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家賃3万円3LDKバストイレ別駅から10分魔王付き

作者: アホのチーズ煮込み

100%ギャグです。シリアスになんぞさせません。

この話で誰かひとりでもクスッと笑ってくれたらそれだけで作者的には完全勝利です。

 どうしてこうなった。


 せっかく大学生になったのだから18年過ごした実家から離れて親離れしようと思って部屋を借りただけなのに。

 バイト生活でお金の無駄遣いはいけないから安い物件を借りようと思っただけなのに。

 不動産屋さんに勧められてこの部屋いいなと思って一人暮らしの部屋借りただけなのに。



「ここでお前を倒す!。死んでいった同胞の恨みを思い知れ魔王!」


「短小な人間ごときがこの魔王を倒せるとでも?冗談も大概にするんだな!」



 なんで目の前で世界の命運をかけた戦いが始まってるんだよ。



「魔王を倒した後は貴様だ邪神!この命に代えても貴様と魔王は討つ!」


「……。」



 なんでいつのまにか邪神認定されて勇者に命を狙われてるんだよ。



「フハハハハハハハハハ!。貴様ごときが我とたっくんを倒せるはずがないだろう!なあたっくん?」


「……。」



 なんで魔王にあだ名で呼ばれてるんだよ。



 はあ…。


 あえてもう一度言おう。




 ど う し て こ う な っ た 。



 * * * * *



 事の発端は10か月前。


 俺は大学に入学したのをきっかけに一人暮らしをしようと考えた。

 実家暮らしだとあまり好き勝手できないし自分の好きなもの部屋に置けないしってことで一人暮らしをすることにしたんだ。

 決まったら善は急げってことで即行で不動産屋に転がり込んで物件探しをしたわけだ。

 んで不動産屋に家の条件を聞かれたから安い物件を頼んだ。

 バイト生活であんまり金に余裕があるわけではなかったからな。とりあえず出した条件はそれだけ。俺はあんまり高望みしない性格だったからそれだけ頼んだんだ。

 そしたら不動産屋はこんな物件を勧めてきたんだ。



 3LDK バストイレ別 えきから10分  これで家賃3万円。



 普通に考えたらどうみてもおかしいんだけどその時の俺は家なんて借りたこともなかったからお得だなぐらいの感覚でろくに住宅見学もせずにそこを借りることにしたんだ。

 で、不動産屋と契約していざ住宅へとおもったらなぜか店の奥に案内された。


 いま思えばここで異変に気付いて引き返しておくべきだった。


 だけどそのときの俺は契約の流れなんて知らなかったから全部不動産屋にまかせっきりだった。だからほいほいと不動産屋について行って店の奥にいっちまったんだ。


 店の奥に移動すると突然身柄を拘束されて目隠しをされた。さすがにその時は異変に気付いて抵抗したが時すでに遅し。完全にロープでぐるぐるにされた状態で変な薬をかがされてそこで俺は一旦気を失った。



 で、目が覚めたら変な城の玉座にいた。

 急展開すぎる?我慢しろ。俺だってその時急展開すぎてあせってちょっと漏らしたんだから。

 俺が意味わかんなくてあたふたしてると全身ゴリゴリに装飾した肌色紫のいかついおっさんが近づいてきて


「ようこそ魔王城へ!歓迎しようじゃないか心の友よ!」


 とか言い出したんだよ。


 あ、わかっている人いるかもしれないけどこの人魔王ね。全力出したら世界3日で滅ぼせるやべー人?生物?。

 怒らせたら軽く3日は暴れる。冷蔵庫にしまってあった自分のプリン食われただけで世界滅ぼそうとするやべーやつ。ほんとその時は焦った。海と空が割れたの生まれて初めて見た。食べ物の恨みって怖いね。


 閑話休題。


 その時俺本当に状況掴めなかったから


「は?意味わかんねえよ。てかお前誰だよ。ていうか友達ってなんだよ気持ち悪い。」


 って言ったんだよ。俺結構筋肉とかあったしあんまり怖いものしらずだったから目の前にいる摩訶不思議生命体見てももあんまり怖くなかったから思ったことありのまま言っちゃったんだ。ていうかむしろなんだこの頭いっちゃったコスプレおっさんとしか思ってなかった。


