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鈴蘭の時

作者: 花





例えば雪。

例えば、漂う雲に流れ星。夜空を彩る花火や吹き抜ける風。木漏れ日や冬の陽のぬくみ、あとは綿菓子なんかも。


儚い一瞬の中に煌めきを残して消えるそれらはとても尊くて。


数時間、一日、十年。

全てにある寿命はそれら様々だけれど、どれもがとても温かく美しい。


あの子の時間もまた、その一瞬の煌めきの中で精一杯美しく輝いていた。
















『鈴蘭の時』
















その子はいつも私の側にいた。

私の側で毎日他愛ない話をして帰って行く。無口な私はその子の話に相槌を打つことしか出来なかったけれど、それでも楽しそうに沢山の話を聞かせてくれた。


大きな花丸の書かれた紙を見せてくれたり、本を読み聞かせてくれたり。大きな昆虫を手に掲げ誇らしげに胸を張る姿を見たときは、少し驚いたけれどやっぱりとても嬉しかった。


毎日のように遊びに来るあの子が数日来ないときは風邪を引いている可能性が高い。季節の変わり目には必ずそういった日があるのだと以前あの子が話していたから。それでも数日も経てばケロリとした顔で元気に私の側にやってくる。そうして私はまた、あの子の話に相槌を打ちながら尊い時間を愛おしく思うのだった。


幾度かの季節が過ぎてもあの子はいつも私の側にいた。最近はもう一人知らない子を連れて来ることが多く、その子を交えた会話に相変わらず相槌を打つ毎日。どうやら二人は夫婦になるらしい。それは目出度いとその日はいつもより多く相槌を打ち、二人に笑われてしまった。


そうして何事もなく晴れて夫婦となった二人はそれからも毎日私のところへ来てくれた。


ある日その腕にあの子達そっくりの小さな命を抱えて私の側へやってきた。紅葉のような手を私に一生懸命伸ばす姿はとても愛らしい。「実りある人生を」と祝福を与えたその子もまた、静かに時を刻んでいく。


段々とあの子達が私の側に留まる時間が減ってきた。立派に成長していた身体は昔に戻るかのように少しずつ頼りない小さなものになっていく。無理をしてまで来なくていいと伝えられたら良かったのに。


あの子達そっくりの子も元気いっぱいに毎日私の側に来てくれて、昔のあの子のように沢山の話を聞かせてくれる。どうやらあの子と違いとてもやんちゃな子のようで、いつもどこかに絆創膏を貼っている。心配でおろおろとしてしまうけれど、それでも太陽のような顔で笑っているものだからつられて私も笑ってしまった。


あの子達が空に帰る日が来た。麗らかな日差しの中、一筋の煙となって青く澄んだ空に昇って行く。残されたあの子達の子は目が溶けるんじゃないかと心配するほど大粒の涙を流してそれを見ていたけれど、あの子達が育んだ想いがきっと前へ進ませてくれるだろう。


それからその子もまた、変わらず私の側へ来てくれた。流れる四季の移り変わりを共に見て、その子の成長を微笑ましく思う日々。









もう何度愛しい子を見てきただろう。

私から見れば一瞬の生の中で、皆等しく煌めきを残していく。


寿命とはそれら様々で、私にとってあの子達の生はとても儚い。そんなあの子達が儚いと感じる生もあれば、私よりずっと長い時を過ごすモノもあるだろう。


全てが等しく儚く美しい。

有限の時を精一杯生きる煌めきは何物にも代え難い。






私は今日も儚い温かさに意味もなく涙を流す。





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