絶望
大変なことが起こった!さてさてこれからどうしたモノか。
高校生になって初めての中間考査も無事終わった五月下旬。
二人は受験の日以来、一度も逢えないでいた。
というのも、互いに通う学校は進学校なので課外漬けの毎日。そして結構な頻度で土日に実施される業者の模試。運よく週末が休みになったとしてもどちらかが模試、なんてパターンも珍しくない。それに加え、誠人の学校は遠いから、朝が早く帰りも遅い。登下校の際、偶然バッタリ!なんてイベントは一切ない。ニアミスすらないのが現状だ。
メッセージをやり取りするだけの毎日。それはそれは寂しいし物足りない。が、だからといって落ち込んでばかりもいられない。
大学はゼッテー一緒んトコ行こうね!
あの日交わした約束。
絶対実現させるためにも、今は我慢の時。
我慢して夏休みには思いっきり遊ぼう。
休み中の課外は両校半ドンだし、盆の前後にはまとまった休みもある。時間を合わせやすくなるだろうから、簡単に逢えるはず。だから、そのことを心の支えとし、互いに我慢の日々を送っている真最中なのだ。
そんなある日の出来事。
時期的に梅雨が近いからなのだろう。ここ数日、雨が降り続いている。
授業中、
雨、長ぇ~。鬱陶しいな。カサ持つの面倒っちいし…晴れんかな。
心の中で天気に文句を言いつつ、ボーっと窓の外を見る。
このような調子で真琴の一日は過ぎていった。
課外が終わり帰宅中。
外は既に真っ暗。
バスを降りてカサをさし、バス通りから逸れて家がある集落へと続く坂道を歩く。
にしてもこの雨。
一歩進むごとに靴下へと飛沫が跳ね、どうにも気持ち悪い。断続的に強い風が吹き、横殴りになるのもヒジョーにいただけない。おかげでほぼ全身シットリしてしまっている。
かなり暑くなってきたとはいえ、まだまだ朝晩は冷える。
う~…ツベテー…はよ帰って風呂入ろ。
視線を少し下に移し、なるべく濡れないよう、水が流れてないトコロを選びながら歩く。
途中、街灯に照らし出されるアスファルトに生じた小さな異変に目がいく。
あれ?こげんとこ割れちょったかね?あ…こっちも。
亀裂だった。
数日前までは無かったはずだ。ということは新しい。家に到着するまでの間、何カ所かあったが小規模だし、ここは炭坑の町である。網の目のように走った坑道が崩落すると、こういったコトが起こる。割と日常茶飯事だったため、特に気にすることもなく、すぐに忘れた。
家が見えるところまで来ると、明かりが灯っていないことに気付く。
玄関のドアを開けようとすると、カギがかかっている。
あ~…そーいや今日、帰ったら誰もおらんかもっち、朝出るときお母さん言いよったな。
父親は昨日から一週間の出張。母親は用事があって実家というのがその理由。
家に入り風呂を済ませ、ベッドに寝転がると、
あ~…眠ぅ…
強烈な眠気。
課外でも、特に0時間目があった日は、通常より1時間以上早起きしないといけないから、必ずこうなる。
雨はまだ降っていて、弱まる気配が全くない。それどころか酷くなっている気さえする。
時折、「ゴー…」という音が屋根裏に反響していることから、かなり激しいことが容易に想像できる。
そんな雨音を聞きながら
このまんま梅雨入りかな?っち、まだ五月終わりやき、もっかいぐらいは晴れるはずよね。晩御飯できたら起こしてくれるき、それまで寝ちょこ。
なんてことを考えつつ、眠りに落ちてゆく。
その頃、集落の脇にある山ではとんでもないことが起こっていた。ここ数日降り続いた雨で、削られた側の斜面が崩壊を始めていたのである。小さなきっかけは連鎖することで徐々に規模を増し、最終的には大規模な土石流となって一気に斜面を下る。
どれくらい経ったのだろうか。
フワフワと夢見心地の中。
突如、生まれてこの方味わったことのない轟音と衝撃で飛び起きた。
のだが…
何かがおかしい。言葉では言い表せないが、何かが決定的におかしいのだ。
ん~?…何が起こった?
考えるものの、突然叩き起こされたみたいな状況なので、頭が全く回っていない。が、それもしばらくすると徐々にハッキリしてくる。
すると妙なことに気付いた。
なんか、ものすごく高いトコロにホバーリングして見下ろすような、そんな感覚なのだ。
全くもって意味が分からない。
そして、おかしい原因が他にもあるコトに気付いてしまう。
視界に入ってくるはずの自分の手や足、身体などが全く入ってこない。実体はなく、意識だけがそこにある、といった感じだ。
これっち、どーゆーコト?幽体離脱とかそげな感じの何か?ちゆーことはウチまだ寝ぼけとるん?
といった考えに至る。
眼下には航空写真のような光景が広がっていた。
もう夜だから暗いはずなのに、何故か細かいところまでよく見えている。そして、それが我が家の付近だということを理解してしまい、
何…これ…
頭を強く殴られたような感覚に陥る。
えらいことになっていた。
すぐ脇にある山が崩壊し、カタチが大きく変わっている。
超大規模な崖崩れに飲みこまれ、住んでいた集落がまるごと消滅している。
この状況を見て、
さっきの衝撃っち、もしかして…コレやったん?っちゆーことはウチ…崖崩れに巻き込まれて死んだっちゆーこと?