 そしたら次の瞬間俺の頬を何かがかすめたんだ。



 で気づいたら俺の後ろにあった壁無くなってた。



 正確に言うと爆散してた。



 で前見たらさっきのコスプレおっさんが泣きそうな顔になりながら


「我と友達になってくれぬのか…?」


 とか言ってんの。



 先っぽから変な煙でてる真っ黒い剣の先っぽを俺のほうにむけながら。



 俺はその瞬間全てを悟った。

 あ、これあかんやつや。って。


 そっから先の俺の行動は早かった。



「や、やだな~冗談だよ~。俺たちもちろん友達だぜ!。いやむしろもう魂からのソウルフレンズだぜ!」


「そうであるな!。いや我が友が意味の分からない言葉を口走るものだからうっかり魔導砲を撃ってしまったではないか!。あとちょっとでおぬしは消し炭になるところだったのだぞ!。あんまり危ないことはするものではないぞ!。フハハハハハハハハハ!」


「そ、そうだな!。あんまり冗談って言うもんじゃないな!。ごめんごめん。」


「まったくだ!。次またそのような冗談をはいたら今度こそ消し炭になるかもしれぬな!」


「「フハハハハハハハハハ!」」


(笑えねえ…。)



 って感じで一瞬手のひら返してプライド捨てて取り入った。

 しょうがないじゃん。死にたくなかったんだもん。怖かったんだもん。

 ちなみに余談だが俺はこの時完全に漏らしていた。ちょい出だったのが洪水になってた。しょうがないね。人間だもの。


 そんでこの後自己紹介しあってコスプレおっさんが正真正銘の魔王だと知って白目向いてまたちょっと漏らしたり自分の名前伝えたら一瞬で魔王にたっくんってあだ名付けられてあだ名のセンス…とうっかり口に出して消し炭にされかけたりしたんだけどその話は割愛。


 ちなみにそのとき俺がなんでここにきたか理由を聞いたら


 魔王はこの世界じゃ自分が強すぎて皆が恐れて友達がいない。

 ↓

 それじゃいっそ別世界から連れてこよう。

 ↓

 部下を異世界(元の俺が住んでた世界)に送り込んで誰か友達連れてこい。

 ↓

 俺釣られて来ちゃう。


 だって。


 いや…理由ショボッッッ!!

 もっとこう…異世界転生モノの主人公みたいに世界の危機だから~とか驚異を倒すために~とかじゃないの!?

 って思ったから表現をマイルドにして魔王にそれを言った。

 そしたら「いや自分がどちらかというと世界の危機を起こす側だし。」って返された。






 ごもっともです。




 * * * * *



 話し合いもひと段落ついたから今度は俺が今後住む部屋を紹介してくれることになった。


 魔王直々に。


 いや…紹介なんて魔王直々にやってもらわなくても…そんなのそこらへんにいる部下みたいなのにやってもらいたい…。


 とか思ったんだけど口には出さなかった。だって魔王満面の笑みで浮足立ってたんだもん。

 これ断ったら消し炭にされるな。って俺は本能で悟った。だからその時はおとなしく魔王について行った。超怖かったけどね。半泣きだったけどね。


 で、部屋に向かう途中に部屋の詳細を聞いたら


 3LDK バストイレ別 えきから10分  家賃3万円。


 って返された。

 俺はその時こう思った。


 そこはマジなのかよ!って。


 だってここまで聞いたらそんなの人を釣るための嘘だと思うじゃん。実際俺も魔王城に来た時点で完全に嘘だと思ってたからね。

 だから俺は部屋だけはもしかしたら前の世界のような雰囲気なのかも…とか思ってた。

 でも部屋を紹介されてその考えは完全に破壊された。

 いや、嘘なわけじゃなかったんだ。確かに、嘘ではなかった。


 まず、3LDK。


 普通はこう言われたら3つの部屋にリビングとダイニングとキッチンだと思うじゃん?。

 実際俺もそう思ってた。


 で、魔王に案内されて自分の部屋についたから部屋を覗いたんだ。



 そしたらそこには動く死体、悪魔、カラスが三体ずついた。



 …うん。



 3LDKってそっちぃぃぃぃ!?


 Living(リビング) dead(デッド) Devil(デビル) Karasu(カラス) それぞれ三体ずつで3LDKってことぉ!?


 なんでだよ!?

 いらねえよ!?

 なんだよリビングデッドって!

 なんで動く死体が部屋にいるんだよ!

 魔王に聞いたら召使いだって。あ、気遣いありがとう。



 じゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!

