紅花
「…娘だ」
いきなり言われた言葉に私は何とも言えず黙っておく。
連れてこらた場所は豪華な屋敷だ。
そこには樊煉の主と名乗った美しい着物をした男が立っており、私を見る男は屋敷の奥にある部屋に
連れていった。
部屋の中央には豪奢な寝台があり、その中にはやせ細った少女が横たわっている。
「…病で死んだ。」
「…そうですか。」
無言が続いたのでとりあえず当たり障りのない返事を返しておく。
初対面の人間の不幸に何を言っていいかわからないし、何よりそんなことを私に聞かせて
この男が何をしたいかわからない。
「…お前にはこの子になってもらう。」
「はい?」
この子になる?どういう意味?もしかして替え玉とかそういうもの?
どうして私が?何のために?
いろいろな疑問が私の頭に回る。
「娘の名前は紅花。お前はこれから紅花として生きろ」
「…意味が分かりません」
私の言葉に男はなぜ理解できないのかわからないといった顔をする。
そんな顔をされてもわからないものはわからない。
というかそんな言葉で理解できると思ったのか?この男は。
「お前はこれから紅花として生きる。俺の娘となって生きるんだ。」
「無理でしょう」
「何故だ?」
何故!?むしろどうして私があなたの娘になれると思ったの!?
他人に成り代わるなんて明らかどう考えても無理だ。
顔が一緒とか似てるとかならなんとかなったかもしれないけれど、
彼女と私じゃまったく違う。
「あなたの娘さんと私じゃ顔が全く違います。すぐに別人だとばれますよ。」
「問題ない。紅花は昔から体が弱くて人前に出たことがない。
周りはこの子がどんな子か全く知らない。世間を知らずにこの子は死んだんだ。」
男は驚くほど単調に話しており、その言葉に感情らしきものは見えない。
だが、男の目はどこか悲し気でなんとなく男が娘を大事に思っていたことがわかる。
男は優しい手つきで娘の頬を優しい手つきで撫でると、静かに続ける。
「だが、世間的にはこの子は死んでいない。
だからお前には紅花として生きてもらう。樊煉、用意をしろ」
まったく理解できない。何がだからだよ、まったく理論的じゃない!
大体世間的に死んでないって意味が分からない。
この子が死んだら何かまずい理由でもあるわけ!?
私のなかなかでいろいろな言葉が飛び交っているうちに樊煉に部屋から
引っ張り出されお風呂場に放り出される。
そこには大量の女官たちが待っており、彼女たちは全員タオルなどを持っている。
樊煉は女官の前に放り出された私を感情のこもらない瞳で見て、口を開いた。
「これからよろしくお願いします。紅花お嬢様。
皆さん、お嬢様を綺麗にしてください。」
樊煉は言葉が終わると何も用がなくなったという様子で部屋から出ていく。
取り残された私は女官たちに衣服をひん剥かれながら今の現状がどうにもならないことを悟った。
拝啓、お父さん、お母さん、
私は女子大生から転生してなぜか亡くなった貴族のお嬢様紅花として生きることになりました。