奴隷、主人の評判を上げる
主人は異例な出世を果たした。それは一部の人には憧れに成るかもしれない。
しかし、長年、主人の先輩の場合、それは憧れではなく嫉妬に変わる。どうして俺は、どうして私は、そんな感情に包まれる。
醜い嫉妬。
それが今、護衛の依頼を受けた他の冒険者から主人に向けられていた。
「暇だね〜」
「魔物も居ないし、そうだな。ミア、大丈夫か?」
「はい」
「海也、あんたロリコンじゃないの?」
「違うわ!」
ろ、ロリコンってなんだ?
あんたロリコンじゃないの、言い方的にこれは何かの称号だろうか?
それとも名称? 悪い事なのだろうか?
そろそろ休憩の時間となる。その時にこっそりイシガミに聞こう。
その時間となり、私はイシガミにロリコンとは何かを聞く。
「ロリコンって何?」
「すみません! ミアちゃ、ミア様は決して幼女とかではないですはい!」
必死に弁明するイシガミ。
「いや、意味を聞きたいんだけど⋯⋯」
「はっ! そ、そうですよね。分かりませんよね。ロリコンと言うのは略称で、ロリータコンプレックスと言う言葉です。意味は、ざっくり言うと恋愛対象が幼女とか少女って事です」
「ふーん」
「え、それだけ⋯⋯ですか?」
「成程、あれもロリコンと言うのか」
「え?」
「いや、私の知り合いにも幼女を好んで嫁にする輩が居たものでな」
「へ、へ〜そうなんですね(奴隷の、知り合い?)」
「それと、敬語は寄せ。主人がこっちをチラチラ見ている。音は聞こえないようにしているけど、口の動きでバレたら嫌だ」
「多分分からないと思いますが、分かりました!」
にしても私は少女に見えるのだな。本来の見た目ではないが、確かに今は小さい。
実年齢は主人達よりも何倍も上である。
主人が私とイシガミの方をチラチラと見て来る。
(あいつら、いつの間に仲良く成ったんだ? ま、いい事だな)
それから休憩が終わり、先に進むと馬車が止まる。
「海也!」
「ああ! 索敵に反応があった。トロールが20居る」
「はぁ? 何でこんな草原にトロールが居るのよ」
「知る訳無いだろ!」
トロールは湿った所を好む魔物だった筈。洞窟とかが主な生息地、草原に居るのは不自然である。
しかも、トロールはそこそこ面倒な敵である。
再生能力が高く、無駄に力が高い。
ただ、Cランクが複数居るのなら問題ないだろう。トロールはCクラスの魔物だ。
「ま、海也一人で問題ないか。がんばー」
「パーティーの意味!」
私はイシガミに視線を送る。
「ヒィ! じょじょじょ、ジョジョ! 冗談よ! さぁ、行くわよ!」
「めっちゃ戸惑っているけど⋯⋯ま、良いや」
主人達が馬車から跳び降りるので、私も降りる。
トロールを目にしている冒険者達は足を震わせていた。産まれたての小鹿のようだ。
「ちょ、海也あれ」
「索敵にはトロールって出たんだけどな」
「あれの何処がトロールなのよ! 普通のトロールは2メートルだよ! あれは4メートル、しかも肌の色が黒だし、しかもよ、しかも統率取れるレベルに知性が高いんだよ!」
「あ、あぁ」
「絶対誰かが使役してるよ。黒幕が居るよ! てか、トロールじゃなくてジェネナルトロールだよ!」
イシガミが指さしながら、しっかりと陣形を取りながら攻めて来るトロールを指刺す。
「確かに」
ジェネナルトロールは通常のトロールの完全上位互換。そして、クラスはBへと上がる。
「あぁもう! 中心の四体やるから攻めて!」
「ああ! ミアは茉莉花を守ってくれ」
「分かりました」
「(そんな心配も要らないだろうに)天雷!」
トロールの上空に雷雲が出現し、魔法陣がその下に大きく広がる。
魔法陣の中心に魔力が集中し、雷と成って落ちる。
大きな落雷がトロールを焼き尽くす。
「お、六体殺ったかな? 雷よ姿を変えよ、雷龍!」
雷が龍へと姿を変えて、トロールを呑み込み焼き尽くして行く。
一方主人は。
「再生能力低下、侵食!」
禍々しいオーラーを剣に纏わせて、闇色の斬撃を大きく出しながら、トロールをバッサバッサと切り裂いて行く。
「はは。まじかよ」
「これが、稀代の新人の力」
「勝てる訳が無いよ」
「あの女も強い。強すぎる」
「無詠唱であの大規模魔法を⋯⋯はは。俺、決めたぜ」
「俺も」
「俺らもだ」
『何処までもコバヤシさんとイシガミさんに付いて行くぜ!』
トロールの死体を解体して亜空間にしまう主人。
馬車に戻ったら、商人に凄くペコペコされ、謝礼金を渡されそうになっていた。
「依頼なんだから、当たり前ですよ。お金は報酬だけで十分です」
私達は馬車に戻り、移動中主人は疲れたのか寝る。
「ミアちゃん」
「何?」
「あのジェネナルトロール、流石に弱すぎる。何か知ってるんじゃないの?」
察しがいいな。
主人がやりやすいようにする為に、主人の印象を上げたかった。
その為、主人が絶望を倒す場面を見せるのが良いと思った。
どいつもこいつも噂でしか主人を知らなかったので、本当だと教えてやったのだ。
自分の事は棚上げだ。
「どうやってやったのか、教えて貰って良いですか?」
「適当に召喚した」
「出来る、モノなのですか?」
「うん」
この程度の芸当なら出来る。
◇
今晩、草原でテントを張り、寝床を確保する。
商人達はずっと寝ていられるが、冒険者は交代で眠る。
「コバヤシさん! 寝てて下さい! 俺らが交代でやりますから!」
「いやいや。流石にダメですよ」
そんな会話を繰り返す主人達を見ながら、私は用意された晩御飯のスープを見る。
具材を掬い、口に運ぶ。
⋯⋯やっぱり、味がしない。
「ん〜美味い!」
イシガミがそう言って笑顔を見せる。
「イシガミも寝な」
「いや。大丈夫ですよ!」
「かなり魔力使ったでしょ?」
「あんなの大した事無いですよ!」
「少し声が大きい」
「すみません」
その言葉を聞いた商人や冒険者がごにょごにょと喋っている。
「女の子は二人しか居ないんだ! ここは男の役目、二人とも寝てください」
「「え」」
「そうだな」
「海也!」「主人?」
私達は僅かに離れた場所のテントを用意されて、そこで寝ていいと言われた。
「まじかよ」
「寝れないんだけど」
「私が居るから?」
「違います! その、霧矢との冒険で、基本的に夜番って私なんだよね。だからさ、慣れちゃって」
「そうかい」
「え、ミア⋯⋯」
私はイシガミの頭を自分の太ももへと落とす。
膝枕である。
「寝れない時はこれが良い。昔に母にやって貰った事がある。とっても落ち着く」
「ミア、ちゃん?」
「夜寝れないのは良くない。だから、眠りな」
布団を掛け、頭を撫でる。
「ミア、ちゃん、⋯⋯は、⋯⋯ね」
ゆっくりと目を瞑り、眠るイシガミ。
「私は、寝れない」
私に睡眠は必要ないし、睡眠欲も無い。
だから、ずっと見てるよ。