13 高みの見物
剣を持っていない左手の人差し指を、天高く真上に掲げ、青年が叫んだ。
「我が熱き血潮より生まれし炎よ!集いめぐりて一つになり、盟約の名のもとに責務を果たせ!!」
徐々に集約される炎が、回転しながら一つの小さな塊のようになる。「ハァッ!!!」という掛け声とともに青年がユーイを指さすと、指先に作られた小さな炎の塊がビームのように放出された。なるほど、こうして火力を一点集中して障壁を突破したのか。なかなか賢いなと、少し感心してしまった。ユーイが軌道を読んで素早く避ける。
相手に避けられるとは思わなかったのか、驚いたように青年の動きがフリーズする。
私も驚いた。避けちゃったよ。。。
「無駄が多い…」
メティス様がぼそりとつぶやいた。詠唱が長いからか、はたまた動きが読みやすいからか、なかなかに厳しいコメントである。
ユーイが素早く青年の後ろに走り込み、マントの付け根を掴む。
「ふんぬっ!!!」
おお!背負い投げだ!!しかし投げられた青年も受け身をとって転がる。
持っていたロングソードが落ちてキィン!と音を立て、エントランスのフロアに投げ出された。
青年はそのままエントランスのソファーの後ろに転がり込み、ユーイとの距離を取る。
青年はソファーに隠れたまま、なにやらごそごそと不審な動き。どうやらマントの中に隠していた武器を取り出そうとしているようだ。2本の短剣を取り出して投げ、牽制する。
ユーイは飛んできた短剣を即座に魔法障壁を作って防いだ。障壁を張った隙に、青年がソファーから飛び出てロングソードを回収し、体制を立て直した。
じりじりとお互いに出方を探っている。
私はただハラハラしながら見つめるしかできない。手伝えそうなことが何もない。
「大丈夫よ」
不安そうな顔をしている私を見て、メティス様が言った。
青年が再び詠唱を始めようとしたとき、後ろの方でタイミングを計っていたゴーレムが、持っていた斧を青年に向かって投げた。斧が弧を描いて大きく飛んでいく。とても危ない。
青年が慌てて斧を避けた瞬間、ユーイが相手の懐に飛び込んだ。
ロングソードを持っている腕を取り押さえ、相手を転ばせる。なんて言ったっけこれ。そうそう、無刀取りだ。動画サイトで見たことがある。
一瞬の間があった後、斧がどこかの部屋のドアにガツッと音を立ててつきささった。うん。絶対に真似をしてはいけない。
ユーイが素早く自身のネクタイで青年の腕を縛り上げ、腹を蹴り飛ばす。
「ガハッ!!」
青年が勢いよく床を転がり、3メートルほど先で、ぐったりと静かになった。意識を失ったようだ。……死んでないよね?
しばらくして、エントランスの外でざわざわと野次馬が騒ぎ始めた。自動ドアの外でゴーレム達にせき止められていた見物人たちが、エントランスに今か今かと押し寄せてきている。このままでは押し入られてしまいそうだ。
「やれやれ。無関係な方々の相手は、ご遠慮願いたいですね」
ユーイがシィッっというポーズ、人差し指を口元に当てて、小さな声で何やら長い詠唱をボソボソと呟いた。
しばらくして、キィン!という音ともに、青い光がエントランスの床を走り、自動ドア全体に広がった。自動ドアにかけていた物理障壁が張り直されたようだ。
ドアの付近で様子を見ていた野次馬全員が外に弾かれ、どよめきが起きる。外に弾かれてしまった数体の木製ゴーレムが崩れ落ち、首から緑の光がふわりと離れてエントランス内の大樹に吸い込まれていく。
次いで魔法障壁を張りなおしたらしく、緑の光が広がった。二重に付与したのか、緑の光を後追いして茶色い光が広がった。ユーイが「ふぅ」と一息ついた頃には、エントランスには元の静寂が戻っていた。
茫然と見つめてしまっていたが、すぐにはっと意識を取り戻して声をかける。
「……ユ、ユーイさん! 大丈夫ですか!?」
コンシェルジュカウンターから顔を出し、立ち上がる、はずだった。膝に力が入らず、うまく立ち上がることができない。その場にへたりこむ。どうやら腰が抜けたらしい。
メティス様はいつの間にかいなくなっていた。図書室に戻ったようだ。
ユーイが私の存在に気付いて返事をする。
「おや? ハルカさん。部屋には戻られなかったのですか?」
戻らなかったのではなく、戻れなかったのである。
どうにか立ち上がろうと、カウンターに腕をかけた瞬間、誰かに腕を掴まれた。
「へ?」
見上げると、見知らぬ髭の男性が私の腕をつかんでいる。不審者はもう一人いたらしい。柱の陰に隠れていたようだ。いつのまにかエントランスの中に入っていたようで、障壁で弾くことができない距離にいたようだ。手には短剣を持っている。先ほど青年が投げた2本の短剣のうちの1本だ。髭の男性が私の体をグイッと引き寄せる。
「動くな!!この娘がどうなってもいいのか!!!」
「ユ、ユーイさん……」
完全に悪役の台詞である。髭の男性が短剣を私の首元に当てる。勘弁してほしい。掴まれている腕がちょっと痛い。握力がゴリラだ、と思ったら、見た目もゴリラだった。髭ゴリラ。
「はぁ……まったく。次から次へと、困ったものですね……」
ユーイは面倒くさそうに頭をかいた。




