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05 静穏性とセキュリティは完璧です

翌日。


「……知らない天井だ」


人生で一度は言ってみたい台詞ベスト10くらいに入る台詞が口から出てきた。

ぼんやりと寝転がったまま、くるくると回るシーリングファンを見つめる。


ホテルに泊まったんだっけ? いや、違う。

今日は自動車学校がある日だっけ? それも、違う。

確か、高速道路で、車で空を飛んで、気づいたら草原で、羊に追いかけられて、女神様がくるくる回って、リップクリームあげて、タワマンを貰ったような……?


むくりと起き上がり、あたりを見回す。


「夢じゃ、なかったのか……」


どう見ても昨日の続き。上等な部屋。

窓から見える外は青い空が広がっている。日がだいぶ高い。

おそらくお昼はとっくに過ぎてしまっている。


「とりあえず、シャワー浴びよ…」


風呂場で寝間着のガウンを脱ぎ、シャワーを浴びた。

蛇口をひねると一瞬光ってからお湯が出た。水が出る時に光ることを忘れていたせいでビビる。

シャンプーもリンスもある。中身は、ちょっと思っていたのと違った。

ポンプから出てきた液体はスライムのようにうねうねしていた。


「うわぁ…これはちょっと……」


使うのをためらっていたら髪の毛に勝手にもぐりこみ、洗い始めた。声にならない悲鳴が出た。

考えるな。呼吸だ、呼吸を整えるんだ。全集中の呼吸だ。

すってー、はいてー。ひっひっふー。はっはっひー。・・・。

よし、オッケー。大丈夫。私強い子。


「よし。このシャンプーは封印しよう」


後で中身を詰め替えることを決意した。

お風呂からあがってタオルで体を拭く。脱ぎ捨てたガウンと洗濯機の衣類は、いつの間にかウォークインクローゼットの中のハンガーにかかっていた。きちんと洗濯と乾燥が終わっているようだ。


「これが全自動洗濯機というやつか……。タワマンすごいな……」


どう考えても謎の力が働いている。精霊さんとダフネ様に感謝しよう。

クローゼットから昨日と同じ服を取り出し、着替える。


今日は街へ出かけないといけない。腹ごしらえをするために、冷蔵庫からパンと水を取り出す。

食材を取り出すついでに、実験として冷蔵庫に何枚かメモを入れる。


メモAには、食材の希望として「たまご」。

メモBには、道具の希望として「鍋と箸」。

メモCには、「精霊さんの食べ物は何か?」という質問。

メモDには、「5000兆円」という向こうの世界の通貨。


冷蔵庫の扉を閉め、パンにかぶりつく。今日のパンはほんのりチーズ味。おいしい。

昨晩同様、ブロッコリーを丸焼きにして塩を振る。おいしい。

水を飲み、食器棚に洗ったグラスを置く。昨日のグラスと合わせて2脚。

冷蔵庫の水はグラスと一緒にチャージされるらしく、食器棚に置いておいたグラスは消えることなくその場にある。

残った塩を冷蔵庫に戻そうとしたところ、中に入れたメモがすべて消えていた。


……そういえば、文字は読めるのかな? 日本語で書いちゃったけど。


コミュニケーションスキルに期待しよう。

概ね10分おきに冷蔵庫をパタパタと開閉していたが、しばらく時間がかかりそうと判断して出かけることにした。雨が降っていないか確認するためにバルコニーに出る。

カラカラカラと窓を開けた瞬間、ざわざわという声が下の方から聞こえてきた。

バルコニーから下を見下ろすと、農耕具を持った人、武器を持った人、馬車、何十人もの人が集まっていた。


「は?なにこれ……」


階下には何か叫んでいる人、武器でタワマンに攻撃を試みる人がいる。

窓を閉めた100メートル上の部屋には全く声が届いていなかった。

地上階からは、見上げても最上階の部屋が見えていないせいか、私の姿は見えていないようだった。

念のため身を隠し、耳を澄ませて叫んでいる人の声を注意深く拾う。

クワのような農耕具を持った中年男性が叫んだ。


『だから!これはダンジョンだ!!昨日はなかった!!』


ダンジョンではない。タワマンである。

反論するかのように、仕立てのいい青い服を着た青年が叫んだ。


『いいや! これは神殿だ!! こんなに見事な光沢のある塔は、光の精霊様の住処にちがいない!!』


神殿でもない。タワマンである。あと住んでいるのは一般人だ。

先ほどから外壁に剣で攻撃を試みる青年が叫んだ。


『ちくちょう! なんで入れねえんだ! 中を調べようにも扉が開かねぇ! 外壁にも傷一つつかねぇ……一体どうなってやがるんだ……』


セキュリティは完璧だった。さすが女神様のタワマンである。

壁に攻撃されるのはなんだか嫌な気持ちになるのでやめて欲しいところだ。


どうやら騒いでいる人たちは、突如現れた巨大な塔に恐怖を抱いているようで、何やら大ごとになっているということだけは伝わってきた。さて、困った事態になった。


「どうしよう……フライパンと鍋、買いに行けない……」


流石に今外に出て行ったらまずいだろう。


……しばらく立てこもったほうがいいのかなぁ。でも、そのうち外壁を壊されそう。

いっそ一旦外に出て、事情を説明してみるか? うーん。


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