 なんで召使いにリビングデッド!?なんで動く死体!?なぜそのチョイス!?

 しかもなんでそこ呼び方ゾンビじゃねえんだよ!なんでZじゃねえんだよ!

 なんでリビングデッドなんてちょっとカッコつけた呼び方してんだよ!

 魔王に聞いたらかっこいいからだって。たしかにちょっとかっこいいね。じゃなああああああああああああああああああああああああああい!


 しかも次もなんだよ!

 なんで悪魔!?

 なんで全身真っ黒の変態が俺の部屋に常備されてるんだよ!?

 魔王に聞いたら召使いだって。あ、気遣いありがとう。



 じゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!(2回目)

 なんでだよ!?

 なんで2体目!?

 なんで召使いの種類が2種類もいるんだよ!

 意味が分かんねえよ!

 魔王に聞いたら飽きさせないためだって。確かに2種類の召使いいたら飽きないかもね。じゃなあああああああああああああああああああああい!


 最後はカラス!

 お前にいたっては何だよ!

 なんで部屋にカラスがいるんだよ!

 魔王に聞いたらマスコットだって。あ、確かにちょっとかわいいかも。



 じゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!(3((ry)

 単純にいるかあああああああああああああああ!

 しかもそこ執事じゃねえのかよ!

 ここまで来たんなら最後まで執事で貫き通せよ!

 いやカラスの執事とかいても困るだけだけどさ!

 んでもっとわけわからんのがお前英訳するとCrowじゃねーか!Cじゃねーか!

 なんでお前だけローマ字呼びなんだよ!

 なんで他の二匹は英訳されてんのにお前だけローマ字呼びなんだよ!統一しろよ!

 魔王に聞いたら何言ってんのこいつみたいな顔された。なんでだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 一番わけわからんのがなんで全員3匹ずつ!?

 百歩譲っても全員1匹ずつだろ!?

 なんで合計で9匹もよくわからん魔物が俺の部屋に常備されてるんだよ!

 俺どんだけ手かかるやつだと思われてるわけ!?

 魔王に聞いたら友達には苦労してほしくないからだって。あ、気遣いありがtてなるかあああああああああああああああああああああああ!


 逆にこいつらのせいで苦労しそうだわ!

 常に部屋にゾンビ3匹悪魔3匹カラス3匹って俺の精神が死ぬわ!病むわ!

 本当こいつら配置したやつ死ねえええええええええええええええ!



 って内心お祭り状態だったんだけど魔王に苦情はだせなかったね。だって怖かったし。苦情だしたら何されるかわかんなかったし。最悪消し炭だったし。ほぼ半泣きになりながら彼らとあいさつ交わして一緒に部屋の中を見て回ったよ。


 ちなみに余談だが今は彼らと仲良くやってます。彼らすごい有能です。何か欲しいと思ったら声に出す前に用意してくれるの。掃除もほこり一つ残さないし。ただ今でも合計9匹とカラスはいらないと思う。



 * * * * *



 部屋見学もそれなりに済ましたら一番気になってた「えきから10分」について俺は質問した。

 だって異世界に、しかも魔王城の周りに駅があるなんてって思ったから。

 そしたら魔王はじゃあえきまで連れて行ってやるって返してきた。


 ここで俺は実はひそかに期待してた。

 だって魔王はいともたやすく異世界転移をしちゃう化け物だから、もしかしたら元の世界に戻ることのできる乗り物でも置かれてるんじゃないかと俺は考えてた。もしくは元の世界の駅にワープできる場所みたいなところがあるのかもと。もしかしたら元の世界に戻れるんじゃないかって。


 でもそんな俺の儚い希望は粉々に打ち砕かれた。


 魔王に連れられて俺が向かった先は山奥だった。


 そこで馬鹿でかい鬼みたいな生き物を見せられた。


 正直意味が分からなかった。

 俺は駅について質問したはずなのになんでこんな化け物にあわなきゃならんのか。

 そもそも駅どこだよ。

 と思ったから魔王に質問した。


「駅どこ?」


 って。


 そしたら魔王が説明してくれた。

 目の前にいる馬鹿でかい鬼みたいな生き物は壊鬼(えき)といって昔世界を破滅一歩手前まで導いた魔物らしい。

 今ではずいぶんおとなしくなってこの山奥に住んで趣味の山菜狩りを行って生活しているが、本気で暴れるとさすがの魔王でも30%の力をださないと倒せないらしい。

 若いころの魔王にコテンパンにやられてからは魔王に従っている形らしい。



 ………。



 いやえきってそういうことおおおおおおおおおおおおおお!?