正解に辿り着いてしまう。
先程見たアスファルトの亀裂は崖崩れの前兆だったのだ。
え~…ウソやろ…夏休みは?大学はどげなるん?ちゆーか、まだ告ってもないのに…全部諦めないかんの?
絶望感。
なすすべもなく、途方に暮れてしまう。
しばらくして。
未だ絶望に打ちひしがれているトコロに突然、
「あれ?なぜあなたがここに?」
背後から声をかけられた。
その声は猛烈な驚きに満ち溢れている。
反射的に振り向くと、白い衣装を身に纏った、いかにも神様な老人が数名いる。そのうちの一人が話しかけてきたのだった。
「へ?」
マヌケな声が出た。
様子をうかがっていると、その間にも彼らは、
「困ったな~。」
とか、
「コレ、マズいでしょ。」
「はい。最高にマズいです。」
「あの地区は今回も今後もリストにはありませんでしたよね?」
「どのようにしましょうか?」
「生き返らせないといけないんだけど…」
などと話し合っている。
聞こえてくる会話から、自分がこうなったのは、手違いだったということを理解する。
やがてその話し合いは終わり、
「あの…ちょっとよろしいでしょうか?」
先程話しかけてきた人(?)が、再度話しかけてきた。
「はい?」
「私たちは命の管理者です。この度は大変申し訳ありませんでした。」
謝られ、深々と頭を下げられる。
続けて、
「本来ならば、あなたはまだここに来るべき方じゃないのです。もっと生きてもらわないと困るのですが、こちらの手違いでこのようなことになってしまい…。」
衝撃の事実を告げられる。
当然の如く、
はぁ?手違いで殺されたってか!まだ告ってもないのに!っちゆーか、高校入って一回も逢えてないのに!
怒りが沸々と湧いてきて、
「何それ?ウチ、間違えてテメーらに殺されたっちゆーワケ?冗談やねーちゃ!まだまだやりたいこといっぱいあったんに!大概せーよ!」
大爆発した。
「は、はい。」
「どげしてくれるんか?」
「ホントに申し訳ありません!」
「申し訳ないで済むか!生き返らせろ!はよ!はよ!!」
「はい!勿論!」
この返事で少し冷静になれた。「勿論」ということは、生き返ることができるということなのだ。
「なら、はよせぇ。」
強い口調で命令したトコロで、
「それでですね。これからあなたを生き返らせるワケなんですが…。」
管理者の言葉が詰まる。
語尾が「ですが」で終わったことが猛烈に気になる。
なんかイヤな予感しかしない。
管理者は少し考えた後、
「えっと…あなたを生き返らせるにあたり、身体に関する生物的な情報が必要なんです。具体的には身体のどこでもいいから一部。」
生き返るための方法を説明し始める。
「うん。それで?」
「はい。ということなんですけど…」
眼下を指さし
「死体があれば今すぐにでも可能なのですが、この状況。恐らく肉体は完全に粉砕されてしまっていて…見つけ出すのがかなり難しいかと…」
そう口にした。
あの膨大な土砂の中からウチの身体の一部を探し出せっちコト?時間が経てば経つほど土に還ってしまうよね?こんなんゼッテー無理やろ。やっぱこのまんま死んだことになってしまうん?
そんな考えが脳裏に浮かび、死を受け入れそうになる。
なんとかならないものかと自分なりに考えていると、
「身体の一部とは髪の毛のようなものでもいいんです。いつも着用していた『なにか』に付着した皮脂みたいなものでもどうにかなります。ただ、ある程度の量あった方が、情報がたくさん得られますので再生は早いです。とにかく。大事なのは、その人の肉体に由来するモノ、ということなんです。」
さらに条件を付けくわえてきた。なんだか聞けば聞くほどバイオテクノロジーみたいだ。
ともあれ、一筋の灯りが見えた気がした。
皮脂はともかく、髪の毛っち腐りにくいんよね?なら、なんとかなりそう…かな?
そんな気分になってくる。
「そして、最後になりますが、期限はないです。でも、見つけ次第すぐに再生へと移りたいのです。早い方が、あなたを知る人の記憶を操作する部分が小さくて済みますからね。要は『死んだ』という記憶を除去し、継続して生きていたことにするんです。」
記憶を操作?何気に怖いことを言っているような…
とは思ったけど、どうしても誠人に逢いたいから、そこは神様にお任せすることにした。
「見つかった時は、その旨をお伝えください。伝える方法は念じることです。念じていただければこの中の誰かに通じるようになっています。通じればすぐに発見した場所へと向かいますから。何か質問はないでしょうか?」
困った…生き返られることはわかったっちゃけど、これ…一人で探せるん?
上空から現場を見る限り、探すべき範囲が広すぎてどうにもならない気しかしない。
だから質問。
「ねぇ。」
「はい?」
「あんたらも探してくれるんやろ?これっち、あんたらのミスやろーもん。」
「お手伝いは可能な限りさせていただくというコトで。ただ、身体のパーツに関しては本人にしか判断できないので、捜索の主役はどうしてもあなたということになってしまいます。何から何までホント申し訳ありません。」
なんかもう…ここまで言われてしまうと、どうしようもない。
は~~~…と、大きなため息一つ。
とんでもなく長い道のりになりそうだ。
もう休み終わり…仕事したくないよ~。