仲良しになろう大作戦
バレたからにはもうちょい積極的になる!とは決めたものの、なかなかうまいこといかなくて…。
それでも少し近づけたかな?
相合傘がバレた次の日。
校区の違う小学校出身者が合流する、中学校近くの交差点。
目標を確認。
まだ気付かれてはいない。
そっと背後から近づき、
「ま~こ~とっ!」
ポンッと肩を叩くと、
「ぅわッ!!!」
猛烈に驚きつつ顔を見返す。
「おはよっ!」
挨拶をすると
「う、うん。お、おはよ。」
ぎこちないながらも、ちゃんと返してくれる。
なんとも嬉しいやり取り。
これまでは遅刻寸前とまではいかないが、結構ギリギリに登校していた。
しかし、今日からは少しだけ早く家を出ることにする。
勿論、会いたいがための計画的犯行。
嬉しくて、変なテンションになってしまいそうだが、おかしな行動にならないよう、注意しながら並んで歩く。
この時間、なるべく長く味わいたい。
ゆっくり目に歩くと、その速さに合わせてくれた。
たまに重なる目線。その瞬間パッと逸らす、の繰り返し。
意識してくれているのがモロ分かり。
なんかいい!でったんいい!この時間がずっと続けばいーのに。
とか思うけど、合流地点から学校までは大した距離じゃない。
ゆっくり歩いてはみたものの、大した会話すらできずに到着してしまう。
合流して学校に着くまでの間、知り合いはかなりいて、そのうちの何人かは声をかけてきた。にもかかわらず、誠人とのツーショットについてツッコむ者は誰もいない。
思った通りである。
これならしばらくはバレそうにない。
明日からも毎日やってやろ。
そう心に決め、一人微笑んだ。
とまあ、登校時はこんな感じ。
かなりの確率でツーショットになることができる。
しかし、下校時は違う。
互いに友達がいる状態からスタートするため、どうしてもそっちの付き合いを優先する場面が多くなってしまう。寂しいけど、断り続けるのも申し訳ないから、ちょっとだけ我慢する。
運よく一緒に帰れた時は、飲み物を買って途中の公園でベンチに座ってお喋り。その後、家までついて来てもらうのが定番コース。勝手にデートと思わせてもらっている。
休日。
これまでなら確実にお誘いがあっていた。が、相合傘を見られて以来、その日遊ぶ集団に男がいると、最初から声をかけられなくなった。
どうやら気を遣ってくれているらしい。
有難いことだ。
というわけで、やることが完全になくなった。
なんとなく部屋でゴロゴロしていたけど、なんだか時間がもったいない。
天気もいいし、こんな時は散歩やね。
思いついたら即実行。
外に出てもおかしくないカッコに着替える。
目的地は、隣の小学校の校区にある、県道にかかる橋。
以前、誠人と会った場所。
今日は会えるかな?
かなり期待しながら家を出た。
ビックリさせるため、あえて連絡はしない。
いないかもしれないと言っていたので、目的地までの区間で釣りができそうな場所は意識して見ておく。
それでもいなかったときは、純粋に散歩だけして帰る。
しばらく歩くと目的地が見えてくる。
今日はおるかな?
橋の下に釣り人発見。さらに近付くと…
あっ!誠人!
確認すると同時に跳ねあがる鼓動。
ゆっくり歩いている場合じゃない!
自然と小走りになって、
「誠人ぉ~っ!」
手を大きく振りながら近寄って行くと、こちらに顔を向け驚いた表情になる。
土手を駆け下り、誠人の元へ。
「釣れた?」
「ううん。」
「釣れたらいーね。」
「うん。」
これまで何度かこの場所で釣りを見せてもらったのだが、魚の姿は未だ見たことがない。
今日こそ釣ってくれるかな?
期待に胸を躍らせながら隣に座る。
しばらく黙々と投げては巻きを繰り返していたのだが、不意に、
「ねぇ。」
「ん?」
「長谷部さんもやってみる?」
釣りをしてみないかと提案してくる。
正直、面白そうだとは思っていたので、「ウチでもできる?」と聞いてみると、
「できるっち思うよ?」
だそうで。
「んじゃ、やる。」
教わることにした。
「とりあえずやってみるね。糸に指掛けて、こーやって、ここん時指離したら…飛んでいく。底まで沈めて、こーやってチョンチョンチョンっち。これの繰り返し。」
一連の流れを見せてもらい、挑戦。
初めて持つサオ。
思っていたよりも軽い。
初めてやるキャスティング。
説明してもらったとおりにやってみると、飛んで行く感触がなんとも気持ちいい。
ストレス解消の手段にはすごくよさそう。
そんなことを考えつつ、黙々と繰り返す。
無心になれる感じがまたいい、とか思っていると、
「上手いね。あとは釣るだけやん。」
と言いながら微笑んだ。
笑顔、いいな。
それからもかなり粘ってはみたが、釣果の方は…ボーズ。
最近、いよいよ釣れなくなってきているらしい。
ま、そのうちどっちかが釣るやろ。
いつか釣れるその日を夢見つつ、お喋りしながら帰ることにした。
相合傘がバレたあの日から、こんな感じでアピールを繰り返している。
お陰様で、だいぶ距離が近くなったように思う。
が、油断大敵。
自分だけが張り切って、空回りしているんじゃないかと思うと怖くなる。
他の人に盗られてしまうのも怖い。
初めて本気で好きになった人だから、どうしても彼女にしてもらいたいけど、照れがあったりとか勇気がなかったりとかで、イマイチ告白へと持ち込めない。
なんとももどかしい日々が続く。
ともあれ。
「仲良しになろう大作戦」は、まあまあ成功だったりする。
毎日暑い。