 (えき)じゃなくて壊鬼(えき)!?

 名前ややこしすぎるだろ!

 しかも壊鬼から10分ってなんだよ!たしかにここまでくるのに10分くらいだったけど!

 なんでこいつに会えるのに何分かかるか住宅情報に書かれてるんだよ!どう考えてもいらねえだろその情報!

 しかもなんで一回世界滅ぼしかけてるやばい生物が徒歩10分の場所に生息しているわけ!?

 怖すぎて夜も寝れねえよ!

 ついでに関係ないけど魔王なにさらっと世界滅ぼしかけた魔物を30%の力で倒せる発言してんの!?

 なにげに一番やばいの魔王だよ!怖えよ!


 はあ…。

 どおりでえきがひらがなで書かれてたわけだ。

 壊鬼なんて書かれてたら絶対前の世界の人不信がって契約しないもん。

 でもそれ詐欺じゃね?

 ああ今からでもあの不動産屋ぶん殴りに行きてえ。

 ていうか俺をこの世界に連れてくるために労力使ったやつ全員殴りてえ。

 ていうか発案した魔王殴りてえ。



 まあそう思っても行動しなかったけどね。だって消し炭になりたくなかったもん。まだ生きたかったもん。


 俺が内心げっそりしてると魔王が


「大丈夫か?顔色悪いぞ?」


 って声かけてきた。

 誰のせいだと思ってるんだこの魔王…。

 ここでちょっと魔王に殺意が湧いたけどぐっと我慢して満面の笑みで感謝を述べたよ。


「ここまで連れてきてくれてありがとう。すごく楽しいよ。」


 って感じに。

 そしたら魔王はすごく嬉しそうに


「そうかそうか。それは良かった。困ったことがあればなんでも言うがよい。なにせ我らは友達なのだからな!」


 って返してきた

 その友達のせいで困ってるんですけどね…。


 とにかくその日は壊鬼とあいさつしてすぐ魔王城に戻った。だって壊鬼すごく怖かったし。


 ちなみにまたまた余談だが壊鬼とはとっても仲良しになったよ。今では一緒に山菜狩りする仲になった。実際話してみると壊鬼すごくいいやつだからすぐ仲良くなった。たまに魔王に見つかって魔王が嫉妬で壊鬼消し飛ばしそうになるけど。



 あと家賃3万円とバストイレ別は読んで字のごとしだったよ。

 家賃しっかりとられたしトイレとお風呂は別々だったよ。







 うん。








 そこはボケろよ!



 * * * * *



 時は流れて約1か月後。


 え?壊鬼と分かれた後の話?特に事件なかったから飛ばした。

 あったことといえば魔王に消し炭にされたくらいだから。

 いや~魔王ってやっぱりすごいね。消し炭になった状態の人間を蘇生できるんだから。

 まあそれは置いといて。


 このころの俺にはものすごく大きい悩みがあった。

 それは



 この世界、娯楽が圧倒的に少ない。



 ということ。

 この世界魔法はあるのにテレビはないしゲームもない。パソコンもないしスマホもなければ漫画もない。ついでにエロ本もない。

 とにかく娯楽がないため一日一日が暇だ。

 俺のやることといえば基本魔王の友達だが彼は腐っても魔王なわけでもちろん仕事がある。毎日俺に会いにくるってのは不可能なわけだ。それでも3日に1日は遊びの誘いが来るのだが。

 それにしてみても残りの3日に2日はとにかくやることがない。部屋の掃除とかは全て召使いたちがやってくれるしどこかへ遊びに行こうにもどこにどんな魔物が潜んでるか怖くてろくに出歩けない。

 なので残りの1日はひたすら部屋でぐーたらして過ごしていた。

 そんな日々を過ごしてきた結果、本当に一日一日を長く感じるようになった。

 とにかく暇である。やることなんて全くないし、娯楽も全くない。一日中ベットの上で生活することだってざらだった。


 しかしそんな日々をずっと続けていたある日、俺の頭にある天啓が降りてきた。



 娯楽がないなら、作ればいいんじゃね?



