奴隷、次の国へと到着する
私の人生はとにかく無だった。
家族は居ないし、孤児院でも独りだった。
ブスだった私は誰かと恋仲とか友達とかにも成れず、死ぬまでずっと独りだった。
理不尽だと思った。何もしてないのに悪い事は全部私のせい。私が努力した事は他人の手柄になる。
だからこそ、私は『無』なのだ。
だからだろうか、銀行強盗の立て籠りに巻き込まれ、犯人の盾とされて死んで転生した時に手に入れたのは、綺麗な体に、大切な家族、様々な属性や種類の魔法を手にした。
だが、母親は病気に成って倒れ込み、私は学校に通っている間にも冒険者となって金を稼いでいた。
冒険者は安定しないし命の危険性もあるけど、一攫千金が狙えるのと、自由に仕事が決められるから、副業としても使える。
しかし、大切な家族を盾に、私は霧矢に都合よく使われた。
コイツはイカれていた。この世界を支配しようと考えていたのだ。
だが、私にはどうする事も出来なかった。
それが、一変した。
ミアと言う少女の奴隷と出会い、全てが変わったのだ。
◆
「ん、ん〜」
「おや、お目覚めか」
「えと、これは、膝枕でしょうか?」
「良く寝れたようだね。睡眠が出来るって事はいい事だ。寝れる時には寝なさい」
「は、はい」
「あと、六百メートルくらい離れた場所に魔物居て、倒したから、その成果はイシガミのね」
「え?」
テントの中に居ながら倒すと言う芸当は魔法士にこそ相応しい。
イシガミが離れた魔物をバレずに倒した事が少し話題を呼んだが、それ以外は平和的に終わった。
馬車の中で主人は欠伸をしていた。
「主人、眠そうですね」
「あぁ。昨日結構頑張ったからな」
イシガミの寝顔を見ようとする冒険者と攻防していたのだ。
後は、商人の女性の方に行こうとした冒険者も防いでいた。
「寝ますか?」
「いや。今から三日間は危険地帯だからな。寝る訳にはいかない」
二日目から五日目までは魔物が多く生息する地帯を通過する。
「⋯⋯索敵に引っかかった。アースワームがこっちに向かって来ている」
「ちょっと海也、流石にエンカウント率が高いって。何か呪い持ってんじゃないの?」
「そんな訳あるか」
イシガミが私の方を見てくるが、私は何もしてない。
なので顔を横に振る。
「出るか」
「主人」
「なんだ?」
「私が出ますので、ここで休んでいてください」
「それは出来ない。ミアだけに⋯⋯」
「それで言ったら昨日は主人だけです。奴隷としての役目がないのは、流石に辛いですよ」
「⋯⋯無理するなよ」
主人が私の頭に手を乗せて撫でてくれる。
「はい」
「(ミアちゃんならなんの問題もないと思うんだけど⋯⋯私も出ようかな?)私も手伝うね」
「助かります。イシガミ様」
「⋯⋯ッ!」
イシガミがプルプル震え出すが、気にしないで外に出る。
土が盛り上がり突き進むのが正面に見れる。
「ん?」
上空を見ると、マンティコアらしき生物が見れる。
かなり上空である。
主人に気づかれている様子は無いし、さっさと倒して、見なかった事にしよう。
「えっと、ネザースフィア」
赤黒い弾丸が雲を切って突き進み、マンティコアを粉砕する。
いいよね上空って、地上に被害が出ないから。
「馬車は移動を続けてるし、さっさと終わらせて戻ろう」
転移してワームの目の前に移動する。
ワームが私の足元から出て来て食べようとして来る。
「臭いなぁ」
臭いが付きそうなので自分を結界で守り、剣を引き抜き切り裂く。
残ったワームも雷の様な高速の斬撃で細切りにしてワームを倒す。
ワームの素材や魔石は亜空間にしまい、主人の亜空間に流す。
そこそこの高等技術だが、主人相手なら数分で出来る。
転移で戻る。
「終わりました。亜空間に素材は入れておきました」
「そ、そうか。⋯⋯ほんとだ」
「それと、魔物が多いようですので、少しばかり数を減らしておきました。周囲に結界を張ったので魔物は寄ってこないと思います」
「それ、先にやってよ」
それからは平和と言っても過言ではない時間を過ごして、次の国、水の国【アクエ】に到着した。
城壁から見れるのは滝のように盛れる水、湖の上に浮いているこのような国である。
「琵琶湖並に広いな」
「全体で見れば琵琶湖よりも小さいわよ」
「そうなのか? 茉莉花は博識だな」
「学校で習ったでしょ」
門を通り、正面に見れるのは大きな噴水、その奥には水を出している大きな宮殿がある。
立ち並ぶ家にはガラスが多く使用されており、細々とした装飾が綺麗に施されていた。
この周辺の迷宮では水に関するアイテムが沢山手に入るらしい。
海も近く、この国の下の湖も海水となっている。
正に水の国である。
冒険者ギルドは前の国と違い、かなり硬そうな見た目だった。
中に入り、ギルドの受け付けで報酬を受け取る。
「まずは宿を探そう」
「そうね。パンフレットを貰ったから、これ見て決めましょう。成る可く料理が美味しいところが良いわ! ここは海鮮料理が有名らしいし。ま、海も近いし当然なんだけどさ」
「成程なぁ。米があれば最高なんだけど」
「そこは海を跨いだ向こうの大陸ね〜そんな船はないから、無理ね」
海中には強大な魔物がおり、簡単に大陸間を跨げない。
「無念! 飛行船でも作るか?」
「簡単に言わないの。そんなの飛龍とかに襲われるわよ」
「そんな数居たらこの世は終わりだよ」
「そうね」
二人は共にクスクスと笑い出す。
そして、宿が決まり主人が二人部屋を頼んだ。
私とイシガミ、そして主人だ。
別に全員一緒でも問題ないのだが、イシガミが拒否した。
「取り敢えず今日は休んで、明日は冒険者ギルドで依頼かダンジョンだね。あの、ミアちゃん」
「ん?」
晩御飯が終わり、部屋に戻ってイシガミに話しかけられる。
「家族の元に行きたいんだけど?」
「君も転移使えるんじゃないの?」
「そうね。使えるわよ。ミアちゃんみたいに正確で素早く出来ないんだよね。だから、この部屋に戻って直に来れないのよ。ダメ?」
「ま、良いけど。20分だけね」
私はイシガミを転移させて、家族の元に帰した。
◆
明日はミアと茉莉花と何をしようか。
正直金には余裕があるし、魔物と戦う必要は無い。
「明日はゆっくりしようかな?」
最近戦ってばっかだし、少しはゆったりする時間も必要だろう。
それに、なんかまだミアとの壁を感じる。
その壁も無くなったら良いな。
「あれ? それってデートじゃね?」
いや、ミアなら「奴隷ですので」とか言って断りそうだな。
アイツら、部屋で何しているのかな?
仲良いし⋯⋯まさかな。