引越
困ったことが!
誠人との関係もなかなかいい感じ。
「仲良しになろう大作戦」は、予想していた以上に順調だ。
このまんまもっともっと仲良くなって、告白するその時に備えよう。どんなタイミングがいいかな?
そんな具体的なことを考えるようになってきた、二年生ももうすぐ終わる三月半ばの出来事。
母親から
「新しい家、できたよ。」
と、話があった。
今住んでいる家は、ガラの悪い地区にあるボロっちい町営アパートだから、この環境から抜け出せるのは正直嬉しい。しかも、今度は一軒家。隣接する住人に迷惑をかけることも少なくなる。
メリットは大きいのだが…
一つ、とても大きな問題がある。
それは。
新しい家は、今住んでいるトコロからかなり遠い。
同じ町内ではあるのだけれど、隣の中学校の校区になってしまうのだ。
ということは、引越し。
ということは、転校。
ということは…
頭に浮かんだのが誠人のコト。
あ~あ…離れたくないな。
あの日芽生えた思い。
とっても大きくて強い、かけがえのないモノになっていた。
努力の甲斐あって、
もしかしたら、誠人もウチのコト…
そう確信できる言葉や態度が数多く見えてきだしたというのに。
どげんしよ…なんかいい案無いかな?
マジもマジ。大マジに考える。
友達の家を転々として…っち、現実味なさ過ぎ。一年もそげなコト続けられるわけないやん!
親戚…っちゆっても、校区内にはおらんしなぁ。
一人暮らし…それこそ現実味なさ過ぎる。
卒業まで引越し伸ばして…っち、もう引越し準備し始めたもんな。
考えつくことはどれも現実味がない。
完全に詰んだ。
となると、現実を受け入れるしかなさそう。寂しがるばかりじゃ何も始まらない。
遠いっちゆったって同じ町やし。
ポジティブに考えることにした。
連絡は取れるわけやし。バスは近く通りよぉき、会いたいっち思ったら放課後でも休みの日でも約束して会いに行けばいいだけのことやし。
んで。
高校、おんなしトコ行けば、今までと一緒やし!
そうだ!高校生になったら原チャの免許取ろう!そしたらもっと簡単に、いつでも会えるやん!
具体的な想像をしてみたら、割と困難が少ないコトに気付く。
そのことで、だいぶ気が楽になった。
引越の話が出た次の日の放課後。
「ねえねえ。誠人っちゃ。」
「ん?」
「誠人はどこの高校受けるん?」
聞いてみると、ここら辺で一番レベルの高い普通科の県立高校を受けるとの答えが。
「そっか。」
納得していると、
「どげしたん?急に高校の話しやら。」
不思議な顔して聞き返してくる。
だから、
「いや。せっかく自分、勉強おしえてもらって分かるごとなったっちゃきね、いいトコ行きたいやん?誠人への恩返しにもなるし。」
と答えると、
「そーなん?オレ、そげん大したコトしてないけど。」
「ううん。したよ。ウチ、でったん役に立ったし。」
「ふうん。そっか。んじゃ…よかった…」
嬉しそうに微笑む。
でも…本題はここから。
「でね…」
口を開いた瞬間、表情が少し曇ってしまう。
その表情を読み、
「ん?」
真面目な表情へと変わる。
さらに続けようとして、
「ウチ…」
口に出そうとしたものの、思いのほかツラかったため、言葉が途切れてしまう。
「どげんしたん?」
軟らかく優しい口調でその先を促してくる。
「あの…ウチ…近々引越しせないかんでね。」
「引越」というワードを理解した瞬間、
「マジで?」
みるみる驚愕の表情へと変わってゆく。
「うん。」
「…いつ?」
「えっと…日にちはわからんばってんが、二年生の最後まではこっち。三年からは向こうの学校。」
「マジでかー…もうすぐやん。」
数瞬前の驚愕の表情は、寂しい表情へと変わっていた。
辛うじて
「うん…。」
返事をすると、思わず泣きそうになってしまう。
しばしの沈黙。
空気が重い。
耐えきれなくなって、
「寂しいとか…思っちゃー?」 ←訳:思ってくれる?
強引に明るく振舞う。
すると、
「思うくさ。」
即答。
続いて、
「せっかく…ちょこっと…仲良く…なれたと…思えたのに…」
その言葉は…
…え? なんか…声、震えてない?
異変に気づき、顔の方に視線を移すと、目尻には明らかに光るもの。
突然の事態に焦りまくる。
と共に、今まで感じたことないくらい愛しさがこみ上げてきた。
拳を握りしめ、唇をかみしめ、そして…
行っけー!
発作的に抱きしめ、告ってしまいそうになる。
でも。
寸前で踏みとどまった。
離れてしまう寂しさ、離れることによって冷めてしまうかもという恐怖、誠人の心変わりなど、マイナス要素を考えた時、その気持ちは保留するコトしかできなかった。
深呼吸し、こみ上げてくる感情を落ち着かせる。
「ホントっちゃ。マジ、はがいいよね。」 ←訳:歯痒い
「…うん。」
「だき…おんなし学校…行けるように…しよーね!」
「…うん。」
「ウチ、でったん頑張るき!高校で会おう!約束やきね!」
小指を立て、指きりの催促。
差し出してきた小指に小指を絡ませる。
可能な限り明るく、
「一緒に行こうね!」
と言って数度その手を上下。そして、絡ませた指を開放した。
家に帰って一人になった時、先程のやり取りを思い出す。
おんなし学校、行けるようにしよーね!ウチ、でったん頑張るき!げな…
これっちほぼ告白したのと同じやんか。ウチ、アホやな~。
なんだか笑ってしまったけど…温かい気持ちになった。
明けましておめでとうございます。