 そう、ないなら俺が作ればいいんじゃないか。

 幸か不幸か俺は腐っても魔王の友達。魔王に頼めば大体のものは手に入るだろう。俺をこんな状況に追い込んだ元凶に物事を頼みこむのは癪だが。

 スマホやパソコンみたいな精密機械をそういった系の知識がない俺が作る事はさすがに不可能だが、漫画やエロ本といった紙と筆があれば作れるようなものは俺でも作ることができるんじゃないだろうか。


 思いついたら善は急げ。即行で魔王のところに直行し、紙と筆をもらってきた。異世界だからもしかしたらないんじゃないかとひやひやしたけど普通にあったよ。やったね。


 紙と筆を机に並べ、椅子に座り用意は完了。

 あとは漫画を描くだけだ。待ってろ俺の娯楽ライフ!



 そして30分後…。



 うん。ごめんなさい。漫画舐めてたわ。

 全然描けねえ。人物を書こうとしても地球外生命体になってしまう。

 内容は前の世界の有名な漫画を映しているだけなのだが、おかしいな。

 かっこいい海賊漫画を描こうとしたのに宇宙人が闊歩するSF漫画になってしまった。


 くそう…。漫画を描くのがこんなに難しいとは思っていなかった…。

 これはまずい。非常にまずい。これでは俺の考えた完璧な娯楽ライフが早くも崩れ去ってしまう。

 かといって他の娯楽道具を作ることは不可能だ。

 どうする…。


 …しょうがない。

 こうなったらひたすらに絵の練習をするしかない。

 ちゃんとした絵を描けるようになるにはかなり時間がかかるだろうが仕方がない。のちの完璧な娯楽ライフのためだ。これは必要経費だ。

 なあに。あいにく時間はたっぷりとあるんだ。他にやることはないから、ほぼすべての時間を絵の練習につぎ込める。完璧だ。

 こうなったら妥協はしない。元の漫画だと間違うくらい完璧なものを書いてやる。いやむしろ元の漫画よりすごいものを書いてやる。もし原作者が見たら泣いて悔しがるほどのやつをな。

 よし。やってやるぞ。今日から猛特訓だ!



 そして4か月後…。



 や…やったぞ…完成だ…完成した!

 俺の手元には1冊の本が握られている。

 表紙にはでかでかと〇NE PIECEと書かれており、さらに麦わら帽子をかぶった少年が描かれている。

 本をめくると漫画のコマがしっかりと書かれており、多種多様な人物が描かれている。

 最高傑作だ…。ページ数にすると約10ページしかない短編だが、しっかりと10ページで起承転結が描かている。これは、完璧といっても過言ではないのではないか。

 ああ…。たった4か月でこんなものが描けてしまう自分の才能が恐ろしい…。


 これで俺の4か月にわたる寝不足の生活も報われる…。

 ここまで本当に苦労の日々だった。何度疲労で倒れ召使いたちに助けてもらったことか。

 彼らには本当に頭が上がらない。俺が漫画を描いているとそっと紅茶を置いてくれたこともあった。彼らにはしっかりと感謝しなければ。リビングデッドと悪魔である必要性はいまだにわからないが。カラス?そんなやついたっけ?


