冒険
目を覚ますと、見知らぬ天井が視界に映る。
いや待て、昨夜はちゃんと自分のベッドで寝たはずだが...
そうだ、昨日は確か友達と遅くまで飲んでたんだった。とすると、ここはアイツの家か。
納得した僕は身体を起こす。
しかし目に飛び込んできたのは、やたらと現代離れしたインテリアだった。
壁には絵画が掛かっており、電灯は無く蝋燭の火が灯っている。さらに暖炉まである。そこはまさに、一昔前の洋室のようであった。
アイツにこんな趣味があったなんて聞いたこともない。とりあえずベッドを貸してもらった礼を言おうと、リビングと思われる所へ向かう。
だが、そこに友人の姿は無かった。
家のどこを探しても居ない。出かけているのだろうか。
じゃあ電話をかけておこうとポケットを探る。
しかし携帯電話も無い。どこかで失くしたようだ。
よく見ると僕の服装も変わっている。こんな服は僕の趣味じゃないのだが。
...何かがおかしい。
今朝起きてから見るもの全てが見たことのないものだ。アイツも見当たらないし、どうなってるんだ。
いや、とりあえず家に帰ってアイツに電話しよう。家になら固定電話あるし。
困惑したが、ひとまず家に帰ることにした。
玄関のものだと思われる扉を開ける。
──外はどう見ても異世界だった。
よくあるRPGの村、としか形容しようがない景色がそこには広がっていた。
なるほど、ここが異世界なんだとしたら合点はいく。おそらく異世界転移というやつだろう。それか、そういう夢だ。
そういったジャンルのライトノベルをよく読んでいた僕は、状況判断だけはできた。未だ飲み込めてはいないが。
ゲームの世界となれば、おそらく僕が勇者なのだろう。さすればゲーム通り王様や村長の元へ行くのが正しいはずだ。
村長の家らしきところに着いた。
村長の話によれば、魔王が出たから倒して欲しいとのことだ。剣ももらった。
それじゃあ冒険に出るとするか。
そう意気込んだところで、
目の前が真っ暗になった。
「母さん、掃除機かける時はコード引っ掛けないでっていつも言ってるだろ、冒険の書が消えちまったじゃねえか」
「それならちゃんと片付けておきなさいって言ってるでしょう」