07 充実した施設とサービス
そういえば、スキルについてあまり理解していない。
草原の一角羊に襲われたときに、システムメッセージみたいな声がしたが、逃げるのに必死過ぎてあまりよく覚えていなかった。
……たしか、「逃走」と、「健脚」と、「風の加護」と、あとなんだっけ?
スキルと加護は別のものなのだろうか。加護についてもダフネ様に聞いておけばよかった。
他に役立ちそうなことが書いていないか、パンフレットをぺらぺらとめくる。
こういう物は普段あまり読む気がしないが、今は少しでも情報が欲しい。
パンフレットには、このタワーマンションについて一通りのことが書いてあるようだ。
通常、マンションで購入する部屋を決める時は、不動産屋やマンションギャラリーの担当者に案内をしてもらい、部屋の他に、設備や立地、資産価値、管理費、修繕計画などについて確認し、お互いが納得した上で購入する。
両親がマンションを買うときに話しているのを一緒に聞いていたから、なんとなくだけ知っている。結局買わなかったけれど。
このタワマンは謎が多すぎる。
部屋の中は昨日確認したので、共用施設に何があるのか確認することにした。
パンフレットをめくり、共用施設の一覧を見つけた。
1階
・エントランス。ソファーとテーブルがあるのでロビーとしても使える。
・宅配ボックス。45Lサイズまで。大型は2階のコンシェルジュカウンターに預け入れ。
2階
・コンシェルジュカウンター。風の精霊が常駐。
・簡易自動販売機。飲み物、お菓子、調理が簡単な食材や調味料などが売っている。
・ミニ図書室。生活を提案する本が置いてある。持ち出しは禁止。
・パーティールーム。ミニキッチン付き。事前予約で貸し切り可能。シアタールームと兼用。
・キッズルーム。子供向けのおもちゃ、魔道具、絵本が置いてある。持ち出し禁止。
・トレーニングルーム。ヨガマット、ランニングマシン、ぶら下がり健康器具、壁打ちマジックボード(小規模魔法まで)等の使用ができる。
・ゲストルーム。有料で事前予約性。セミダブルのベッドが2つ並んだ部屋が3部屋。エクストラベッドの貸し出しも可能。
各階
・エレベータ。3機。一番左の大きいもののみ魔獣積載可。
なるほど、豪華でラグジュアリーだ。どうやらコンシェルジュが居るらしい。
マジックボードや魔道具といった気になる設備も多くある。
続いて住民規約。これは長いので所々読み飛ばす。気になったものだけ目に入れる。
・屋内飼育可能なペット、魔獣、使い魔等は体高40cm、1体最大200kg、総重量500kgまで。
それ以上のサイズは規程の獣舎場で飼育すること。
・ペット、魔獣、使い魔等をバルコニーや廊下などの共用部に出してはいけない。
専有部(各部屋)、または専有使用権のある指定共用部(獣舎場)で飼育すること。
・ゴミ出しは各フロアに備え付けのゴミ捨て場に24時間捨てることができる。
ただし、粗大ごみは1階の指定場所に置き、個人で廃棄手続きをすること。
・清潔を心がけ、共用施設は大切に使うこと。困ったことがあったら管理組合に相談すること。
・マンション内での中規模以上の元素魔法の使用禁止。
・自然災害や経年劣化以外の要因で共用の設備が破損した際は、別途修繕積立金が徴収される。
等々
規約は非常に細かく決められている。いつでもゴミ捨てができるのはありがたい。
元素魔法って何だろう。ミニ図書室に行けばわかるだろうか?
続いて、サービス。
・共用部および共用施設の清掃。住民の不在時に精霊が清掃を行う。
・エントランスの2段階のセキュリティサービス。鍵を持たない人は物理障壁と魔法障壁が阻む。
・各部屋のオートロック。締め出された際はコンシェルジュに連絡すること。
・各部屋のルームクリーニング。不要な際は玄関扉の前に盛り塩をすること。
・各部屋のインフォメーションボード。契約者情報の他に、不審者情報等のマンションのお知らせを表示する。
・各部屋の玄関前のインターホンモニター。来客者と連絡が取れる。モニターで玄関の外やエントランスロビーの様子がわかる。
・24時間体制の警備員による巡回。ゴーレムが不審者を排除する。
・吹き抜けの植栽。精霊従業員の住居と兼用。光のイルミネーションがお客様をおもてなしする。
・住居移動時の目的地までの安全な操縦。
やっぱり動くんだこのタワマン……。知ってたけど……。
「警備員のゴーレムも居るみたいだし、やっぱりダンジョンだよね……」
できることならマンション内で遭いたくない。絶対怖い。
誰かと戦えるような身体能力もスキルも持っていないため、余計不安に感じてしまう。
パンフレットをめくると、マンション内部の簡易地図があった。
このマンションには300世帯が入居できるらしい。
地表から100メートル、全20階層のフロアで構成される。
私の部屋は最上階の南東向き角部屋。リビングと寝室と個室に窓があり、バルコニーが繋がっている。
同じフロアにはコンシェルジュさんの私室と、警備員さんの詰め所があるらしい。ふーん。
「……ってお隣さんいたよ! マジか! ぼっちじゃなかった!! やった!!! つーか隣が詰め所ならゴーレムと遭遇する確率高いじゃん!?? やっぱりよくない!!!」
………………。すー、はー。
驚きのあまりテンパってしまったので深呼吸。そうだ、図書室はどこだろう?
ミニ図書室はコンシェルジュカウンターの隣にあるらしい。どちらも2階だ。
1階には共用施設が少ないが、可動機構部とか魔力供給部とか記されている部屋がいくつかある。
これはさっぱり想像がつかない。コンシェルジュカウンターの裏の階段から入れるらしいが、それ以外にドアがない。おそらく、住人の生活には関係のない設備なのだろう。
パンフレットの最後は周辺地図。これだけは別紙になっている。
「差し替えできるようにかな? このタワマン移動するみたいだし」
地図には最寄りの雑貨屋の場所が書かれていた。10km先にあるらしい。
タワマンのくせに立地が最悪である。雑貨屋遠いな~~~。
はぁ、と大きくため息をついた。この世界で何度目のため息だろう。
のどが渇いたので、水を飲むために冷蔵庫の扉を開ける。
仕込んだメモに、返事が返ってきていた。