 はあ…。

 俺はおぼつかない足取りで寝室へ向かい、ベッドに倒れこんだ。

 本当に、本当に疲れた。

 これほど1つの物事に熱中したのはいつぶりだろうか。失敗しては描きなおし、また失敗しては描きなおし…。

 何回やめようと思ったか。何回原稿を破こうと思ったか。

 でもそのたびに原稿の中の人物と目があった。そして気づいた。ここで諦めてしまえば彼らは永遠に誕生しない。俺が生み出したからには、最後まで見届けないと。

 その気持ちで描き続けた。血反吐を吐いても、手首が折れそうになっても描き続けた。

 そして今日、やっと完成した。


 もう、思い残すことはない…。

 もう、このまま死んでも構わない…。

 もう、満足だ…。


 そして俺は、眠りについた。その手で生み出した我が子のような存在を、わきに抱えながら、安らかな顔で、深い、深い眠りについた。

 体はボロボロでも、その顔はとても、とても満足げだった…。













 あ、死んでないからね。ちゃんといまでも生きてるからね。




 * * * * *



 俺は今、窮地に侵されていた。


 いつかはこの日がくるとは思っていた。しかし、考えたくなかった。

 そこにいるのが当たり前だと思っていた。だけど、この世に永遠など存在しない。

 誕生したのなら、そこには必ず終わりがある。それはだれしもあらがえない自然の節理だ。

 分かっていた、はずなのにな…。


 震える両足を両手で抑える。しかし、震えは収まる気配はない。それどころか、全身を浸食していく。

 歯がカチカチ音を立てる。しかしいくら俺が震えようとも、このことは自然に解決してくれない。

 …そろそろ認めよう。これは俺が悪いんだ。俺が今までやっていたことのつけがついに回ってきたんだ。

 目の前にある現実を受け入れよう。受け入れなければ、俺は先へは進めない。

 しかし脳が受け入れても体は簡単には受け入れてくれない。体が震える。この震えは収まりそうにない。

 はあ…でも仕方がない。もうどうしようもないんだ。これは、再三言っているようにこれは俺の問題だ。

 ついに…ついに…





 貯金が尽きた。


 * * * * *


 俺が初めての漫画を描いてから早1か月。

 ついに所持金が底をついた。

 他に使い道がないとはいえさすがに毎月3万円を半年も払い続ければ貯金は尽きる。もともとそこまで金持ちではないため尽きるのはあっという間だった。


 もともと仕事もしていなく、前の世界から持ってきた金だけではいつかは尽きる。当たり前だ。

 しかし、ここ最近怒涛の日々だったため、すっかり頭から金のことが抜けていた。

 まずい。非常にまずい。これでは来月の家賃が払えない。

 もし来月の家賃が払えないなんてことになったら魔王に何をされるか。考えるだけで体が震える。

 もしかしたら家賃が払えなくなった時点で殺されて魔物の餌なんてこともあるかもしれない。恐怖の象徴たるあの魔王ならやりかねない。

 それだけは嫌だ。俺はまだ生きていたい。まだやりたいことなんて星の数ほど残っているし、童貞もいまだに卒業していない。

 こんなところで人生を終らせてたまるか。


 しかし、どうする…。

 いや、どうすればいいかはわかっている。

 簡単な話だ。こっちの世界で金を稼げばいい。

 しかし、どうやって稼ぐか…。

 大体の仕事は魔王に頼めばなんとかしてくれそうな気がする。問題はどういう仕事で稼ぐかだ。


 魔王軍に入隊してみてはどうだろうか。

 これなら周りの社員は顔見知りばかりだし、給料もしっかりしてそうだ。

 …いや、駄目だな。こんな魔境みたいな世界で一般ピーポーの俺が軍人になっても1日で肉塊になってお陀仏するのが関の山だろう。死にたくなくて働くのに働いて死ぬんじゃ元も子もない。


 なら、業務…いわゆるお役所仕事はどうだろうか。

 これなら死ぬ心配はない。ずっと安全な地でなにか考えるかしておけば済む話だ。

 …いや、これも無理だ。魔王軍が普段どんな仕事をしているかわからないうえに俺はこの世界について疎すぎる。そもそもやったことがないからどんなことをすればいいのかわからない。

 それに他の働いている人たちからしたら迷惑でしかないだろう。


 想像してみてほしい。

 やっとの思いで就くことができた仕事に急に偉い人のコネで新人が入ってきたと思ったらそいつはとてつもない無能人間だった。

 もし俺が働いている側ならそんな新人なんて殴りたくなる。最悪殺っちゃう。

 駄目だ。魔王に殺されなくても他のやつに殺される。


 …あれ?

 この考え、どの仕事にも当てはまるんじゃ?

 …やべえ。駄目だ。どんな仕事に就いても結局誰かに殺られる未来しか見えない。

 かといって仕事に就かなければ魔王に殺られる未来しか見えない。


 …八方塞がりじゃねーか。


 終わった。俺の人生終わった。

 ああ…マジかよ…儚い人生だったなあ…。


 呆然とベットに倒れこみ、もはや俺の家宝となっている漫画を精神安定のために胸に抱く。


 まじか…俺の人生ここで終わっちゃうのか。

 せっかく漫画を完成させたりしたのに…ようやく俺の異世界ライフがこれから楽しくなるぞって時期なのに…。


 俺は絶望を浮かべた表情で胸に抱いていた漫画を眺めた。


 すると、その時俺の頭に電撃が走った。


 まてよ…この俺の最高傑作…これを売ればいいんじゃ…。


 いつだったか言ったように、この世界には娯楽が全くといっていいほど存在しない。

 そんな世の中じゃ、俺が描いたこの漫画もバカ売れするんじゃないだろうか。

 あいにく、こっちの世界じゃ前の世界のように漫画が大量に存在するわけじゃないからライバルは存在しない。

 いわば俺の独壇場だ。


 いける…これはいけるぞ。


 著作権?こっちの世界にそんなものは存在しない!

