把握する。
そこから距離を計算して座標を特定。
「転移出来ます」
「チートや⋯⋯」
小さな声でほぞりと呟く主人。再びチートと言う言葉を使った。
チートとは空間魔法の事を言うのだろうか?
いや、ダンジョンの時は普通に空間魔法と言う単語を使っていたから違うか。
「それでは」
これぞ本当の瞬間移動。
目的地に到着したので薬草を探す。
「サーチ、レイミー草」
主人が呟くと、あのゾワッと来る気持ち悪い感覚が体全体を覆う。反射的に反抗しそうに成るので、注意が必要だ。
「お、一個あった」
近くに生えている、一見ただの草をナイフで根元を切って採取していた。
根っこからまた生えるから根っこから抜かない。
主人が私に渡して見せてくれる。
⋯⋯そこまで良い効果は無いな。
主人と共に移動するかと思ったが、開けた場所でテントを張って、私に待機をお願いされた。
「こっから俺は無意識に動くから、待ってて」
「はい」
無意識に動くとか危険しかないな。
「オートモード、採取、レイミー草、九個!」
主人が目を閉じて移動を開始した。
なんの迷いも無く、レイミー草の魔力を感じる所へと向かって行った。
「主人、薬草の魔力が分かるならあの、変な奴使わなくても良かったのに」
と、それよりも私も何か役に立たねば。
「創造、複製」
レイミー草を握り、それと同じ物を創り出す。
この程度ならノーデメリットで創る事が可能だ。
「あ、やべ」
隣の木くらいの量を一度に創り出してしまった。
超久しぶり過ぎて加減が出来なかった。
流石にこれは違和感しか無いのである程度は燃やしておこう。
奴隷の時に料理をひたすら焼いていたので、炎魔法に関しては問題ない。そもそも地獄で培ったモノで、長年使っていた。
創造魔法とは違うのだよ。
が、その前に主人が帰って来た。もう少し遅れてこれば良かったのに。
「あ、あれ? もう終わったのか? て、なんじゃこりゃああああ! 九個の範囲を超えてんよ!」
「⋯⋯し、主人流石です!」
私は主人の横に立ち、褒める。
流石に創造の力はバレる訳にはいかない。だって、創造魔法って神が使う魔法だから。
師匠が簡単に教えてくれたが、この世界では喉から手が出る程に欲しい筈だ。
そして、創造すると天使が「流石です」と言って来ていたのを思い出し、私も行う。
ま、擦り付けなのだが。
「お、俺が? ステータスオープン。⋯⋯スキルのレベルは上がってない⋯⋯なんで指定した数よりも圧倒的に多んだ」
「⋯⋯流石です主人、よ、世界一」
「ミア、どうした、大丈夫か?」
冒険者ギルドに戻り、薬草を半分取り出して渡した。
「たった数時間でこの量を、ですか。凄すぎます」
「あははは。俺もなんでこんなにあるか分からないんですけどね」
本当はもっとある。
「これがあれば上級ポーションも沢山作れると、錬金術師達から喜ばれるでしょう」
この程度の薬草で上級ポーションとか、この国大丈夫なの?
「流石はコバヤシさんだ」
「ああ。こんな量を平然とやってるのに自慢もしないとか。そこに惚れるぜ」
野郎に惚れられる主人の顔がとても暗い。
「主人、良かったですね」
てか、なんで主人は冒険者をやっているのだろうか。きっと冒険が好きなのだろう。
「主人は冒険者歴何年ですか?」
「あら、奴隷のこの子は知らないのですね」
受付嬢が私の顔を覗き込んで来る。
胸元を強調してんのか。泣くぞ。いや、別に気にしてないけど。いざとなれば盛れるし。
「はい。何も教えられて無いので」
「う、忘れてた。(言いたくない)」
「実はですね、コバヤシ様は登録してからまだ二ヶ月なんですよ!」
二ヶ月しか冒険者やってない人をCランクに上げて良いのか?
「C級の魔物を沢山倒して登録しに来て、その実力を評価して、すぐにCランクに上がった異例な方なのです!」
そんな簡単にランクを上げていいのだろうか?
戦闘以外にも冒険者はやる事があるだろう。ランクの高さは信頼度、そんなすぐに上げたらダメだろう。
「本当はBランクに上げても良いんですけどね。B級の魔物もコバヤシ様なら余裕でしょう」
何を根拠に?
取り敢えず、凄いのは分かった。
「それに、一度にこんな薬草を。片道でも、三日は掛かるのに。それを数時間ですよ。スカウトするクランは多いのに、どれも断るんですよ」
「あはは。目立つのは嫌なんですよ」
は?
片道三日を一日って言われたんですけど。
目立つのが嫌? だったら指定の十個だけで良いじゃん渡すの。
増えた分きちんとお金は貰えるけどさ。
片道三日が受付嬢認識なら、行き帰りで二日でも少しだけ目立つのではないだろうか。
そもそも目立ちたくないなら最初の方に魔物なんて渡すなよ。
魔物は死体が残る。ダンジョンだけが特別なのだ。
ま、流石に言えないか。
「主人、凄いです」