第34話:世界の真実
試着室のような箱から、英利羽が出てきた。
「どうだった?」
みこが聞く。英利羽はあんな奴知らないとばかりにチャッ子の隣に座ったが、一応事の顛末を4人に話した。
みこが慌てて、
「ほんとに、誠司が自殺しちゃったらどうするのよ!」
と問い詰めるが、英利羽は「知らない!」と吐き捨てただけだった。
みこは助けを求めるように、チャッ子の方に振り向く。
チャッ子はあはは……と困ったようにすると、一誠に返答をパスした。
「とりあえず、詳細な作戦を練ろうか。誠司に渡した紙は、作戦変更のたびに内容が変わるから、安心して意見してほしい」
チャッ子はもう一度、調査で分かった施設の地図を取り出した。
誠司が作戦に本当に乗ってくれるかわからなかったが、5人は収容所脱出作戦の隅から隅まで議論していった。
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議論がひとまず落ち着いた頃、チャッ子がもう一度作戦の確認を始めた。
この区画の3階に監視ロボットがいなくなる時間を作戦の開始時刻とします。
まず一誠がこの部屋を出て透明になります。しかし、どんなに一誠が透明になっても、区画の間にあるドアは動いてしまいます。その時間帯は、一般区画側にはたくさんの監視ロボットがいるので、注意を引き付けてもらうことが必要です。
そこで、同時に英利羽が誠司に渡した石を使って、誠司に部屋の外に出てもらい一暴れしてもらいます。おそらく、誠司の脱走事件もあり、誠司に集まる監視は多いはずです。
その間に、一誠が一般区画の端のエレベーターに乗り込みます。私が一誠の合図をもらったら第二陣、私と真菜とみこが出発します。ここで私が通路にある監視カメラに認識阻害をかけます。ここで気をつけてもらいたいのが、監視カメラには移りませんが、監視ロボットなどからは丸見えだということです。ロボットの注意を怠らないようにしてください。
そのまま、この狭い通路に私たちが入ったところで、英利羽は通路を逆方向に動いてもらいます。ここで、この図の三角形のところに入るようにしてください。これが監視カメラの死角になっています。
英利羽には、この生物災害源隔離区画のエレベーター近くの吹き抜けから上下のロボットなどの様子を注意してもらいます。みこには、一般区画とつながっているこの通路で、誠司、一誠、そのほかの異変を報告してください。真菜は生物災害源隔離区画側の通路入口に待機してもらい、英利羽の合図を私に伝える係です。私は、みこがいる通路と真菜がいる通路の交差点近くでTVを生成する準備に取り掛かります。
ここでの注意事項は、TVを作成している間、一切の魔法が使えなくなるので、監視カメラの認識阻害も効かなくなっていることです。
誠司には、一般区画のエレベーターに向かってとにかく全速で走ってもらいます。エレベーター内の一誠のところまでたどり着いた頃に、私のTV生成も完了していると思います。一誠が誠司を私のところまで瞬間移動させるので、その確認ができ次第、英利羽と真菜は私のところまで来てください。一誠は、少しの間時間稼ぎをお願いします。
一誠が到着しましたら、すぐにTVの中に入ります。ただの穴なので、特にそのまま入ってくれれば、大丈夫です。ただ、誰かが入り始めるとTVのゲートが閉じ始めるので、すぐにTVの中に入るようにしてください。
後はTVが元の時代まで連れて行ってくれるため、安心していいですよ。
「この作戦でよろしいですか?」
とチャッ子。4人ともしっかりとうなずいた。
真菜とみこと英利羽の目には、決意の色が見られたのだった。
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英利羽が去った後、俺は顔が濡れていた。
手には、作戦までの時間を表す石と謎の釘と作戦の紙があった。
今になって見ると、何に悲しみ、絶望していたのか、ぼんやりとしか俺にはわからなかった。
何か大切なことを忘れているような気がした。
俺は少し錆びた五寸釘を見つめる。心がザワザワした後、英利羽の言葉がよぎった。
「自分のことばっかり考えているお前なんか、その釘で首でも刺して、潔く死ねば」
そして、俺の心には、絶望よりも自分に対する大きな失望が残っているだけだった。
そして、俺は思い出そうとするといつもくにぴょんの顔が浮かんできた。
この記憶に残る大きな悲しみは、東海道大震災の時以来だろうか。
東海道大震災……。2023年1月28日に、近畿から東海地区を襲った大地震のことだ。
最大震度6弱を渥美半島付近で観測したが、当時の想定された地震の震源域よりも狭く、またマグニチュードも比較的小さかったため、地震や津波による被害はある程度抑えることに成功していた。
当時、くにぴょんは研修医として、ちょうど高知の病院に勤め、被災した。病院では、被災者などの治療にあたっていたという。しかし、大震災の後、中国・四国地方では季節外れの豪雨が降り、地震で弱くなった堤防による洪水や土砂災害が多数発生。くにぴょんは避難所で治療していた矢先に土石流にのまれてしまった。
実家の東京に帰っていた俺は、地震を少し体感した程度であったが、その訃報を知ったときは相当嘆き悲しんだことを覚えている。
悲しみの大小など比較できないかもしれない。
しかし、今の俺の心には、なぜかその時感じた悲しみのようなものが引っかかっていた。
謎の悲しみと自分への幻滅を抱えながら、ただ英利羽からもらった石を手の中で転がしていた。
その石には、ひっかいた跡のような28という数字が書かれていた。
極秘調査報告書2
東海道大震災
2018年、南海トラフによって、引き起こされた大地震。東京から大阪までの太平洋側の広い地域に甚大な影響を与えた。被災して命の危機に瀕していた人たちは、特殊な装置によって蘇生措置を施されている。山吹真菜、九十九里みこ、芳乃牧英利羽は2037年に回復し、意識が戻る。
実は、この大震災は、真菜やみこ、英利羽に説明する際のでまかせである。一般的に東海道大震災が指す災害は、2023年の東海や近畿地方を襲った震災とそれに続いた四国地方での豪雨災害のことである。
(ツーヨルゥ協定世界調整機構ミスリム山脈収容所所蔵)