 たとえ〇NE PIECEだろうがNARUT〇だろうがこっちの世界では俺がオリジナルだ。

 やった…糸口が見えてきたぞ…。


 こうなったら善は急げ。

 即行で魔王に紙をもらってきて前に俺が描いた漫画を模写する。

 一回描いた身だ。模写はするする進んだ。

 そして、俺は寝る間を惜しんで模写を行った。

 その結果、10日で模写を30冊完成させた。


 よし…これだけあれば今月分の家賃くらいは稼げるだろう。

 それでは早速この模写をばらまいてこよう。

 さすがにいきなり町に出向いて店をだして…なんてことは不可能なため、まずは魔王城内で買ってくれる魔物を見つけ、売る。

 値段設定は大体一冊2000円くらいでいいだろう。

 漫画にしては非常に高く感じるが、なにせこっちの世界では未開拓の領域だ。

 こんな無茶な値段設定でも買ってくれるやつはいるだろう。


 よし…では早速ばらまいてこよう。

 計算では半分を売ることができれば来月の家賃は払える。

 せめてそれくらいは売れてくれよ…。



 そして1か月後…。



 非常にまずいことになった。

 このままではまずい。

 なにがまずいのかと聞かれればこう答えざるをえない。


 漫画だ。


 1か月前に売り出した自作の漫画。

 あれがまずい事態をよんでいる。

 そんなに売れなかったのかって?


 …ちがう。真逆だ。

 売れすぎた。

 30冊はあっという間に完売し、しっかり皆お金を払ってくれた。


 いいことじゃないかって?

 違うんだ。ここからが問題なんだよ。


 俺が描いた漫画はあまりの斬新さで非常に高い評価を城内で得た。それこそ城内で働いている人たちがこぞって回し読みするくらいには。

 しかし、あまりに人気だったためその噂は瞬く間に城下町に広がり、国に広がり、魔物の世界中に広まった。

 その結果、魔物の世界は俺の漫画ブームに包まれた。大量の模写本が誕生し、俺が描いた最初の模写本は何億っていうお金で取引されるレベルになった。

 町を出歩いてみると麦わら帽子をかぶった魔物や刀を腰に3本差して片目に傷をつけた魔物が闊歩している。

 あっという間に漫画の中に登場したものがグッズ化され、ほぼすべてが爆売れした。

 魔物の世界はほぼ俺の描いた漫画一色になった。


 その結果、俺は信仰されるようになった。

 いたるところに俺の像が作られ、あがめ奉られるようになった。

 教会なんかにも像が作られ、新たな神として奉られた。

 魔王には「さすがたっくんだな。我より先に魔界統一をやってのけるとは。さすが我の唯一無二の親友だ。」って言われた。



 …どうしてこうなった。



 俺はただ家賃を稼ごうとしただけなのに。

 なぜ家賃を稼ごうとしただけで神様にならなきゃいかんのか。

 まったくもってわけがわからない。

 巷では俺のことを「創造の神」なんて呼ぶやつもいるらしい。

 いや意味が分からん。

 どちらかというと「創造の神」じゃなくて「想像の紙」じゃねーか。

 …別にうまくないな。


 その結果、俺の生活も一変した。

 今まで魔王城の一室を借りた生活だったのが俺の新しい城が魔王城の横に建てられることになった。

 召使いもリビングデッド3匹、悪魔3匹の合計6匹だったのが合計で100人足らずになった。

 なにもしていなくてもどんどん貢物という形で金や物が送られてくる。


 ワケガワカラナイヨ。


 俺の城の建設完成予定日は3か月後らしい。どでかい城をたった3か月で建てれるなんて魔法ってすごいね。なんでそんなにすごい力を持っているやつらなのに俺なんかをあがめるのか。意味が分からない。



