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03 願い事

「巻き込んでしまってごめんなさいね。お詫びに少しだけこの世界について教えてあげましょう。何か知りたいことはありますか?」


ダフネ様が申し訳なさそうに聞いてきた。


「えぇ…と、それじゃ、いくつか質問させてください」

「はい、どうぞ」

「この国はなんという国でしょうか? 私の言葉は他の人に通じますか?」

「そうですねぇ。ここは確か、闇の精霊と契約したファンファレアという者が治めていた土地だったと思います。言葉は…どうでしょう? あぁ、貴方には"コミュニケーション"のスキルがあるようですね。なら大丈夫だと思います」


逃げている最中になぜか会得したスキルは、きちんと私の願いを聞き届けていたらしい。


「スキル……。そのスキルというのは、魔法のようなものなのでしょうか?」

「少し違います。この世界では自分の行動が自分の未来を示します。スキルは潜在能力の一つの形にすぎません。日々の研鑽により発露します。魔法は、もともと精霊が使う自然のエネルギーを用いたものなので、精霊と交わったり契約した者だけが使えるようになります」


魔法は精霊と契約すれば使えるらしい。スキルは頑張ればできるようになる、のかな?


「なるほど。ところで、あの襲ってきた羊は一体……?」

「この草原に住んでいる一角羊(イッカクヨウ)ですね。鼻がよくて、花の糖蜜が好きなので、それの香りに反応したのでしょう」


女神ダフネが私のスカートのポケットを指さす。

これか! リップクリーム!! ハニーフローラルの香り!!! 198円!!!!


「…ダフネ様に差し上げます」

「よろしいのです?」

「ええ。私が持っていても仕方がない代物ですので……使いかけで申し訳ありませんが、助けて頂いたお礼に、どうぞ」


本音は、また襲われたらひとたまりもない、というところだが。

ダフネ様がリップクリームを受けとる。香りをかぐと、くるくると楽しそうに回る。


「まぁ、とても素敵な香りね。実はちょっと気になっていたの」

「喜んで頂けたようで何よりです」

「うふふ。こんなに珍しい捧げもの、今まで頂いたことがないわ。お礼にあなたの願い事を1つ叶えて差し上げましょう」

「願い事…」


富? 名声? 権力? 不老不死? 5000兆円?

うーん、できれば元の世界に帰りたいけど……それはさっき難しいような雰囲気だったし……。


「さ、ささやかなものね! 常識の範囲内の! ささやかなもの!」


悩み始めた私に対して、慌てて女神様が訂正する。

ささやか、というからには、実現可能な範囲なのだろうな。となると、私の願望…?


「……海が見えるタワマンの最上階に、猫と一緒に住みたい」

「たわまん、ですか…?わかりました」

「へ?」


思わず口に出ていた。後悔先に立たず。


「この世界にはないもののようですので、あなたの記憶を少し覗かせてもらいますね?」

「へ???」


やっぱ今のなし、と言うよりも早く、女神様が私の額に向けて中指を構え、


「えいっ」


容赦なくデコピンをした。バッチィン!という音とともに脳が揺れる。


「いったぁああああっ!!!!」


ダフネ様のデコピンめちゃくちゃ痛いんだけど!! なにこれ!! おでこにたんこぶできてない!? 

というか今の音やばくない!? 電気走らなかった!?


「なるほど、タワーマンションというのですね。ガラスでできたとても大きな居住用の塔。食料の入った氷風の箱、風の出る箱、光の精霊のランタン、生活をサポートするコンシェルジュ、警備の者が居て高い安全性、やわらかい毛並みの小さな獣。……素敵ですね」


記憶を読み取ったのだろうか? 唐突にどんなものなのか理解された。

昔、両親と一緒に見学したタワーマンションのモデルルーム映像の記憶を参照したようだ。


「ただ……、ガラスの塔を海に建てるのはあまり現実的ではないですね。もう少し強度を高めて、移動できるように致しましょう」

「はい?」


なかなかにぶっ飛んだ理解をされたらしい。

不動産は動きませんよ? 動かないから不動産なのですよ? 

というか、海にガラスの家を建築するより、動く家を作るほうが現実的なのですか?


「このあたりの草原には何もないようですし、ここに置いておきますね」

「へ?」


唐突に背後から影が伸びてきて、足元が暗くなった。振り返ると、真後ろに巨大な塔が建っていた。


「うそやろ…」

「本当ですよ?」


いやここに置かれても。というか海見えないのでは?


「海も見えますよ」


ダフネ様の風の魔法で体が浮き上がる。外壁伝いにゆっくりと上昇する。

高所恐怖症ではないが、さすがに地上100mの手すり無し空気エレベータは怖い。

思考がフリーズしながら、最上階の部屋のバルコニーにたどり着き、降ろされた。


「ほら、見えるでしょう?」


ダフネ様が指さした先には、確かに海があった。

ただし、もんのすっっっっっっごく遠くにうっすらと見えるのは見えるとは言わない。


「あ、りがとうござい、ます…」


どこからツッコミを入れればいいかわからず、とりあえずお礼を言った。

これ、どうしよう。。。


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