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非戦闘員なので逃走スキルで生き延びます~タワマンでスローライフ始めます~  作者: 雪城
第一章 住所不定の転移者

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10 コンシェルジュと謎の自販機

扉を開けると2階フロアのエレベータが目に入った。

螺旋階段だったので、どこに出るのかわからなかったが、どうやらエレベータの横に出たようだ。


2階から1階の様子が見える。

エントランス入り口の自動ドアが何やら不規則に光っている様子が伺える。

派手に光っているのに、なぜか無音で、なんとなく不気味だ。

1階自動ドアをできるだけ視界に入れないようにしつつ、2階フロアを見渡す。

大樹を取り囲むように、いくつかの部屋が分かれている。

柱の陰に、バーカウンターのようなスペースがあった。


……誰かいる。


ごくりと息をのみ、近づく。私の存在に気づいたようで、相手はにこりと笑った。


「こんにちは、お待ちしていましたよ」


渋い男性の声がフロアに響いた。

中肉中背。やや色白。後ろに流したショートヘアで、白髪の混じった銀の髪。黒縁の眼鏡。

少し珍しいダブルボタンの灰色ベストに、黒いスラックス、濃い緑と銀のボタンのシャツを着ている。

一見するとバーテンダーのような風貌の、50代くらいのダンディなおじさまである。


「最上階のハルカさんですね?」

「は、はい。ハルカです。こんにちは」


ぺこりと頭を下げる。


「こんにちは。ここはコンシェルジュカウンターです」


おじさまはにこりと笑った。


「私はコンシェルジュのユーイと申します。住民の皆様の生活のサポートをさせて頂いております。よろしくお願いしますね」

「はい。よ、よろしくお願いします」


まじまじと見つめてしまう。


……うん、どう見ても渋いイケメンのオジサマですね。こういうのが好きそうな枯れ専の友達が居たなぁ。元気にしてるかな。


「早速ですが、何かお探しでしたか?」

「あ、はい。ええと、図書室と、自販機を探してて」

「それでしたら、こちらの右手の部屋がミニ図書室となっております。

自販機はあの向かいの角を曲がったところにあります。よければ利用のご案内を致しましょうか?」

「はい。お願いします」


願ったりかなったり、渡りに船である。お言葉に甘えて、ユーイに案内をしてもらうことにした。

まずは自販機から行こう。


自販機の前に立ち、使い方の説明を受ける。

お金を入れる箱と、商品名が書かれた木札と、中の物を取り出す箱がついている。

どうやら、商品名の書かれた木札をセットしてお金を入れると物が出てくるようだ。

入れるお金はどの国のものでもいいらしい。お金を入れると自動的に中で貨幣価値を計算し、お釣りが返却されるそうだ。

試しに何か買ってみよう。


自販機の中を確認する。

・『グレージャーミグルの粉末』……緑と白の粒が混ざった粉。小瓶に入っている。

・『テカテカのジャム』……酸味がある野菜の赤いペースト。小瓶に入っている。

・『フォークリフト』……大きめのかぼちゃの形をした白い野菜。ファンファレアの特産品らしい。

・『英知の結晶』……金色の林檎っぽい果物。

・『ポーション』……黄色い液体。細いガラスの容器に入っている。

・『精霊特製ゼリー』……ゼリーのような緑の物体。細いガラスの容器に入っている。

・『朝に歯向かう者の肉』……何かの肉。やや大きい。


説明書きの札も添えてあるが、よくわからないものもある。

とりあえず、求めていた調味料がないことだけは分かった。

英知の結晶は果物のようなので、皮を剥けばおそらく食べられるだろう。

テカテカのジャムはトマトソースだろうか。


「あの、ユーイさん。つかぬことを伺うのですが」

「はい」

「この自販機、金額が書いてないのですが、それぞれいくらくらいなんでしょうか?」

「すみません。私は人の子のお金を扱ったことがないので、時価です、としか答えられません…」

「そうですか…」


いくらなんだ……。思ったより使えないコンシェルジュに勝手にがっかりする。


とりあえず、【英知の結晶】と【テカテカのジャム】と書かれた木札をセットし、財布からなけなしの100円玉を1枚取り出して自販機に入れてみる。いでよアイテム。


しばらくすると、中からひそひそ声が聞こえてきた。少し言い争っているようにも聞こえる。

どうやら中に精霊がいるらしい。金額は自販機の中の人次第なのだろうか。

しばらくすると、英知の結晶と、テカテカのジャムの瓶が出てきた。

お釣りは……ない。貨幣価値がさっぱりわからない。

お財布の中身を確認する。残高は1082円。さて困った。


硬貨は、たぶん使えたので大丈夫だとして、紙幣はどうなんだろう。今の感じだと、外では硬貨も使えないような気がするけど……。


どうにかしてこの世界のお金を稼がないといけないらしい。

ノーマネーノーライフである。職探しをしなければ。


……世知辛い。


ため息をついた。

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