 はあ…。

 俺の異世界生活…。




 ど う し て こ う な っ た



 * * * * *



 昔を思い出していると、勇者と魔王の決着がつきそうになっていた。


「はあ…はあ…くそっ…強すぎる…。」


「フハハハハハハハハハ!だから言ったであろう!我とたっくんを貴様が倒すことなんて不可能だとな!」


 一緒にしないでください。俺は一般ピーポーです。


「くそっ…魔王でこのレベルとは…。ならばその奥に控えている邪神はどれほどけた違いだというんだ…。」


「フハハハハハハハハハ!たっくんは我とはくらべものにならんさ!なにせ我より先に魔界統一を成した生ける伝説なのだからな!」


「なんだと…。それほどとは…。」


 たぶんそこらへんの子犬とどっこいどっこいくらいの強さだと思います。


「くそっ…俺の冒険もここまでか…。悔いは山ほどあるが敗者に権利はない。いっそさくっとやってくれ。母さん…俺も今からそっちにいくよ…。」


「フハハハハハハハハハ!敵ながらその潔さ、良し!いいだろう。貴様という一人の戦士に敬意を評して、痛みのない死を与えてやろう。」


 おっと、そろそろ止めなければ。勇者が死んでしまう。


「まあまあ、お二人さん。それくらいにしませんか。」


「ぬ?なんだたっくん。」


「なんだ邪神。さては貴様、俺が痛みのない死に方で死ぬことが許せないと。…そこまで外道だったとは。だが仕方がない。俺は何も言わない。好きなようにやれ。」


「い、いや…そういうのじゃなくてだな…。そうだ。勇者さん。これを読んでみてくれ。」


「なんだこれは…。〇NE PIECE?呪いの書かなにかか?俺はこれの呪いによって死ぬのか…。」


「(呪いの書…。)と、とにかく読んでみて。」


「仕方がない。俺は敗北した身。拒むことはできない身だ。どれどれ…な、なんだこれは!とてもおもしろい!」


「でしょ!?…あ、コホン。それを人間の国に広めてくれるならお前のことは見逃そう。…いい?魔王…様?」


「ん?我はたっくんがそういうなら否定はせんよ。勇者をここでやれぬのは少し惜しいが、たっくんがそういうからにはなにか考えがあるのだろう。唯一無二の親友のためだったらこんなことわけないわ!フハハハハハハハハハ!」


「あ、ありがとう…ございます。」


「フハハハハハハハハハ!構わんよ!しかし、なぜ敬語なのだ…?」


「ひっ!す、すみません!あっ!ご、ごめん!」


「フハハハハハハハハハ!それでいいのだ!なにせ我らはソウルフレンドなのだからな!」


「ほっ…。」


 なんとかまるく収まりそうだ。目の前で人が死ぬのはごめんだからな。


「どうだ勇者?そちら側にとっても願ったりかなったりの案じゃないか?」


「そ、それは当然こちら側にとっては願ってもない案だが…。」


「ならそれで。俺らはこれから俺の神殿建設祝いのパーティだから。ほら帰った帰った。」


「お、おう…。しかし本当に大丈夫だよな?もしかしたらこの本に呪いが仕組まれてたり…。」


「はしないから!はよいけ!」


「わ、わかった…。しかし邪神よ。今ではお前たちには勝てないかもしれないが、いつか、いつかお前たちの力を超えてやるからな!俺を見逃したことを後悔させてやる。では!」


「あ、帰った。てか逃げ足はやっ。」


「ん?やっと終わったか?ではたっくんよ。今から建設祝いのパーティであるぞ!我は先に行っておるからな!早く来るんだぞ!ではな!」


「あ、俺の城の方向に。っていうか足はやっ。」


 ふう…。なんとか解決した…。

 誰もいなくなった玉座の間で、俺は一人ため息をつく。


 疲れた…。

 なんで俺がこんな苦労をしなきゃいかんのか。

 俺一般人だぞ。

 そこらへんの小型犬に負けるようなやつなのに、なぜ魔王と友達なのか。なぜ神にならなきゃいかんのか。なぜ神殿という名の俺の家が建てられるのか。なぜ俺に信仰心が集まるのか。なぜ俺はいまだに童貞なのか。

 全て意味が分からない。全くもってわからない。

 はあ…。

 俺は何回この言葉を吐くのだろうか。

 しかし言わざるをえない。俺の本心なのだから。


 俺は肺に空気をパンパンに詰め込んだ。そして、絶叫するように叫んだ。











「どうしてこうなったあああああああああああああああ!」









 * * * * *



 ちなみに、勇者が持って帰った漫画が人間の国でも大ブレイクして、人間の国でも信仰されているのを風のうわさで耳に挟み俺がベットの上でもだえるのはまた別のお話。

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